Position inversion
-5:Decipherment success-




水晶球には黄色の光が燈っていた。
「見て、見てウィンリィ〜〜。エドの事占ってたら、何か良いことあるって出たわよ」
アルモニの上機嫌な言葉に、ウィンリィは首を捻りながら気のない言葉を返した。
「それが本当なら良いんだけど・・・・・アルモニの占いは当たらないからね〜」
むしろ逆転して悪いことが起こりはしないかとウィンリィは心配になった。
そしてその反応に不満なアルモニは頬を膨らませた。
「その反応は何よ!?今回は絶対大丈夫!!」
「確証は?」
「・・・・・・・ないけど」
少し気の弱くなったアルモニにウィンリィは溜息をついた。
その時、奥の部屋の扉が勢いよく開き、慌てた様子のヴィルヘルムが現れた。
「ど、どうしたの?パパ」
「アルモニ、すぐに姫様にご連絡だ!暗号が解読できた!!」
その言葉にアルモニとウィンリィの2人は顔を見合わせて驚いた。









ここ数日のロイは非常に不機嫌だった。
それが周りからは解らないように隠しているのだが、長年の親しい付き合いのある者達にはあバレバレだった。
その原因はいうまでもなく、ホーンブレンドの王子であるラッセルが滞在しているためだった。
ラッセルのおかげでロイはエドの傍にここ数日、なかなかいることができないでいた。
おかげで機嫌は常時急降下中である。
今回のことを仕組んだであろう人物に対する恨みと、ラッセルへの嫉妬は深まっていくばかりで、ロイの不機嫌さに気が付いている普段から接触のある人物の中、ホークアイとヒューズの2人以外は完全に恐ろしさのあまりびくびくしていた。
「・・・元帥、こえ〜〜」
「相手は他国の王族だからな。無茶はできないしな・・・」
「でもそろそろ危ないですよね。このままじゃ、国際問題になっても元帥無茶しそうです・・・」
アルのその言葉にハボックとブレダの2人は同時に頷きあい、近くで聞いていたフュリーは乾いた笑いを漏らした。
しかし実際このままではロイはラッセルを無理やり城から追い出し、今回の件の犯人が解れば極刑にでもしかねない。
それくらいロイがエドを愛しているというのはこの場にいる一同には周知の事実だった。



「お〜〜い!ロイ、吉報だぞ〜〜」
現状のロイの状態に気づいていながらも、まったく臆していない人物の1人が意気揚々と現れた。
「・・・なんだ?」
しかしロイは憮然としたまま書類に目を落とし続け、明るい声で入ってきた親友の方を見ようとはしなかった。
「なんだよ素っ気無いな。おっと、それよりも、今回の件の首謀者が解ったぞ」
ヒューズのその言葉に顔色を変えたロイはすぐさま顔を上げてヒューズを見た。
「本当か?!」
「おう、ばっちり!なにしろ、カーティス師範夫妻やロックベル医師長一家にまで協力してもらったんだからな」
それはすでに最強の協力者ではないか、とその場にいた誰もが思っていた。
「それでな、ある古参の部屋をちょちょいっと調べたら、こんなもんが出て来たんだ」
そう言ってヒューズはロイの前に1枚の書類を差し出した。
その書類の内容を読み取っていくうち、ロイの表情はみるみるうちに変わっていった。
「これは・・・・・」
「同じようなものが、まだその首謀者の部屋にかなり残ってるぜ」
にやりと笑うヒューズと共に、証拠をついに犯人とその証拠を掴んだと、ロイは数日振りに不適に笑った。
「やったじゃないですか、元帥!」
「これでようやく姫様取り戻せますね」
執務室の中では歓声が上がっていた。
今まで暗い雰囲気を纏っていたのが嘘だと思えるほどの明るい空気だった。
「それじゃあ僕、そろそろ姉さんの所に行ってきます」
「ああ、よろしく頼みます」
数日振りに多少機嫌の良くなったロイの見送りに、アルもつられて上機嫌で笑って応えた。
そして何を頼むのかはここ数日ですでに暗黙の了解になっていた。









ロイの執務室から抜け出してきたアルの予想通り、エドとラッセル、フレッチャーの3人は中庭の噴水の所にいた。
もっともフレッチャーがいるのはエドが2人きりになる状況をなんとか回避しているせいなのである。
ラッセルとしてはエドと2人きりで話す機会を持ちたいのだが、そういう状況に持って行かせてはもらえないという状況なのだ。
「・・・姉さん、なんとか上手くやってるみたいだな」
物陰から少し覗き込み、様子を伺いながらアルは感想を述べる。
もしも1度でも2人きりでいようものなら、ロイの嫉妬はより酷いものになっていたであろう。
それに関してはエドの努力には敬意をはらいたかった。
そして意を決してアルは3人の前に姿を現すことにした。



「あ、アル。今までどこに行ってたんだよ?」
「あははっ・・・ちょっと自分の部屋で本読んでた」
「さっき行ったけどいなかったぞ!」
「じゃあ、ちょうど出てる時、行き違いになったんだよ」
嘘を並びたてるが、ここでロイの執務室にいたなどということはできない。
ラッセル達の前ということもあるが、エドは最近ろくにあっていないのに、アルだけロイに会っていたとなると、いくら弟とはいえエドが嫉妬する恐れがあるからである。
会えなくて機嫌が下降気味なのはロイだけではないのだ。
「そういえば、2人に聞きたいことがあるんだけど」
突然のラッセルの言葉にエドとアルは「何?」というように彼の方を見る。
「マスタング元帥って、どんな人だ?」
その言葉にエドとロイの事がばれたのかと2人は内心動揺する。
ばれていなくとも今の状況では平常心では説明ができそうになかった。
「俺達の国でも有名だからな。優秀な人材だって」
「そうそう。僕達の国では国王代理とまで言われている方ですし」
「あながちその呼び方は間違ってないかも・・・」
フレッチャーの言葉にアルは乾いた笑いを漏らす。
何しろ国王も王妃もおらず、まだ王位に即位していないエドに代わり、この国を治めているのは事実上ロイなのである。
もっともロイがエドと結婚すれば、代理ではなく事実上国王と呼ばれるようになる。
そうなるためには今目の前にある問題をまず片付ける必要があるのだ。
エドとアルはただ興味があるだけかと、ラッセルの言葉の意図に心の中で安堵する。
「どうって言われても、その噂のまんま優秀な奴だよ」
「僕達のことも昔から面倒見てくれてるお兄さんみたいな人だよね」
エドとアルはお互いの言葉に頷きあう。
その2人の話を興味深そうにラッセルとフレッチャーが聞いていると、遠くから誰かが呼ぶ声が聞こえてきた。
「エド〜〜〜!」
「あれ?ウィンリィだ・・・」
エドを呼びながら息を切らして走ってくるウィンリィを、最初に見止めたアルが彼女を指差す。
「どうしたんだよお前・・・・・」
呆然とするエドの腕を掴むと、物凄い勢いで声を上げた。
「大変なのよ!すぐに来て!!」
「えっ・・・?って、言っても・・・・・・」
「良いからすぐにくる!!」
わけも解らず混乱状態のエドを無理やり引っ張って、ウィンリィはそのままエドと共にその場を後にした。
「・・・・・なんだったんだ?」
「さあ・・・・・?」
残された面々はただまるで嵐のような出来事に、暫くの間呆然としているだけだった。









物凄い勢いでヴィルヘルムの研究室の扉が開かれた。
「教授!暗号が解読できたって本当?!」
屋敷に向かう途中でことの次第を聞かされていたエドは、期待と不安を大きく抱えながらヴィルヘルムにそう尋ねた。
「はい、姫様。これです・・・」
そう言ってヴィルヘルムは解読した文章をエドに渡した。
そしてその内容にエドは徐々に目を見開いていった。
「・・・・・そういうことか」
「エド・・・?」
心配そうにエドを見るウィンリィとアルモニの2人に、エドは余裕の表情で笑って見せた。
「これで・・・ようやく全部解決できる」
エドの笑顔は近い未来への期待を物語るものだった。










あとがき

相変わらずなんとも言えない終わり方でございます。
次回でこのシリーズも終わります。(しかし1.5話がまだ書けてないのでそちは必ず今度書きますが)
アルモニの占いは当たるのでしょうか。
そして婚約騒動の犯人は誰なのでしょうか?
全ては次回でございます。
それではまるべく早く(ロイの怒りゲージがたまらないうちに)次回を書けるように、祈っていてくださいませ(おいっ)





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