Position inversion
-4:It visits suddenly-
アルが城に帰還してから3日後のことだった。
未だ国内での事件の首謀者が見つからない中、噂のホーンブレンド王家が正式な婚約手続きをするため、張本人である王子をオスト国の城に足を運ばさせてほしいとの申し出があったのだ。
それによってあの噂が本当であることが確認できた。
そして現段階で下手に婚約の話を否定できない状態のため、王子がこちら側へ足を運ぶということも、甘んじて承諾するしかなかった。
そしてそれからさらに2日後、やはり事件の首謀者を見つけられないまま、ついにその日を迎えた。
「久しぶりだな。エド、アル」
「ラッセル・・・それにフレッチャーも一緒なんだ」
「エドワード王女、アルフォンス王子。お久しぶりです」
ただ再会を純粋に喜び合っている弟同士を見ながら、エドは先程から一歩も微動だにしていなかった。
それを見たラッセルがエドの傍に近づいて声をかける。
「久しぶりだな」
「5年ぶりか?」
わざわざ目の前に立たれて声を掛けられたとあっては答えないわけにはいかないと、エドは軽く溜息をつきながら口を開いた。
それを見たラッセルが眉を寄せて少し考え込む。
「どうかしたのか?」
「まあな・・・」
目の前にいる人物との婚約騒動のことで悩んでいるなど、本人に向かっていえるはずもなく、エドはまた溜息を軽く吐くだけだった。
「困ったことがあったらなんでもいえよ。一応俺はお前の婚約者なんだからな」
そう言いながら膝を折ったかと思うと、ラッセルはエドの手を取りその甲にそっと口付けた。
ラッセルのその行動に、された当人のエドはもちろんのこと、それを目撃したアルや側近、そして当然あの人物も、信じられないものをみるように目を大きく見開いていた。
ホーンブレンドの王子2人を出迎が終わった後、一同はロイの執務室に集まりお茶を飲みながら出迎えの時のことについて話を進めていた。
「しかし・・・あれには焦ったな」
「そうですね・・・まさかラッセルが姉さんの手にキスするなんて」
「・・・・・隊長が元帥の背中に銃突きつけてなかったらどうなっていたことか」
その光景を想像するだけで全員は恐ろしいといったところだった。
あの出迎えの時、ホークアイは何かあってロイが暴走しないよう、ずっと彼の背中に愛銃を突きつけて牽制していたのだ。
そして彼女のやった行いが正しかったと証明されたのが先程の事件だ。
もしあそこでホークアイが牽制してなかったら、おそらく大惨事になっていただろうことは簡単に予想できる。
ロイ=マスタングはエドワード=エルリックに関わる事に関してはそういう人物なのである。
はっきりいって普段彼を慕っている国民にはとても見せられないものである。
「・・・にしても、その肝心の2人はどこだ?」
「ああ。エドならさっき元帥に引きずられていくの見ましたけど?」
「おいおい・・・・・ウィンリィ嬢、それ本当か?」
「ええ」
平然としたウィンリィの言葉に、一同の空気は急降下していく。
「・・・姫さん大丈夫っすかね?」
「さあな・・・」
「ぼ、僕、探してきます!」
「やめておいた方が良いですよ王子。いくら王子とはいえ、今の元帥の邪魔をすればただじゃすまないでしょう」
「そうようね〜。しかも、帰って来るたび、貴重なエドとの時間を奪っていってるんだし・・・」
「むしろ元帥に恨まれている部分があってもおかしくません」
頷いてさらりと言ってのける女性2人に、アルだけでなく男性陣はなんだか逆らい難いものを感じていた。
自分の執務室が現在占拠され、勝手な会話が展開されていることも知らない部屋の主は、人があまりこないうえ死角の多いその場所で、愛しい恋人を逃がさぬようその腕に抱き、明らかに怒った表情で彼女に先程のことを問いただしていた。
「エディ・・・どういうことか説明して貰おうか?」
「だ、だから・・・あれはラッセルが勝手にしたことで!」
「避けようと思えば避けれたはずだな?」
「そんな無茶・・・」
反論しようとしたエドだったが、はっと思い出したように途中で口を閉じる。
この状況で反論などしようものなら、それがどれだけ無茶苦茶なことであっても、ロイなら許すはずもないということを知っているからである。
しかし時すでに遅く、目の前には眼だけ笑っていない笑顔を向けるロイがいた。
「俺に反論していいと思っているのか?」
「ご、ごめ・・・・・んっ」
思わず誤ろうとしたエドの言葉を止めるように、ロイは深く口付けてその唇を塞いでしまう。
やがて2人しかいない静かな空間に甘い水音が響き渡る。
「もっ・・・くるし・・・・・」
あまりに長く続く口付けに息苦しさ感じ始めたエドの訴えに応じたのか、ロイは口付けを止めエドの口を塞いでいた自分の唇を放す。
息苦しさで薄っすらを赤くなった顔で荒くなった呼吸を整えようとしていると、そのままキスだけで事を終えると思っていたロイが、エドの首筋に吸い付くように唇を寄せた。
エドが驚いて声を出すよりも早く、ロイはいつもの行為の時のように強く吸い、エドに紅い印を残すと満足そうに笑み、そこを1度舌先で舐めるとそのまま唇を下の方に落としていく。
それと同時にドレスの間から割って右手を侵入させ、太腿を慣れた手つきで触り始めた。
「ちょっ、こんなところでっ!」
慌てて止めようとするエドを背を向けるような体制になるよう壁に押し付け、彼女の行動を抑え込むと何食わぬ顔で行為を続ける。
太腿をそのまま触り続ける手とは違う、もう片方の手で胸を強く揉み触り、首筋から肩の辺りに口付け時々舌で舐めていく。
「ふっ・・・もっ、許して・・・・・」
「・・・・・ここでは嫌か?」
「だって・・・誰か、来たら・・・ぁっ」
「ここでこのまま続けるのと、何でも言う事を聞いて夜に俺の部屋で続きをするのと、どっちが良い?」
「何でも、聞くからぁ・・・」
エドがそう言葉を漏らした瞬間、ロイはエドの体を反転させると自分の正面に向かせた。
そしてそのまま抱き寄せて深く口付ける。
今度は最初の時のようにそう長いものではなかった。
そして唇を放したロイの表情はとても嬉しそうであり、満足そうな笑みであった。
「良い子だ、エディ」
「ロイ・・・・・・」
目を細めて微笑みながら自分の頭を撫でるロイに、エドは頬を染めうっとりとした表情をすると、背伸びをして自らロイにキスをした。
そしてそのエドの行動に応えるようにロイは片手をエドの後頭部に、もう片方を彼女の腰に回してキスがより深くなるようにした。
そしてエドもさらにそれに応えるようロイの身体に自然と腕を回していたのだった。
ホーンブレンドの王子2人が来日したその日の夜。
仕事を途中放棄でエドと逃避行をしていたことから、優秀な副官に思う存分働かされたロイが、エドの待つ自室へと足早に帰っていたその時だった。
副官からの鬼のような仕事内容もエドが待っているという事実から既に吹っ飛び、内心気分が浮かれて油断していた時それは起こった。
何者かに襲われいきなり自分の体が宙に舞ったのである。
何が起きたのか一瞬理解できず、少し思考を巡らし自分を狙った刺客か何かかと思いもした。
しかし、目の前に立っていたのは、むしろ刺客であった方がよっぽどマシ、といえるような人物だった。
「カーティス師範?!」
「元気そうだね〜〜。ロイ=マスタング元帥」
そこに立っていたのは、ロイが最も苦手とする王家御用達の錬金術指南役、イズミ=カーティスその人であった。
エドとアルの錬金術の師匠であり、エドが何かを依頼しているヴィルヘルムの友人。
エドとアルの亡き母である王妃とも友人であり、エドとアルのことを本当の子供のように接している。
そして彼女は城の影の権力者と言われるほど古参の者達ですら逆らおうとする者は1人もいないと言われるほど。
その彼女が、今現在ロイの目の前に、怒りを纏った笑顔を貼り付けて立っていた。
「私が何を言いたいのかはもう解っていると思うが」
「・・・・・・・・・・・」
「今朝のあれはなんだ?」
今朝のあれとは間違いなく、ラッセル達のことを言っているのであろう。
「確か・・・エドはあんたと恋人同士のはずだね?」
「そうですが・・・」
「じゃあなんで!ホーンブレンドの王子なんかがでしゃばってくるんだい?!!」
イズミの怒った時の迫力は並みのものではない。
実質的最高責任者と呼ばれるロイですら、彼女の前には口も手足もでない。
そして彼女のあまりの勢いで未だ立ち上がれずにいたロイの胸倉を、イズミは遠慮なく思いっきり掴み上げた。
「良いか?もしあの子を不幸にするようなことがあったら、私が天国のトリシャに変わって容赦しないからそのつもりでいろ!」
そう怒鳴りつけるだけ怒鳴りつけると、イズミは乱暴にロイを放すとそのまま怒り冷め遣らぬ言った様子でその場を去っていった。
そして後に取り残されたロイは、その背中を見送った後、立ち上がり誇りを払いながら小さく呟いた。
「そんな真似・・・絶対死んでもしませんよ」
ただその誓いを聞く者は今宵の月だけだった。
あとがき
やばかった・・・・・・
途中ロイが暴走しかけてエドを本気で襲いそうになったんです;
表に置けなくなるところでした!;(マジで)
トリンガム兄弟及び、イズミ師匠のご登場です!
大好きです!師匠!!(^^)
しかし嵐のように現れ、嵐のように去っていかれました・・・
師匠はエドとロイの関係は知っている内輪ですが、婚約騒動に関しては何も聞かされてなかったんですね・・・
言うと恐いから誰も話したがらなかったんです・・・・・;
ちなみにエドとアルは錬金術だけをイズミ師匠に習っただけで、他の事に関しては全て各教育係り(ロイとヒューズ)から学んでいますので。
ちなみにここでのエドは2人っきりの時は、基本的にロイの言いなりです;;