Quintet return
1:Arrest




アイスリーズーパストゥール、15歳。
趣味は城下に遊びにいくこと。
好きな飲食物はお酒(究極のざる)。
嫌いな飲食物は甘いもの(特にあんこ)。
勉強は嫌いだが政治学だけはしっかりとやる。
悩みは母親似の童顔・女顔と背が低いことと、両親の万年新婚ぶり。
奈落の第一王子兼唯一の王位継承者にして、創造主の上位にあたる創命主。
そんな彼は今現在・・・
実の妹と信頼する仲間達とともに・・・
何故か見知らぬ場所で・・・



投網で捕獲されていた・・・・・



「あ〜〜・・・・・すまん。誰かこの状況を説明してくれ」
ブリックの半ば茫然自失のその言葉に、一同の視線がすぐさまアイスに集中する。
アイスの持つ『知詠』を頼ってのことなのだが、アイスは顔を引き攣らせながらその期待を裏切る言葉を呟いた。
「無理だ・・・・・どうやらここは俺の能力が通用する場所じゃない」
「・・・・ってことは」
「あたし達の『箱庭』の外の世界ってこと?!」
信じられないというようなその言葉に、アイスはただただ静かに頷いた。
その時頭上から降ってきたやけに楽しそうな声に一同は硬直した。
それは特にアイスができれば2度と聞きたくないと思っていた声だった。
「まさに大成功ね!」
「ふふふっ、もがけばもがくほど抜け出せないからね〜〜」
「それにしても良いもの持ってるわね、麗」
「まあね。何しろあたし達一族って、1番原型は忍の一族だし」
「あの屋敷のからくりも面白いわね」
「ありがと、叶」
もうすでに疑う余地もなかった。
彼女達のお互いを呼び合う名前のせいで、声が似ているだけという理由で自分を誤魔化せなくなっていた。
上を向けば予想通りの2人に加え、さらに見知った顔が数人いる。
「どういうつもりだ、叶に麗!」
「・・・というよりも、そこの下っ端鳥。覚悟はできてますか?」
アイスの怒鳴り声よりも、ウォールの静かな声の方が恐ろしいものがあった。
しかも直に言われたラスは恐ろしさのあまり失神寸前になっていた。
「ラス大丈夫?」
「・・・・・俺、帰っていいか?」
「「だ・め♪」」
悲痛な声で懇願するラスに対し、麗と「大丈夫?」と聞いたにも関わらず叶も、2人揃って楽しそうに口を揃えていったその言葉に、ラスは涙を流しながらそのまま倒れこんでしまった。
ちなみに太い木の枝に立っていたので、そのまま地面にまっさかさまに落ちてしまった。
「ひょっとして叶・・・・・まだ兄上のこと義弟にするの諦めてないの?」
アクラが何気なくいった言葉にアイスは顔を蒼くさせ、方や叶の方は満足そうに微笑んだ。
「もっちろん!」
「あたしは今回お手伝いね〜〜」
「麗!お前、前の時は自分が賭けドローにしたくせに!!」
「あの時はあの時。今は叶の味方をすることにしたのよ〜〜」
アイスの反論にも楽しそうに麗はあしらって見せた。
「まあ、あたしはどっちでもいいけど」
「・・・・・・・冗談は寝てから言え」
何気なく漏らしたその言葉に帰ってきた兄の恨みがましそうな声に、アクラは恐ろしくなり怯えて肩を震わせた。
「よっし!それじゃあ、このまま帰ってアイスに暗示でもかけて、とっとと血判状でも作らせよう!!」
「うん!麗、本当に協力してくれてありがとうね!!」
「これくらい気にしないでいいわよ!」
完全に意気投合してしまっている2人に半ば呆然とさせられる。
この時、いつの間にか組まれた最強(凶)タッグに、アクラとブリックとルシアが呆然とし、アイスが絶望の淵に立たされ、ウォールは真顔のまま平然と見守っていた。



「さあ、レッツ連行!」
「冗談じゃ・・・」
「いい加減にしろ!」
意気揚々とアイス達を投網で捕獲した状態のまま連れて行こうとした時、叶の後頭部に鈍い痛みが走った。
それと同時に叶にとってはとても聞きなれた声が聞こえた。
「っ・・・・・輝月?!」
「俺以外の誰に見える?」
「な・・・っていうか、なんでここに?」
ここにいないはずの人物に叶が焦っていると、物陰から静かに現れた人物が、投網からアイス達を解放していた。
「大丈夫か?」
「颯〜〜〜」
自分達を心配してくれるまだまともな人種に、アイスは素で歓喜の声をあげた。
一方不満の声を漏らすのは、その助けた人物の幼馴染だった。
「ちょっとハヤッチ!なんてことするのよ!!」
「・・・・・誰がハヤッチだ」
顔を引き攣らせながら麗の呼び名に、逆に静かに抗議の声をあげる。
「それから俺は当然のことをしたまでだ」
「っていうことは・・・今回はあたしの敵に回るってこと?」
「・・・・・・・好きなように解釈しろ」
近寄りがたい微妙な空気を漂わせる2人だが、その光景を見ながらアイスは颯に拍手を送りたい心境になった。
一方、叶と輝月の方では叶が輝月に怒られていた。
「お前は何を考えてるんだ?」
「だって・・・アイス、義弟にしたいし」
「本人は嫌がってるんだろ?」
「それは・・・・・・・うっ・・・え〜〜ん麗、輝月がいじめるよぉ!」
「なんですって?!」
叶の声に反応して麗は颯との微妙な空気を解き、すぐさま叶の傍に行って慰める。
「大丈夫?叶」
「輝月が怒るから大丈夫じゃないかも・・・」
「ちょっと、いきなり出てきて何泣かしてるのよ!アイスの1人や2人、義弟にしても問題ないでしょーが!」
「俺は問題あるぞ!!」
「っていうか、殿下みたいなのが2人もいたら大変だよね」
「・・・なんだ、このノリは」
過剰なまでに1人反論するアイスと、ツッコミどころの違う冷静なルシアと、呆れて溜息をつく輝月の順に声があがった。
その間も叶は実に見事な嘘泣きを続け、麗がそれにかなり乗り気で慰める真似をしている。
はっきり言って2人はギャラリーを尻目にとっても楽しそうである。
「とにかく、叶。お前は今すぐ俺と一緒に帰れ」
「・・・・・・やっ!」
ぴたりと嘘泣きを止めると、叶はそう一言だけ告げてその場から逃げ出した。
続いて麗も下に落ちていたラスを回収してその場から早々と立ち去った。
後にはあまりの展開の早さに、嵐が通り過ぎた場所に残された面々がいた。



暫くしてからまずウォールが最初に口を開いた。
「で、こちらはどなたで?」
彼の目線の先には当然輝月がいた。
「叶のパートナーだそうだ。叶を止められるとても貴重な存在として俺が頼んで来てもらった」
「貴重かどうかは解らないが、こちらとしてもあいつがあまり迷惑かけないよう、できるだけ早く連れ戻す気でいるから」
「・・・本当によろしく頼む」
疲れ果てた様子で輝月に頼み込むアイスの姿は、とても痛々しかったと、後にこの場にいた全員が語った。
「それにしても本当に今回珍しく颯は麗と対立なのね」
「・・・こっちにも色々あるんだよ。それにお前達がどうにも哀れだし」
「どんな理由でも味方してくれてありがたい!」
半ば壊れてきているアイスにもう誰も声がなかった。
「と、とりあえず・・・渓紹の家にでも行って、今後の作戦たてるか」
「そうだな・・・こんなところで立ち話しているよりは良いだろう」
颯と輝月の意見に一同賛成し、一路麗と颯の育ての兄である渓紹卓を目指すのだった。



呪術師の本拠地である山影町を舞台にした、史上かつてない壮絶であほらしいバトルは、この時からすでに始まっていた。
 









あとがき

書きたくて仕方がなかった・・・
そしてまたもや麻耶さんからの許可を頂き書きました!
「Quintet」の続編ここに開始したします!!
今回は輝月さんもご登場していただき、舞台は我が家のオリジナルである時空の世界となります。
他登場人物ですが、ラスがいることからお解りかもしれませんが、メリィは当然いますし、エドやアルやロイもいたりします。
上記のメンバーは全員麗の自宅待機です。
あとオリジナルから渓紹でますし、前回とは別の麗の霊従とか・・・・・
とにかく今回でアイスが姉さんの義弟になるのか、それとも逃げ切るのかをはっきりさせるつもりです。






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