Quintet return
2:Base




帰ってきたのは意気揚々と出て行った2人と、それに付き合わされた(なぜか撃沈している)1匹だけで、誰1人人数は増えていなかった。
「「ただいま〜〜」」
「あっ、姉さんお帰り」
「ご主人様お帰りなさい〜〜♪」
「ただいまエド」
「ただいま擂祢」
「らす〜〜〜〜〜?」
明るく挨拶をする面々とは裏腹に、メリィ1人はケルベロスから離れてラスの元に心配そうに駆け寄る。
「いったい何があったのだ?」
メリィの手前、叶と麗にそう尋ねるキャルだったが、内心ではラスの状態にガッツポーズしていた。
「なんかアイスと一緒にいた男の子に声かけられた瞬間こうなった」
「男の子?」
「ウォールね」
麗がはっきりと口にしたその名前にキャルは固まった。
そしてすぐさまさっと顔を青褪めさせて冷汗を流している。
「う、ウォールだと?!」
「誰?知り合い?」
前回ウォールはアイス達と一緒ではなかったため、ウォールとあったことのない面々はキャルの反応に不思議そうにしている。
しかしキャルはそれにまともに答えようとはせず、がたがたと肩を震わせながらぼそりと呟いた。
「・・・・・・究極の精神破壊兵器がきた」
「はっ?」
キャルが呟いた言葉の意味が理解できず、一同間の抜けた声を出すが、キャルはすでに恐怖のあまり自分の世界に閉じこもっていた。
そして現在唯一正気でウォールの実態を知っている麗は呑気にお茶を飲んでいた。
「ま、大丈夫でしょ。うちにもウォールに対抗できるコいるし」
「どういう意味?」
「まあ、そのうちね〜〜」
口笛など吹きながら楽しそうにしている麗に、まともな思考をもった者は全員不吉な予感がした。



「そういえば、姉君達にしては随分とあっさり帰ってきたな」
不吉な予感を払拭しようとロイが先程から思っていることを口にした。
本当に残念そうな声で事情を話し始めた。
「そうなのよ。途中まで上手くいってたんだけどね」
「ちゃんんと投網で捕獲できたしね〜〜」
「ね〜〜〜」
すっかり仲良くなってしまった2人の様子を見て、半ばアイスに同情するものが数名ほどいた。
「でもちょっと邪魔が入っちゃってね」
「そうそう。とっても厄介な相手が」
「姉さんが厄介とかいうのめずらしいな」
しかも麗と組んで更に向かうところ敵なし状態、相手にとっては迷惑極まりなくなってしまっているのに、それでも叶が厄介だと言うのかとエドは首を傾げた。
「いやぁ〜〜・・・今回は颯のせいね。叶ごめんね」
「麗が誤ることじゃないわよ」
「颯って、この間お茶汲みしてた人?」
「そうそう」
「その彼がどうしたというんだ?」
2人だけですかっり話を進行させている叶と麗にロイが再度尋ねる。
「えっとね。輝月呼ばれちゃった」
「なるほど・・・・・」
隠すこともなく今度こそはっきりと言った叶の言葉に、輝月を知る一同納得したがすぐさま目を丸くして驚いていた。











一方、輝月と颯に助けられたアイス達は、颯に連れられるままゆっくり話ができる場所に来ていた。
「・・・どこだ?ここ」
「渓紹の家だ」
その名があがった瞬間、アイス達はいつも麗を連れ戻しに来ては酷い目に合っていた渓紹の姿を思い出していた。
「ああ、あいつね・・・」
「そですか・・・まだ生きてたんですね」
はっきりと恐ろしいことをウォールは口走った。
しかし彼は別に渓紹が死んでいれば良かったという意味でそう言ったのではない。
いつもいつも麗のお守りで散々な目にあい、普通なら死んでいてもおかしくないことの数々が渓紹の身に降りかかっていたため、そう思っても仕方がないことだった。
「まあ、うちの一族皆頑丈だから・・・・・」
その颯の言葉に一同妙に納得してしまう。
「・・・なあ、あれなんだ?」
輝月が突然あげた声に一同彼の視線の先に注目する。
するとそこには呆然と木の前に立ち尽くす1人の人物。
そして木の枝からはロープが吊るされている。
人の頭が入るぐらいの大きさの輪が作られたロープだ。
そして足元には台がある。
彼はその台の上に上り、ロープを掴んでその輪の部分に自分の頭を・・・
「って!渓紹、また何してるんだ?!」
とっさに颯がその人物、基い渓紹を止めに入る。
「放してください!桔風様!穂麗様をまた止めることができなかったんです!ここまできたら本当に死んでお詫びを〜〜〜〜〜」
「・・・お前それ何回目だよ!!」
そんな会話が大声でされ続け、しばらくして騒ぎを聞きつけた人達が集まり、颯と一緒に渓紹の自殺を食い止めていた。
輝月やアイス達がただそれを呆然と見守る中、騒ぎが収まったのはそれから1時間がたってのことだった。










「申し訳ありません。とんだお見苦しいところをお見せして」
先程まで自殺をしようとしていた人物の口から出てきた第一声は謝罪の言葉だった。
しかしアイスは渓紹を責めることもなく、ただぽんっと肩を叩いた。
「お前も相変わらず苦労してるみたいだな・・・」
「あの荒れようでは相当心労が溜まってるんだろう。同情する」
アイスと輝月の言った言葉に一同が賛同するように頷く。
それを聞いた渓紹は嬉しくて思わず涙を流す。
「ありがとうございます・・・解って下さって」
「・・・・・いつもの事だ。気にしたらおしまいだぞ」
ただその中で1人だけ慣れた様子で平然としている颯に、渓紹は恨みがましそうな目を向ける。
「あんまりな言い草です!だいたい普段、桔風様は穂麗様に協力して、俺の心労増やしてるじゃないですか!」
「あいつからは報酬もらって正当な依頼を受けてるんだ。それに、今回は味方だろうが・・・」
「ああ・・・なんでこうも若様達は性格に違いがですぎてるんでしょう・・・・・・8人とも分け隔てなく平等にお育てしたはずなのに・・・・・・」
その後もぶつぶつをなにやら呟く渓紹に一同冷汗を流すが、颯は慣れているのか至って冷静だった。



「で、これからどうしたい?」
「決まってるだろう・・・なんとしてでも叶の義弟になるのを阻止!そして奈落に帰る・・・」
はっきりきっぱり言ったその言葉に、颯は「よしっ」と返事をした。
「それじゃあ、俺は全力を持ってサポートしてやる」
「俺も叶を止めるために協力してやる」
颯と輝月のその友好的な言葉に、ぱああっとアイスの表情が明るくなる。
「お前らありがとな」
「いや・・・それにしてもあいつも今回は随分と横暴だな」
「それだけ兄上のこと気にいったんじゃないの?」
「・・・・・・別に俺は気に入られたいとは思ってない」
アクラのその言葉に反応したアイスは、魂が口から出てるようなイメージができた。
「・・・さすがにパートナーとしてそこまで嫌うことはないと思うが」
「嫌いじゃないんだよ・・・・・なんか苦手なんだよ。あの手のノリの女は」
アイスの発言に、「それは確実に麗のせいだな」と、颯は今頃何か企んでいるであろう幼馴染を思い浮かべた。
「でもお前は良い奴だってよな。これからよろしく頼む」
「信用してくれたなによりだ。そうでなければ、これから協力などできないからな」
叶とは違いそのパートナーである輝月にはすっかりアイスは心を許していた。
恐らく今のアイスには輝月は救世主とか、その手の存在にみえてるんだろうなと、周りでその様子を見守る一同は考えていた。










「は〜〜い。それじゃあ、これから輝月対策会議をはじめま〜〜す」
などと、渓紹の家で意気投合がなされている時、麗の家では叶が何やら始めだした。
「対策会議って・・・・・」
「私にとってのアイスゲットの最大の障害、それは輝月だからね!」
「そうみたいね〜〜。じゃあ、張り切っていきましょーかぁ!」
最早止まらなくなってしまった2人に、逆らえるような者などその場には誰もいなかった。
こうしてアイス義弟推進組(仮)と、阻止組(仮)の戦いの火蓋は切って落とされた。










あとがき

はじめて書きました。
渓紹の自害(未遂)シーンを・・・・・・;
大抵いつもは別の人間が止めに言ってるんですが、今回は颯に真っ先に行ってもらいました。
そりゃあ、いきなり自宅の庭で首吊りするような人間見かけたら、言葉を失いますよね?(いや、普通慌てるだろ)
なんだか、姉さんのノリがだんだんと申し訳ないことになっています;
麗のせいですかね?(それしかない)
そして多分次回もラスは虫の息です;;





BACK       NEXT