Quintet
1:Before




「遅かった・・・」
その時間、その場所にいるはずの人物達の姿がなかったため、彼らは事態を想像してその場で呆然とした。
「また厄介なことになったわね」
「そうやな・・・・・」
「で、結局助けてやらなくちゃいけないわけね」
「・・・あの面子で考えると行かなくてもいい気はするが・・・・・一応直に見届けな寝覚めが悪いしな」
面倒くさいと溜息をつきながら横を見ると、額に手を当てて冷汗を流している兄の姿があった。
「どうしたの?兄上」
「いや・・・あいつらの行ったとこらなんだが」
複雑そうに溜息をつくと他の2人にその場所を教える。
すると2人も瞬時に引きつった表情になる。
「マジ?」
「マジ・・・・・」
「・・・不幸中の幸いなんか・・・・・どうなんか・・・」
「・・・・・・・とりあえず、俺達は後を追うぞ」
「「了解」」
そして1人が何かを呟くとその瞬間、数分前にこの場にいた人物達同様、その場から3人の姿は消え失せていた。
その光景をくすくすと楽しそうに笑いながら見ていた者がいたなどとは知らずに。








それは突然起こったことだった。
1人が見守る中、2人で1人をからかいながらお茶をしていた。
すると突然真っ黒な穴みたいなものが空中に現れた。
それはブラックホールみたいにあっという間に4人を飲み込んで。
ぺちぺちと小さな手に叩かれる感触に目を覚ますと、辺りに広がる真っ暗な空間と、1人の女の子が目に映った。
「ここどこ・・・?」
「ん〜〜・・・私も初めてきた世界ね」
後ろからした声にはっとして振り返ってみると、そこには見知った黒髪美人の女性がいた。
「姉さん!良かった無事だったんだ」
「まあね。エドも無事でほんと良かったわ。アルと、ついでに少将も無事よ」
「なにやら引っかかるのだが姉君・・・・・」
「あ、あははははは・・・・・」
叶の一言に引きつった笑みを浮かべ、その様子にアルは苦笑する。
「まあ、とりあえず全員無事で良かったという事で・・・・・状況把握ね」
「一体何が起こったんだ?」
「どうもいきなり横道が開いちゃって、そこに見事私達全員おこっちゃったみたいね」
「おっこっちゃったって・・・・・・・」
まったく危機感のない叶のその一言に他の3人は冷汗を流す。
「人為的な作用は感じられなかったから自然に発生したものね」
「そんなことってあるの?」
「ごくたま〜〜に。所によっては『時空の歪』なんて呼ばれてるけど。でも人のいる所で発生するってのは珍しいことね」
うんうんと1人納得している叶にはやはり危機感というものは感じられなかった。
世界を渡り歩いている彼女だからこそ、慌てず騒がずに落ち着いていられるともいえる。
しかし初めて別の世界に、それも強制的に来た他3名にとってはそうはいかない。
「で、私達が倒れてるところを、この子が起こしてくれたと」
3人に突っ込みをまるでさせないかのように、叶は状況をどんどんまとめていってしまう。
その素晴らしいとも言えるしきりっぷりに、3人はもう何も言うまいと思った。
「で、貴女名前は?」
「かめりあ=りとる=ぱすとぅーる4しゃい。めりぃってよんでくだしゃい」
にこっと笑ってたどたどしい口調で自己紹介するメリィに、叶とエドは思わず2人で抱きついたり頭を撫でたりした。
その2人の行動にメリィは嬉しそうに笑顔を作り、男2人はメリィをただ羨ましそうに見ていた。



そんな和やかな空気を壊すようなぐさっという音が突然聞こえた。
驚いて全員があたりを見回すと、自分達の周りの地面に突き刺さっている数本の千本があった。
「な、なに・・・」
「「メリィ(リトル様)から離れろ!!」」
いきなりの怒声にそちらを振り向けば、そこには2人の男女が険しい顔つきで立っていた。
その2人の姿を見ると、メリィは表情を明るくさせた。
「らす〜〜きゃる〜〜」
「知り合い?」
「うん!あのね、らすときゃるは・・・」
「リトル様待っていてください!」
「すぐに助けるからな!」
メリィの言葉を遮り、何やら誤解をしているらしい2人は、エド達に完全に敵意を露にしていた。
「ちょ、ちょっと待て・・・俺達は」
「「問答無用!!」」
まったく聞く耳持たずで2人は一斉に攻撃を開始する。



そしてあまりに一方的な勘違いと攻撃の連続に、数名の堪忍袋の緒が切れた。
「だから違うって言ってるでしょうが!SUMMON CALL、ケルベロス!!」
叶の呼び声に応えて現れたケルベロスの姿を見た瞬間、ラスとキャルの2人はぴたりと動きを止めて警戒した。
それは召還されたケルベロスも、召還した叶も只者ではないと、2人が感じ取った証拠だった。
「・・・かなりの実力者だな」
「ああ・・・・・・」
先程までのようにやみくもな攻撃はまずいと判断した2人は一転慎重になる。
対する叶達の方も、ケルベロスが召還されたのをきっかけに、エドとアルがいつでも錬金術を使える体制をとり、ロイも発火符を手に装着している。
お互いに臨戦体制で緊張感が漂う。
互いに互いの出方を伺い、下手に手は出そうとはしない。
そしてようやく動くタイミングとなたっと、全員が動こうとしたその時。
「わ〜〜vおっきいにゃんにゃん♪」
この一言で全ての緊張感は台無しになってしまった。
「はっ?」
「にゃんにゃ〜〜んv」
『・・・・・・・・・・まさかと思うが・・・・・我のことか?』
嬉々としてケルベロスに抱きついたり撫でたりしているメリィの言葉に、当の呼ばれたケルベロス本人は遠い目をしながら叶達に尋ねた。
しかしエド、アル、ロイの3人は目線をそらし、叶は慰めるかのようにケルベロスの背をぽんっと叩いた。
ケルベロスは自分の問いを肯定されたせいで軽くショックを受けてしまった。



その光景を暫く呆然と見ていたラスとキャルだったが、ラスの方が正気に戻り、今がチャンスとエド達に攻撃を加えようとする。
「かく」
「やめんかこの馬鹿鳥〜〜〜!!」
しかしラスの攻撃は突然現れた新たな人物の声とともに降ってきた蹴りにより、見事発動さえせず不発に終わってしまった。
その騒ぎに驚いて全員がそちらを見ると、そこには倒れたラスとラスを蹴り倒した人物が立っていた。
そしてその人物は、メリイ、ラス、キャルの知っている人物だった。
「アイス!?」
「あいすおにいしゃま〜〜」
驚くキャルと嬉しそうなメリィの2人。
ラスはその姿を見ることもできずその場で気絶してしまっていた。
「ったく!メリィのこととなるといっつも先走るなよな!!」
ラスを見下ろしながら言った後、くるりとキャルの方も見て言う。
そのあまりの形相にさすがのキャルもうっと顔を引きつらせる。
「本当に解りやすい行動パターンしてるわよね」
「ラス・・・・・せやからウォールにいじめられるんやで」
「あくらおねしゃま、ぶりっくおにいちゃん」
呆れた表情のアクラと苦笑を浮かべたブリックの2人がアイスに続いて現れる。
「お前達いったいどうして・・・・・・」
「・・・こいつらはな!時空の歪でたまたまここに着ただけなんだよ!!別にメリィをどうこうしようってわけじゃない」
「なに?!私はてっきりリトル様を狙ってきた不貞の輩だと・・・・・」
「・・・・・ホンマにこんなんにお付させといてええんかいな・・・」
今後のこの世界のパストゥール家の未来を憂い、ブリックは遠い目をしながらそう呟いた。
アイスはその光景に溜息をつきながら、くるりと身体の向きを変えるとそのままエド達の前まで歩いてきた。
「・・・一応初めましてだな。正確な自己紹介はお互い後でするとして。俺も実のところお前達と同じでこの世界の人間じゃない」
「なっ・・・・・!」
「そうじゃないかと思ってたわ」
驚くエド達をよそに、叶1人だけが不敵な笑みでアイスと対峙していた。
「・・・・・・さすがは真理と対等以上に付き合えるだけのことはあるな」
「貴方もね・・・・・」
不敵に微笑み合う2人の間の空気があまりにも凄惨としたもののように思えて、それを見守る他の面々は各々の心境でいた。
思わずその光景に息を飲み込んで緊張を覚える者から、見慣れた様子で脱力しているものまで。



「さてと。それじゃあ、メリィの家にでも行って色々と話し合うか」
「案内してくれる?」
「もちろんそのつもりだ。あっ、ブリック・・・そこで未だに気絶している鳥引っ張って来い」
「・・・・・了解」
先程あったばかりで既に叶と意気投合しているかのようなアイスは、まるで今思い出したかのようにブリックにラスのことを任せた。


地下祭壇と地上を繋げる階段を昇る一同の最後尾・・・・・
そこから目的地につくまでの間常にずるずるという虚しい音が聞こえていたのは言うまでもない。









あとがき

え〜〜・・・また無茶なことを始めました。
Apocripha/0お子様『四季&幻華の世界』と、オリジナル『時空日記〜千還録〜』と、サイト『Anathema』様の鋼の錬金術師&オリジナルのコラボ、による5重(?)世界のコラボでございます。
コラボやっても良いと寛大な心で許可してくださった、『Anathema』の管理人・麻耶さん、ありがとうございます!!
迷惑にも捧げさせて頂きます。
そしてギャグですいませんでした・・・;
うちの連中(特にこの面子)だとどう足掻いてもギャグに持っていかれます;
しかも天下のケルベロスをにゃんにゃん呼ばわりする(お子様ゆえの)強者・メリィまでいます・・・;
でも姉さん大好きですから!!(力説)
本当に書かせていただき幸いです!ありがとうございます!!
次回、恐怖の大王(見たいな奴)降臨!(半分冗談、既に悪ノリ;;)






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