Quintet
2:Start
緊張感のある話をしていたはずなのに、なぜか室内の空気は和やかだ。
その理由として、未だメリィがケルベロスを「おっきいにゃんにゃん」と呼び、じゃれ付いて遊んでいることが1つ。
そのメリィの頭を撫でたりしてエドと叶がメリィを可愛がっていることが1つ。
そしてその合間に叶がアイスにも後から抱きついて頭撫で回していることが1つ。
ちなみに最初に関してはラスとキャルが嫉妬でケルベロスに殺気を送っていたり、最後に関してはアイスは物凄く嫌がっていたりした。
もっともラスとキャルは叶の隙を見たアイスが注意(実力行使有り)していたりする。
そしてアイスはべたべたされることは基本的に好きではないが、今回は特に嫌がっているふしがある。
そのせいもあって余計に叶がべたべたしてくるのである。
「俺は黒髪黒目、または黒髪の女は苦手だ・・・」
そう言ったアイスの言葉に全員は首を傾げる。
ただ事情を察しているアクラとブリックの2人は冷汗を流しながら遠い目をしていた。
「それでさっきから微妙に姉さんや大佐と距離置いてたんですね」
「でも何で苦手なんだ?」
「・・・昔、黒髪黒目のとんでもない女にあってな」
そう言ってアイスは苦笑いを始め、つられたようにアクラとブリックの2人も苦笑いを始めた。
「にゃ〜んにゃ〜〜んv」
そんな一同の心情など知らず、複雑な表情を浮かべるケルベロスの背中に乗り、頭を撫でながら楽しそうに遊んでいた。
そんなメリィの様子を見た叶はにこやかに微笑みながらエドとアルに向かって呟いた。
「ねえ2人とも・・・妹欲しくない?」
叶のその言葉に初めはきょとんとしていた2人だったが、すぐさまメリィの姿を見た瞬間思い当たったのか、和やかな笑顔で頷いた。
「そうだな・・・ほしいな」
「うん、僕も」
「「あんな可愛い妹なら大歓迎!」」
2人のはもった声に満足そうに頷いた叶は、ケルベロスにじゃれ付いているメリィに近づいていく。
「ね〜〜、メリィ」
「んにぃ?なあに?」
「私と、エドと、アルの妹にならない?」
叶の突然の言葉が始め理解できず暫くきょとんとしていたメリィだったが、理解したのか途端に満面の笑みになってこくりと大きく頷いた。
「うん!めりぃ、きょうおねえしゃまとえどおねえしゃまとあるおにいしゃまのいもうとになる〜〜〜v」
「メリィ〜〜〜v」
嬉しそうに笑顔で返事をするメリィが余りに可愛くて、堪らなくなって叶はメリィに抱きついた。
エドとアルもメリィの頭を撫でてやる。
その光景を羨ましそうに、また嫉妬心剥き出しで見ている者が数名いた。
「・・・なんか凄いことになったな」
「あれ?アイスも弟にしてほしいの?」
メリィに抱きついていたと思えば、いきなりアイスに抱きついてきてそう告げた叶に、アイスは激しく拒否の反応を示す。
「誰がそんなこと言った?!俺は兄弟はアクラ1人で十分だ」
「まあ、まあ、そう言わず」
「・・・それに!俺は黒髪の女は苦手だって、いっ・・・た・・・・・」
視界の端に窓の外を捉えた瞬間、アイスは次第に硬直していった。
そして完全に窓の外を直視した状態で硬直状態に入ってしまった。
それにつられて不思議そうに全員が窓の外を見た瞬間、他の全員もアイス同様硬直することとなった。
窓の外には空色の髪と瞳をした1人の少女がいた。
ただしここは2階である。
もっとも彼女の背に生えている髪と瞳と同色の翼が本物であれば、それ自体には説明がつくのだが、彼女の正体に関しては説明がつかない。
しかしここで他の面々とは違った意味で硬直していた3名が一斉に悲鳴に近い叫び声を上げた。
「「「ぎゃ〜〜〜!天里〜〜〜〜〜〜!」」」
「ぎゃ〜っ、てなに?ぎゃ〜〜っ、て?!いくらなんでも失礼だよ!!」
そういいながら、窓を乱暴に開けて天里は部屋の中に勝手に入ってきた。
不機嫌な天里に未だ硬直している3人を、他の面々は不思議そうな表情で見ていた。
「アイス、知り合いか?」
「ってことは、ラス達も知らないのか?」
今日知り合ったばかりのエド達よりも以前から、アイス達と付き合いのあるラス達が知らないということは、相当以前からの知り合いだというころが予測できる。
「ああ、知らない」
「それにしてもあのアイスまであんなに驚くなんて。そうとうなことなみたいね」
知り合って間もないが今までの会話・行動で全員の人となりを掴んだ叶が興味深そうに見ながらそう呟いた。
そんな会話が交わされている中、アイスが顔を引きつらせながら恐る恐る尋ねようとした。
「お前が・・・いるってことは・・・・・・まさかあいつも」
「そのと〜〜り!」
アイスが皆まで言うよりも早く、全員の後方である部屋の入り口付近からした、明らかに今までこの部屋にいた誰の物でもない新しく楽しそうな声に、一同は驚いていっせいに振りあける。
「あっ、黒髪黒目の女」
エドが思わず呟いたその通り、その人物はどこからどう見ても黒髪黒目の女性で、アイスが苦手だといっていた人物にぴったりと当てはまる。
「呼ばれなくても飛び出てジャジャジャジャ〜〜ン!」
「裏しゃま〜〜♪」
「天里ご苦労様〜〜vでも結局自分で来たくなって、着ちゃった!」
麗の出現に先程までの不機嫌が180度変わり、機嫌が絶好調になった天里と麗は楽しそうにはしゃぎ合う。
その2人を遠い目をし見ながら、今にも風化してしまいそうな3人がいた。
その3人を全員が不思議そうに思う中、ラスとキャルの2人は麗を警戒対象として睨み付けた。
「お前・・・いつこの部屋に入ってきた」
「それ以前に、この屋敷に許可あって入ってきたのか・・・だな」
そう言って敵意をあからさまに露にする2人。
そんな2人程ではないにしろ、他の面々も麗に対して警戒の姿勢をとる。
しかし当の麗はいたって楽しそうだった。
「入ってきたのはついさっき。それと、確かに屋敷には無断侵入したわね〜〜」
「・・・よくも結界が張られ、使用人が動き回っているこの屋敷に、無断で進入などできたな・」
「ああ!あんな結界ちょっと小細工すれば簡単にどうにでもできるわよ。それに、隠密行動は私達一族皆大得意だからね!!」
えっへんと胸を張って簡単にそう言ってのける麗に、彼女をよく知らない面々の謎はさらに深まっていく。
そしてその時ようやく今まで風化しかけていた3名が正気に戻った。
「麗・・・ひょっとして、今回の件はお前の仕業か?」
「ぴんぽ〜〜ん!大正解!!」
眉間に皺を寄せてこめかみを抑えながら声を震わせて尋ねるアイスに、麗はいとも楽しそうにはっきりきっぱり答えてみせた。
そしてその麗の解答に呆然とする他の面々。
「えっ?今回の一件って・・・ひょっとして僕達がこの世界におこってきちゃったこと?」
「・・・だが確か姉君の話では、人為的な作用は感じられなかったと?」
「う〜〜ん・・・そのはずなんだけどね」
自分の勘が鈍ったかと腕を組み、難しそうな表情で考え込んでいる叶に、アイスは深い溜息をつきながら答えた。
「こいつにかかれば・・・自然発生したと思わされても仕方がない」
「だからって姉さんにも解らないっていうのは・・・」
「あいつに掛かったらどんな奴でも出し抜かれるわよぉぉ」
エドの言葉に対して泣き声に近い声を上げるアクラに一同は多少ひく。
「まあ、とくにかく。どうしてこんなことをしたんだ?」
あまり聞きたくはないといった表情でアイスは麗に尋ねた。
そして麗から満面の笑みと共に信じられないような答えが返ってきた。
「暇だったから」
「「「「「「「「「「・・・・・・はっ?」」」」」」」」」」
その言葉を聞き間違えたかと目を点にする一同を気にせず、というよりもむしろ満足そうに見ながら、麗は意気揚々と答え続けた。
「アイス達は知ってるはずだけど、あたしってば一族最強じゃない」
「・・・それが今更どうした?」
「そんなだからなかなか仕事が回ってこないのよ。普通だったら、探り入れて他のが受け持つ仕事を先手必勝で勝手に動いて片付けちゃうんだけど・・・・・どうも頭領様達はもちろん、うちの育ての兄も隠し方が最近上手くなってるみたいでねえ〜〜」
「・・・・・・で?」
「だから最近暇で仕方ないの。そんな訳で、今回あたしの暇つぶしにあんた達が選ばれたわけ」
説明を終えてやはり満足そうに笑んでいる麗を呆然と見ることしばし、一同のほとんどから返されたことばは。
「「「「「「ふざけるなぁ〜〜〜〜〜!!」」」」」」
「まっ!気にするな」
怒りの声に対して麗はまったく気にせず笑顔で答える。
「お、お前・・・・・今日という今日こそは・・・・・」
「戻りたかったらあたしを見つけ出すことね。じゃ、そういことで!」
「ばいば〜〜い」
アイスが怒りに声を震わせた言葉を皆まで言う前に、麗は颯爽と開いた窓に向かってダッシュしそのままそこからダイブした。
そして後に続いて天里もそこから出て行った。
慌てて窓の1番近くにいたエドが外を見たが、すでにそこに2人の姿は影も形もなかった。
「なんなんだよ!あいつは?!」
「・・・俺に聞くな」
八つ当たりのようにアイスに尋ねるエドだったが、尋ねられ付き合いが1番長いアイスでも、あまり理解していない、というよりもしたくないという感じで、顔を引きつらせながらそう答えた。
「う〜〜ん・・・でもとりようによっては面白い子かもね」
「・・・・・姉君」
「姉さん・・・」
そんなことをさらりと発言する叶に、一同は尊敬に似た複雑な思いを送った。
「まあ、とりあえずはあいつ捕まえれば良いんだな」
「頑張ろうね・・・」
元の世界には絶対に帰りたいが、あいつとはあまり関わりたくない気がするというように、エド達は深い溜息をついた。
「・・・そう簡単にいくわけないけどな」
そして麗のその実態をよく知り、過去被害にあっているアイス達は、この先思いやられるであろう数々の困難、しかも自分達が思いつくことは少ないほうだと認識し、遠い目をして今後再び被害者になるであろう自分達を嘆いた。
こうして麗の暇つぶしのためといえる、くだらない鬼ごっこが強制的に開始された
果たして彼らは全員無事に元の世界に戻れるのだろうか。
あとがき
前回以上にすいません。
っていうか前回以上にすいません。
引き続きケルベロスは「おっきいにゃんにゃん」です。
麻耶さんいにも「犬です」と指摘されたのですが、あえて「にゃんにゃん」でいかせていただきました。
メリィがいっていることなので。
そして麻耶さんの許可を頂いたので、メリィを姉さんの新たな妹にしてしまいましたv
麻耶さんありがとうございます〜〜v
そして麗とアイス達についてですが、実はまだ書いてないだけでちゃんと設定上は以前あった事あるんですよね。
まあ、そこはまた書くとして・・・(書くのかよ?!)
次回、今回以上の麗の暴走で皆様に迷惑がまた?!