Quintet
3:Grouping
麗によって否応なく強制的に特殊鬼ごっこをやらされるはめになった一同は、とりあえず玄関に出て麗を見つける手はずを話し合っていた。
「それでなくても捕まえるのが難しいあいつをこんな森林が多い中、固まって捜していたらいつまでたっても見つけられない」
「ってことは、やっぱり必然的にグループ分けした方がいいわよね」
「ったく、お前の『知詠』が使えればこんな苦労してないのに」
ラスの言葉にアイスはぎろりと半分八つ当たりもこめて睨み付ける。
「仕方ないだろうが。あいつは別の世界の奴だし・・・・・なにより、師匠で『知詠』みたいな能力は慣れてるんだよ」
「っていうか、その知由のせいでこっちの行動は筒抜けなのに1票ね」
遠い眼差しをしながら、アクラはアイスの『知詠』と似てはいるが、アイスのように世界をまったく問わない能力を持つ知由を思い出していた。
その想像の中の知由は小憎らしいまでに満面の笑顔で、無理だとは解っていても殺意が多少芽生えた。
「適当に2〜3人くらいでグループ作れ。ただしエド達はここの地形が解っていないと思うから、グループの中に誰か1人別の世界の奴いれろよ」
そしてアイスが指示を出した瞬間、瞬時に決まったあるグループに非難の声が飛んだ。
「「ちょっと待て〜〜!!」」
「別に問題はないと思うけど?」
「そうそう」
そう言って早々とグループを作った叶とエドは、自分達のグループに引き込んだ3人目のメリィをぎゅうっと抱きしめていた。
当のメリィは何が起きたのか解らないが、2人の姉に抱きしめられて嬉しそうに笑っていた。
「お、お、お前らメリィから離れろ〜〜」
「いや。ね、エド」
「ね、姉さん」
良いコンビで互いに頷き合う叶とエドは、まるで見せ付けるかのようにメリィをさらに抱きしめ、頭を撫でてメリィに喜ばれている。
「「だって可愛いし」」
「メリィが可愛いことなんてお前等より昔にとっくに知ってる!」
怒りと言うよりも嫉妬が収まらないラスは2人に向かって叫びまくり、そして先程から黙っている宿敵キャルの方を見る。
いつもはメリィを取り合って敵対しているが、今日現れたばかりの他の世界の住人にとられるよりましだと思ったようだ。
「お前も何か言え・・・」
しかし横には最初の一言以来呆然として気を失っているキャルがいた。
どうやら叶とエドの2人がメリィの姉になったことにより、主の姉に手が出せないという葛藤から一時精神を飛ばすことで自己を守ることにしたようだ。
その様子にラスも含めさすがに哀れになる一同。
「どうでも良いけど・・・その組み合わせは問題あるぞ」
その状況をしばし傍観していたアイスが、意外にもラスにとっては天の助けのような言葉を発した。
「だよな?!アイス」
「へ〜〜・・・アイスが反対するなんて意外ね」
「確かに普通なら反対はしないんだがな、叶。しかしその組み合わせは問題だ」
「なんで?だっていくら子供でもメリィはここの人間なんだから道案内くら」
「メリィは極度の方向音痴だぞ」
アイスがそう言った瞬間、どこかで近くで烏の鳴き声が聞こえた気がした。
そしてその事実の知らなかった面々は驚いてメリィを見る。
「うそ・・・・・」
「こんな事で嘘ついてどうする」
「じゃあ、僕達を見つけてくれたのは?」
「あれは元々別の所に行こうとして、迷って偶々あそこに行ってただけだ」
今度は木魚の音が聞こえた気がした。
「た、偶々ですか・・・?」
「偶々だ」
メリィの方向音痴のことを前々から知っている面々が頷きあう中、当事者であるメリィ本人は解らずにただ小首を傾げていた。
「でも私はメリィと一緒が良いのよね」
「俺も」
例えメリィが方向音痴と解っても頑としてメリィと離れたくないと、叶とエドの2人はグループ替えを拒み続けた。
それを見てアイスは少し考えた後、くるりとラスの方を見る。
「仕方ない・・・ラス、お前もついていけ」
「なっ?!」
アイスに指名された瞬間歓喜の表情になるラスとは反面、その言葉でようやく正気に戻ったキャルは悲鳴に近い声を上げていた。
「アイス!お前最高!!」
「どういうことだ?!アイス」
一変がらりと変わった立場の2人、特に納得がいかないと詰め寄るキャルにアイスは説明をする。
「ラスはコンパクトになれるが、お前はなれない以上」
あっさりと一言で説明を終えたアイスに、キャルは思わず絶句してしまう。
アイスのコンパクトというのは、まず間違いなくラスの鳥姿のことだ。
「というわけで、ラスは鳥型になっているのが条件だ」
「・・・メリィと一緒にいるためだ。仕方ない」
本来の姿は鳥型なのだから仕方ないも何もないと思うが、ラスは取りあえず普段の人型から鳥型になる。
そしてその姿を初めて見た一同から同時にある一言が発せられた。
「「「「鳥だ」」」」
「誰が鳥だ〜〜〜!!」
明らかに鳥の姿でそう反論されても説得力がないと誰もが思ったのは当然のことである。
その中で1人だけがラスに向けて殺気を発していた。
「後で覚えていろ・・・」
どうやら全てが終わった後、ラスを呪う準備は万端のようだ。
一先ずの混乱はあったが、その後一応なんとかグループ分けが終了した。
アイス、キャル、アルのグループ。
アクラ、ブリック、ロイのグループ。
そして例のメリィ、エド、叶、ラスのグループである。
結局出来上がったグループは3、3、4の3グループだった。
「それじゃあ、このグループで捜すぞ。もっとも、麗自身が化け物っていうだけでなく、あちらこちらにあいつの霊従どもがいるから容易じゃないだろうが」
「確実に妨害してくるでしょうね・・・」
「まあな。それと、アクラ、ブリック、魔法は使うなよ」
「え〜〜〜」
「了解」
アイスの言いたい事全てを察し、またどちらかというと剣の方が得意なブリックは簡単に了承したが、根っからの魔法大好きであるアクラは不満の声を上げる。
「魔法で大惨害を起こす訳にはいかないだろうが。まあ、中級程度で雷系を除く魔法なら使っても良い」
「え〜〜・・・・・じゃあ、『裁鳴の雷歌』は使っちゃだめってこと?」
「・・・あれは絶対に使うな」
最強呪文を使うつもりでいた妹に、アイスは顔を引きつらせながらすかさずそういった。
ちなみに『裁鳴の雷歌』のことを知っているブリックも顔を引きつらせていた。
そしてその威力を知っている2人の頭の中に、『裁鳴の雷歌』を使った後のこの辺り一体の山々が荒野と化している様が浮かび上がった。
その光景を消し去るように頭を横に振ると、アイスは今度はロイに向かって注意した。
「それからお前の指パッチンもなしな。山火事なんて洒落にならないから」
「まあ確かにね。ってことは、少将無能になるってことね」
「・・・姉君?」
「だって発火符が使えない少将なんて、無能以外の何者でもないわよ」
引きつった笑顔で叶の言葉に反論しようとしたロイに、叶がすかさず追い討ちをかけるような台詞を言う。
「姉さん、それは違うよ」
「エディ・・・・・」
「少将が無能なのはいつものことだから」
珍しく叶ではなく自分に加勢してくれるのかと恋人に感動を覚えていたのも束の間、叶の言葉よりもエドのその言葉はさらにダメージの大きいものだった。
「・・・とりあえずアクラにブリック。頼んだぞ」
「「了解」」
最早精神状態が探索に行く前からずたぼろになったロイに、アクラとブリックは同情の視線を送りながらアイスに返事を返した。
「ねえ、ねえアイス」
「・・・なんだよ?」
嫌な予感を抱えながら振り返ってみると、そこには何かあからさまに企んでいるという満面の笑みの叶がいた。
「賭けをしない?」
「なにを?」
「さっきは断られたけど。もしあの子を先に見つけられたら、私の弟になるってのはどう?」
「・・・・・・はっ?」
アイスが目を大きく見開き、素っ頓狂な声を上げる中、叶は満面の笑みを浮かべている。
「あの、な・・・お前」
「それじゃあ、スタート!ケルベロス、ゴーーー!!」
アイスの反論を待たず、勝手に開始を宣言した叶は、先にケルベロスにエドとメリィを乗せていたようで、自分自身もケルベロスに乗った後、ケルベロスに指示を出してメリィの肩に止まっていたラスを含め、颯爽とその場から姿を消した。
後には空しい風の吹く音が残った。
そして暫くしてから時間差でアイスの中の何かが切れた。
「・・・・・・」
「あ、兄上?」
「冗談じゃないぞーーーー!!」
恐る恐るアクラがアイスを呼んだ瞬間、本気で怒ったらしいアイスが叫んだ。
「勝手なことされてたまるか〜〜!行くぞ、キャル、アル」
「「は、はい・・・」」
「絶対に負けてたまるか〜〜!!」
アイスの変貌ぶりにアルだけでなく、さすがのキャルも怯えながら、急いで森の中に入っていくアイスの後を追った。
そしてまた空しい風の吹く音が響いた。
「・・・・・・・・」
「・・・兄上が壊れた」
「・・・・・とてもあないな姿民に見せられへんな」
ブリックの言葉に先程までのアイスへの恐怖が抜けないアクラは、ただ震えながらもこくりと頷くのだった。
「とりあえず俺等も行くか」
「そうね・・・」
「・・・・・君達も大変そうだね」
「お互い様や」
「そうね・・・」
1番最後にその場を立ち去った3人に、互いに対する同情から微かな友情が芽生え始めているようだった。
あとがき
アイスVS叶姉さんのはじまりはじまり〜です。
って、予定になかったんですけどね;
掲示板で麻耶さんに「無理矢理にでも弟にしてほしかった」とカキコされてたので、それじゃあまあこれくらいはやっておこうかと。
本当にいつも行き当たりばったりで書いてます。
本当なら今回で少なくとも麗の霊従連中と一悶着おこしてるはずなのに・・・
ず〜〜っと玄関先で話し込んでました;
まあ、とりあえず今回の謝罪は、なんだかロイの扱いが酷くなっている事と、ケルベロスの扱いが相変わらずなことと、姉さん・・・本当にあれで良いでしょうか?
麻耶さんには2話まではOK出して頂けたんですが、今回は本当に不安です。
特にラストが・・・・・;
とりあえず続きます・・・すいません;
その頃の麗はというと・・・・・
「あ〜〜・・・さすがは颯の所からくすねて来ただけあって、この茶葉はいい感じだわ〜〜」
「本当に。あっ・・・」
「知由姉どうしたの?」
「今アイスとかが麗様の悪口言った」
「へ〜〜・・・・・」
「って、麗様自分のこと!」
「ん〜〜別にね〜〜」
「む〜〜、麗しゃまの悪口いうなんて〜〜」
「・・・・・麗様」
「ん?どうしたの?剣恙」
「斬って来ても宜しいですか?」
「だ〜〜め。一族以外の人間なんだし、遊びは穏便にね」
「・・・はい」
「それじゃあ、皆。そろそろよろしくね」
「承知しました」
「解った」
「頑張ってくる〜〜」
「知由は実況中継お願いね」
「は〜〜い♪」