Quintet
4:Trap




ケルベロスの背中で可愛いらしい寝顔で、すやすやと穏やかに寝息をたてているメリィに一同は和みながら、森の中をラスの案内で『麗探索』を行っていた。
「森林部以外で隠れる場所っていったら、社周辺か、滝付近、もしくはお前達が最初にいた地下祭壇・・・・・・だな」
「その間が気になるんだけど」
「・・・別になんでもない」
叶の言葉に明らかにラスは誤魔化すように目線をそらした。
確かに叶の睨み通り、今上げた3箇所以外にも可能性のある場所はあるのだが、ラスはそこにはいないだろうと思いあげてあげなかった。
正確には、できればあそこにはいてほしくない、もしくはいたとしてもこれ以上他の人間を近づけたくないと思っているのだ。
もしあの場所に主人達の許可を得ず、無関係な人間を近づけた場合、後で主人達にどんな報復を受けるかを想像し、ラスは身体を震わせた。



「あれ?鳥・・・」
「誰が鳥だーーー!」
「お前じゃないし・・・・・っていうか、今のお前の姿はどう見ても鳥だろ」
エドが漏らした言葉に異常なまでに反応したラスだったが、当然という突込みを返されて何も言えなくなってしまう。
横では叶とケルベロスもエドに賛同して首を縦に振っていた。
そしてエドの見つめる先を見てみると、そこにはラスとは明らかに毛色の違う、空色の鳥が目の前にいてじっとこちらを見ていた。
「・・・怪しいわね」
「俺もそう思うよ、姉さん」
『・・・・・あの色どこかで』
明らかに怪しいその鳥は、ケルベロスの言葉を同時にぼんっと煙に包まれた。
視界を覆った煙がようやく晴れ、先程まで空色の鳥がいた場所には、あの空色の翼を持った少女・天里がいた。
「お、お前・・・」
「やっほ〜、元気にやってる?」
にこやかに挨拶をする天里に1番驚いているのはラスだった。
「まさか俺と同じ魔鳥?!」
「ちがうよ〜〜。天は霊仙の一種族で鳥擬だよ〜〜。まあ、それはおいておいて・・・」
頬を膨らませて侵害とでもいうようにラスの言葉を否定した後、その表情も口調も変えて、天里はいたずらっぽそうに言った。
「麗しゃまの言いつけだからね。邪魔させて貰うよ」
「・・・お前みたいな子供に何ができるんだよ」
エドが呆れたように溜息をつくと、天里はまたしても不機嫌そうに頬を膨らませた。
「天子供じゃないもん!」
そう言って本来の目的を一時忘れて怒る天里は、実際に年齢では95歳であった。









森に入った後もアイスの様子は尋常ではなかった。
他の2人はそんな彼から少し離れて遠い目をしながら歩いていた。
「まさかあそこまで嫌がるとはな・・・」
「なんであそこまで嫌がるのか、義弟として僕には理解できません」
「・・・しかし確かにあの麗とかいう黒髪黒目女、アイスにとってはトラウマになってもおかしくない相手かもな」
「まあ、なんとなく納得しましたけど・・・他にも色々ありそうですね」
「そうだな・・・」
アイスのせいですっかり互いにこの状況にいる者同士、同情しあって意気投合してしまった2人は、そんなことを話しながらやはり遠い目をしていた。
ちなみにその間、索敵(?)も忘れてはいない。
「何やってるんだ!早く見つけるぞ!!」
相当急いでいるのか不機嫌そうに突然後ろを振り返り、アイスは2人を思いっきり急かした。
そんなアイスに2人は、「じゃあお前のその周りの空気をどうにかしろ」と心の中で揃って突っ込みを入れていた。
今のアイスの周辺の空気は1度に肉食獣の5・6匹はあっさり殺せそうなものである。
そんな所に近づきたくないという2人の本心は、今現在のアイス以外なら誰もが首を縦に振り、涙ながらに同情して賛成してくれることだろう。



暫く歩いた所でアイスは突然ぴたりと足を止めた。
そして先程まで出していた空気は嘘のように引いていて、逆に辺りを警戒する緊張感に変わっていた。
「どうかしたんですか?」
「黙ってろ・・・」
不思議そうに尋ねたアルの対し、アイスは神妙な面持ちで応えた。
その様子にキャルも事態を察して辺りを警戒する。
そうして警戒をしている中で、突然一筋の銀閃がアイスを襲った。
金属がぶつかり合う独特の音が示すように、アイスは瞬時に短剣で彼女の攻撃を受け止めた。
「アイスさん!」
「ちっ・・・」
「またキャル、アル。迂闊にこいつに手を出すな!」
自分を攻撃してきたものに対し、すぐさま攻撃を仕掛けようとする2人を、アイスは声をあげて制した。
そのアイスの言葉に不思議そうにしながら動きを止めた2人を見た後、アイスは自分を攻撃してきた彼女を真っ直ぐに見つめた。
「挨拶代わりだったとはいえ、短剣であそこまで上手く受け止めるとはな。随分な成長のようだな」
「そりゃどうも。あんな攻撃に『四精絶華』は使えないからな・・・・・にしても随分な挨拶だな」
「今のお前の力量を量るには丁度いいだろ」
「言ってくれるな・・・・・剣恙」
そう言い合い緊張感を辺りに漂わせながら対峙する2人に対し、この状況下の中おいていかれている者が2人程いた。
「・・・あの人誰ですか?」
「さあな・・・だが、あの麗とかいう奴の手先なのは確かだろう」
そんなことを話しながらも、早速展開についていけなくなった2人がまたしても遠い目をしていると、くるりと振り返った剣恙と目が合った。
「お前達とは初めてだな。私は麗様の第1霊従の剣恙だ」
いきなりのあの攻撃仕掛けた人物とは思えないその挨拶に、2人はきょとんと目を見張って驚いた。
2人のその様子にアイスは溜息をつきながら口を開く。
「こいつは麗の霊従の中ではまともだから」
「そ、そうなんですか?」
驚いて声を上げるアルに対し、アイスはこくんと縦に首を振った。
「で、あいつの霊従の中で1番強かったりするんだな」
「えっ・・・・・?」
アイスは手にしていた短剣を捨てると、腰の彼専用の剣である『四精絶華』を抜く。
主人の意思でその纏う属性を変え、属性に合わせた色に変わる刀身は、今回は『緑』であることから、属性は『風』のようだ。
「さすがにこれで本気は出さないが・・・・・おまえ相手に小刀じゃ心もとないからな」
「創命主だけが持つことのできる剣『四精絶華』か・・・知由から聞いている」
「やっぱり師匠のせいで筒抜けってわけか!」
予想してはいたが自分の能力は効かないのに、相手の能力ばかりが利くという事実を改めて聞き、アイスは悔しそうに舌打ちをした。
「お前と違って、あいつは違う世界でも関係ないからな」
そこまで話が終わると2人は口を閉ざし、それぞれの剣と刀を構えて真剣な面持ちで置いてを見据えた。
そして辺りにはこれからの戦闘の激しさを思わせる緊張感が蹂躙し始める。
展開の早さについていけないキャルとアルの2人を完全に置き去りにして。









他の2チームの勢いに呆気にとられ、遅れをとった彼ら3人は、愚痴を零しあいながら森の中を探索していた。
「それで、いつもいつもエディは姉君の方を優先して・・・・・恋人の私のことを後回しにするんだ」
「そりゃあ・・・へこむわ」
「確かに恋人に自分より家族優先されたらへこむわね〜。あたしなら、兄上をこてんぱんにのめしてでも恋人優先するわ!」
アクラのその発言はある意味世の素晴らしいものだったが、ブリックは心の中で、「そこまでせんでも」や「お前には恋人おらんやろ」や「むしろいつも仕掛けて返り討ちにおうてこてんぱんになっとるんはどっちや」と、心の中で空しく突っ込みをいれていた。
「ま、まあ・・・エドちょい鈍そうなところあるんやないか?がんばっとればきっといつか逆転できると思うで」
ブリックのその発言に、「自分こそ恋愛に関しては鈍いじゃないか」とアクラは彼の従妹を思い浮かべながら心の中で突っ込みを入れていた。
「それにしてもあのアイスにはほんまお手上げやで・・・」
このまま恋愛の話に縺れ込むのも考え物なので、ブリックは話題転換を試みた。
「本当ね・・・」
「いつもああなのか?」
「いや・・・・・あいつが本気でキレることはめったにない」
「・・・・・だからこそ本気で怒ると」
アイスが本気で怒った時の惨状を思い出したのか、アクラががたがたと震え始めた。
その様子にこの話題は失敗だったと、ブリックは自分の迂闊さを責めた。



「あーーーーーーーっ!!」
突然アクラが立ち止まり、大声をあげたのに反応して、2人は一斉にアクラを見た。
「ど、どないしたんや?」
「麗発見!」
「なに?!」
「間違いないわよ!よ〜〜し・・・捕まえるわよ!!」
「ちょ、ちょっとまっ」
2人の静止も聞かないままに、アクラは猛ダッシュスタートした。
アクラが走っていった方を見ると、ちらりと数十分前に目にした黒髪少女を視界に捕らえた。
「ホンマや!」
「追うぞ!」
「もちろんや!!」
そう言って2人もアクラに続いて麗の姿を追った。
出遅れた2人に比べ、先に飛び出したアクラはぐんぐん距離を縮めていく。
ふとそこでブリックはあることに気が付いた。
「・・・おかしい」
「なに?」
「麗やったら俺らなんかあっさりと引き離せるくらいもっと早いはずやし、逃げよう思えば術で簡単に瞬間移動できるはずや」
「ということは・・・まさか」
ブリックの言葉である結論を導き出したロイの言葉に、ブリックは自分も同じ意見だというように首を縦に振った。
そして大声を上げてアクラを止めようとする。
「戻れ、アクラ!これは罠や!!」
しかしブリックの上げた声は遅く、その瞬間アクラは麗らしきその人影を完全に捕まえた。
「よし!捕まえ・・・・・えぇえええ〜〜?!」
確かに捕まえていたはずの麗の姿は消え、突然捕まるものがなくなったアクラはそのまま地面に倒れ・・・はしなかった。
倒れはしなかった代わりに、突然地面にぽっかりあいた穴、いわゆる落とし穴に落ちていった。



「アクラ!!」
「大丈夫かね?」
「・・・・・一応ね」
穴の中を除いてみると、穴の横壁に短剣をさして何とか底まで落ちることを免れた、眉間に皺を寄せた不機嫌なアクラがいた。
アクラの無事な様子に2人はほっと溜息をつく。
「しかし今のはいったい・・・・」
「幻やな」
「幻だって?」
当然とでもいうように言い切ったブリックの言葉にロイは驚いて目を見開く。
「しかし・・・彼女は確かに触っていたが・・・・・」
「ま、知らんのやから驚いても無理ないな。実体のある幻・・・・・そんなんできるんは、麗の霊従の中でもただ1人・・・」
そう言ってブリックは木の上を見上げる。
それに習ってロイもブリックの視線の方向に目をやると、そこには木の太めの枝に腰をかけて足をばたつかせている少年がいた。
少年は2人の視線が自分に向けられたのを確認すると、立ち上がって木のうえから飛び降りて2人の真正面に立つ。
「久しぶりブリック。そっちは・・・初めましてだね」
笑いながら挨拶をする少年は、ロイにはまったく普通の少年に見えた。
「ほんまに・・・久しぶりやな。まほ」
「その呼び方やめてよ!女の子みたいじゃないか。ちゃんと幻覇って呼んでよ!」
「わるい、わるい。呼びにくいから、ついな・・・」
両手を合わせて苦笑するブリックに幻覇は、顔を引きつらせていた。
その2人を見ながらロイは呆然とブリックに尋ねた。
「ブリック・・・本当に彼が?」
「ん?ああ、そうやで。麗の第・・・何番目やったけ?」
「第8霊従の幻覇だよ。ちなみに霊仙の虚影族だよ。僕達種族の特殊能力は幻術」
「な、言った通りやろ?」
「・・・・・しかしこんな子供が」
「なに言っとるんや。幻覇はなりはこないなでも、俺らよりよっぽど年上やで」
その言葉にロイは先程以上に信じられないと言う様子で絶句した。
「で、お前が俺らの妨害役か?」
「まあ、そういうこと。悪いけど麗様の頼みだからね」
「そやろな。お前は霊従達の中じゃ、剣恙除いて唯一まともやからな」
「・・・否定できないのが悲しいよ」
はあっと溜息をついた幻覇はがっくりと肩を落とした。
実際は彼らの主人が1番まともでないのだが、それを言うと今度こそ怒るのでやめておく。
「まあ、でも俺らも退くわけにはいかんのや。こいつらが元の世界に帰れん以外にもえらいことになってな」
「・・・何かあったの?」
「・・・・・アイスがマジギレした」
ブリックのその言葉に幻覇は思わず顔を引きつらせた。
「そ、それは災難・・・」
「せやろ・・・・・せやから、早いとこ決着つけたいんや」
「確かにこの状況はどうにかしたいな・・・・・」
そう言って遠い目をするブリックとロイに、幻覇はあからさまに同情の視線を送っていた。
「・・・本当に大変だな!」
「っていうか、こっちも大変よ!あんた達、さっさと助けなさいよ〜〜〜!」
3人一緒に遠い目をしていたところに、穴の中から響くアクラの怒声で、彼女がまだ穴にいることをようやく思い出したのだった。









あとがき

とりあえず、各妨害工作員と接触しました。
姉さん達のところが非常に短〜〜い!と書いてる私も不満です・・・
そして最後の連中が無駄に長い・・・
これから姉さんやエド達は天里とどたばた対決突入、アイス達はアイスと剣恙がチャンバラ対決で他2人は傍観、そしてブリック達のところが文句をいうアクラを救出後4人で対決はせずに自分達の人生について語りそうです(えっ?;)
いや、ホントにそんな勢いなんですけど・・・;
一応次回で終わるはずなのに収拾つくのかどうか・・・・・・
また暴走してくれそうです・・・・・;
ちなみにオリジナルのページにも載せてますが、剣恙の年齢は約1000歳で、幻覇は約100歳です・・・(この2人にしても10倍の歳の差か・・・)





















その頃の麗はというと・・・
「麗様、剣恙達が全員に接触した模様です」
「そっか〜〜♪皆順調にやってるみたいね」
「ええ。しかもアクラが見事落とし穴に落ちました」
「あははははっ!期待を裏切らないわね〜」
「本当ですね。結構剣恙とアイスはまじめっぽい展開ですよ」
「ん〜〜・・・まあ、あの2人はね」
「な〜〜んか、あの魔鳥は天里のことばかにしたっぽい発言しましたよ」
「ふ~~ん・・・それじゃあ、後でちょっとした報復をしてあげないとね」
「そうですね」
「つーわけで、颯おかわり」
「・・・・・なんで俺が。しかもよりにもよってこのお茶うちからパクっていたやつだろ」
「ケチケチしない。文句言ったりしにきたけど、どうせ始めから無意味だって解ってたでしょ?」
「・・・・・不本意ながら、16年も幼馴染やってるからな」
「まあね〜〜。で、どうせ最後まで見届けて帰るつもりなんでしょ?」
「だったら観戦料代わりにお茶くみしていってもばちはあたりませんよね?」
「「ね〜〜〜〜♪」」
「全ての元凶が偉そうに言うな」
「まあまあ」
「第一こういう(茶くみ)は渓紹の範疇だろうが」←とかいいつつ、お茶くんでる」
「サンキュ。で、その我らが育ての兄はどうしてる?」
「・・・・・また責任を感じてとかで自害しそうになってたよ」
「ふ〜〜ん・・・今回はなに?」
「普通に切腹」
「ふ〜〜ん。まあ、どうせいつものごとく止める奴らのおかげで未遂ですしょ。止める奴らは大変だけど、がんばってもらいましょ」
「・・・・・・(元凶が呑気に言うなよ)」






BACK       NEXT