Ring curs
一章
まだ日も昇りきらないうちに目が覚めたのでどうしようと迷った末に、ちょっと外を散歩でもしようかと思案して外に出た。
本来自分が起きるのは主や愛しい幼子の起きる前までで良いので、この屋敷の中にあっては比較的おそいほうであるはずなのに、今日はどういったわけか早くに目が覚めた。
主は朝が弱く、昼前まで何が合っても起きないし、あの少女は少女でまだ4歳ということもあり、そんなに朝が早いわけでもない。
自分は朝に弱くはないが、あの2人が起きていない以上ほぼすることもない、かといってどうも2度寝という気分ではないので自分の趣味でもあるこういう行動に出るのは、ある種自然の流れかもしれないと考えた。
しかし・・・それは間違いだったのかもしれない
本来の姿・・・一般的見解でいえば鳥の姿で空の散歩をしていたラスはふと地上からの視線を感じた。
そして、ぞくりとした悪寒に襲われ、自分の飛んでいるすぐ下の地上を見下ろす。
そこにはこんな時間にも・・・と、言うだけでなくこんなところにいないはずの見たこともないような人物が立っていた。
ダークレッドの長い髪を硬く編んだ三つ編みの綺麗な女性。
服装は通常の人間が着用するような一般的なものではなく、どちらかというと亜種族の民族衣装やその血をつぐ人間が儀式で着るような服装だった。
しかし、何よりも印象的なのがその瞳。
イエローグリーンに近い色のその瞳は瞳孔が通常よりもたてに細長く、それで確実に自分をにらんでいることが解る。
「・・・・・・・・・」
「!!」
彼女と瞳が合い、それが何を意味するか気がついたその瞬間、ラスは意識を手放していた。
「・・・・・うに?・・・らす?」
ぱちりと子どもながらの寝起きのよさで目を覚ますともぞもぞと布団から抜け出して体を起こすメリィ。
それはいつもより早い時間だった。
しかし、そんな些細なことは気にせずに何かを探すように周りを見まわす。
「あれ?メリィ、今日は早いな」
扉を開けて入ってくるなり母親であるアレクは珍しそうに、しかし笑顔でそういうとすぐに「おはよ」と付け加える。
どうやら儀式を終えてきたようで、来ていた巫女の衣装を脱いで普段着に着替えようとしている。
「おかあしゃま・・・らすは?」
「ラス?」
いつもならにこやかに笑って「おはよう」と返してくるのに、今日はそれもなく、ただ小首をかしげた状態のままでそんなことを尋ねてくる娘のことを不思議に思う。
「お前いつもより早く起きたから・・・まだ寝てると思うよ」
「・・・・・ん〜〜とね、しょうじゃないの」
困った顔をして何かいいたいがそれがどういうことなのか自分でも良くわかっていないようなメリィの様子にアレクも首をかしげる。
その時、廊下から聞きなれた慌しい足音が聞こえる。
「・・・プラムか」
はあ・・とため息をついてアレクは部屋の扉を開けて件の人物を迎える準備をする。
「アレク〜〜〜、たいへんでーすよ〜〜」
「プラム・・・どうしたんだよ?」
なぜ扉が開いていたのかも気にせず、というよりも気が付かずに、プラムは余程慌てているのか、息を整えるのも惜しいというように喋り始める。
「ら、ラスがたいへんなんです〜〜〜」
その言葉を聴いた瞬間アレクだけでなく天然なメリィの表情ですら変わった。
「やってくれたね」
簡潔明瞭にそう言ってみせたセレスの表情は笑っていた。
否、顔が笑っているだけで瞳と心の底は笑っておらず、そのただならぬ雰囲気にその場にいたほぼ全員が蒼白となっていた。
その中で、問題のラスは苦しそうに横たわっていた。
本来の姿のまま、人型になれず・・・
「まさか、こんな時になって蛇種が出てくるとはね」
「蛇種って・・・お前に呪いをかけていた、あの?」
「そう・・・しかも、見事に僕に呪いをかけたのと同じ奴がやってくれたみたいだよ」
表情は尚も笑っているが、やはりそれから感じ取れるのは、思い出すのも腹が立つというように、忌々しそうなものだった。
「自分にかかってたからあの時は解らなかったけど・・・へ〜〜、『呪い巫女』だね」
「『呪い巫女』って確か、蛇種の中でも強い呪詛の力をもっている者もことですよね?」
「そう、蛇種の中でも位は最上位。『まじない』を使う獣種と違い、『呪い』を専門にしてるから、呪いの力は獣種と比べてけた違いだよ」
獣種であるプラムを目の前にしてあっさりとそんなことを述べるセレス。
ちなみに、当のプラムは特に気にした様子もない。
「・・・せれすおにいちゃん・・・・・・らすは・・・?」
ラスの近くで今にも泣き出しそうなメリィはラスの安否を心配してセレスに尋ねる。
「大丈夫だよ、メリィ。結構軽い呪いだから」
「・・・ほんとう?」
「うん」
メリィを安心させようと、優しげに微笑み頭を撫でてやる。
この屋敷にいる者はセレスも含めた全員が例がなくメリィニに甘い。
その確固たる証明をしたような場面であった。
「・・・本当に大丈夫なんだろうな?」
「単に人型になれない程度の呪いだから軽いでしょ」
「確かに・・・」
「それに結構頑丈に出来てるからね、ラス」
メリィに聞こえないよう小声で話をするプラチナとセレスの会話の中で、セレスが最後に付け加えて言ったその一言は、主が自分の使いに対して本当に言うべき言葉なのかと誰もが疑いたくなるようなものだった。
「おとうしゃま〜〜、おかあしゃま〜〜」
今だ心配そうにラスに張り付いたままの状態で、メリィはじっと両親をその大きな瞳に涙をためたまま上目遣いで呼ぶ。
こんな状況下でありながらその場にいるほぼ全員がその可愛らしさに頬を緩ませる。
ちなみに、ラスが無事な状態で意識があれば、間違いなく感動のあまり失神してしまっただろうと思えるくらいに可愛い。
「どうした?メリィ」
こんな時に不謹慎と思いつつも、愛娘のあまりの可愛らしさに緩んだ表情の戻らないプラチナはそのままメリィに尋ねる。
「めりぃ、らすのかんびょうしゅる〜〜」
その言葉に先程の様子と打って変わってプラチナは固まってしまった。
「おかあしゃま、だめぇ?」
うるうると見上げてくる娘と、未だ固まったままの夫を見比べてう〜〜んとアレクは唸った。
別に看病させて何か困ったことにないし、娘の望みは極力叶えてやりたいが、それを許した時のプラチナの反応が手に取るように解ってしまう以上なんとも言えない。
「メリィ・・・」
アレクが悩んでいるとジルが横からメリィに声をかける。
「ふえ?」
「軽いとはいえ、呪いは呪いだ。ラスはちゃんと看ておくから、お前はもう部屋に戻れ」
「・・・でも〜〜〜」
「呪いは普通の風邪はもちろん、どんな病気とも異なるんだぞ?」
「そうだよメリィ。ジルの言う通り、あとは僕たちに任せて部屋にお戻り」
ジルだけでなくベリルにまでこうも言われてはお子様でしかも素直なタイプのメリィはしぶしぶ従うしかなかった。
「じゃ、メリィ・・・部屋に戻ろうか?」
「・・・・・はい」
小さく返事を返したメリィの頭をアレクは撫でてやると、少しだけメリィの表情が明るいものになった。
それを見て周りの者達もほっとする。
ちらっと心配そうに何度か振り向いき、ラスの方を見るメリィに付き添い、アレクはいまだ固まったままのプラチナを引きずるようにして一緒に連れて行った。
その時、1度だけ手を振って「よろしく」と言ったように合図を送った。
親子3人が立ち去ったあと、セレス達は早速ラスにかけられた呪いから、いつ、どこでかけられたものかを分析しようと試みる。
「とりあえず、この近くということは解っているんですけどね」
「朝の散歩中にやられたってところか・・・けど・・・」
「いつもラスはそんなに早く起きはしない・・・ですよね」
「ああ・・・それも、蛇種の仕業かもしれない」
ラスが早く起きるように何かしら細工をしたのかもしれない・・・
誘き出して自分への見せしめにするために、あえて死に関わるような呪いを選ばず・・・そうセレスは思った。
実際に、かつて自分に呪いをかけた蛇種ならば、自分に仕がいることを知っているし、それを利用する手も考えるだろう。
しかし、何故自分が呪いをかけられたり、こうも付狙われなければいけないのかその理由がセレスには解らなかった。
蛇種はセレス達、有翼種と同じで絶滅寸前にまできている亜種族の1つ。
絶滅寸前という言葉や、複数系には御幣があるかもしれない。
有翼種の場合はセレス自身も確認を正確に取っていないので解らないが、蛇種はおそらく、この呪いの主が最後の1人だろう。
そういう噂を、封印される以前に聞いたことがあるからだ。
噂の真偽は確かめていないが、蛇種はそういう笑えない冗談をとことん嫌う性質があるので、その噂が扶植されなかったのは、その噂が事実だと肯定しているのだろう。
「・・・いずれにしても・・・・・・潰しておかないとね」
これ以上何かをしでかす前に・・・
そういうニュアンスを込めていったセレスの鋭く、怪しい眼光をみて、その場にいる者はまた蒼白となっていた。
小さな洞窟の岩に腰をおろし、長い髪が自然と地に触れる形になったのも気にせず、少女はただ虚空を眺めていた。
「必ず・・・・・・消してやる」
虚ろな瞳の中で、少女はただ忌々しそうにその言葉だけを呟いた。
あとがき
ラスでて、出番早々になし。
しかも鳥(元の姿)で出たきり、人型になれてません。(呪いのせいで)
呪いが軽くならない限り、出番ないです・・・(すいません)
呪いが解けたらと解けたで、プラチナに何されるか解りませんが;
メリィ〜〜、もっと喋って〜〜〜(泣)
セレス様がよく喋る、喋る・・・まるで「Lost Mise」での役回りの恨み(?)を晴らさんばかりに・・・
次回、メリィが〜〜・・・メリィが〜〜〜〜〜!!
そしてラスは寝たきりのままです;(多分・・・・・・・・)