Second power world
1:空の捩れ・流行
目的の国際線便が成田に無事到着した。
自分達と同じように出迎えの人でごった返すその場所で、今か今かと目的の人物を待ち続ける。
「うふっふ〜〜v美流姉、早く出てこないかな〜〜」
「お姉さんにお会いするのも、1ヶ月ぶりですね」
わくわくと言ったように肩を弾ませる14歳くらいの亜麻色の髪に緑の瞳の少女と、それに答える終止穏やかな雰囲気を漂わせる15歳くらいの赤髪に青い瞳の少年。
「そうだよね〜〜。真兄も、寮から帰ってきて、久しぶりに3人揃うわけだし!」
「ふふっ、寮生活もなかなか楽しいですよ」
「良いな〜〜〜・・・あたしも来年絶っ対に、遊星学園に入学するわ!何があっても!!」
意気込む少女に少年は微笑み、思い出すように言葉を口にする。
「雛さんの小さい頃からの夢でしたもんね」
「そう!高校は絶対、父様、母様達が通っていた遊星学園に入学したいの!!」
「雛さんなら大丈夫ですよ。剣道の全国大会で個人では2連覇達成しましたし、成績も学年トップですし、むしろ特待生で入れますよ」
「あっはは〜〜。母様と違って女子の部の全国制覇だけどねぇ〜〜」
苦笑しながら、母が諸事情で男として生活し、そのため男子の部で出場し、全国大会の団体戦優勝にまで導いた武伝を思い出す。
「それでも凄いですよ!今年3連覇確実とまで言われてるじゃないですか!!」
「ん〜〜・・・まだ、解らないけど・・・・・負けるつもりはないわ!」
拳をぎゅっと握り締め、意気込む少女を、少年はほんわかした空気で見守る。
そんな穏やかな空気が漂っていた中、いきなり少年の顔面にバッグが投げつけられた。
「ぶっ!」
鈍い音と共に、鈍い声を発して少年はその場に倒れた。
「ふえっ?!な・・・」
「ひ〜〜〜な〜〜〜ちゃ〜〜〜〜〜んv」
いきなりの出来事に少女が慌てて少年を見下ろしていると、突然背中に強い衝撃を感じた。
振り返ってみるとそこには聞きなれた声と共に見慣れた顔の人物が居た。
「美流姉!」
その人物を見た瞬間、少女の顔色がぱああっと明るくなった。
17歳くらいの灰色の髪に深緑色の瞳の少女。
「久しぶり〜〜v元気にしてたぁ?」
「うん!美流姉も久しぶり、元気そうだね♪」
「そりゃあ、あたしは雛ちゃんに会えるこの日を一日千秋の思いで待ってたんだから。この日を無事迎えられて元気そのものよ!!」
表情を完全に緩ませて亜麻髪の少女の頭を撫でてやる。
しばしの間穏やかな空気を体感していた、灰髪の少女はきっと、赤髪の少年を睨み付ける。
それに対し、びっくっと少年は体を震わせた。
「し〜〜ん〜〜り〜〜〜〜」
「み、美流お姉さん・・・・・・・」
「あんたぁ!何あたしのいない間に雛ちゃんと朗らかな雰囲気作って、1人だけいい思いしてるのよぉ!!それに、あたしがあっちにいってる間に雛ちゃんに何かしてないでしょうねぇ?!」
がっくん、がっくんと服を掴まれて体を激しく揺すられる少年は、灰髪の少女の問いに答える暇もなく気絶したという。
御園生雛、現在14歳で御園生コンチェルン現理事長とその奥方の一人娘。
有名な超お嬢様学校に現在通っており、学年成績トップである。剣道全国大会2連覇の見た目とのギャップが激しいじゃじゃ馬お嬢様である。
水落真理、現在15歳で雛の両親の恩師である人物とその妻の一人息子で、雛とは幼馴染。
遊星学園に通っているため寮暮らしで、現在は夏休みを利用しての帰郷。いつも穏やかな動物好きで、幼馴染の中で1番優しい性格をしている。
青木美流架、現在17歳で雛の母の親友と、雛の両親共通の友人との一人娘で、雛、真理と幼馴染。
若干17歳の有名ピアニストで、世界中を飛び回ることが多々ある。性格は3人の中で最も荒っぽく、妹が欲しかったため雛がお気に入り。
真理が意識を取り戻しから3人はようやく車での移動を果たすことになった。
「結局、直人さん達はあちらに残られたんですね?」
「まあね〜〜♪たまには新婚気分に戻して上げないと」
「どこの家も、親に対する気遣いは同じだね〜〜」
楽しげにそう言いながら、雛は今頃会社には仕事に格好付けて、2人で海外に現在言っている両親のことを思い出した。
「あたしの事は気にしないで良いのにさ。飛行機に乗る直前まで、『やっぱり一緒に行く?』って訊いてくるの」
「・・・結局、最後は雛さん無理やりゲートまで歩かせてましたね・・・」
雛と一緒に両親と共に見送りに行っていた真理がその時の事を思い出して苦笑してしまう。
「・・・良いわね、真理・・・・・・さぞ楽しかったでしょうね」
美流架の静かな怒気を含ませたその言葉に真理がびくっと怯える。
美流架は昔から雛を妹のように思い、ずっと可愛がってきていた。
一方の真理に対しては、雛と歳も近いという事で、可愛い妹のような存在を取られまいと、ライバル意識を持っている。
ゆえに真理に対して、否、雛にちょっかいかけてくる親を除く男全般に対して美流架は容赦ない。
「うふっふ〜〜・・・さぁて、どうしてあげようかしらぁ〜」
「お、お姉さん・・・・・・ここ、車の中ですし」
「う〜〜ん!仲良きことはすばらしい♪」
迫ってくる美流架に冷や汗を流しながら引け腰になる真理という構図を、雛はいつものことというように、場違いな台詞で楽しそうに見守っていた。
ようやく目的地に到着した3人はすぐに車を降りた。
心なしか真理だけかなり疲れきっているように見える。
「それじゃあ、帰りにまた連絡するからぁ〜〜」
「はい、お嬢様」
ぱたぱたと運転手に手を振りながら、雛は車を見送った後、くるりとその場所を嬉しそうに見つめた。
「遊星学園〜〜〜〜〜!」
目の前に見える憧れの学園を前に、雛はとてもご機嫌だった。
「雛ちゃん、本当にここ好きよね」
「うん♪だって、父様と母様が運命の再会をしたっていう学校だし!」
「それ言ったら、あたしの両親も似たようなものね」
「そうですね〜〜〜、僕たちの親御様が出会ったのはこの学園なわけですし」
この3人は幼い頃にその話をそれぞれの親達から聞いているため、この学園に絶対入学するのだとその頃から誓っていたのだ。
当初男子校だったこの学園も、その頃にはすでに共学になっていたため真理だけでなく、雛と美流架にも通えるようになっていた。
現在、真理は1年生、美流架は3年生に在学中であるが、美流架はコンサート等の関係であまり学校には出ることが出来ていない。
また、そういった関係で寮にも入ることが出来ていない。
だから、現在実質的に遊星学園の生活を満喫できているのは真理だけなのである。
雛も来年にはここに入ることを目標にしている。
3人は学園から寮に向かう途中になる森の中を進んでいた。
「あっ、あった!」
雛が指差した方向には、雛の母がこの学園に転入して来た日、地震で出来たという大きな地割れがあった。
今は柵が張られ、人が落ちないようにされてはいるが、これが出来た時、人が落ちてしまったのだという。
「で、あたしのお母さんが助けに飛び込んで」
「助けと連れてあたしのお母さんが戻ってきたけど返事がなくて、あたしのお母さん達も飛び込んだのよね」
まるで人事のように、親たちの若かりし日の人の良すぎる行動に笑いが出てきてしまった。
「それに・・・・・・ここには、例の扉があったんですよね?」
真理のその一言にぴたりと雛と美流架も笑いを止める。
そう、この3人にはもう1つ、絶対にいってみたい場所があるのだ。
両親達はたまに行っているみたいだが、自分達はその場所にはまだ行くには早いと連れて行ってもらえていない。
赤ん坊だった頃、顔見せで連れて行ってもらえたことがあるようだが、それは自分達の記憶にないため、あまり行ったことがあるという気がしない。
「行ってみたいよね・・・・・・ウィンフィールド王国」
雛がその名前をぽつりと呟いた。
両親達がそこにどういう経緯で行き、またどういった場所であるかということも知っている。
そのうえで、雛達にとってそこは、この学園と同じ、憧れと夢の場所に他ならない。
見たこともない世界の想像に思いを巡らせていると、突然目の前に強烈な光が出現した。
「な、なにこれ?!」
3人が驚くのも束の間、あっという間にその光は一瞬より強く発光し、3人はその光に飲み込まれた。
そして、光が消えさったその場に、3人の姿は影も形もなかった。
火山地帯の奥深くにあるその部屋は、火山の中にあるというのに、そこだけは特に強烈な暑さも感じない、外とまったく変わらない特殊な空気の場所だった。
そこに現在いるのは2人の人物。
1人は白金の髪に緑と金のオッドアイの17歳くらいの少年。
もう1人は動物のような耳を生やしており、明らかに人間ではなかった。
「ん〜〜・・・それにしても、お前良いのかよ?」
「なにが?」
「脱走しすぎだと思うぞ。仮にも『王子様』だろうが」
相手にそう言われ、白金の髪の少年はぴくりと眉を吊り上げて、明らかに不機嫌な態度になる。
「火の精霊様までそういうこと言う?」
「俺も言う時は言うぞ。シルフィード=翼=ウィンフィールド殿下よ」
「・・・・・・・・・・・・」
「俺はお前の母親の守護精霊もやってたんだ。あいつも息子がこうじゃ心配だろうと思うと・・・・・・」
「だぁ〜〜〜〜!そこで母さんの話はいいからっ!」
癇癪を起こしたような態度に火の精霊は一瞬のうちに、面白そうな表情を作る。
その表情を見て、さらにむっとなる。
「・・・俺をからかって、そんなに楽しいか?」
「結構な」
さらに面白そうに言うその台詞に、怒りを通り越して脱力してしまう。
そしてくるりと背を向け、扉に向かって歩いていく。
「ん?なんだ、帰るのか?」
「ああっ・・・・・・」
「そうか。それじゃあ、またこいよシルフ」
さっきは「脱走のしすぎ」だと言っておきながら、軽くそう言う火の精霊に、シルフは力なく手を振ると部屋を後にした。
火の精霊と別れ、火山から出たシルフは、城に帰ろうともせずにどこかの森の中を歩いていた。
「はぁ・・・・・・火の精霊様の奴・・・人をからかってなにが楽しいんだ」
とはいえ、六精霊の中で1番気が合って、なおかつ付き合いやすいといったら火の精霊なのだ。
シルフは両親達の過去の武勇伝を聞き、各六精霊のいる場所を巡ったことがある。
城でまじめに勉学に励むのが元来嫌いな彼は、睡眠と外出をこよなく愛している。
そこで気まぐれで両親の話にあった六精霊のいる場所を巡ってみた。
両親の部屋に大事に保管されている『鍵』をこっそり持ち出して。
その際、精霊達と契約することはなかったが、その守番は見事に倒して見せた。
もっとも、その時はシルフの他にあと2名ほどいたのが事実である。
「金の精霊様や・・・・・・月の精霊様よりはましなわけだし・・・」
シルフはどうやら六精霊の中でも月の精霊が苦手のようで、あそこにはあまり寄り付こうとはしない。
金の精霊はそのテンションについていけないから、苦手なのだが、月の精霊はもっと何か感じる雰囲気とかそういうものが苦手なのだ。
「んっ?」
ふとシルフは不意に空を見上げた。
もうすでに辺りは暗く、月と星が煌き輝いている夜になっている。
ただシルフが夜に城に帰還するのはいつものことなので、時間など気にしたことなど1度もない。
城の者たちはそれなりに騒いだりはするのだが、それもシルフは特に気に留めていない。
そんあシルフであるから、当然時刻がよるということが気になり、空を見たわけでは決してない。
何かの違和感と、気配を空に感じ、空を見上げたのだった。
「なに・・・・・・!」
当然のことでシルフは思わず目を見開いて空を凝視した。
「空間が・・・・・・捩れてる?!」
空の一部分だけが捩くれたように見える。
それはこの世界と別の世界とが繋がり、世界の空間が捩れてしまっている証拠である。
突然の事態に呆然とその一点を見つめていると、突然何かがそこに出現した。
それを何であるかと認識するのにかかる時間は、ほんの一瞬で事足りた。
「ちょっ!やばっ・・・・・・」
あのままでは地面にまっさかさまだと思い、焦ったシルフは次の瞬間、ばさっと真っ白な翼を背に出現させていた。
そしてそのまま空に、落ちてくる人に向かって飛び立つ。
「っ!おい、3人かよ?!」
とっさにキャッチしたものの、そこで初めて3人だったということを認識したように、シルフは舌打ちを打った。
はっきり言って3人も、しかもそれなりに自分と歳の変わらなさそうな人間を抱えるのは相当辛い。
しかも当の3人は気絶してしまっているようだった。
「くっ・・・このまま、俺まで落ちたらシャレになんねーぞ」
そう言いながら、必死に3人の人物の体を支えながら重力に逆らい、なんとか無事地面に着地することに成功した。
3人もの体重を支えたせいでシルフの息は上がっていた。
「ったく!なんだよこの連中は?!」
おそらく人間世界から来たことに間違いはないのだろうが、突然現れて予定外の労力を使わされたことに、不満をぶつける相手もいない現状だが口にせずにいられなかった。
「んっ・・・・・・」
すると突然、1番幼いと思われる少女が声を発した。
「起きたのか?」
そう言って尋ねるてみると、少女は虚ろな眼差しでシルフを見つめる。
「・・・・・・つば、さ」
その一言を告げた直後、再びその瞳を閉じてしまった。
「・・・・・・寝ぼけてただけかよ」
くしゃりと髪を掻いてシルフは溜息をついた。
この3人をこのまま置いておくわけにも行かないし、どうしたものかと考えたが、結論は1つしかなかった。
このままで置いておくわけにはいかない、かといって自分1人だけではこの3人を1度に運べそうにもない。
「・・・・・・・・・リオでも呼ぶか」
仕方がないというように溜息をついて、シルフはその人物を呼ぶ術を開始していた。
鏡あわせのようなそれぞれの世界。
決して交わらないはずの2つの道の果て。
それぞれの到着地点の結果のそれぞれの子供たち。
彼らの出会いの意味を知る者は、今ここに存在しない。
あとがき
Angel's Featherお子様初のSSです。(そして連載ものです)
とりあえず、櫂×翔サイドのお子様方はあんな感じです。
来栖×翔サイドのお子様は、今回シルフだけ少し出てきましたが、次から本格的に全員登場していただきます。
六精霊はとりあえず全員出す予定はありますが、親は1人だけかもしれません。
誰かは出てからのお楽しみ(?)ということで。
ちなみに、櫂×翔サイドの翔&杏里は元から実は女性だったという設定で、来栖×翔サイドの翔はある原因で女性化したという設定です。