Second power world
2:異界の導き・出会



長い銀の髪を揺らしながらパタパタと普段は決して走ったりしない廊下を少年は駆けていく。
その理由というのが、彼の主人とも長年の友人ともいうべき人物から、「すぐに来い」との事情も説明されない、場所の説明とそれだけの言葉で呼ばれたからだ。
だが、それを理不尽だと思っても行かなければ、後で自分にどれだけの被害が及ぶか思考するのも嫌なので、少年はとにかく急いでその場所に行こうとしていた。



「・・・・・・・リオ」
廊下を曲がろうとした所で突如良く知った声に後ろから声をかけられ、少年はあからさまにぎくっと立ち止まり肩を震わせた。
それは突然声をかけられたというのもあるが、それが特定の人物のものであったため、恐れを感じているためでもある。
振り返ってみるとそこにはやはり予想通りの、ショートの黒髪、紫瞳の16歳くらいの少女。
「く、クレナ殿・・・」
「お前が廊下を走るなどあまりあり得んことだな・・・・・で、どこに行くつもりだ?」
彼女のその言葉と、いつもの事ながらその言葉をよりいっそう引き立たせる彼女の無表情に、さぁっと血の気が引く思いがした。
「・・・・・どこに行くつもりだ?ヘリオトロープ」
自分でも長いと思うファーストネームを愛称の「リオ」でない正式名称で呼ばれ、ますますリオはびくっと体を震わせる。
おまけに冷や汗までも出てきたところだ。
「まぁ、だいたいどこに行く気が検討はついておるが」
あくまで冷静なその口調にリオの寿命は縮まりそうだった。
「私も連れて行け」
「・・・・・・・・・・・・はい」
がっくりと肩を落としたリオには、クレナに出会った時から、選択肢など存在していなかった。








ようやくやってきたと思えば、余計な人物が多いことにシルフは深い溜息をついた。
「リ〜〜〜オ〜〜」
「はっ、はい!」
恨めしそうなシルフの口調に、何を言われるのか解ってはいるが、その手がこっちに来いと無言の命令をしているため、やはりリオには選択肢はなかった。
「・・・俺は、他の奴を連れて来いとは言わなかったぞ。特にこいつは」
「す、すいません・・・出かけに見付かってしまって・・・・・・・」
「リオは悪くなかろう。悪いとすれば、勝手に城を抜け出す怠慢王子が問題であろう」
「・・・・・お前」
クレナのその言葉にシルフはぴくぴくと眉を吊り上げる。
長年の友人でなければ、クレナの発言は明らかに不敬罪にかかる代物だった。
それに、ほとんど課題分の勉強もこなそうとせず、日頃から寝ているか、遊びに城を抜け出しているのだから、クレナの言葉は的を射っていると言って良いのかも知れない。
「それに、1人で来いとも言ってなかったのだろう?第一、3人を2人で運ぶなど、効率が悪いことこの上ない」
「わ〜〜るかったなぁ〜〜〜!!」
「お、お2人共、落ち着いてください〜〜〜」
2人の言い合いに、リオが涙を流しながら祈るように止めようとする。
もっとも、言い合いというよりも、クレナの言葉に図星を指され、シルフが逆上しているだけなのだろうが。



「う・・んん・・・・・」
騒ぎあっていると突然声がしたので、はっとしてそちらを見てみると、3人のうち1人が重たげに瞼を少し開けていた。
「あの〜〜大丈夫ですか〜〜」
「ふぇ?・・・ここ、ど・・・・・・」
起きたばかりで思考がまだ定かではないのか、はっきりとした言葉で喋らない。
しかし、突然いきなり覚醒したように、目を見開くと、一気に体を起こし、辺りをきょろきょろと見廻す。
「あっ、あの〜〜〜〜〜」
「・・・・・・・ああ〜〜!あんたよ、あんた!!」
そう言い、びしっとシルフの方を指差すと、シルフが「なんだ?」と尋ねる前に、彼に詰め寄っていった。
「な、なんだよ・・・」
「あんた!あたしの記憶が間違いでなかったら、翼生やしてたでしょう?」
「ええっ!シルフ様、『白い翼』いきなり見せたんですか?!」
「阿呆だな・・・・・・」
「悪かったな!」
自分を非難してくる、長年の友人2人に対し、自分でも確かに失敗したと思っているシルフは軽く舌打ちを打つ。
しかし、次の瞬間少女から思わぬ言葉が聞き取れた。
「『白い翼の一族』がいるってことは・・・ここはウィンフィールド?!」
瞳をきらきら輝かせながら、期待に胸を膨らませたようにそう告げる少女の言葉に、シルフ達3人は驚いて目を見開いた。
「な・・・どうして、そのことを・・・・・」
「あっ!やっぱりそうなんだ♪うわぁ〜〜、ここがウィンフィールドか〜〜〜」
3人の反応を見て自分の予想が確信であると判断した少女は、ことのほか嬉しそうに辺りを見廻す。
「って、こっちの質問に答えろ!」
「ん?なに?」
「・・・・・えっと、あなたは一体どういった方なんですか?」
「あっ、自己紹介してなかったわね。あたしの名前は御園生雛、よろしく」
にっこりと微笑んだ少女のその姓に、あまりにも聞き覚えのある3人は絶句した。







雛と共にウィンフィールドにやってきた美流架と真理も目を覚まし、一通りの自己紹介を済ませた一同だが、話の中におかしな部分をみつけていた。
それは、雛とシルフの母親が同一人物であるということ。
「パラレルワールドでしょうか?」
リオが呟いた一言に全員が注目する。
「どういうこと?」
「つまりですね・・・普段僕たちは、ウィンフィールドと、人間世界を別個の世界として分けていますが、この2つを同じ1つの枠組みとします」
「・・・ようするに、箱の中に2つの別のものが入ってるみたいな?」
雛のその適切な表現にリオがこくこくと頷く。
「はい。で、ウィンフィールド、人間世界を両方合わせて1つの『世界』とします。この『世界』が他にもいくつかあるとして・・・」
「我々の『世界』とは違う、別の『世界』の人間世界から来た・・・と」
クレナの言葉にリオはまたもこくこくと頷いた。
「元々の原点は同じなんです。でも、どこかからか歴史の流れなどが食い違い、別の結果が生まれるといった感じでしょうか」
「つまり、あたし達の『世界』での母様は父様選んだけど、こっちの『世界』の母様は来栖さんを選んで、別の結果になったてことか・・・」
なんとなく納得はしたが、どこか雛は複雑そうだった。



「で、これからどうするんだ?」
少し流れた重い空気を、シルフのその一言が駆逐した。
「どうするって・・・・・・・・」
「だって、パラレルワールドとかっていうのなら、普通の方法じゃ元の『世界』に戻せないんじゃないのか?」
シルフの一言で、ようやく全員気が付いたのか、「あっ」と声を揃えて口にした。
「お前らな・・・・・・・」
「か、考えてませんでした〜〜〜」
真理のその一言に、シルフは呆れて言葉が出なかった。
「だいたい、どうやってこっちに来たんだ?今までの話からさっするに自分でワームホール開いたわけじゃないだろう?」
シルフの一言に、こちらに来た経緯を話してみる。
するとしばらく、考え込むようにしていたかと思うと、突然立ち上がった。
「シルフ様?」
「ひとまず、城に戻るぞ。ここで、俺達だけでも考えてても埒がないし」
「えっ!お城いけるの?!」
シルフの一言に、雛はかなり上機嫌になり、かなり行きたそうだった。
「でも・・・この方達は普通の漂流者とは違うわけですし・・・陛下達への・・ご報告は・・・」
真理と美流架はまだしも、雛だけはどうしても会わせるわけにはいかないような気がする。
城の人間と接触すれば、少なからず王と王妃の耳に入るだろうし、この一件を解決できるような者など、かなりの高官クラスのはず。
そうなれば、確実に王と王妃の耳に入るのは明白。
「1人いるだろう?こういう事に知識が豊富で、父さん達にも黙っててくれる融通が効く奴が」
「ああ・・・・・」
クレナも思い当たったようにぽんと手を叩いた。
未だ解っていないようなリオに向かって、シルフは人の悪い笑みを浮かべるとこう告げた。
「お前の父親」
その自分の父親を指名された一言に、リオはその場で失神しかけたという。







城の隠し通路を抜け、なんとか他人に見つからずに城に入れた一同は、現在シルフの部屋で、リオが呼んできた彼の父親であるレイヤードも交えて、雛達が帰る手立てを探っていた。
「・・・六精霊と契約するしかないな。ちょうど人数も6人いることだし」
レイヤードが零したその一言に、一同が反応する中、もっとも過剰に反応したのはシルフだった。
「なっ・・・・・」
「どういうことですか?父君様」
「それが1番手っ取り早い且つ、確実な方法だろう」
「確かに、六精霊様達と契約できれば、なにか掴めような」
納得する一同の中ただ1人、シルフだけが至極嫌そうな表情だった。
「あの・・・シルフ王子、どうかされたんですか?」
「気にするな。殿下は月の精霊様が苦手なだけだ」
クレナが平然と告げたその事実に、なるほどと尋ねた張本人の真理は少し哀れそうな瞳でシルフを見ていた。
「すでに、守番は全て倒しているのだろう?」
「はい・・・」
「なら、実質的に戦う可能性があるのは、4精霊のはずだから契約も早く済む。・・・殿下、これが1番効率がいいと思いますが?」
「・・・・・・・・もう、好きにしろ・・」
諦めたように、机に突っ伏しているシルフの姿は情けないことこの上なかった。



「で、お前達は戦闘できるのか?」
クレナに尋ねられ、まず手を上げて答えたのは雛だった。
「戦闘って言われると解んないけど・・・一応、剣道はそれなりにできるわよ」
「雛ちゃん、全国大会2連覇だもんね〜〜」
「ほぅ・・・・・」
美流架がまるで我がことのように自慢気に言った雛の戦歴に、クレナが感嘆の言葉を漏らし、他の面々は少し意外そうな表情だった。
それでも、翔の娘だということを思い出すと納得してしまう。
「それでは、少し私と模擬戦でもして、実力調整といくか」
「・・・あなた強いの?」
「クレナ殿は、女子近衛隊の1番隊隊長で、階級はその歳で大佐なんですよ〜〜」
「・・・実際に女の近衛で1番強いのはそいつだ。・・・・・男の上の奴にもひけはとってねーよ」
リオとシルフの言葉に、今度は雛、真理、美流架の3人が感嘆の声を漏らした。
「真理くんはどうですか?」
「えっと・・・僕は、雛さんみたいに剣道はできないんですけど。一応、銃が・・・」
「って、ウィンフィールドに銃なんてないぞ」
「それならご安心ください!」
シルフの言葉に、明るく答えた真理がすっとポケットから銃を一丁取り出した。
それだけならまだ関心の言葉だけですんだのだが、反対のポケットからも、袖の両方からも、服の内ポケット、服の下などなど・・・次から次へとあらゆる所から、真理は銃をいくつも取り出していた。
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
その光景をはじめて見る4人はすでに言葉がなかった。
「相変わらず凄いよね〜〜、真兄」
「全身武器庫よね〜〜〜」
慣れている2人はかなり呑気だった。
「えっと・・・・・み、美流架さんは・・・・・・」
この場の空気を変えようとして、リオが美流架に話をふると、美流架が取り出したのは、なぜかカスタネットだった。
「・・・・・まさか、それで殴るとか?」
「違うわよ!これは魔法の触媒っ」
「魔法・・・使えるんですか?」
「ん〜〜〜・・・なんか、知らないうちにできてたのよね」
「・・・それで、なんでカスタネットが触媒?」
「あたし、昔からこれで曲の音程とかとってきてたし、1番身近なものだからじゃない?」
その理屈に少し疑問を感じなくもないが、レイヤードだけは実際彼女の母親がフルートを触媒に魔法を使っていたのを見たことがあるため、なんとも言い難かった。
「と、とりあえず・・・六精霊様との契約は、多少修行してから行くということで・・・」
「そうだな・・・それが良い・・・」
月の精霊との契約だけでも不安が募るのに、こんなメンバーで本当に六精霊と契約できるのかと、シルフはひたすら不安でいっぱいだった。







あとがき

お子様’s全員登場させることができました。
親の中で唯一登場させることになると思うレイヤードも出ましたし。
次回から六精霊様との契約に行ってもらいましょうか・・・
さて、誰がどの精霊様と契約するかは、プロフィールの属性みれば予想がたつを思いますが。
ちなみに、雛&美流架はクレナの部屋、真理はリオの部屋で寝泊りしてますので。





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