Second power world
3:翼の閃き・覚醒




「・・・あつ〜〜い」
何度言ったか、すでに数えるのにもうんざりしたその台詞を美流架はまた口にした。
同じく雛と真理も声には出していないが暑そうにしている。
ここは火の精霊のいる火山地帯。
ゆえにこの極度の暑さも当然といえ、こんな場所に来たこともない3人がばてても仕方ないのだ。
来慣れている3人の中でも、リオは初めて来た3人を常に気遣い、クレナは時々励ましに似たような言葉を紡ぎ、シルフは1人面倒くさそうに先へとただ進んでいた。
そんな状態がずっと続く中、6人はようやく火の精霊の部屋へと続く扉の前に来ていた。



「ご無沙汰しています。火の守番殿」
深々と礼をしてリオがなにやら守番と話し込み始めた。
話をしている中で、ちらっと火の守番が雛、真理、美流架の3人を見た後、なにやら言った言葉にリオは表情を明るくさせ、また深く礼をすると一同のところに足早に戻ってきた。
「雛さん達も通ってOKのようです」
どうやら、火の守番の試練を受けていない雛達3人も一緒に通れるように交渉していたらしい。
火の守番の言い分によると、自分を打ち負かした3人が仲間として連れてきているのだから、勝負を改めてする必要はないとのことだ。
「ったく・・・ずるいよな・・・・・」
自分は苦労(もとい面倒くさかった)して戦ったのにも関わらず、何もせず楽に通行できる雛達にシルフは小声で文句を言った。
「いいからさっさと開ける」
傍から見てこちらのほうが立場が上なのではと思えるクレナがシルフの背中を蹴飛ばし、さっさと『鍵』で『扉』を開けるように促した。






『扉』を開けると、シルフにとってはすでに見慣れた火の精霊の出迎えが待っていた。
「よく来たなお前達」
笑みを作り、手をひらひらさせているその様子は、一応歓迎してくれているものだということをウィンフィールド組は知っていた。
「「ご無沙汰しております。火の精霊様」」
「どうも・・・」
同時に丁寧にあいさつをするリオとクレナとは対照的に、シルフはどこかけ疲れた様子で挨拶をする。
その様子を見て笑いを漏らそうとした火の精霊だったが、ふと見慣れた3人の後ろにいる見慣れぬ3人に気づいた。
「誰だ?この3人」
「え〜っと・・・なんか、パラレルワールド・・・というか、鏡面世界から事故で来てしまったみたいなんです」
「それで、帰る手段として手っ取り早くここに来たというわけです」
「・・・・・ということは、ついに俺・・・俺達と『契約』する気になったのか?」
クレナの言葉から予測し、6人の目的を的中させた火の精霊が楽しそうに笑む。
「はい・・・恐れ多いことながら」
「俺は全然構わないぞ。むしろ、やっとその気になったと解って嬉しいぞ」
前々から火の精霊は守番を倒しておきながら、シルフ達が『契約』どころか自分に挑戦してこない事をつまらないと思っていたのだ。
だからむしろ火の精霊にとってこれは願ったり叶ったりなのである。
「それじゃあ、始めるか!」
火の精霊がそう声を上げた瞬間、6人はすぐに臨戦態勢を整えていた。








戦線はなんとか互角の攻防を繰り広げていた。
もっとも、実戦を今まで1度も経験していない雛、真理、美流架の3人はほとんどが援護ばかりの状態だった。
しかし真理と美流架の2人はそもそもが後衛からの援護タイプであるのに対し、雛は前衛の接近戦タイプなのである。
他の2人と違って、ほとんど援護に回っている雛はひそかに不満であった。
だがあえて文句を言わないのは・・・・・・
「雛殿、後ろ」
「えっ?!っと」
クレナの声で自分の背後に迫ってきていた炎の渦に気がつき、慌てて横方向に回避する。
雛が文句を言わないのは、初めての実戦で要領がわからない自分が危なくなると、クレナやリオが呼びかけて危機を何度も教えてくれているからなのだった。
「ったく。実戦に関しちゃ素人のくせに、積極的すぎだから」
「ちょっとシルフーー!雛ちゃんになんか文句でもあるわけー?!」
「お、お姉さん落ち着いてください」
ぼそりと呟いたシルフの言葉に過剰に反応したのは、言われた雛本人ではなく美流架で、それを真理が嗜めた。
「シルフ様・・・そんな事言わなくても」
「確かにそこまで足手まといにないっているわけでもないしな。それに、初めてにしてはまずまず動きに無駄がない」
リオはともかくとして、クレナは本当にそう思っているからこそ言っているんだろう。
しかしさすがに戦いなれしているのか、火の精霊相手に戦っている最中でも、周りの状況を見極めるクレナの観察能力は大したものである。
それはシルフも認めているところのため、彼も文句は言えない。
ただ多少不機嫌にはなったようではあった。
「あーーー!もう一気にケリつけるぞ、リオ!!」
「えっ?あ、はい・・・・・・やるんですか?」
「当たり前だ!このままちまちま戦ってても仕方ないだろうが!」
シルフの言葉の意味をウィンフィールド側の面々は全員理解しているようだった。
それは火の精霊まで同様のようで、「ようやくその気になったか」というような笑みを浮かべている。
ただ解らないのは雛達人間界側の面々である。
「やるって・・・何をですか?」
「見ていれば解る」
クレナがそう真理の問いに答えた瞬間、シルフとリオの周りに眩い光が溢れて2人の姿を覆い隠した。
光が収まり、次に2人が姿を見せると、2人の背にはそれぞれ翼が生えていた。
シルフには『白い翼の一族』の象徴の白色の翼が。
リオには『黒い翼の一族』の象徴の黒色の翼が。
その2人の姿を初めて見る3人はどこか圧倒されていた。
ただその中で、雛だけはどこかぼうっとしているようだった。



シルフとリオが翼を出してから、戦いは予想通り前よりも多少楽にはなっていた。
ただ、翼を出したくらいであっさりと倒されてくれるような甘い相手ではないことは明白である。
それを実証するように、まだ火の精霊はまったくのあせりも見せてはいなかった。
「・・・決着つきませんね」
「まあ、翼を出したくらいでやられてくれる相手では、『星の六精霊』とは言えないからな。・・・・・・なにか決定的な決め手があれば良いのだが」
先程からクレナはそれを探しているのだが、まったくそういうものが見つからない。
火の精霊が自分から見つけられないようにしているといっても良いのかもしれない。
「雛ちゃん!!」
美流架の声に反応して彼女の目線の先を見ると、火の精霊に至近距離から斬りかかろうとした雛が、火の精霊の放った炎に撒かれた光景が全員の目に映った。
火の加減などから見ても、特に致命傷になることはないだろうが、ほぼ直撃だったため全員冷汗が流れた。
その全員の様子を察して火の精霊がフォローをいれてやる。
「心配しないでいいぞ。軽く気絶するようにしただ」
火の精霊が半ば笑顔で言葉を続けようとした途中、突然後ろに気配がしたため慌てて振り返ると、そこには彼の予測では気絶しているはずの雛が攻撃を仕掛けてきていた。

その背中に白色の翼を生やして。

あまりに予想外の連続に思わず対処を忘れた火の精霊に雛は一太刀攻撃をくらわせた。
「やっったーー!」
ようやく火の精霊に自分が一撃を与えられたことから、雛は戦いの最中であるにもかかわらず、それを忘れたように飛び跳ねて喜んでいた。
本来ならこういう隙を見せている状況なら、相手にとっては攻撃を仕掛けやすい絶好の状況下なのだが、まったくそれはなかった。
というのも、雛以外の全員が雛を見て呆然としているからだった。
それにようやく気がついた雛が喜ぶことをやめ、不思議そうな表情で全員を見返した。
「どうしたの?皆」
「・・・・・雛ちゃん、背中・・・」
「えっ?背中がどう・・し・・・・・・えええっ〜〜〜〜!!?」
雛は美流架にさされた自分の背中を見ようと後ろを見た。
そして自分の背に生えている白色の翼にようやく気がつき、一瞬の間の後大声を上げて驚きの声をあげた。
「こ、これ、あたしについてるの?!」
「みたい、ですね・・・」
「どう見ても、ね」
真理と美流架のその肯定の言葉から数秒後、これが現実であると理解した雛は瞳をきらきらと輝かせ、また飛び跳ねて思いっきり喜んだ。
それも当然のはずで、雛は両親の昔の話を何度も聞き、自分の背にもいつか翼が出したいと思っていたのだ。
雛にとっては今自分の背に出ている白色の翼は憧れそのものだったのだ。
一方、特に信じられないというような目でその光景を見ているのはシルフだった。
「・・・嘘だろう。いくら一族でも女は生えないはずだぞ」
「でも、実際生えてますよね?」
「確かに。それに、それを言うのならば、王妃様も女性でありながら、翼を出すことはできるであろうが」
「・・・母さんを前例にするな」
母親がなぜ翼を出すことができるか等、全ての母の今に至る経緯を教えられているシルフにとっては、母親と雛を一緒に考えることはとてもできなかった。
「何かの突然変異じゃないですか?雛殿はご両親がハーフ同士という異例でいらっしゃるのですし」
「・・・しらねー」
もう考えるのが面相くさくなったシルフの投げやりな言葉に、リオは「それでいいのか」と苦笑をもらした。
そんな中で、突然の事に未だ1人呆然としていた火の精霊が笑い出し、一同は何事かとそちらを一斉に振り向いた。
「あっはは・・・お前、ひょっとして翼出したの初めてか?」
「そ、そうよ」
馬鹿にするなとでも言うように頬を膨らませた雛の様子に、火の精霊はさらに笑いを大きくさせた。
「女で翼出すのも凄いっていうのに・・・それをこんな戦いの真っ最中に初めて出すんなんて、な」
何が言いたいのか解らず全員が未だ戦いの手を止めて火の精霊の動向を伺う。
すると火の精霊から突然笑いが止まり、そして雛を指差してはっきりと一言告げた。
「俺はお前の守護精霊になってやるよ」
「ふえっ?」
一瞬言われた当事者の雛だけでなく、周りの面々全員が唐突だったためにその言葉の意味を理解するのに時間を取られた。
そして、部屋の中に1つの叫び声が響き渡った。
「はぁーーーーーーーー?!!」
ある意味悲鳴とも言えるその声を発した主はシルフだった。
明らかなシルフの動揺に、人間界側の面々はびくっと肩を震わせて驚いた。
「し、シルフ王子どうしたんですか?」
「気にするな。この後の自分の置かれる状況を想定しているだけだ」
真理のその言葉に答えたのはシルフ本人でなく、まるでシルフに対しご愁傷様とでも言っているような表情のクレナだった。
どうやら彼女はシルフがなぜこのように動揺しているのかが解っているようだった。
「で、でも・・・僕は火の精霊様は、シルフ様を選ぶと思ってたんですけど」
どうやらリオにもシルフの動揺の理由が解っているようで、シルフを哀れそうに見ながら苦笑いを零していた。
「まあ、あれだけ仲良くしておればそう思うのが打倒だな。それに、まだ決着はついてはいないが?」
リオの言葉に付け足すように言ったクレナの言葉に、火の精霊は何に対してか満足そうな笑みで答えた。
「別に勝ち負けをはっきりさせる必要は本当はないからな。ようは俺が守護してやる価値があるかどうかが解ればいいんだし」
火の精霊のその言葉に、「確かにそれは一理ある」と一部の者が自然に首を縦に振った。
「それにシルフには悪いが、俺はこいつの根性と勝利への執念気に入ったからな」
そう言って雛に近づいて彼女の肩をぽんっと叩いた。
あまりの状況展開の早さに、雛は多少たじたじになりながら目の前の火の精霊を見つめていた。
「お前名前は?」
「み、御園生雛・・・・」
「そうかこれからよろしくな。そうそう、こいうのもなんだが・・・お前、なんとなく俺が前に守護した奴に似てるんだよな」
「・・・母様に」
火の精霊に言われたその言葉が殊更嬉しかったのか、雛は自分の背に念願の翼が生えた事を知った時よりも瞳をきらきとさせていた。
そして今度は雛のその言葉に、火の精霊の方が目を丸くしてリオ達の方を見ると、リオとクレナの2人がこくりと首を縦に振った。
「最初に言いましたよね?雛殿達は鏡面世界からいらっしゃったと」
「その鏡面世界での王妃さ・・・翔様が雛殿のお母上様です」
2人の言葉にまだ少し驚いたような表情で雛の方を再び見た火の精霊は、やがて段段とその表情をまた満面の笑みに変えた。
「そうか!別の所の翔の娘か」
「はい。あなたの話は母様からよくきいてます。もっとも『ここ』のあなたではないとは思いますが」
「だろうな。まあ、それでもお前もあいつの子供には間違いないんだろう?」
「はい!」
「親子二代で嬉しい限りだ。改めてこれからよろしくな」
「はいっ!」
どうやら短時間の少ない会話の内に仲良くなってしまった2人はしっかりと握手を交わしていた。
そして火の精霊は雛との握手をすませた後、思い出したようにシルフの方を見た。
「・・・そういうわけだから、シルフ悪い」
「・・・もう好きにしてくれ」
「・・・・・本当に悪い。まあ、がんばれ」
そう言うとまるで逃げるように火の精霊はその場から姿を消した。



「まあとりあえず、これで1人だな」
「そうね。さっすが雛ちゃん」
「本当ですね。・・・・・でも、シルフ王子」
「だから気にするな。殿下はこれでほぼあの方に守護精霊が確定してしまったことを悟ってああなっているだけだ」
「あの方?」
真理の疑問の言葉に、しばしリオとクレナは押し黙った。
「・・・その内、嫌でも解る」
「どうですね・・・なぜシルフ様がああなっておいでなのかも・・・・・その時になれば」
リオだけでなくクレナまで遠い目をしながら、ただそう言ってその時は真実を1つも口にしなかった。
ただ雛達人間界側の面々は、その2人の曖昧な答えと、妙に暗くなっているシルフをただ疑問に思いながら見ていることしか出きなかったのだった。



ウィンフィールド王国滞在6日目・・・・・
御園生雛、火の精霊の守護を獲得。









あとがき

本当に『双翼の世界』おひさしぶりでございます。
ごめんなさい、遅くなりまして・・・・・;
それにしてもゲームやってから大分立つので、火の精霊様の口調が本当になぞになってしまっている自分を責めたい・・・
多分他の精霊様も同じだと思いますが、ご容赦ください;;
そして火の精霊様をゲットしたのは雛でした。
念願の初覚醒もいたしました。
これで皆さんもう誰が誰をゲットするのかお解りになると思いますが。
まあ、シルフの守護精霊様が確実にあの方なのだということは容易に想像していただけるかと思います(^^;
次回は、木の精霊様、金の精霊様、水の精霊様と一気にいきます。
ひょっとしたら土の精霊様も入るかも?






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