Second power world
4:戦線の旅路・契約




雛がめでたく火の精霊との『契約』を果たした翌日、6人は木の精霊がいる森にやってきていた。
『鍵』で『扉』を開け、いよいよ木の精霊のいる場所まで近づいてきていた。
真っ直ぐにその場所に向かう中、雛達はクレナの持っている籠からする、ほのかな甘い匂いがとても気になっていた。
「ねえ、ねえクレナ。それって何が入ってるの?」
気になってついに我慢できなくなった雛が籠を見ながら尋ねる。
「これか・・・これは」
「クレナ〜〜♪」
答えようとしたクレナの言葉を遮って、嬉しそうで元気な声が突然聞こえてきた。
雛達が辺りを見回しても誰もいなかったため、まさか気のせいかと思いながらクレナの方を見ると、彼女に後ろから抱き付いている子供の姿があった。
「「木の精霊様」」
クレナを除くその子供のことを以前から知っていた2人が声をそろえてそう呼ぶ。
一方初めて木の精霊を見た3人は目を丸くしている。
「木の精霊って・・・この子供がぁ?!」
「えっと・・・精霊様達は外見と実年齢が一致してるわけではありませんので・・・・・」
驚いて声をあげる美流架に対して、冷汗を流しながらすかさずリオがフォローを入れる。
だが当の子供扱いされた木の精霊はというと、そんな周りの声は聞こえておらず、瞳を輝かせながらクレナに話し掛けていた。
「最近あんまり遊びにきてくれないからつまらなかったぞ」
「申し訳ありません」
「まあ、いいや。クレナも忙しいんだもんな。それよりもシオン元気か?あと・・・」
「父殿はまったくの元気そのものです。それから・・・今回はチョコレートケーキにしてみました」
クレナが籠の蓋を開けると、中からチョコレートケーキが姿を見せ、籠を開ける前よりもさらに甘い匂いが辺りに広がっていた。
「うわぁ〜〜・・・本当に美味そうだなv」
「ありがとうございます」



その光景をぽかんと見つめる雛、心理、美流架のうち、雛がぽつりと呟いた。
「・・・餌付け?」
「ひ、雛さん?!」
「・・・ま、ある意味そうだな」
「シルフ様まで〜!」
しかしその構図は餌付けといって過言のないもののように思えた。
「・・・なんか、木の精霊様って、クレナに懐いてるわね」
「あ、はい。もともと木の精霊様はシオン様の守護精霊様でしたし・・・」
「シオンに物凄い懐いてたらしいからな。それで娘のクレナにも懐いてるんだよ」
「それにクレナ殿。あれで面倒見が良いですし」
「ま・・・否定はしないけど」
「いいえ。本当に親子揃われて面倒見の良い、良い方達ですじゃ」
突然した新たな声に一同一瞬の沈黙の後、くるりと後ろを振り返ると、そこには感慨深そうにしているドラゴンが1匹いた。
「って、ドラゴン?!!」
「ぶ、武器、武器、ぶき!」
「お久しぶりです。木の守番殿」
「よっ」
慌てる面々に対し、1度会っていることのある面々は冷静だった。
慣れたように軽く挨拶をする2人を見て、「先に言っておけ」と心の中で悪態をつき、睨みをきかせる人物が2人ほどいた。
思わず取り乱した恥ずかしさからか、頬に少し朱がさしている。



「あ!ねえ、ねえ爺や」
チョコレートケーキを既に食べ終わって満足そうにしていた木の精霊が、守番であるドラゴンの存在に気が付いて近づいていく。
ただその時言った言葉で人間界側の面々は少し呆然としている。
「なんですか?木の精霊様」
「クレナの守護精霊やっても良いか?」
あまりに展開が早いと思う木の精霊のその言葉に、守番はまったく慌てずにこやかに微笑んでいるように思えた。
「宜しいですよ」
「本当か?!」
「ええ。前回の件で木の精霊様が外に出ても大丈夫だということは実証済みですし。なにより、木の精霊様が自ら望まれることですから」
「それじゃあ・・・クレナの守護精霊やっても良いんだな?!」
こくりと頷いて返した守番の返事に、木の精霊は両手を上げて喜ぶ。
「クレナ!これから宜しくな!!」
「ええ、こちらこそ」
あまりにも早い決着のつき方に少しばかり呆然とする一同を置いて、クレナと木の精霊は互いに嬉しそうにしていた。
「それでは木の精霊様をよろしくお願いします」
そう言って頭を下げる木の守番にそのまま別れを告げて、一同は森を後にしたのだった。
その森を出るまでの間に、雛と美流架があることを揃って口にした。
「それにしても・・・・・ドラゴンに爺やって・・・・・」
その言葉が聞こえたシルフは密かに頷いていた。








廃鉱というとそれだけで何かが出てきそうな気はする。
実際に先の戦いではそれに近いものが出てきたのだが・・・
しかし今回はまずそんなことはないのだが、この廃鉱の雰囲気のせいでより気が重くなってしまっている人物がいた。
「はぁ・・・・・・」
「・・・・・・シルフ王子、ここに来てから溜息が多くありませんか?」
「・・・気にするな」
心配そうに尋ねるクレナに短く答えを返すクレナ、そしてその度苦笑を浮かべるリオ。
これが何度か繰り返された頃、一同は黄金獅子が前に控える『扉』の前にきていた。
いつものことの通り、クレナとリオの2人は丁寧に挨拶をしている。
すると突然シルフが目を大きく見開いて勢いよく後ろを向くと、元来た道の方に早足で戻り始めた。
「ちょ、ちょっとシルフ!」
「ど、どうしたんですか?!」
「かえる・・・やっぱり俺は帰るぞ!!」
冷汗をだらだらと流して切羽詰ったようにそう言ったシルフはさらに歩みを早めた。
そのまま逃走するのではと雛達が慌てて止めようとすると、突然シルフの後頭部にトンファーがクリーンヒットした。
犯人は言うまでもなくクレナだ。
「いい加減に覚悟をきめんか」
そう言ってクレナは半ば気絶したシルフの襟を引っつかみ、文字通り引きずって『鍵』で開けた『扉』を潜っていった。
そんなシルフにさすがにこの時ばかりは雛も美流架も同情したという。
そして2人に続いて他の面々も『扉』を潜った。



『扉』と潜った先には金の精霊と思われる華やかな女性がいた。
彼女が瞳をきらきらさせているのとは対称的に、気が付いたシルフは逃げようとじたばたともがいていた。
「ジュニアちゃん、お久しぶり〜〜v」
「だ〜〜!金の精霊様!!お願いだから放してくれ〜〜」
クレナがまるで一種の生贄のように金の精霊の前に突き出すと、瞳をきらきらさせた金の精霊はすぐさまシルフに嬉しそうに抱きついた。
それとは対称的にシルフは悲鳴に近い声をあげていた。
そして人間界側の面々は金の精霊のシルフの呼び名に固まった。
「「「じゅ、ジュニアちゃん・・・?」」」
「プリンスジュニアでジュニアちゃんらしいぞ」
「金の精霊様・・・陛下のことを昔、プリンスちゃんと呼んでいたらしいので・・・」
「金の精霊様はよく危うい英語を使うが、気にするな」
クレナの言葉に3人は心の中で「気にするだろ」と突っ込みをいれていた。
そしてリオの言葉でシルフに対して笑いが出るのを通り越し、同情の気持ちでいっぱいになっていた。
ちなみに今はここにはいない、先代被害者とも言える某陛下にたいしても。
「まあ、それは良いとして・・・金の精霊様、よろしいでしょうか?」
「ワット?・・・・・あれ?でもここに来てくれたってことは・・・」
金の精霊はある結論に辿り着いたようで、先程より一層瞳をきらきらさせている。
「私と『契約』してくれる気になったの?!」
「い、いや・・・」
「その通りです」
目線をそらして口篭もりシルフに代わってクレナがはっきりと答える。
それを聞いた金の精霊は嬉しさ絶頂というところだ。
「リアリー?!!じゃあ、私はジュニアちゃんの守護精霊になってあげるわ!」
予め予測できてはいたことだが、本当にその時がきてほしくなかったシルフは一種の絶望感を覚え、そのまま涙を流して自己の精神を守るため意識を一時手放すことにした。
その光景を見ながらやはり雛達はさすがに哀れだと思うのだった。










水の守番との挨拶を終え、一同は泉の底を歩き続けていた。
その中で1人だけ異様にテンションの低い人物がいた。。
「・・・シルフ〜〜。いい加減立ち直りなさいよ」
「いくら落ち込んだところで結果は変わらないのだからな」
「・・・・・そりゃあ、お前達は気の合う相手で良いよな」
呆れたような雛とクレナの言葉に、未だ金の精霊が守護精霊になった事実を引きずるシルフは顔を引きつらせ、地の這うような声で2人を睨んだ。
「え、えっと・・・どうやら着いたみたいですよ」
その下手をすれば一触即発の光景に、リオは冷汗を流しながら目の前を指差す。
入った部屋の中には水の精霊らしき人物がいた。
「お、久しぶりやな。そこの3人」
「「ご無沙汰してます。水の精霊様」
「・・・相変わらずだな」
お馴染みの丁寧な挨拶をするクレナとリオに対し、シルフは気のない言葉を口にした。
そして水の精霊と初めて会う3人のうち、雛と美流架は目を丸くし、口を揃えて呆然と声を出した。
「「か、関西弁・・・?!」」
彼らの親も水の精霊に初めて会った時、同じように不思議に思った事を口にした。
水の精霊の口調に関してはシルフ達も初めて会った時不思議に感じたうえ、今現在でもその正確な理由が謎のため、その事に関しては特にフォローをいれようとしなかった。
しかしその中でただ1人、瞳をきらきらさせながら水の精霊を見ている人物がいた。
「水の精霊様は関西弁をお使いになるんですね」
「・・・し、真兄?」
「それがどうしたんだよ・・・・・?」
「だって皆さん!関西弁は言葉の芸術ですよ!!」
そう力説する真理に一同は呆然とする。
さらに瞳をきらきらさせた真理の言葉は続いていく。
「言葉の奥行きの深さ、温かみ・・・かといって、他地域の人達がそう簡単には使えない深み・・・・・関西弁というのは本当に素晴らしいんですよ!」
「なんや。お前随分わかっとるやないか」
真理の言葉に満面の笑みを浮かべて水の精霊が声をかける。
「はい、それはもちろんです!まさか関西弁を水の精霊様がお使いになられているなんて感動です!!」
「そうか。お前ええ奴やな〜」
『関西弁』というキーワードだけですっかり仲良く打ち解けあった2人に対し、一同は呆然とその一種の別空間を作り上げた2人を見守っていた。



「よしっ!お前の守護精霊になったるわ」
「えっ・・・・・・・?」
「はいぃ?!」
突然言われたその言葉に言われた当事者の真理だけでなく、他の面々も驚きを隠せないような表情になる。
シルフなど声まであげてしまっている。
「なんや?『契約』が目的できたんやろ?」
「そうですが・・・・・」
「しかし、水の精霊様は戦闘で実力を見られてからと聞いておりましたが・・・」
いきなりということも、自分が選ばれたことも信じられないと、呆然としている当の真理の後ろで、クラナが眉をしかめて水の精霊にそう言った。
「それもそうなんやけど・・・ここまで気ぃ合う奴の守護精霊せんのはもったいないしな」
「もったいないって・・・・・・」
「それに・・・お前らの実力はそれなりにわかっとるつもりやしな」
水の精霊の真剣なその言葉に、一同は一瞬息を飲んだ。
「そういうことや。これからよろしゅうな」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
今まで呆然としていた真理だったが、水の精霊の言葉で正気に戻ると、ぱあっと表情を明るくさせて彼が守護精霊になることを受け入れた。



こうして4体まで守護精霊を得ることに一同は成功した。
「それにしても・・・真兄が関西弁好きだったとは」
「・・・あたしも知らなかったわ」
「え?関西弁は本当に素晴らしいですよ」
「・・・長くなりそうだから語るな」
意気揚々とした真理に対し、げっそりとした様子でシルフはストップをかけた。
「でも・・・父上と同じ守護精霊様を得ることができるなんて・・・・・・」
「あたしも母様と同じ火の精霊様だしね!」
「精霊様との相性も遺伝するものなのかもな」
喜ぶ2人にクレナがぽつりと呟いた横で、シルフ1人だけが暗い影を落としていた。
「・・・・・じゃあ、俺はどうなるんだよ?」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」
その落ち込みきった言葉に誰もフォローを返せる者はいなかった。








あとがき

またしてもお久しぶりです・・・;
これも本当に早く終わらせないと先に進めないんですよね・・・;
今回予告どおり3人の精霊様達と契約していきましたが・・・・・・
完全なギャグと化しています・・・・・今回。
多くの方が予想できたシルフと金の精霊様との契約ですが、父親より酷いことになってるかも・・・・・
本当にシルフは一種の生贄に;
クレナは小さい頃から父親のシオンによく森に連れて行ってもらってたので、小さい時から木の精霊とはとても仲が良いです。
毎回チョコレート関連のお菓子を作って持っていったりしてますので、親子2代で余計に懐かれています。
そして真理の関西弁好きは当初の予定通り。
本当に大好きなんですよ彼は。
今回は特に戦闘なかったですが・・・次回は土の精霊様と月の精霊様ですので。
特に月の精霊様はシリアスがでてくるかも・・・






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