Second power world
5:試練の終り・達成




「ふぅ〜〜・・・よしっ、これで良いだろう」
「それでは『扉』を開けるぞ」
がちゃりと『鍵』で『扉』を開けるクレナの後ろで、雛達は遠い眼差しで足下を見ていた。
「・・・で、結局こいつはなんだったわけ?」
「気にするな」
「馬鹿だよ・・・ただの馬鹿だ」
馬鹿発言を連発するシルフと、それに無言でこくこくと同意するクレナに、納得する雛と美流架に対し、「そこまで言わなくても・・・」と、さすがに足下の存在に哀れさを感じる真理とリオ。
6人の人間性が見事に別れた瞬間であった。
そして6人は砂地に「バニー」という謎のダイイングメッセージを残した土の守番を、放置したまま『扉』の先に入っていったのだった。



雛と美流架の反応は本当に姉妹ではないのかと思うくらい毎回酷似している。
少なくともシルフ1人はそう思っている。
その2人とは明らかに違う反応を示している真理に対し、「よく1人だけ染まらなかったよな」とか思ってもいた。
とにかく『扉』の先の部屋に入っての人間界側3人の反応は、雛と美流架が硬直し、真理が瞳を輝かせるというものだった。
「よく来たでござるな」
その言葉遣いに更に驚愕する雛と美流架の2人。
真理はやはり瞳を輝かせている。
「・・・お、狼?!狼が守護精霊?!!」
「っていうか・・・なんで、なんで時代劇の侍口調?!」
ひそひそと好き勝手に突っ込む2人の言葉は、土の精霊にはしっかりと聞こえていた。
「綺麗な毛並みです・・・」
そして無類の動物好きであり、実家に雛と美流架曰く『プチムツ●ロウ王国』を築き上げている真理はうっとりと呟いた。
初対面ながら個性的な3人を遠い目をしながら見つめた後、土の精霊は以前からの顔見知りである3人に向き直った。
「ま、まあ大体の事情は察しているでござる」
「相変わらず土の精霊様は感知能力が優れてらっしゃいますね」
リオのその言葉に土の精霊の自尊心はくすぐられたようだった。
「珍しく火の精霊以外は試練を与えていないようでござるが・・・拙者はそうはいかぬでござる。なにしろ情けないことに守番が・・・・」
「あれじゃあ、な・・・・・」
「いい加減あの守番はどうにかならないのですか?笑い要因としては良いのでしょうが、守番としては役立たずのうえ、鬱陶しいです」
「く、クレナ殿?!」
さすがにクレナの発言に慌てふためくリオだが、土の精霊はクレナの発言を咎めるどころかむしろ同意していた。
「よい。事実でござるからな」
「はぁ・・・・・」
仕える対象にまでここまで言われるとなると、自分であれば相当へこむと思ったリオは、この時ばかりはあの土の守番に対して同情の念を送った。
そしてやがて周りの空気が変わり始め、いよいよ戦闘が開始されること悟った一同は、一斉に武器を構えて先程まで変わって真剣な表情で土の精霊を見据える。
「それでは・・・始めるでござるよ!」
土の精霊のその言葉で一同は一斉に動いた。



精霊の特殊能力はもとより、動きでこちらを翻弄する土の精霊に対し、戦闘数分がたたっところで、白と黒の2色の翼は出現していた。
翼を出してた3人をクレナがサポートし、美流架が後方支援するという形で、なんとか善戦してはいるように見えるのだが、1人だけいつより動きが鈍いものがいた。
「ちょっと真理!あんたいつもと調子がおかしいわよ!!」
「す、すいません・・・しかし・・・・・・」
美流架に怒られて冷汗を流しながら真理が見た土の精霊の姿は、やはりどう見ても狼の姿であった。
「あ・の・ね〜〜!こんな時まで究極の動物愛護精神だしてどうするの?!」
しかも相手は失礼にも動物ではなく精霊である。
「す、すいま・・・」
「真兄!危ない!!」
真理が身を縮めて誤っていた時、突如雛の叫び声が部屋の中に反響する。
顔を上げた瞬間に土の精霊の攻撃に襲われたが、真理はなんとか間一髪でかわした。
しかしその後、その避けた攻撃によって崩れた壁によってできた瓦礫が降ってくる、そこまでは予想できずに避けることができなかった。
「真兄?!」
「真理くん!!」
慌てて全員が崩れた瓦礫の山の方に目をやる。
「っ・・・いったぁ〜〜〜!!」
予想したものとは別の声を聞いて一同は目を丸くした。
本来なら真理が発するはずのその言葉は、真理ではなく美流架のものであった。
どうやら真理をかばって自分が瓦礫の直撃を受けたようだ。
「お、お姉さん!大丈夫ですか?!」
「・・・この馬鹿!」
自分のせいだと心配そうにしている真理を美流架は怒鳴りつける。
「あんたね〜〜。自分の身もちゃんと守れないくらい躊躇しててどうするのよ!だいたい、こんな怪我すぐに魔法で治せるんだからね!」
「え、でも・・・」
「いいから!あたしの心配してる暇があったら、雛ちゃんの援護しなさいよ!!」
「は、はいっ!」
とても怪我人とは思えない美流架の怒鳴り声に肩を震わせ、真理は未だ気にしてちらちらと美流架の方を見ながら土の精霊に対して構える。
睨んだ視線で「ちゃんとしろ」という美流架の念を感じ取ったのか、真理は今度こそしっかりと土の精霊の方に向かって構え直した。
その様子を見ていたクレナ以外の一同は、あれだけ心配した挙句説教された真理がが少し哀れになった。
「まったく・・・いつまで経っても世話がやける」
そう呟きながら美流架は自分自身に回復の魔法をかけた。



決着は雛からの真理、クレナ、シルフと続く精霊召喚の魔法コンボで決着がついた。
美流架の活が利いたのか、あの後真理が普段どおりの調子に戻ったからこそできた決着のつき方だった。
「土の精霊様・・・すいません」
「良いでござる。お主達の実力の結果でござるよ」
戦闘終了後もやはり究極の動物愛護精神が発揮された心理は、本当に申し訳なさそうに土の精霊に誤りながら、お詫びにと土の精霊の毛並みを整えていた。
その真理の姿にシルフとリオは苦笑するばかりだった。
「・・・時にそこのお主」
「ん?あたし?」
いきなり指名された美流架は目をぱちぱちさせながら自分自身を指差した。
「あの戦闘の最中・・・なんだかんだ言いながらのお主の優しさ見せてもらったでござる」
「え、え、ええええええ〜〜?!」
土の精霊の思いもかけないその一言に、美流架は顔を赤くして思いっきり照れる。
「そうだよな〜。普段あれだけ虐げといて、いざとなると本心が出たか」
「あれはまさしく弟を心配し、説教する姉そのものだったな」
「美流架さん優しいところがおありですね」
「やっぱり美流姉だよね!」
「〜〜・・・ひ、雛ちゃんはともかく!他の連中五月蝿いわよ!!」
一同にの言葉でますます照れる美流架は、照れるのを隠すかのように大きな声で叫ぶ。
「美流お姉さん・・・ありがとうございました」
突然声をかけられて後ろを振り返ると、満面の笑みを浮かべた真理にお礼を言われ、さらに照れが積み重なったせいで叫ぶ気力もなくした。
「べ、別に・・・」
「うむ。お主のその優しさには拙者感銘を受けたでござる。よって、拙者はお主の守護精霊になるでござる」
「えっ?!」
土の精霊のその申し出に、一同真顔に戻って声をあげる。
特に驚いているのは当の言われた本人の美流架だ。
「しかし、その素直でないところはどうも悩みどころでござる。よって、これから拙者が素直になれるよう、教授をほどこすゆえ心するでござる」
「は、はあ・・・・・」
土の精霊の謎の意気込みに美流架は冷汗を流したのだった。









6人は海へと続く長い道のりを歩いていた。
林を抜けて砂浜に辿り着くと、砂に足をとられている以外が原因で、シルフの足取りは徐々に重くなっていった。
「はぁ・・・」
「・・・殿下、いい加減にあきらめんか」
「うるさ〜〜い」
ある意味で金の精霊の時よりも気が沈んでいるシルフに、人間界側一同は不思議そうな視線を送った。
「・・・なんでシルフ王子はあそこまで落ち込んでらっしゃるんですか?」
「まさか・・・月の精霊様って、金の精霊様みたいな性格じゃないわよね?」
それはかなり嫌な状況だと一同は心の中で思った。
「え〜・・・でも、父様の話だと、月の精霊様ってまじめな方だって聞いたわよ」
「櫂さんは月の精霊様が守護精霊様でしたからね」
「・・・・・・だからだよ」
突然ぼそりとシルフが呟いた。
それに反応するように全員が一斉にそちらを見てみれば、頭を抱えて思いっきり苦悩しているシルフの姿があった。
「だからって?」
「・・・あのまじめっぷりというか、理屈っぽいところというか、自己完結的なとことか・・・とにかく、なんだか本能的に俺には月の精霊様の性格があってないんだよ!」
「そうですか・・・それはすいません」
シルフの苦悩の叫びが終わった瞬間、申し訳なさそうな丁寧な声が辺りに響いた。
そして冷汗を流すシルフが顔を引きつらせながら目の前を見ると、そこには彼にとってある意味天敵といえる月の精霊が立っていた。
「うっ・・・・・」
「お久しぶりと、初めましてが半々ですね」
「そうですね」
今にも逃げ出しそうな主兼幼馴染の服の裾を掴みながら、クレナは涼しげに月の精霊にそう返した。
「・・・リオよく来てくれましたね。久しぶりに会えて嬉しいですよ」
「はい。僕もお会いできて光栄です」
リオだけ別個に挨拶をする月の精霊の優しげな瞳に首を傾げた雛は、未だ顔を引きつらせているシルフにこっそりと尋ねた。
「ねえ・・・なんか月の精霊様、リオにだけ特別扱いじゃない?」
「・・・ああ。月の精霊様が最初に守護精霊してたのが、黒い翼だった人物だったから・・・おまけに色々とその時あったらしくて、黒い翼の一族には特別な思い入れがあるみたいなんだよ・・・」
「へ〜〜〜・・・・・・」
月の精霊が元守護精霊であった櫂を父に持つ雛とはいえ、全てを聞かされているわけではないので、その初めて聞く話に感心したようだった。
「守護精霊の件ですよね?貴方なら、無条件で守護精霊にならせて頂きますよ」
「えっ?」
突然の、とても有難いその言葉に、リオは思わず声を漏らし、一同は顔を上げて月の精霊を見た。
「え、え・・・でもっ・・・・・・」
「ここまで守護精霊を問題なく得られている貴方達なら問題ないでしょう。それに・・・・・」
やはり月の精霊は他の者に対するのとは違う、とても優しげな瞳でリオを見ながら続きの言葉を告げた。
「私がどうしてもそうしたいんです。黒い翼には今度こそ、本当に幸せになってほしいから・・・」
「・・・月の精霊様」
その言葉を告げた月の精霊のどこか悲壮なその表情に、リオは思わず無意識のまま了承の意で首を縦に振っていた。



こうして無事に『星の六精霊』全てとの契約を終えたのだった。









あとがき

月の精霊様よりも土の精霊様の方が長かった。
美流架がある意味今回1番大奮闘です。
ただ傍若無人というだけじゃないというところを解って頂けたでしょうか?
ええ、私も今回初めて知りました;
やっぱり私のキャラはどんどん勝手に進化していってくれます。
思ったよりもリオと月の精霊の感動シーンを書けなかったのが無念・・・
やはり私の文章力では無理があるということで・・・
短いよ・・・月の精霊様の登場場面が・・・
ファンの方申し訳ありません。
シルフがあの方を苦手と言っておりますが、実は私自身が苦手だったりします。
まあ、色々とありまして・・・・・・;
リオが月の精霊様が最初の守護精霊だった人物の生まれ変わり・・・とかいう設定はどうだろうとか頭にふと過ぎりましたが、別に今のところそういう設定はないです;
今のところは・・・・・・(今後どうなるか解らないってことか?;)
次回はいよいよ謎が解けるうえにあの方が登場します。
そして最後に、土の守番が何を要求したのかは皆様でご想像ください;






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