Second power world
6:運命の道標・真実
全ての六精霊との契約を終えた6人が現在いる場所はウィンフィールド城だった。
ただしウィンフィールド城とはいっても、彼らが今いるのは普段は王子であるシルフでさえ、立ち入り禁止にされている場所へと続く階段だった。
すなわちウィンフィールド城の最上階に位置する『太陽神の扉』の間。
そこが今回の6人の目的地であった。
「でも本当に良いんでしょうか?」
「何を今更」
「そうそう。月の精霊様にも『鍵』まで渡されて、行くように言われたんだから」
「行かなきゃあたし達帰れないしね」
「・・・ですが、陛下や王妃様の許可もなく」
「それはそうだがな。しかし、どう説明するのだ?特に・・・・・・」
そう言ってちらりとクレナが視線を送ったのは雛だった。
パラレルワールドに関しての話はまだしても良いが、雛がそのパラレルワールドでの櫂と翔との間にできた娘だということは絶対に隠しとおさなければならない。
もしもそれがバレた場合、こちらの世界の翔はともかくとして、来栖は間違いなく暴走してしまう恐れがある。
嫉妬とは恐ろしい感情である。
例え違う世界のこととはいえ、暴走した挙句に下手をすれば、櫂に嫉妬した来栖がこちらの世界の櫂に何かしでかす恐れがある。
従弟兼義弟だということも忘れて。
その事が容易に想像でき、クレナの言いたいことを察したシルフは首を縦に振り、リオも顔を引きつらせながら同意した。
結局は1番その事態を回避する楽な方法は、全てを内密に処理してしまうことだった。
「選択肢はないんですね・・・」
「最初からな・・・」
ウィンフィールド側3人は、目的地を目前に深い溜息をついた。
『太陽神の扉』の間に到着した6人はその場でどうするかと途方にくれていた。
「・・・来たのはいいけどさ。実際何をすれば言い訳?」
「だよな・・・確か太陽神は現在実在してないんだろう?」
「ああ、太陽神が6つに分かたのが六精霊なのだからな。力だけは封じられているようだが、実際に意思や実体は存在してはいない」
「じゃあ、何をしろっていうのよ・・・」
『それについては私が説明しよう』
突然の声に6人は一斉に互いの顔を見合わせる。
しかし6人のうちの誰が言った言葉でもないのは明白だった。
まったく聞き覚えのない不思議な声に、その声のした方向を一同が見てみると、そこには白い人影があった。
「お、おば、おばけ?!」
その白い影を見てもっともな反応を雛は示した。
同様の反応を示す者や、冷汗を流してその影を見る者もいたが、やがてシルフが自然と口を開いた。
「・・・白い翼の勇者か?」
シルフのその言葉に白い影は頷いたように見えた。
シルフのその言葉で他の面々の動揺もおさまっていく。
「白い翼の勇者って・・・・・確か、昔太陽神の力でウィンフィールドを救った白い翼の一族のご先祖様?」
雛のその言葉にまたも影は首を縦に振ったようだった。
しかし厳密にいえば、完全に縦に振ったとは言い難いようだった。
『正確ではないが・・・・・おおよそはその通りだ』
「で、その白い翼の勇者様がなんの用だよ?」
「し、シルフ様!」
救国の英雄であり、自分の先祖でもある者に対してのシルフの口調に、リオは慌てて声をあげる。
『そこの3人がこの世界にやってきた理由・・・・・そしてこれからのお前達の使命について説明しなければならないのでな』
「・・・・・使命?」
前者はともかく後者の理由に対して全員眉をひそめる。
『そう・・・その3人がこの世界に現れ、この世界のお前達と出会ったのは偶然ではなく、運命という世界による必然だ。情念を、倒すための』
「ちょ、ちょっと待ってください!情念ですって?!」
白い翼の勇者の発したその名前に一同は息を呑んで動揺する。
「どいうことだ?情念は・・・父さん達が倒したはずだろう?!」
『そう・・・ここに封印されていた、他の情念の主格となるものは・・・・・だが、情念は消え去ることはない』
「どういうこと?」
『情念は人の負の感情によって生み出されるもの。人が負の感情を捨て去らない限り、情念が完全に消滅することなどありえない』
その言葉に全員ははっとする。
確かに情念が人の負の感情であるということは聞いたことがある。
その負の感情が原因で、自分達の親が大変な戦いを繰り広げたことも。
そして人と負の感情が切っても離せないものだということも。
「それじゃあ、情念はいつまでも完全に消滅しないってことじゃないか?!」
『そうだ。そして今は先の戦いで意思と力を持つ主格の情念が消滅したが、やがて今はまだ散らばる情念が集まりまとまり1つの巨大な情念となり、新たな主格となり他の情念をも支配下におく・・・・・そうなれば・・・・・・』
白い翼の勇者は言葉を一瞬濁らせた後に言葉を続けた。
『人、全ての命ある者、この国・・・この世界のみならず・・・・・他の世界も滅ぼしていくことだろう』
白い翼の勇者の言葉に全員が息を呑んだ。
それは本当にとんでもない事態であり、起こらないと否定する要素はなかった。
「だが、情念が不消不滅であるのなら・・・・・我々が戦ったところで、また同じことの繰り返しではないか?」
クレナのその言葉は白い翼の勇者には予測できていたようで、あらかじめ用意していたのであろう言葉を返す。
『普通は・・・しかし、情念で問題となるのは、その意思と力のみ。お前達がその意思と力を持つ術を完全に不可能とすることができれば・・・・・その先情念はただの無機体と化す・・・・・』
その言葉に一同は納得してみるが、ふとここである疑問が表れる。
「じゃあ、なんでそれをお前がやってなかったんだよ?」
シルフの疑問は当然のことだった。
もしも白い翼の勇者が今自身が言ったことを行っていれば、シルフ達のみならず彼らの親が先の戦いを行うこともなかったかもしれない。
『・・・・・それは行わなかったのではなく、できなかったのだ』
「できなかった?」
『そうだ。情念の意思と力を断つ、要素がそろっていなかった。その1つが・・・』
白い翼の勇者が目線を向けたらしいその先を一同はつられて見る。
そしてそこには1人だけ目を点にして不思議そうな表情をしている雛がいた。
「って、あたし?!」
『そうだ・・・・・いずれ、お前達は自分達のもう1つの運命を知ることになる。ある方との出会いによって・・・・・』
「ある方?」
『そうそのある方の協力が情念の意思と力を断つ上で必要不可欠。その方を待つため、私は自分の魂を記憶と力を持つ2つに分けた』
「魂を分けた・・・?」
『そうだ。記憶はこの白い影である私。この場にとどまり道を記すため。そしてもう1つの力は、長い年月を経て転生を行った』
「転生・・・・・ですか?」
『やがて体は朽ち行く・・・転生して新たな肉体を持つ必要は不可欠だからな。そして、その転生した者が・・・・・』
白い翼の勇者の示す先にいたのは、先程の雛と同じような表情を作っているシルフだった。
「・・・・・俺?!」
自分自身を指差して信じられないような呆然とした表情をしている。
『そうだ』
白い翼の勇者の肯定の言葉に全員の間に動揺が広がる。
「し、シルフがぁ・・・・・」
「嘘よ!ありえないわ!!」
「こんな怠慢王子が救国の英雄の生まれ変わりとは信じられないが・・・」
中でも特に動揺して失礼なことを口走っている3人にシルフは引きつった笑みを浮かべえ、どす黒いオーラを纏ながら低い声で声を出す。
「お前らな・・・・・」
『だが真実だ。残念なことに・・・』
「って!一応本人のお前がそういうこと言うか?!」
はっきりいって1番混乱しているのは当の本人であるシルフなのだが、さすがに突っ込まずにはいられないらしい。
『前世と現世の性格等が同じであることの方が珍しい』
「そうなんだ・・・・・」
その言葉を聞いて全員が納得するが、当のシルフだけは例外で不機嫌そうな表情をしている。
「で、結局俺達はこれからどうすれば良いんだよ?そのある方とやらが現れるまで」
不機嫌で既にやけになりながらもシルフは尋ねた。
『それまでは現れる情念を適当に倒していればいい。それから・・・』
白い翼の勇者が手をかざすような動作をした瞬間、雛とシルフの中に何か熱いものが流れ込んでくるような感覚がした。
「な、何今の?」
『これで通常通りのゲートの開き方を行えば、互いの世界を自由に行き来できる。また、お前達2人の血を混じらせば、まったく別の世界へも行くことができる』
「へ〜〜〜」
2人は感心するように自分達の手をまじまじと見つめる。
とにかくこれで当初の元の世界に帰ると方法を見つけるという問題は解決した。
そのうえおまけまでついてしまったようだ。
『それからお前は太陽神の力の召喚も可能になっている。ただし、私と魂を分けてしまっているから、召喚の際にはその者の助けが多少必要だがな』
「げっ・・・・・・」
「なによ・・・その嫌そうな目は?」
雛に借りを作るようで嫌だという心情を表したシルフの表情と声に、雛は眉を潜めてそう尋ねた。
後ろの方では雛を援護するように美流架がシルフに批難の声を送っていた。
『それではお前達が救国の英雄となることを祈っている』
全ての事を話し終えて役目は終えたと、白い翼の勇者はそう告げると、一同が気がついた時には姿を消していた。
最後の言葉とともに消えた白い翼の勇者が今までいた場所を見ながら、一同はただ立ち尽くしていた。
「・・・・・なんか、勝手に喋って押し付けていかれたって感じだな」
「・・・・・そうね」
「ふ〜〜ん・・・でもそういうことだったのか」
「みたいですね・・・・・・・」
ふと突然聞き覚えのある、しかしここにいないはずの人物の声だと気が付き、一同は恐る恐るそちらを振り向いてみた。
そこには予想通りだが、できれば予想が外れてほしかった人物がいた。
「か、母さん!?」
「「王妃様!!」」
「・・・・・母様」
「「翔さん・・・・・」」
おのおのの呼び方で、3名は驚きながら、残り3名は呆然としながらその人物を呼んだ。
「いや、悪いな・・・ちょっと盗みぎぎしちゃったよ」
「・・・どの辺から?」
「えっ?最初からだぞ。お前達がここに向ってるのが見えたから、なんだろうなと思って後つけたんだ」
その言葉に一同は呆然とした。
何しろ今まで翔の気配に気が付かなかったのだから。
特に軍人であるクレナのショックは他とは計り知れない。
さすがは元剣道全国制覇、元火の精霊の守護対象、救国の英雄の1人、そして現ウィンフィールド王国王妃である。
戦線を離れてもその実力は健在のようだ。
「・・・顔は俺似なんだな〜」
近づいてまじまじと雛の顔を見た翔がそう呟いた。
「あ、あの・・・王妃様・・・」
不安気なリオに気がついて、翔はにっこりと微笑む。
「心配するな。来栖とかには俺からきちんと説明しておくから」
「えっ?いいのか?」
母親の意外な発言にシルフが目を丸くする。
「ああ。俺から言えば来栖とかもちゃんとした判断できると思うし」
「助かります・・・」
来栖に対して翔の存在ほど頼もしい対抗策はない。
「その代わり、今度からちゃんと顔見せてくれよ」
「・・・・・はい」
「俺娘も欲しかったんだよな〜」
そう言いながら満面の笑みで翔は雛に抱きついた。
その母親の様子にシルフは顔を引きつらせながら溜息をついていた。
今度は最初の時とは違い、自分で作った光の中に飛び込むと、そこは元いた遊星学園の寮に続く林の中にある地割れの出来た場所だった。
「・・・帰ってきたの?」
「見たいですね・・・」
「・・・・・夢ってことはないわよね?」
美流架のその言葉にはっとして雛が懐を探ってみると、ウィンフィールドで戦闘用にとクレナにもらった短刀が見つかった。
「やっぱ夢じゃないみたい」
そう言って雛は満面の笑みを浮かべた。
夢でない限り、また彼女達があちらに行く日は明日にでもくる。
あとがき
櫂×翔サイドと来栖×翔サイドのお子様方の出会い&六精霊様ゲット編完結です。
いや〜〜・・・最後とんでもない締め方してすいません。
シルフ達と別れて元の世界に戻って来るシーンがなかったのは、どうせこれからは自由に行き来して頻繁に会う仲だし、別れに感動も何もないから・・・というのが理由だったりします。
ラストに翔が出てきたのは予定外でしたが・・・
でも今後の展開上どうしてもあそこで会っておいて、来栖を宥めてもらう必要性が生じたので、出てきてもらいました;
今後翔が女の子をほしがった1番の理由とか、白い翼の勇者の言うある方の正体も明かしていきます。
っていうか、後者に関してはひょっとしたら解ってる人は解ってるかもしれませんがね・・・・・・(^^;
天使羽関連だけ読んでる方には確実に解りませんが・・・・・
あとシルフの正体があれなのは初めから予定通りでした。
しかし本当に他の面々の言う通り、まったく前世と性格が違いすぎです;