Puzzle game
1:Selfish
目を覚ましたルークはまず現状把握に努めるところから始めた。
今自分が感じているのは冷たく固い床の感触。
そこに寝そべって天井らしきものをぼんやりと眺めている事実。
夢でも幻でもない。
自分は生きているというその事実に、なんだか無性に泣きたい気持ちになってきた。
無理もない自分は死んだものだとばかり思っていたのだから。
何がどうなって助かったのかは解らないが、今生きている事が何より大事だと思った。
これで約束が果たされるとも思った。
そこまで考えてルークははっと自分が意識を失う前の事を思い出した。
自分は確かに上から落ちてきたアッシュの身体を受け止めたはずである。
しかし身体があっても既にアッシュが死んでしまっているという事実に変りはない。
その事に気を落としながらも、アッシュの身体をこんな場所にそのままにしておくわけにはない、ちゃんとした場所に埋葬してやらなければと、アッシュの身体を探そうと立ち上がろうとした瞬間、ルークは身体に違和感を覚えた。
力が入らず中々立ち上がる事ができない。
まるで自分の身体ではないようだ。
そう思いながらも再度立ち上がろうとして、ルークは強くその手を床について身体を支えようとした。
その時ふと視界に入った自分の手に一瞬固まってしまう。
「えっ・・・?」
見間違いかと思い、今度はなんとか起き上がってその場に座りこんでから、まじまじとその手を良く見てみた。
その手はやはり先程同様、なんだか何時もの自分の手よりも小さい。
その手を暫し呆然と眺めた後、ルークはふと顔を正面に顔を向けた。
そしてその先に都合よくなのか悪くなのか、偶然にも会った鏡に映った自分の姿を見て、今度こそルークは叫び声を上げた。
「な、なんだ!これーーー!!」
どう考えてもルークの体は10歳前後の子供の姿になっていた。
何故こんな事になっているのか解らず、暫くはその現実を信じたくなくて呆然としていたルークだったが、正気に戻るとなんとか冷静に今の状況を把握しようと周りを見回した。
そして今更ながら気づいたが、そこはどう見てもあのエルドラントではなかった。
しかし見たことのある場所でもあった。
そこは自分が誘拐され発見された事になっている、かつて父の別荘だったコーラル城の作りにそっくりだった。
否、実際ここはコーラル城なのだろう。
そしてそこでルークは更に訳が解らなくなってしまった。
何故自分は子供の姿に戻っていて、そして何故コーラル城にいるのだろうと。
まさかあのエルドラントでの戦いや、仲間たちとの旅は全て夢だったのだろうかとも思った。
しかしそれはすぐに否定された。
夢幻にするにはあまりにもリアルすぎる記憶であるし、第一こんな子供の自分がこの年相応に似合わない思考回路をしているのはおかしい。
まあ、実際はの年齢は7歳なのだが、実年齢とはアンバランスすぎる実際の身体年齢と、あの旅での経験のせいで、普通の7歳よりも思考回路は十分歳よりも上回っているのだ。
ならばやはりあの出来事は全て現実にあったことだ。
では何故自分は今こんな姿でここに居るのだろうか。
そこまで考えてふとルークにある考えが浮かんだ。
「まさか・・・時間が逆戻りしてる?」
それはなんの根拠もないただの勘だった。
しかしルークにはそれ以外に思い当たる節はなく、おそらくそうなのだろうとなんとなく感じ取っていた。
そこまで考えるとルークは今の自分の置かれている現状にはっと気がついた。
おそらく自分がこの歳でコーラル城にいるということは、誘拐されたという事になっている真っ最中で、しかも自分の捜索隊がここに自分を見つけに来る前なのだろう。
そしてこのまま捜索隊に見つかれば元の歴史の通り、自分はヴァンに利用されてアクゼリュスを消滅させる事になる。
そこまでなんとか考えを巡らせたルークは最早いてもたってもいかなかった。
少なくともここで捜索隊に見つかり、元の歴史の通りに事が進むのはまずい。
救えるものならアクゼリュスを救いたいと、ルークは必死になってこの場から逃げようと決意した。
しかし幾ら歩く方法が解っていても、まだ実際には生まれたての身体、立ち上がったは良いもののよろよろと身体の動きが頭についてこない事実に、ルークは本当に自分の考えが正しいのではと確信を持ち始めていた。
そして何度か転んで時に軽い怪我を負いながらも、必死に外に抜け出したルークは、せめてマルクト側まで行こうと更に歩を進めようとしたが、慣れない幼い身体は悲鳴をあげ、そしてその必死の意思虚しくその場に倒れこんだ。
倒れて気を失う直前、溜息をつく誰かに抱かれたのは気のせいだったのか、意識を手放したルークには最早確認する事はできなかった。
次に目を覚ました場所は蒼だった。
正確には蒼が基調にになっている部屋だ。
その部屋にある天蓋付の大きなベッドの上に寝かされている。
暗いコーラル城から一転、こんな豪華な場所で突然目を覚ましたルークが驚いていると、横の方から何やら聞き覚えのある賑やかな声が聞こえてきた。
「・・いい加減執務に戻られたらどうですか?」
「良いじゃねえか別に。しっかり、お前も面白そうなもん拾ってきたな」
「・・・・・道端で倒れている子供は面白そうなものですか」
楽しそうな声とやれやれといった様子で呆れる声を聞き、ルークは思わず飛び起きてその2人を見て声を上げた。
「ジェイド!ピオニー陛下!」
名前を呼んでそちらを見てみると、そこには驚いた顔でこちらを見返している見知った2人の顔が確かにあった。
そしてその2人の表情を見た瞬間、ルークはなんとなくやってしまったと思ったが、すぐに正気に返ったピオニーの楽しそうな声が振ってきた。
「おっ、目が覚めたのか。それにしても凄いなーお前。そんな小さいのに俺達の事知ってるのか?あ、俺が凄いのか?」
「何言ってるんですか・・・大体、皇帝の貴方の顔ならいざ知らず、一軍人の私の顔を、こんな子供が知ってるわけないじゃないですか」
「どっかの貴族の子供っていう可能性もあるだろ」
ピオニーのその発言にルークは一瞬ぎくりとした。
ピオニーのその言葉は当たっているようで当たっていない。
彼が言っているのはあくまでマルクトの中の貴族だが、国という境を取り払えば、確かにルークは貴族出身なのだ。
「・・貴族の子供が、あんな場所に倒れいているはずないでしょう」
「あんな場所・・・?」
「ああ、お前フーブラス川付近の橋で倒れてたんだぜ。で、そこをたまたま通りかかったこの可愛くない方のジェイドが見つけたってわけ」
「・・・ブウサギと比べないでください」
楽しげなピオニーの発言に、呆れたように溜息をつきながらジェイドは文句を言った。
それを聞きながらルークはフーブラス川とコーラル城との距離を考え、自分は気づかないうちにあんなところまで歩いていたのだろうかと、かなり不思議に思いながら考えていると、ピオニーがまた声をかけてきた。
「で、実際お前どこの子なんだ?迷子は責任もって送り届けなきゃいけないからな」
ピオニーにそう言われ、ルークははっとした。
家に戻るといっても、このまま自分がバチカルの屋敷に戻るのはまずい。
その為にわざわざコーラル城を抜け出してきたのだ。
そしてあそこに帰らないためには、おそらくここにおいてもらうのが1番だろう。
それに歴史を元の通り進ませないにしても、自分1人の力ではおそらくたかがしれているだろう。
ならば目の前にいるこの2人に協力を求めた方がずっと効率がいい。
アクゼリュスはこのマルククトの領土なのだから、彼等だって自分達の領土を消滅させたいとは思わないはず。
それに預言の通りいけばマルクトは滅んでしまう。
ならば余計に協力してくれるはず。
そう思うとルークは必死になって話さずにはいられなかった。
「じ、実は・・・・」
ルークが話し終えると暫くの間、辺りには重たい沈黙が流れた。
そしてその沈黙からルークが少し自分は早まった事をしたかと思っていると、ジェイドは少し疑うような表情で口を開いた。
「・・・貴方が未来の記憶を持っていて・・しかもそれによると、この国は滅びの預言を詠まれて、更に私と貴方は一緒に旅をした事があると」
「あ、ああ・・・やっぱ信じられねえか?」
「普通はそうでしょう。ですが、それにしては貴方は歳よりも随分と思考回路が発達していますし・・・なによりも、貴方くらいの子供がフォミクリーの事をそこまで詳しく知っているなどありえない」
「・・・・・・・」
「信じられませんが・・・・・信じれば辻褄はあいます。ですが・・・」
「何言ってんだ。ジェイド」
ジェイドがルークの言葉を本当に信じるべきかどうか悩んでいると、突然それまで黙り込んでいたピオニーが声を上げた。
「信じるも信じないも、そういってるんだから、そうなんだろ」
「陛下・・・」
「・・・その根拠は?」
「こんな可愛い生き物が嘘つくはずない」
ピオニーの自分を信じるとはっきりといってくれた発言に、ルークは少し感動していたが、次にジェイドが問いかけた言葉へのピオニーの返答にがっくりと肩を落とした。
「・・・まあ、貴方がそういうなら仕方ありません」
「良いのかよ?!」
「・・これでもこの国の皇帝ですから、その言葉に従うほかないでしょう。それとも、貴方は信じないほうが良いとでも?」
ジェイドの言葉にルークは激しく首を横に振ると、それを見たジェイドとピオニーは満足そうに笑った。
「じゃあ、これからお前の身の振り方を考えないとな」
「いえ、陛下。その前にちょっと良いですか?」
どうしようかとピオニーが少し悩んでいると、ジェイドがふと思い立ったように声を上げた。
「ん?どうかしたのか?」
「・・ルーク、でしたね?貴方が本当にレプリカなのか調べさせてはくれませんか?」
「・・はっ?信じてくれたんじゃないのかよ」
「いえ、貴方の話自体は一応信じましたよ。ただやはり・・・ちゃんと確証を持ちたいのです」
少し複雑そうに口籠ったジェイドを見て、ルークはなんとなくそうかと彼の考えが解った気がした。
ネビリムのレプリカを作れなかった彼にとって、今目の前にいる完璧な姿をしたレプリカの自分は、ある意味信じられない存在なのだろう。
その為に内心複雑な感情を抱えているのだとルークは察した。
「・・・良いぜ、別に調べても。ただし、変な気は起こすなよ。レプリカには昔の記憶はないんだ・・・」
「・・・・・成程、確かに貴方の言葉は嘘ではないようですね。私のあの事情までご存知とは」
「ああ、ネフリーさんから聞いたから」
「そうですか・・・ですが安心してください。もう私にはその気はありませんから」
「そうだな。あっちもジェイドもそう言ってた」
ルークのその言葉に、ジェイドはどこか苦笑を零していた。
なんとなく、未来の自分が今の自分と変らない考えを持っていて、ほっとしているようにも見えた。
「・・・では行きましょうか」
「うん・・・」
「ルーク、頑張ってこいよ。変な事されそうになったら大声だせー」
「貴方じゃないんですから」
そんな台詞を冗談ながらにさらりと皇帝にいえてしまう辺り、幼馴染とはいえやはりジェイドは凄いとルークは内心感じながらジェイドと共に部屋を後にした。
数時間後、検査を終えて部屋に帰ってきてみると、そこには未だピオニーがいた。
しかも何時の間にか本人にとってはお気に入りのペット、本人以外には結構はた迷惑なペットである、ブウサギを連れこんでいた。
「おお。やっと帰ってきたか。おかえり」
「陛下・・・まだこんなとことにいたんです。というよりも、何時の間にブウサギなんて連れ込んだんですか?」
「お前らが検査に行ってる間に決まってるだろ」
「何でまたブウサギなんて・・・」
「そりゃあ、俺の可愛いペット達を可愛いルークに紹介するためだ・・・・・って、なんかルーク様子がへんじゃないか?」
ピオニーの指摘の通りルークは先程から確かに変だった。
ずっと何やら頭をおさえ、身体を震わせて何かに耐えているようだった。
その様子をちらりと一瞬見たジェイドは、はあっと深く溜息をついて口を開いた。
「先程、検査でとんでもない事が解りまして・・・」
「なに?どこか身体に異常でもあったのか?」
「異常はなかったのですが、ある意味あったというか・・・」
ジェイドの全く言っている事が正反対でめちゃくちゃな内容に、ピオニーが訳が解らないといったように怪訝な表情をした。
「おい、ジェイド。言っている事がめちゃくちゃだぞ。異常はないのに異常があるって、どういうことだ?」
ピオニーの痺れを切らしたかのようなその言葉に、ジェイドが答えようと口を開きかけると、先程から震えていたルークがいきなり声を上げた。
「・・俺は・・俺は男だ〜〜!!」
「はっ・・・?」
いきなり叫んだルークに驚いてピオニーは目を丸くし、ジェイドはその様子に溜息をついて肩を上げた。
「男のはずなんだ・・・なのに、なんで・・・」
尚も狼狽しているルークにピオニーが不思議そうに目を向ける中、ジェイドはまた溜息をつくと説明を始めた。
「ルークがキムラスカのファブレ公爵の子息『ルーク』のレプリカだとすると、ルークの性別は男のはずなんです。意識を失ったルークを着替えさせて湯浴みさせたメイドも確かにルークは男の子だと言っていました・・・しかし・・・」
「しかし・・・?」
「・・・先程検査するため、ルークに検査着に着替えてもらったんですが。その時、ルークは自分の性別が女になっていることに気づいたようです」
「・・・・・・・」
「念のためルークを最初に着替えさせたメイドにも確認してもらいましたが間違いありません。・・おそらくは、音素の結合がなんらかの原因で崩れ、再構成する時に誤って女性になったとしか考えようがありませんが・・・」
そしてこれは単なるジェイド自身の憶測である。
如何にフォミクリーの生みの親とはいえ、こんな事態は初めてなので、完全な原因など今の状態では解らない。
しかしただ1ついえるのは、こんな非常識な事態は2度と起こらないだろうということ。
つまりルークは元の性には戻る事はできない。
そのため余計にルークはうろたえまくっているのである。
その事実を暫く静聴していたピオニーであったが、不意に口を開いてルークに声をかけた。
「・・・ルーク、お前・・・・・・男だったのか?」
その言葉にピシリと周りの空気が固まった。
そんな中でもまったく動じず、ピオニーは満面の笑顔で喋り続ける。
「いや〜〜俺はてっきり最初から女の子だと思ってたからさ。ま、だから俺にはあんまり気にしないっていうか・・・寧ろルークが本当に女の子になってくれたなら好都合っていうか・・・」
「・・・つかぬ事を聞きますが陛下。何故好都合なのですか?」
「ん?いや、今がこれだからルーク将来美人になるだろうな〜って。そしたら俺の嫁にしようかと思って」
ピオニーのその言葉に再度辺りの空気が固まった。
しかしピオニーはそんな事に気づいているのかいないのか、未だ笑顔のままで話を勝手に続けていた。
「それに女の子って事であいつには話し通してあるから、説明しなおさなくて助かったぜ」
「あいつ・・・?」
ピオニーの言葉に我に返ったジェイドが鸚鵡返しに尋ねた。
「ああ、実はな・・・」
ジェイドの言葉に答えようとピオニーが口を開きかけた時、部屋の扉をノックする音が聞こえて一同はそちらに目をやる。
「お、もう来たのか。入って良いぞ」
「失礼します」
ピオニーの許しを得て室内に入ってきたのは1人の女性だった。
さらさらしているがふわふわ感もある薄い紫色の髪に金色の目をした軍服の女性だった。
その女性の登場にジェイドは少し驚いた様子を見せる。
「カバラ少佐・・・?」
「今日からルークの世話をこいつにしてもらおうと思ってな」
ピオニーのその言葉に、ジェイドは先程とは違った意味で驚いた表情をして見せた。
「・・本気ですか?猫の子どころか、花だって育てられるのが想像できない、カバラ少佐に子供1人預けるんですか?」
「おい、おいジェイド・・・自分の副官に向かってそういうこと言うか?」
「そうですよ大佐。酷いじゃないですか」
抗議の言葉を言いながらもにっこりと微笑みを向けられ、ジェイドは深く溜息をついた。
副官でありながらどうも彼女には逆らいがたい空気がある。
その原因はおそらく、ある意味ピオニーと似たタイプであるためだろう。
本当に厄介な人物を自分の副官につけてくれたなと、ジェイドは目の前にいる主君を引き攣った顔で見ていた。
そんなジェイドの心情などお構いなしに、ピオニーは話を進める。
「お前たちが検査に行っている間に、こいつにはあらかたの事情は説明した。そのうえで協力してくれるそうだ」
「はあ・・まあ、そういうことに関しては確かに信用がおけますが・・・」
「こいつ以外にも特に信用のおける奴数名には真実を話して今後の対策を立てたいと思う。ルークそれで良いな」
「えっ・・・?!あ、はい・・・」
それまで呆然と事の成り行きを見守っていたルークは、突然声をかけられて思わず返事を返した。
ルークが呆然とするのも無理はない。
ルークの記憶の中にこんなジェイドの副官である人物など存在しないのだ。
いやひょっとしたら実際にはいたが、あのタルタロス襲撃の時に死んでしまったため、会う機会がなかっただけなのかもしれないと、ルークはあの時の事を思い返して胸が痛くなった。
あれも回避しなければならない歴史の1つなのだ。
そんな事を考えていると、にっこりと微笑んだその女性の顔がすぐ目の前にあり、突然のことにルークは驚いて目を丸くした。
「初めまして。リリス=リリン=カバラよ。貴方の事は陛下から聞いてるわ。よろしくね」
そう言って微笑みかけてくるその女性に、ルークは思わずぺこりと頭を下げて挨拶をした。
「あ・・・ルーク、です。よろしく」
リリスとルークの挨拶が一通り終わると、それを見届けたジェイドはぱんぱんと手を叩いた。
「はい。じゃあ、今日はこれでお開きにして。陛下、我々は仕事に戻りますよ」
「え〜・・もうちょっとルークといさせろよ」
「駄目です」
「ちぇ・・仕方がない。リリス、ルークのことよろしくな。ルーク、またすぐ会いに来てやるからな」
「は、はあ・・・」
「よしっ!じゃあ、行くかジェイド」
「はい」
「・・・お前じゃなくて、可愛いほうのジェイドだ」
「・・・・・陛下、ブウサギに人の名前付けるの本当に止めてください」
最後の方のジェイドの言葉をピオニーは完全に無視し、連れてきたブウサギを引き連れて部屋を後にした。
その後を溜息をついて行くジェイドは、去り際にリリスに向かって声をかけた。
「ではカバラ少佐。本当に、くれぐれも頼みますよ・・・変なことにはしないで下さい」
「大佐も心配性ですね。大丈夫ですよ。だから早く陛下のお守りに行ってください」
リリスの反撃とも取れるその言葉を聞いたジェイドは、少し顔を引き攣らせてまた溜息をついき、今度こそ本当に部屋を後にした。
ばたんと閉められたドアを暫くその場に残された2人で見続けた後、ルークはこの本当に初対面の人物とまず何を話せば良いのかと、ちらりとリリスを伺うように彼女を見上げた。
すると暫くして、予想外に突如リリスがぶっと噴出し、何故か激しく笑い出した。
「あ、あはははっ!もう駄目!もう我慢の限界だわ!!」
そう良いながらばしばしとベッドと叩いて笑いまくるその姿を、ルークがただ暫し呆然と見ていると、一頻り笑い終えたのかぴたりと止まったリリスが楽しそうにこちらを向いたかと思うと、いきなり物凄い速さで近づいてきたので、ルークはぎょっとして目を見張った。
「いや〜〜・・しかし縮んだわね。我ながら上手くいったわね、うん。あ、それと女の子になった感想はどう?」
そう言っていっきに喋るリリスに最初は呆然としていたルークだったが、その言葉の中になんとなく引っ掛かりを覚えて彼女に問いかけた。
「・・どういう、意味だよ」
「あれ?解らない。あんたの記憶だけそのままに世界の時間を逆行させて、しかもコーラル城の近くで倒れたあんたをフーブラス川付近の橋に移動させたて、おまけにあんたを途中から女の子にしたのって・・・全部私の仕業なの」
楽しそうにそう告げてくるリリスの言葉に、当然面食らったというような表情で何もいえないルークの姿に、リリスはまた笑って見せた。
「いや〜〜、そのリアクション最高だわ。うん、やっぱあんたを主人公にして正解ね」
「・・・・・主人公って、なんだよ?だいたい、さっきの話が全部本当だとして、そんな真似できるあんた一体何者なんだ?!」
「ん?私?そうね・・・まあ、あんた達でいう所の、所謂神様って奴」
「・・か、神様?」
彼女の正体に対して答えを求めたのはルークだが、そのあまりに予想外のまた外の答えに、己の耳を疑ってしまった。
「そう神様。あ、神っていっても大きく分けて2種類いてね。1つの世界に留まるその世界専門の神と、色んな世界を渡り歩く神がいるのよ。私はちなみに後者ね」
「・・神様・・・・・で、その神様がなんでこんな真似してるんだよ?」
「あれ?意外に信じるの早いのね」
「・・じゃないと話が進まないみたいだからな。それに・・・意外すぎることなんてある意味もう慣れたし」
そう言いながらどこか哀愁を漂わせるルークに、リリスは彼が何を思い返してそんなことを言ったのか気づいたか、あえてそれには触れずに話を続けることにした。
「んっとね。パラレルワールドって解る?」
「パラレルワールド・・・?」
「そう。つまりここではないけど、ここと似たような世界で、こことは別の結果が起こること・・・」
「・・どういうこと?」
「ん〜〜・・つまり、私が水の入ったコップを倒して、中の水を零す世界があるとするじゃない?」
「うん、うん」
「でももしかしたら、コップを倒さずに水を零さないで済んだ可能性があるかもしれない・・・・・そういった別の可能性の元に成り立つ似たような世界をパラレルワールドというのよ」
リリスのその言葉を聞いて暫し考え込んだ後、ルークは難しい顔をしながら口を開いた。
「えっとつまり・・・俺がその・・・アクゼリュスを消滅させないですんだ世界もあるかもしれない・・・ってことか?」
「そうご名答!正解者には人参一年分を進呈!」
「・・いらねーよ。つーか、はっきり言って嫌いな食べ物だそれ」
「解ってる。だから面白半分で言ってみたのよ」
そのリリスの心底楽しそうな様子にルークは顔を引き攣らせて見せた。
この少しの間でリリスの性格がなんとなく掴めてきたことと、本当に彼女は神様なのだろうかと言う疑心暗鬼に捕らわれている。
しかしリリスはそんなことお構いなしに話を続けた。
「で、なんで私がこの世界を逆行させたかというと・・・ぶっちゃけ、別の世界でここと同じ結末を見ちゃったから」
「・・つまり、俺が体験した未来と同じ結果が、既に他のパラレルワールドで起こってたってことか?」
「そう・・・で、まあそれじゃあなんかつまんないから。とりあえずこの世界にやり直してもらって、別の結果を改めて作ってもらおうと思ったのよ」
リリスのその言葉を聞いて一瞬時間が停止し、何処かで閑古鳥が鳴いたような気さえした。
「・・・それだけ?」
「そう、それだけ。ついでに今回は私もちょっと参加してみようかな〜と思って、わざわざちょちょいとここの人達の記憶をいじって人間になってみました」
ここの人達というのはおそらくジェイドやピオニーも含まれているのだろう。
ならば彼女はルークの記憶の通り、本当に最初から存在していない人物なのだ。
余計な危惧はどうやら彼女に対しては必要はなかったようだ。
しかし今はそんな事を考えている場合ではなかった。
「ふ、ふざけるな!そんなことのために、世界1つの時間を戻したのかよ?!」
「そんなこととは失礼ね!私には重要なことよ!!」
「世界をおもちゃにするんじゃねえ!」
「別にいいじゃないの。そのおかげで、あんたはアクゼリュスを消滅させずにすむかもしれないチャンスを与えてもらってるのよ」
リリスのその言葉にぴたりとルークの次の抗議の言葉が止まった。
確かにリリスの言うとおり、全てを知っている以上、自分はアクゼリュスを消滅させずにすむかもしれない。
世界が本当に巻き戻っているというのなら、あの時助けられなかった人達が、自分が結果として殺してしまった人達が、救えるかもしれない。
これは確かにそのためのちゃんすなのだと、そう思うと悪い気はしなくなってきた。
しかし、それを差し引いたとしても、ルークには問題があった。
「・・だけど、何で俺を女にする必要があったんだよ?」
そのルークの言葉を聞いて一瞬きょとんとしたリリスであったが、すぐににやりと嫌な笑みを浮かべ、そしてルークの耳元で楽しげにぼそりと呟いた。
「・・だってあんたあのアッシュの事好きなんでしょ?女の方が何かと都合が良いと思うけどね〜〜」
「なっ・・・!?」
思いがけず図星を指されたルークは不覚にも顔を真っ赤にさせ、それを楽しそうににやにやと笑うリリスを見て、ますます顔を赤くさせていった。
「お、おま・・・」
「というわけで。これからよろしく〜〜〜」
そう楽しげに言うリリスの姿に、今後彼女に振り回されていくであろう事が、この時ルークには悲しくも容易に予想できたのであった。
あとがき
なんか凄いものが出来上がってしまいました・・・
オリジナルキャラクター、リリスの加入で当初のネタよりもかなり変更がありますがご容赦ください。
今後この世界はこいつに引っ掻き回されていくことになります。
でも基本はルークの意思を尊重する方向でいくつもりですが、こいつの性格上今後どうなっていくのかは私にもはかりかねます(えっ;
とりあえずリリスの顔見せまでいこうとしたら思ったよりも長く・・・;
まあ、こんな話ですがよかったらこれからもお付き合いください。
ちなみに何故リリスがあえて途中からルークを女の子化したかというと、最初から女の子だとヴァンが新しいレプリカ作り直すとか言いそうだったりするので、最初はあえて男の子のままにしておいたということで。