Puzzle game
10:Restoration
無事にバチカルに到着して2日目。
一同は昨日渡した親書の返答をインゴベルト六世から聞き、一部の者にとっては予定通りの返答を聞いて城の中で待機していた。
つまりは和平締結のための条件がアクゼリュスの救済だという返答である。
「いや〜、まあ当然の結果とはいえ、むこうさん少し嫌そうでしたね〜」
「それはそうでしょう。あちらはまだ我々マルクトが預言の要である『聖なる焔の光』誘拐したと思っているのですから」
「まあ、あたらずも遠からずですね」
「・・・・・こっちを見るなよ」
事情をまったく知らないイオンとアニスには知られないような小声ではあるが、どこか楽しそうな口調でさえある上司・部下コンビにルークは顔を引き攣らせながらぼそりと呟いた。
前回のディストの一件以来珍しく意気があったままなのではないかと思いながら。
「まあしかし、例え『聖なる焔の光』がいなくても、アクゼリュスに人を送り込めばなんとかなると思ってるんじゃないですかね?」
「そういえば・・・同行する者がいるから待っていろと・・・・・その同行者と関係があるのでしょうか?」
「多分、その同行者をアクゼリュスの崩壊に巻き込んで、それを開戦の理由にするつもりなんじゃないの?」
「なるほど・・・それな」
「ちょっとー!!」
一同がインゴベルト六世の腹の内を探り合っていると、いきなり後ろの方から明らかに苛立ちを含んだ怒号がとんだ。
「あ、アニス・・・?」
「ちょっと皆!何アニスちゃんとイオン様を仲間外れにしてるのよぉ!!」
「アニス・・・落ち着いてください」
やけに今朝から機嫌の悪いアニスにそれをなだめるイオンといった光景を見ながら、一同はまた2人には聞こえない程度の声でぼそりと言葉を交わした。
「・・・あれって、やっぱり六神将がイオンを攫うのに失敗したのが原因だよな?」
「でしょうね。貴方の話ですと、本来はここでイオン様は攫われているはずですから」
「モースも近くにいますしね〜。ま、イオン導師を大佐と同じ部屋に無理にでもして正解でしたね」
「ちょっと〜・・・だから人の話」
懲りずにひそひそと話し合う一同にアニスが再び怒号を飛ばそうとした時、後ろの部屋の扉からノックが聞こえて室内にいた全員は一斉に振り返った。
「・・どうぞ」
「失礼します」
そして一言断ってから入ってきたその人物にルークは眼を見開き、リリスは楽しそうな表情でその人物を眺めていた。
ぴんっと姿勢を正して立つその人物に、最初に声をかけたのはジェイドだった。
「・・・貴方は?」
「使者の方々にはお初にお目にかかります。私はファブレ公爵家にお仕えするガイ=セシルと申すものです」
その名前を聞いた瞬間、ジェイドとティアも彼が何者なのかすぐに察しが着いた。
「で、その公爵家の使用人の方が何か御用で?」
「我が主人よりアクゼリュスに向かう皆様に同行するよう申し付けられましたので」
「・・・同行者がいるとは聞いていましたが何故貴方が?」
「私はこう見えて腕が立ちますので。聞けば皆様ここまで来る途中襲撃にあったとか・・・また同じような事があるかもしれませんし、私が皆様の護衛をすることで我が国の誠意を示そうと公爵も陛下もお考えなのです」
「なるほど・・・貴方はそれほど信頼されている人物ということですか?」
ジェイドはそう言いながら実際にはそう思わせておいてアクゼリュス消滅の際の犠牲にしようと考えているのだろうと簡単に予測できた。
ひょっとしたら公爵はガイがガルディオス家の生き残りだと既に気づいていて、厄介者を体よく始末して一石二鳥をえようとしているのではないかとさえ考えた。
しかしそんな考えなど知らないガイは少し苦笑を浮かべながらまともに言葉を返した。
「それはどうか解りませんが・・・私は幼少この頃より公爵家にお仕えしていますので」
「そうなの〜。じゃ、これからよろしく」
まじめに答えるガイに対して楽しげにリリスは近づくとその手を握って握手をする。
するとその瞬間ガイは一気に顔を青くさせたと思うとそのままリリスの手を払いのけて後ずさってしまった。
その様子に何も知らないため当然驚いて眼を丸くするイオンとアニス、聞いてはいたがここまでとは思っていなかったため2人と同じような反応を見せるティア、逆に興味深そうにしているジェイドと、そして楽しそうにその光景を見つめるリリスとそのリリスに顔を引き攣らせるルークという構図が完成していた。
「あ・・・あの・・・ガイ・・・?」
イオンに声を掛けられ、はっと我に返ったガイは咳払いをして態勢を整えた。
「し、失礼しました・・・これにはその・・別に深い意味はなくて」
「女性恐怖症なの?」
リリスからのまさに的確な問いに、ガイはぴしりと固まってしまった。
「な・・なんで・・・」
「あ、やっぱり?だって最初この部屋に入ってきた時、1番扉に近かったアニスから距離をとるかのように移動したじゃない。ま、後は勘だけどね」
そう言いつつも事情を知る者達は自分が楽しみたいがためにわざとやったなと当然ながら思っていた。
勿論その予想は正解である。
「す、すいません・・・そういうことですので、申し訳ありませんが女性の方は・・・その・・・」
「え〜〜・・それは貴方の態度次第ね」
リリスのその言葉に一同はまた良からぬことを企んでいるなと瞬時に悟った。
「態度・・次第・・・?」
「そう・・・まずはね。その喋り方やめない?」
「はっ・・・?」
どんな無茶難題を言われるのか覚悟していたガイはあまりの予想外の言葉に少し面食らっていた。
それは他の面々も同じことである。
「堅苦しいのよね。これから一緒に旅しようって言う仲なのに。立場なんて気にしなくていいから貴方本来の喋り方で着てちょうだい。一応これから先は仲間ってことになるんでしょうし、下手な気遣いなんて無用なのよ」
リリスのその言葉にさらに面食らっていた一同の中からぼそりと呟く声が次々とあがった。
「・・すげー・・・リリスが珍しくまともなこと言ってる」
「ええ、私も驚きました。何年かに1度あるかないかの確立ですよ」
「凄い・・・なんだか私・・・今凄いものを見てる気がする・・・」
「この人誰?本当にカバラ少佐なの?!」
「・・・なんか好き勝手な言葉が聞こえてくるんだけど」
しかし当然ながらしっかりとその言葉を聞いていたリリスは少しだけ黒い笑みを浮かべていた。
一方、ガイは未だリリスの言葉に戸惑いながら口を開いた。
「いや・・しかし・・」
「あれ?今度は抱きつかれたいの?」
「ひっ!わ、わかりまし・・いや、わかったから近づかないでくれぇ」
「よっしOK」
笑顔で抱きつこうとしたリリスに完全に怯えて反射的に了承したガイにその場にいたほぼ全員が同情の念を送り、そう仕向けたリリスは非常に満足そうだった。
「じゃ、張り切って行きましょうか」
「やっぱり・・・リリスが仕切るのな・・・」
その事実にルークだけでなく全員どこかげっそりとした様子だった。
城門を出た時見かけたその姿に何名かは出たなと思ったことであろう。
目の前には悠々とことの黒幕であるはずのヴァンが何食わぬ顔で佇んでいたのだ。
「これは導師イオン。ご無事で何よりです。それにガイも・・・久しいな」
「ヴァン・・・何故貴方がここに?」
「ヴァン謡将はファブレ家と昔からちょっと縁があってな。その・・・・・公爵子息の剣術指南をしてたんだ」
ガイがどこか口籠って言いにくそうにしているのは、マルクトの人間であるジェイド達の事を考えてのことだろう。
キムラスカがファブレ公爵の子息誘拐をマルクトのせいだと決め付けているなら当然のことである。
勿論自分達のことのためそんな事実はないとわかっているうえに、しかもその真犯人は目の前で何食わぬ顔をしているヴァンだということを知っているので特に気にした様子はない。
「そうですか・・・それでファブレ公爵家に何か用事でも」
「まあ、似たようなものだ。先日貴公等を襲撃した六神将の件の責任をとわれてな。その償いに私もアクゼリュスまで先遣隊を率いて行くことになったのだ」
「成る程・・・」
勿論ジェイドが口に出していった納得の言葉はヴァンの説明をまともに信じたわけではない。
1つはインゴベルト六世がローレライ教団の主席総長であるヴァンをアクゼリュス消滅に巻き込ませ、それを全てマルクトのせいにしたうえでローレライ教団にもキムラスカの開戦の正当性を容易に認めさせ、且つ中立であるダアトさえもキムラスカよりにさせようとしているため。
そしてもう1つはヴァン自身がまんまとアクゼリュスへ行く口実を上手く作り上げられたことに対してた。
その道ヴァン本人がアクゼリュスに行かなければ彼の計画の一旦は成り立たない。
随分と上手く辻褄を合わせたなと内心苦笑さえ浮かべてしまっていた。
「そういうわけでガイ・・・・・何も一使用人の貴公が行かずとも良い話だ。ティアもすぐにダアトに戻りなさい」
ヴァンにとって見ればガイは実質的に主人であり、ティアはただ1人の肉親である妹。
その2人をみすみす崩壊すると解っているアクゼリュスに行かせたくはないという気持ちでそう言っているのだとルークはすぐに察しがついた。
しかし問うの2人はヴァンの言葉に首を横に振った。
「・・・そういうわけにも行かないでしょう。公爵は勿論、陛下直々にご指名されましたからね」
「私もよ。兄さん、私は導師イオンをお手伝いすると言ったはずよ。それに・・・モース様からの指令もあるわ」
「・・・そうか。ならばもう止めはしないが、海は危険だ・・・」
「どうしてですかぁ?」
「大詠師派と思われる一団が中央大海を監視しているのだ。そのため海を行くのは止めたほうが良いだろう」
そう言われればその場にいる誰もが普通ならばモースの仕業だろうと思っただろう。
しかしこの場には真実を知る者はそれがヴァンがわざと用意した一団だろうと予想がついていた。
ならば次に来る言葉も当然のように予想が出来る。
「どうしましょうか・・・?」
「私がおとりになりましょう。私がアクゼリュス救援隊に同行することは発表されているはず。ならばこれで信憑性も増すだろう。イオン様達は少し遠回りになりますが陸路でケセドニアへ」
「ですが・・ヴァン・・・」
「大丈夫ですよ。イオン導師」
ヴァンの申し出を何も知らないイオンは当然好意だと思い、心底心配そうにして止めることを進めようとしたが、後ろからにっこりと口を挟んできたリリスによってそれは阻まれてしまう。
「カバラ少佐・・・?」
「大丈夫ですってイオン導師。こんな自信満々に言ってるんですから、まず死にはしないでしょう・・・・・・でも」
なにやら黒いオーラを纏ってヴァンに詰め寄るリリスを見て、ひょっとしてまたかとルークが嫌な予感をさせていると、それはどうやら見事に的中したようで、カイツールの時と同じようにリリスはヴァンにつかかっていた。
「そんなたくさんこっちの邪魔をしようとしている船がいて、みすみす見逃してくれるわけはないですよね?それにそれを簡単に倒せたりやり過ごせるなら私達が別行動を取る必要もないってことで・・・ヴァン謡将にとっても危険なんでしょ?」
「・・・何が言いたいのかな?」
「ま、ようするに。無傷で五体満足ぴんっぴんの状態でアクゼリュスで再開することは・・・ぜっったいないってことですよね?」
その挑発的な言葉にまたやったかと思うもの数名、驚いて眼を見開き信じられないものを見るような眼で見る者数名。
その一同の中でリリスは非常に満足そうな笑みを浮かべていた。
「少佐って・・・何気にやっぱ危険人物ですよね」
アクゼリュスを目前にして街道を歩き一同の中からアニスがぼそりとそんなことを呟いた。
「おや、アニス。貴方今頃気づいたのですか?」
「・・再確認してるだけですよ大佐ぁ。良くあんな人副官にしてられますよね」
「・・・・私の意志じゃないです」
「うん。殆どリリスとピオニー陛下の策謀みたいなもんだな」
アニスの言葉にジェイドとルークはグランコクマの宮殿でブウサギと戯れてるピオニーを思い出しながらげっそりとした表情で呟いた。
「そういうルナもリリスが育ての親なんでしょう?よく耐えられたねぇ」
「まあ・・選択肢なんて・・・俺にはなかったし」
「本当凄いよねぇ。総長挑発したり、シンクが見張ってるって言ったのに街道突っ切るなんて言い出すし・・・まあ、結局何故か襲ってこなかったし、その後も何もなかったけど・・・でもそんな少佐の言葉受け入れる2人も普通じゃないよね・・・」
「仕方ないだろ。言っても聞かないって解ってるんだから・・・」
「ええ・・・無意味ですね・・・」
そう言って今度は遠い目をした2人に、アニスは先ほどとは180度変わって同情の眼差しを向けた後、深いため息をつい手ぼそりと呟いた。
「・・おまけにあんなお姫様受け入れちゃうなんて・・・」
「あら?アニス何か言いまして・・・?」
ぽつりと呟いた言葉に予想外に帰ってきた声にぎくっとしてアニスは恐る恐るそちらを振り返る。
見てみるとどうやらよく聞こえていなかったのだろう、きょとんとした表情でこちらを不思議そうに見ている当の人物がいた。
「え、えっと・・なんでもないよ。ナタリア」
「そうですの。なら、良いですけど・・・」
その言葉にアニスはほっとして胸を撫で下ろした。
「しかし・・本当についてくるとはなぁ」
「あら、ガイ。何か文句でもありますの?」
今度はしっかりと聞き取れたガイの言葉に、ナタリアは不機嫌そうに顔を歪めて問い詰める。
「い、いや・・だって一国の王女がそう簡単に城を開けるのはさ・・・」
「あら一国の王女だからこそ、民が苦しんでいるのを放って置くなど出来ませんわ。ましてや使用人の貴方が行くというのに私が行かないわけにはいかないでしょう」
「・・・それは自意識過剰だと思うけど」
「あらアニス?何か言いまして?」
「えっ、べ、別に・・・」
「本当アニスってば1人ごとが多いわよね〜」
そう言って楽しそうに前方を歩くリリスを見ながら、ほぼ全員が心を1つにしてこう思っていた。
『あんたが面白そうだってあっさりと了承するからこういう事態になってるんだろうが』
「とにかく、全員気を引き締めてください。アクゼリュスはもう目の前ですよ」
「はい」
ジェイドの言葉に一同が頷きあう中、1人ルークは顔を俯かせてぎゅっと両手を握り締めていた。
そのルークの肩をぽんっとリリスが叩いた。
「・・リリス」
「大丈夫よ。陛下が上手くやってくれてたら、少なくとも今回はアクゼリュスの人達は助かるんだから」
「そういうことです。最悪街そのものは諦めるとしても・・・人命だけでも助けられれば上出来のはずです」
「けど・・・」
「ルーク・・・あんたは良くやってるんだから。今は顔をあげてしっかり前を見てなさい」
自分を励ますリリスとジェイドの言葉に勇気付けられ、ルークはようやくすぐ目の前になったアクゼリュスへと視線をやった。
かつては2度と見ることはないと思っていたその街の姿を目に焼きつけ、新たに心に誓いを立てながらルークは再びついにその地へと足を踏み入れた。
そこはかつての時間と同じように瘴気で満ち溢れ、人々の苦しい呻き声が確かに聞こえていた。
そう表面上はである。
何も知らない面々は酷く心配そうな顔をしながら倒れている人々に駆け寄っていく、その中で事情を知るもの達はふりをしながら小声で本題を話し合っていた。
「・・どうですか?少佐」
「・・ふふっ。全員間違いなく。陛下がちゃんとやってくれたようです」
「それでは始めましょうか」
ジェイドの言葉に一同はこくりと頷きあい、近くにいたものに話しかけた。
「すいません。救援隊の者ですが・・・先に先遣隊が来ているはずなのですが彼らはどこに・・・?」
「ああ!グランツさんって人から話は聞いてます!彼らなら坑道の奥でさあ」
「ありがとうございます」
形式だけそういうとすぐにヴァン達を追うべくルーク達は行動の入り口へと向かった。
「・・・でも、そういえば師匠はどうやってアクゼリュスを崩落させるつもりなんだろう?俺は、ここにいるし・・・」
「・・・・・考えられるとしたら、アッシュでしょうね」
ジェイドのその言葉にルークは驚いたように目を見開いて振り返った。
「・・なんで、アッシュが・・・?」
「ま、妥当なところでしょうね。レプリカがいなくなった・・と思ってるヴァン達にしてみれば、もう被験者を使うしかありませ・・・って、ルナ?!」
2人のもっともな話を聞いて当初はただ呆然としていたルークだったが、すぐに何かに触発されたかのようにものすごい勢いで走り出し行動の奥に消えていってしまった。
「ったく!あの子はぁ!イオン、ちょっと一緒に来て!」
「か、カバラ少佐・・・?」
血相を変えて走り去っていったルークの後を追い、何故か混乱中のイオンを連れて颯爽と後を追っていたリリスの背を眺めながら、一同は暫し呆然とした後はっと我に返ると同時に慌て始めた。
「えっ・・・ルナ?少佐??いったい、何が起こって・・・っていうか、イオン様連れてかれたんですけど!」
「混乱しているところ申し訳ありませんが、ややこしいことになる前に今は急ぎますよ」
「はい!」
「ちょっ・・ジェイドやティアまでどうしたんだ!?」
「もう一体なんなのよ〜〜〜〜〜!」
何も事情を知らない一同の混乱の声が響く中、一同は坑道の奥へと走り出したのだった。
坑道のスピードを押さえることなく駆け抜け、ダアト式封呪の施された扉の前までルークがようやく辿り着いてみると、そこには予想通りの人物が対峙しながら立ち尽くしていた。
「アッシュ!」
思わず声を上げたルークに反応して振り返ったアッシュは驚いて目を見開いていた。
「レ・・・お前、何故ここに?!」
「・・予定よりも早かったか」
ルークの出現にまともに驚いているアッシュに対し、ヴァンは少しばかり予想外のような表情をしていたが、別段問題はないというように目の前のルークを無視したまま話を進めた。
「もう1度言う。アッシュ、お前の力を貸しなさい」
「断る!誰が街を消滅させる手助けなどするか!」
「これは必要な事なのだ。お前も聞き分けなさい」
「・・・そんなこと聞く必要なんてない!」
2人が言い合う中、我慢が出来なくなったルークは思わず2人の話に割って入った。
そのルークに2人は少し驚いてはいるようだが、そんなことには気づかずルークは話を続けた。
「街1つ消滅させて、人の命を奪って・・・どんな理由があろうと、そんなこと許されるわけはないだろ!」
「口を挟まないでもらおうか・・・」
「いや〜〜・・・この場合挟むと思うわよ」
ルークの言葉に少し殺気を垣間見せたヴァンだったが、すぐさま現れた新たな声に反応して言葉は途中で中断せざるを得なくなった。
「リリス・・・にイオン」
「まったく、いきなり1人で突っ走らないでよ。まったく誰に似たんだか」
「・・悪かったな」
「まあ、それはともかく・・・どうもヴァン謡将。まったくの無傷でよかったですね〜。てなわけで・・・」
そこで一旦言葉を切った後、すっと表情を変えたリリスの姿に、その場にいた一同の背筋に冷たいものが走った。
「言ってたとおり・・敵とみなして排除しても良いですよね?」
「ちっ・・・」
にっこりと笑いながら武器をかざすリリスを目の前に一同が凍りつく中、1人我に返ったヴァンは舌打ちするといきなり駆け出しアッシュの横を通り過ぎてルークの体を拘束し剣を突きたてていた。
「なっ・・・」
「ルナ!」
「ヴァン、貴様!!」
ヴァンの行動にリリス以外の面々から声が上がる中、ヴァンはルークを人質にとってなおリリスに対して警戒をしながら口を開く。
「全員動くな。出なければこの娘の無事は保障しない」
「わ〜お。まさに三流悪役っぽい台詞と行動ねぇ。神託の盾の総長様ともあろうものが」
「・・・貴様の事は六神将達から聞いている。死霊術師よりもよほど厄介な存在だとな。それにその人間離れした威圧感・・・こんなところでまともに相手にするのは得策ではないと判断したまでのこと」
「へ〜〜・・・以外に勘は良いわね」
ヴァンの言葉にリリスがぼそりと呟いた声は誰にも聞き取られることはなかった。
「ヴァン!ルナを離してください。お願いします」
「イオンの言うとおりその手を放しやがれ!そいつは関係ないだろうが!」
「おや?導師はともかくとして・・・何故お前がこの娘を気にかけるのだ?アッシュ」
「・・・・・っ」
不思議そうに問いかけるヴァンの言葉にアッシュは言葉につまり、次の瞬間には先ほどとは打って変わって何かを考え込むかのように黙り込んでしまっていた。
「・・・ふ〜ん・・あとちょっとね」
「何を先ほどから言っている?」
「いえ、別に。それよりもさっさとルナを放してくれないかしら?その子は私が手塩に育てたうえ、ピオニー陛下のお気に入りなのよ」
「ふっ・・それならばこちらの条件を飲んでもらおうか」
「条件・・・?」
「導師イオン。この目の前にあるダアト式封呪を解いてもらいたい」
「なっ・・ですがその先には・・・」
「解いてもらえぬ場合、この娘の命は保障しかねる」
そう言いながらヴァンはルークの首元にさらに剣の切っ先を近づける。
その光景にイオンはぎゅっと手を結び、決意に意志を固めると扉の前に手をかざした。
そしてそれがあっさりと解除されてそれを確認したが深い笑みを浮かべた瞬間、ヴァン、アッシュ、イオンの3人は何かに捕まりそのまま開いた扉の奥へと消え去っていった。
「う〜〜ん。怪鳥で高速移動とはね〜。逃げ足は早いわね」
「って、言ってる場合じゃないだろ!」
この状況下で至って呑気なリリスに対し、先ほどヴァンが怪鳥につかまる瞬間放り出されたルークは尻餅をつきながらリリスを怒鳴りつけた。
「どうするんだよ!イオン攫われちまったし・・それに・・・アッシュが、俺の代わりに・・」
「代わりじゃないでしょ。元々あれはアッシュの役目で。前の時間ではあんたがアッシュの代わりをしただけ。ま、元に戻っただけのことよ・・・」
「でも・・・!」
それでもアッシュがヴァンに利用されて超振動を使いアクゼリュスを崩壊させるかもしれない可能性を考えるとルークはリリスに突っかからずにはいられなかった。
「大丈夫だって。どの道ここは開けてもらわなきゃこっちも計画が進まないんだから。それにさっきも言ったけど、この街が崩落しても街の人達はもう大丈夫なんだから」
「けど・・・」
「だから大丈夫。まだ間に合うわよ。・・・さあ、他の連中も着たことだし、私達も行きましょうか」
そう言って不安げなルークを尻目に、どこか楽しそうでさえあるリリスの手は小さな箱らしきものを掴んでいた。
仲間と合流して共にパッセージリングの元へとようやく辿り着いた瞬間激しい地震に襲われた。
その事実にルークが間に合わなかったのかというように徐々に顔色を悪くさせていく中、上のほうから舞い落ちてきた1枚の羽に一同が上空を見上げた。
「兄さん!」
「イオン様!!」
「あらら〜。暗示でもかけられてたのかしらね。超振動使っちゃったみたいね〜」
ティアとアニスからそれぞれ悲痛な声が聞こえ慌てる一同の中、やはり呑気に気絶した状態で怪鳥に捕まっているアッシュを見上げるリリスの横をすり抜け、ルークは一目散に彼らのいる真下へと駆けていっていた。
「あ〜・・またあの子は・・・・・大佐〜。あそこに向かってタービュランス辺りお願いできますか?」
そう言ってリリスが指差した方向に目をやり察しがついたジェイドは仕方がないといったように溜息をつくと口を開いた。
「解りました。それしかないようですね。・・・貴方のほうこそちゃんとやってくださいよ」
「了解しました」
にやりと笑って返事をするとリリスはそのままパッセージリングに向かって走り出していた。
「・・・まったく。ガイ、貴方もルナと一緒にあそこに行ってくれますか?」
「えっ・・・どういうことだ・・・?」
「良いですから。早くしないと逃げられてしまいます」
「・・解った」
何がなんだかよく解らないがとりあえず言うとおりにしようとガイもルークを同じように飛んでいる彼らの真下に向かう。
その間、ティアがヴァンと作戦は関係なく真剣に話しているのが時間稼ぎになったようで、未だその場にヴァン達が留まっていることに笑みを浮かべるとジェイドは口を開いた。
「タービュランス」
上空にいる三人がつかまっている怪鳥に向けて放たれたその譜術に当然怪鳥はバランスを崩しそのまま3人を放して宙へと放り投げてしまう。
「今です!2人とも1人ずつ受け止めてください」
ジェイドのその声に事の次第を理解した2人はそれぞれルークがアッシュを、イオンをガイが無事に受け止めることに成功した。
そして気を失っているアッシュを心配してルークが顔を覗き込むと、静かにだが確かに呼吸する音が聞こえてきてほっと胸を撫で下ろした。
「・・良かった・・・気絶してるだけみたいだ」
「こっちもだ!しかしジェイドも結構無茶な注も・・・ルナ!」
ガイの言葉に反応してルークが振り返ってみたが既に遅かった。
主人の命令を実行しようとする怪鳥がすぐ目の前に迫って着ていたため、ルークはなんとか身を低くすることでその攻撃をかわそうとしたが少し掠ってしまったようだった。
そしてその結果幸いにも怪我はなかったものの、目深に被って顔を隠していた帽子が取れてしまい、その素顔を全員の前にさらすことになってしまった。
「なっ・・・」
髪と目の色は違うがアッシュと瓜二つのその顔に何も知らない一同はただ呆然とルークを見つめていた。
「・・ルナ。お前のその顔・・・」
「しまっ・・・」
「・・まさか、貴様・・・・・あのレプリカか?」
そう言って聞こえてきた背後に立つヴァンの姿に、ルークは奪われまいとぎゅっとアッシュの身体を抱きこんでいた。
「アッシュをこちらに渡してもらおうか。それは私の計画に必要なものだ」
「嫌だ・・嫌です!アッシュを貴方の計画に利用させたりしないし・・・貴方の計画は俺達が」
「ぶち壊すってね」
必死にヴァンに訴えかけるルークの言葉を引き継ぐように、聞こえてきた楽しげな声に一同がそちらを振り返ってみると満面の笑みを浮かべたリリスが立っていた。
「は〜い。パッセージリングの修復完了っと。これでアクゼリュスは崩落しないし、パッセージリングの耐久力もあと数年は延長されたわよ」
「な・・・に?」
「あっ・・そういえば、先程から地震がおさまってますわ」
リリスの言葉で自分達のいる場所の状況の変化にようやく気づいた一同は自分達の足元を見つめて次に辺りを見渡した。
「いや〜、どうやら成功のようですね。相変わらずカバラ少佐の謎のアイテムは色んな意味で凄いです」
「ふふっ・・・褒め言葉と受け取っておきましょうか」
「ど、どういうことですか?大佐」
「ま、ようするにですね。カバラ少佐が何故か持っていたパッセージリングを修復できるアイテムで、破壊されたパッセージリングを修復しただけの話ですよ」
「ちょっと待て・・・そんなもの事前に用意してたということは・・・初めからこうなることを予想して立ってことか?」
「ま、そういうことになるわね」
驚いて目を見開く一同に対し、リリスが楽しそうにきっぱりとそういうと事情を知らない一同は呆然となった。
「パッセージリングが破壊されなくてもどの道耐久年数の問題でもう持たなかったしね。とりあえず次までの補助策としてあれを埋め込むのは必要だったわけ」
「つまり・・・私がイオンにダアト式封呪を解かせることも計算のうちか」
「ご名答」
リリスのその言葉に解りにくくはあるが、確かにヴァンは悔しそうに顔を歪めたように見えた。
「さて、察しの良いヴァン謡将に質問です。まさかこの状況で、これ以上目的を果たせるとは思ってないでしょうね?」
パッセージリングが修復されたことで崩落の危険がなくなり戦うことに支障がなくなった面々は、各々ヴァンに向かって武器を構えて戦闘の姿勢に入っている。
アッシュを抱えながらも剣を抜いてこれ以上ヴァンを近づけないように必死で威嚇している。
さらに後ろには得体の知れないリリスが構えているという状態に、ヴァンは孤立無援となっている自分の明らかな不利を悟って怪鳥に合図を送るとそのまま上空へと逃れる。
「今は退かせてもらおう。だが次はこうはいかない」
「待って兄さん!もう馬鹿なことはやめて!」
「メシュティアリカよ。お前にもいずれこの世界の仕組みの愚かさと醜さが解るはずだ」
「兄さん!!」
悲痛な妹の叫びにもいっさい耳を傾けることなく、ヴァンは次にルークとアッシュの方に目をやるとそのまま何も言うことなく三羽の怪鳥と共にその場から飛び去っていった。
ヴァンが去っていった方向を強い目でじっと見つめていたルークだが、暫くすると悲痛に顔を歪めてアッシュを強く抱きしめながら顔を伏せて辛そうに言葉を搾り出した。
「アッシュ・・ごめんな・・・ごめん・・・」
涙を流すことなく泣き続けながらルークはただそう言い続けていた。
眠り続けるアッシュの手が自然と自分の手を握り締めていることに気づかぬほどに。
あとがき
お久しぶりな割りに相変わらず支離滅裂ですいません・・・;
今回色々なところをすっとばしつつ、なし崩し的にアクゼリュスまできてしまいました。
リリスが性懲りもなく出張っております;
ルーク主役なのに出番が何だが少なくて本当に申し訳ありません(土下座)
アクゼリュス崩落については当初は安全降下させようと思ってたのですが、それだともう1つのパラレルと同じになってしまうので、リリスなんてイレギュラーもいることですしパッセージリング直して外殻大地にとどめてしまおうかと・・・;(本当にすいません;;)
アルバート式封呪に関してはまあ、なんとか考えてます;(結局頼みの綱は奴だと思いますが・・・)
ちなみにあの妙なアイテムは件の妹さんがまた何時の間にか持ってきてくれました。
はい、次回裏はいる予定です・・・・・(おいっ)
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