Puzzle game
9:Excuse
朝早くセントビナーの宿を出た一同は、フーブラス川を渡って国境であるカイツールに無事到着した。
そしてカイツールを入って少し行った先の検問所で、先日別れ別れになってしまったアニスの姿を発見した。
「アニ・・・」
「・・・月夜ばかりと思うなよ」
なにやら検問でマルクトの兵士と話しているアニスに、ティアは声をかけようとした瞬間、振り返ったアニスから聞こえて黒い一言に思わず固まってしまった。
その様子を見たイオンは少し苦笑を浮かべ、こちらに全く気づいていない様子のアニスに声をかけた。
「アニス。ジェイドに聞こえちゃいますよ」
イオンの声を耳にしてようやくこちらの存在に気づいたアニスは、はっとして何時もの態勢を取り繕うと猫を被っていた。
「大佐〜。もう心配してました〜v」
「はい、はい。アニスも無事で何よりです。何しろ、親書が一緒がなくては話になりませんから」
「・・・大佐って意地悪ですぅ」
ジェイドの言葉にがっくりと肩を落としたアニスの姿に、何度見ても飽きないとばかりに笑いを堪えるリリスを身ながらルークが溜息をついたその時だった。
「導師イオン・・お捜ししましたぞ」
その声に一同は声の主の方向を一斉に振り返った。
その中でもルークはその声が聞こえた瞬間からとても緊張した面持ちだった。
無事だとは解っていたが、ちゃんとした無事なアニスの姿を安心して気を抜いていたため、カイツールで彼が現れるという事をすっかり忘れていたのだ。
「ヴァン・・・何故貴方がここに?」
しかしルークだけでなくヴァンに向かって尋ねるイオンも、他の面々もヴァンを目の前に内心緊張した様子だった。
特に前の時間の事を知っている面々は、彼が黒幕であるという事がわかっているためなおのこと緊張を強めていく。
「導師が行方不明と聞きお捜しておりました。・・・私と共にこのままダアトにお戻りいただけませんか?」
「それは・・・今はできません。僕はマルクトからキムラスカとの仲介を頼まれ、ピオニー陛下の親書を持ってバチカルに向かわねばなりません」
「そうですね・・それに、本当にイオン様をダアトにお連れするつもりなんですか?」
「・・なに?」
「・・・道中を六神将に襲われたのよ。その上に立つ兄さんを信用できないのは当然じゃない」
「ティア!?」
ジェイドの挑発といえる言葉にも冷静に対応して見せたヴァンだったが、ティアの声と姿をようやく確認した瞬間明らかに動揺の色が見えた。
「・・・何故、お前がここにいる?」
「モース様からの任務の途中、イオン様にお会いして道中お手伝いをすることにしたからよ。それよりも兄さんこそ大佐の言うとおり、本当にイオン様をダアトに返すつもり?六神将のことはどう説明するの?」
ティアの上手い言い訳を信じたのかどうかは解らないが、指摘を受けたヴァンは少し黙り込んだ後、全く迷いのないような口調ではっきりと告げた。
「六神将が動いている事は私は今まで全く知らなかった。彼等は私の部下だが大詠師派でもある。おそらくは大詠師モースの直接の命令で動いているのだろう」
「・・・じゃあ、兄さんは無関係だって言うの?」
「いや、部下の動きを把握できていなかったという点では無関係ではないな」
確かにその言葉は部下の行動に責任を感じているもので、逆に彼を六神将の思惑とはまったく関係ないものだと思わせるようなものだった。
しかしルーク達は、これが計算されたヴァンを疑わせないための上辺の言葉だという事を知っている。
かつては盲目なまでに師を慕っていたとはいえ、この言葉にまんまと騙され、ティアの言い分を頭ごなしに否定していた自分の馬鹿さ加減にルーク内心苦笑していた。
「だがとのかく六神将の上にたっているとはいえ、私は大詠師派ではない。モース殿とは関係がない。六神将にも余計な事はせぬよう命令しておこう。効果の程はわからぬがな」
「とかなんとか・・・口では何とでも言えますよね〜〜」
ヴァンの何も知らなければ全員が納得がいくような言葉に、楽しげな言葉で横槍を入れたのはそれまで珍しく黙って話を聞いていたリリスだった。
「・・・リリス?」
「犯罪者が自分から自分が犯人だって言うわけないし。ここでわざわざ自分から黒幕だって名乗り出て私達の警戒を強める必要性ないですしね〜。寧ろ味方の振りして後で、背後をばっさりっていうほうが楽でしょうし」
「リリス!」
リリスの完璧に挑発といえる言葉の数々に、思わずルークも慌てて彼女の名前を呼んで止めようとする。
それでも満面の笑みを浮かべて自分の言葉に満足しているリリスの姿を見て、ジェイドはやれやれといった様子で溜息をついて多少面食らっている様子のヴァンに声をかける。
「すいませんね、ヴァン謡将。私の副官は少々口が悪いものでして」
「・・いや。気にしてはないが、私は何か彼女の気に触ることでもしたのだろうか」
「いえ、いえ。単になんとなく信用の出来そうにない顔だな〜と思ってるだけですから」
「・・どうすれば、信用してもらえるのだろうか?」
またもや完全に挑発を仕掛けている様子のリリスに、さすがのヴァンも多少顔を引き攣らせそうになりながらもそう尋ねてきた。
するとその言葉を待っていましたというように、リリスは人の悪そうな笑みを浮かべるときっぱりと告げた。
「そうですね・・・貴方が私達の目の前で、六神将の・・・そう、貴方の1番の右腕と名高い魔弾のリグレットあたりに、死ぬほどの重症を負わされたり殺されたら、信じてあげましょう」
「なっ!」
「カバラ少佐!?」
「リリス!」
さすがにリリスのこの言葉にはヴァン本人や事情全く知らないアニスやイオンは勿論、事情を知っている面々も完全に面食らって数名は声を上げていた。
それでもリリスは自分の言葉にまた満足そうに笑うと、適当な言葉を残してその場を抜け出したのだった。
「・・・なあ、リリス。お前もしかして師匠の事嫌いか?」
船の中での唐突なルークの言葉に、リリスは顔を上げて首を傾げていた。
「なんで?」
ルークの言葉に至極不思議そうに尋ねてくるリリスに、ルークは思想外のことに思わず面食らって目を丸くしてしまった。
「・・だって、あれだけ師匠に絡んでたじゃないか」
「ああ・・あれね〜」
まるでなんてことはないようにいつも通り呑気に言葉を口にするリリスに、気にかけていた自分は何なんだと思いながら溜息をついた。
「別に嫌いじゃないわよ。私基本的に人間は好きし。面白いから」
「・・・結局、お前は面白ければ何でもいいのか・・・」
「基本はね。ま、確かに気にくわないところがあることにはあるけど・・・」
「・・言ってることめちゃくちゃだぞ」
「さて問題です。戦争やら何やらで1番被害被るのは誰でしょう?」
呆れたルークの言葉は完全に無視し、いきなり質問してくるリリスに、ルークはまたもや深い溜息をついてから自分が思っている事を答えにした。
「誰って・・・戦争に関係ない一般の人達・・・」
「ぶー!はずれ。ま、あながち間違いでもないけど・・・・・それは、人間だけの視点ね」
「人間だけの・・・視点?」
リリスの言葉に首をかしげるルークに、リリスはこくりと頷いて話を続ける。
「世界に生きてるのは人間だけじゃないでしょ。人間の人間による人間のための戦争で1番被害を受けるのは・・・世界の法則をきちんと守って生きている人間以外の生き物よ・・・」
「あっ・・・」
「だけど人間は自分達の視点でしかものを見ないから、人間以外の生き物の事はかえりみない。勿論世界そのものこともね。あのヴァンって奴は最たる例ね」
「・・レプリカ計画は・・・結局、人間だけのためのものだから?」
「ご名答。といいたいところだけど、あれは人間のためというよりも・・・ヴァン自身のだけのためって感じね。一部の連中を除いて他は全部反対していたことだしね」
「・・・・・・・・」
「周りの意見に耳を傾けず我を通そうとするのは別に構わないけど・・・それをした時点で自分の考えはもう絶対周りに受け入れられないって自覚しなきゃ。あいつは自分の都合でしか周りを見ていないのよ、結局」
「・・・それは」
「まあ、でも・・・私があいつを気に入らないとおもう最大の理由はそこじゃないけど・・」
「まだ何かあるって言うのか?」
リリスの言葉に半ば納得していたルークは、さらにリリスが何を言うのかと少し緊張した様子だったが、当のリリスは先程までの真面目な空気を一変させ何時もの様子に戻っていた。
「あいつ・・・自分の妹の言葉にさえ一切耳かさなかったでしょ?私には考えられないわね〜。私だったらイブのお願いは何でも聞いてあげたいんだけど・・・」
「・・・おいっ」
リリスのあまりのふざけた発言にルークは顔を引き攣らせてしまったが、リリスはいたって気にしていないといった様子だった。
「まあ、いいじゃない。てなわけで、今後私あいつに突っかかっていくかもしれなけどよろしく!」
「よろしくじゃないだろう。しかもそんな楽しそうに・・」
リリスのある意味無責任な発言に文句を言おうとしたルークの言葉は突如聞こえた轟音によって掻き消された。
「な、なんだ・・・?!」
「ん〜・・サフィっちが着たかな?」
リリスが行ったサフィっちと言うのがルークは一体誰の事か一瞬解らなかったが、前の時間でこの船に乗っていたときの事を思い出し、それがディストである事を察した。
「ディスト?だけど・・・音符盤のデータは今回持ってないんだぜ」
「音符盤はなくても、イオンと親書はあるでしょ?」
リリスのその言葉にはっとしてルークはすぐにイオンがいるであろう甲板に向かうべく部屋を急いで後にしたのだった。
その後姿を見送りながら、ゆっくりを立ち上がったリリスは楽しそうに笑みを浮かべた。
「ふふふっ・・じゃあ、サフィっちでもからかって遊びますか」
その言葉はまさにディストにとって不幸への第一歩と同じであった。
ルークが船橋へと到着すると、そこには既に集まっていた仲間たちとディストとの間で一悶着が起きていた。
もっとも一悶着と言うよりは漫才に近いものであった。
「我こそは神託の盾六神将・薔薇の・・」
「おや、鼻垂れディストじゃないですか」
「薔薇!バ・ラ!薔薇のディスト様だ!」
「死神ディストでしょ」
ジェイドから思いっきりからかわれ、アニスから突っ込みを受けてディストが空中で地団太を踏む中、ルークはその光景を呆れた様子で眺めながら一同に合流した。
「おや、ルナ。ようやく来ましたか」
「ああ・・・それにしても、なんというか緊張感のかけらもないな・・・」
「ま、相手が鼻垂れだから仕方ないですよ」
「だから薔薇だっていってるでしょうが!」
本気で文句を言うディストにまったく気にせずからかうジェイドにルークは苦笑を漏らしていた。
「それにしても大佐・・私は同じ神託の盾騎士団だからとして・・・大佐はなんでディストと知り合いなんですか?」
アニスのその質問に反応したディストは、何故か少し自慢げに答える。
「そこの陰険ジェイドは、この天才ディスト様のかつての友」
「どこのジェイドですか?そんな物好きは」
しかし結局はジェイドにまたからかわれ蔑ろにされ、先程の状態に逆戻りになるその姿に、その場にいる殆どのものが呆れた様子で2人が言い合う様子、というよりもディストが一方的にジェイドにあしらわれる姿を眺めていた。
そしてついに我慢の限界が来たようだった。
「この私のスーパーウルトラゴージャスな技をくらって後悔するがい」
「へ〜〜・・誰が後悔するの?」
怒りに任せたディストの言葉は楽しげな声に遮られ、全員がその声の方向を向くと、そこのには予想通りとても楽しそうな笑みを浮かべたリリスの姿があった。
「リリス・・・お前、今まで何してたんだよ?」
「ふふっ。主役は遅れてくるもんよ。ルナ」
リリスのその言葉にルークだけでなくほぼ全員があきれを含んだ表情になったが、すぐに聞こえてきた怯えたような声に一同は再度ディストの方を振り返った。
「・・り、リリス。な、なんであなたがここにいるんですか?!」
「サフィっちお久しぶり〜vっていうか、なんでで・・・私は大佐の副官なんだから当然でしょ」
「き、聞いてませんよ!・・はっ、まさか・・・エンゲーブ付近でアッシュ達に妙な術をかけたというのは・・・」
「うん。私〜〜」
リリスのきっぱりとした明るい声に、逆にディストからは絶望の篭った悲鳴が上がった。
「あーーーー!私とした事が〜〜〜」
「貴方も『妙な術』というところで少しは気づいたらどうですか?・・まあ、この件に関しては一応同情してあげますが・・・」
「大佐〜〜?それどういう意味ですか?」
「・・・お前の日頃の行いだろ」
引き攣った顔のルークに突っ込まれてもそれあっさりと無視し、リリスは笑顔のままディストに向かって一歩一歩近づいていく。
逆にディストは宙に浮かぶ椅子に座ったままゆっくりとリリスの歩調に合わせて後退していく。
「そ、その・・・き、今日のところは勘弁しておいてあげましょ・・・」
「勘弁してもらうの間違いじゃないですかぁ?」
いつの間にそこに移動したのか解らないが、ディストの背後を取っていたジェイドが彼から逃げ道をなくしていた。
「じ、ジェイド・・・」
「いや〜。私だけ普段からカバラ少佐の被害受けて不公平ですし・・・ここは友人として公平に同じ目にあってください」
「貴方さっき私と友だということを否定しませんでしたか?!」
「そうでしたか〜?」
顔を引き攣らせながら必死に悲鳴に近い声、否実際悲鳴といえる声を上げるディストに対し、彼を追い詰めるジェイドの様子に一同は同じ考えを抱いていた。
「なんか・・・大佐がカバラ少佐に見えるんだけど・・・」
「確かに・・・見えるわね・・」
「ジェイド・・・やっぱり色々と溜め込んでたんだな・・・」
遠い目をする面々の中で、特にルークは普段のジェイドのリリスからの被害の数々を目の当たりにしているせいもあり、目の前で悲鳴をあげるディスト以上にジェイドに同情の念を送ってしまっていた。
もっとも現在のジェイドの調子半分はディストと言う格好の標的を目の前にし、リリスによって隠れてしまっていた本来の彼に戻ってきているのかもしれない。
「ふふふっ・・・大佐もこう言っていることだし・・・・・遠慮はいらないわよね?サフィっち」
「お願いですから遠慮してください!!この状況だと何の慰めにもなりませんから!」
「さよならディスト・・・貴方の事は、多分一応忘れないと思いますよ」
「そんな微妙な台詞止めてください!」
「サフィっち〜。今回もゴキブリ並みの生命力フルに発揮してね〜」
「ゴキブリって・・・リリス〜〜!後生だから見逃してください!」
「やっv」
ディストの懇願に対してリリスが何の慈悲もなく笑顔で告げた短い一言が決定打だった。
最早助かる見込みがないという事を悟ったディストが顔をよりいっそう蒼褪めさせた瞬間、ジェイド達曰く『妙な術』が容赦なく発動し、ルークがいつか見た光景の通り、ディストは座っている椅子ごと悲鳴と共に吹き飛ばされ、その後海の中へとあえなく沈んでいった。
「ふぅ。あ〜やっぱりサフィっちいじめるのは楽しいわv」
「・・・お前、いい加減にしろよ」
非常に良い笑顔でディストが沈んでいった先を眺めるリリスに対し、ルークは何度目になるか解らない突っ込みをやはり顔を引き攣らせながらポツリと告げた。
こんな調子で本当にインゴベルト六世との謁見は大丈夫なのかと、ルークはもちろんその場にいた殆どのものの不安を今更ながら募らせる中、ろくにリリスへ注意する暇もなく無情にも船はバチカルの港に到着したのだった。
あとがき
今回今までの中で1番短かった上に話がめちゃくちゃですいません;
ルークの出番もなんだか少ないですし・・・・・(何時もの事でしょうか?)
でも書いてて私的に楽しかったですけどね、大佐とリリスに苛められるディスト。
出来ればもうちょっと長引かせたかったのですが・・無理でした;
ちなみにリリスはヴァンのこと人間としては別に好きでも嫌いでもないけど個人としては気に入らないといった感じです。(なんだそれ・・・?)
本人言っていたようにこれからも突っかかっていくと思われますがどうかご容赦ください。
次はバチカルと言うことで、いよいよあの2人の登場です。
ようやくこれでパーティメンバー全員揃います〜。