Puzzle game
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グランコクマの街をルークは逃げ回っていた。
誰とは言わずもがな、自分の(一応)世話係(ということになっている)リリスからである。
別にリリスが何かしようとしたわけではない。
否、厳密に言えば既にしてしまった後といっていい。
それはルークがアッシュと会ってしまったケテルブルクの件の事だった。
リリスがあの件を多少予定外はあったものの、実は概ね自分が仕組んだ事だとルークに告白すると、ルークは放心状態の後
顔を沸騰させたように真っ赤にさせ、怒鳴ると怒って部屋から飛び出してしまったのだ。
それを慌てて謝りながらリリスが追いかけるという構図が成り立っている。
ただしリリスの様子は最初こそちゃんと謝っているようだったが、今ではあからさまにこの鬼ごっこを楽しんでいるようにも見える。
それがかえってルークの怒りに拍車をかけ、不機嫌さを募らせたルークは余計に必死になって逃げ回っているのだ。
もっとも性格の悪いリリスはそんな状況さえも楽しんでいるようだった。
「ルナーー!まってってば〜〜」
さすがにルークという呼び名はまずいということで、外に出ている時の偽名として名付けられた『ルナ』という呼び名。
その呼び名で呼んでもルークは頑として一向に振り返ろうとも返事をしようともしなかった。
勿論そのルークの様子にリリスは機嫌を悪くするわけでもなく、自分の態度を反省するわけでもなく、本当に心底楽しんでいる様子だった。
やがてリリスの声も聞こえなくなり、ルークがちらりと後ろを振り返ってみると彼女の姿は見当たらなかった。
なんとか巻いたかとほっと一息つき、人通りの少ない路地で身体を休めようとその場に立ち止まった。
すると突然後ろ身体を拘束され、後ろを振り返ろうとした瞬間口元に何やら布を当てられる。
その布には明らかに何かの薬と思われるものが含まれていて、ルークはあまりの急展開に事態がつかめぬまま徐々に意識が奪われていく。
そして薄らいでいく意識の中、ルークは自分と同じ赤を見たような気がした。
目覚めてみてもルークはまた暫しの放心状態になってしまった。
身体は固定され身動きがとれない状況ではあるが、それ自体はこの際どうでもいい。
否、どうでもいいというわけではなく、身体の身動きがとれないことそのものよりも、身動きがとれないその理由と今いる場所がルークにとっては更に重要な問題だからだ。
何かの機械の上に身体を拘束され、周りは古びた壁に囲まれている大きな部屋。
それはルークが過去に、正確には前に辿った時間で体験したことのある事態だった。
コーラル城の例の巨大な音機関、シンクとディスとの2人によって自分の同調フォンスロットを開かれたあの場面である。
しかし時期がまだ早すぎる。
フォンスロットを開くあの作業は自分の最初の旅の時に行なわれたものであるから、本来なら後2年は何もないはずである。
それに自分の事はヴァン達に知られていないのだから、自分がここに連れてこられてフォンスロットを開かれるという作業自体されるはずがない。
そもそもあれはアッシュが自分と連絡を取るためにシンク達にさせた作業であり、本来ならヴァンには好ましくない事のはずである。
ふとルークはだからあの時ヴァンは自分に、「コーラル城に行く必要はない」と言うようなことをいっていたのだなと、今更ながらに悟ってしまった。
アリエッタがアッシュに頼まれたと言った時点で勘付いていたのだろう。
それでなくてもシンクから何かしらの事後報告はされているはずである。
それにも気づかず、人1人の命がかかっていたにも関わらず、ヴァンが行く必要がないと言っただけで、あっさりと「行きたくない」などと口に出来たあの頃の自分は、本当にどうしようもない馬鹿だったなと、ルークはどこか自嘲じみてしまっていた。
しかしそういうことを考えてみてもやはりこの状況はどう考えてもおかしかった。
一瞬、リリスが何かまた企んでいるのではと思ってしまったが、何故かあいつではないだろうなと思った。
そしてリリスの事を思い出すと同時に、ルークは自分がグランコクマで気を失う直前の事を思い出した。
確かにあの時自分は薄らぐ意識の中で、自分とそっくりの、しかし自分よりも濃い赤を見たような気がした。
そしてそれを思い出した瞬間、みるみるルークの顔色は悪くなって言った。
この世で自分と同じ赤など1つしか思い当たらないし、それになんとなく彼が犯人ならばこの状況にも説明が行くような気がした。
「・・・ようやく目が覚めたか」
ルークの考えを肯定するように声がした方に顔を向けてみれば、そこにはルークの予想通りアッシュがこちらを見て立っていた。
アッシュの顔を見た瞬間、ルークはまた会えた嬉しさとは反面、前回の事を思い出して恐怖から顔が徐々に青褪めていく。
そのルークの様子をどことなく察したアッシュが、少し不機嫌そうに表情を変えた事にルークは気づかない。
「何を・・・」
何をしているか、されたのかはルークも解っている。
ルークが尋ねたのはそういうことではなく、何故アッシュがこの早すぎる段階で自分のフォンスロットを開くような真似をしているかという事である。
しかしそんなルークの心情をアッシュが知るはずもなく、アッシュはルークの言葉通りの質問と解釈し、その答えを意外にもあっさりと口に出していた。
「お前の同調フォンスロットを俺側に向けて開くように操作しただけだ」
「・・・お前、1人で?」
それはルークにとって当然の疑問だった。
前の時はアッシュ本人はおらず、シンクとディストの2人、主にディストが音機関を操作して自分の同調フォンスロットを開かせていた。
アッシュ1人でこれだけの大掛かりな装置を動かす事が出来るのかルークには疑問だったが、アッシュはルークの言葉に少し眉をしかめてあっさりと肯定した。
「そうだが・・・・・」
そう言って何故かアッシュの機嫌が微妙に降下していくのをルークは感じた。
何故そこで降下したのかは解らなかったが、ルークはこの状況はまずいとなんとなく感じ取っていた。
そんなルークの頬にアッシュは自分の手を添え撫で、その表情はルークにとってはどこか恐怖を感じさせる笑みに歪んでいた。
「・・・では、成功したか確認させてもらおうか」
そう言われた瞬間今までルークを拘束していた力がいっきに消え、音機関がアッシュによって停止させられた事が解った。
しかしそれとほぼ同時に感じた良く身に覚えのある頭痛に突然襲われ、同時にますます笑みを深くさせていくアッシュの表情に、ルークは嫌な予感を次第に強くさせていった。
身体的にも精神的にもぼろぼろに犯しつくし、今は深い眠りについてしまったルークを抱きかかえながら、アッシュはどこか満足そうに笑っていた。
しかし自分でもどうしてこんなに満足なのか解らない。
自分の居場所を奪うはずだったレプリカをぼろぼろにした為といえば、ある意味納得はいくのかもしれないがそうではないと思っていた。
何故なら自分は憎いと思う相手を抱いて喜ぶような趣味は持ち合わせていない。
例えそれで相手に対して身体的にも精神的にも強いダメージを与える事が出来たとしても、そんなことをすれば自分も逆に不快になる。
ようするにプライドの問題である。
なら何故ルークを抱いてここまで満足しているのかと、また疑問は振り出しに戻ってしまった。
そもそも自分は本当にこいつに対して憎しみの感情があったのだろうかとさえ思ってしまう。
しかし確かにそれはあったはずだと首を横に振る。
その選択がある意味正しく、またある意味間違っている事をこの時のアッシュが気づくはずはなかった。
ただルークを憎んでいるはずだとそれで納得してしまった。
そしてそれと同時に今1つだけ確実にはっきりしている事がアッシュにはあった。
ルークをこのまま帰したくはないということ。
それがどうしてなのかやはりアッシュには正確なところは解っていなかった。
ただはっきりと帰したくないという感情がある事は理解していた。
正確には自分の傍から離したくはないということだった。
あれだけ乱れきったルークを堪能し、しかもルークの精神面を覗いてみれば、恐れと恥じらいで拒否する反面、それ以上に悦んでいる彼女がいるのを知って自然と笑みが浮かんでいた。
あんなものを見た後で、知った後ではルークを自分の傍から離すことなどできない。
ルークは自分以外のものの痣はつけないと誓ったが、それがどこまで本気かは解らない。
さすがにルークの1番肝心な心の部分はルークが必死で守ったため、どうしても覗く事が出来なかったためにアッシュはルークが自分に向ける感情を未だ知らない。
その為、快楽を与えてくれる相手であれば自分以外にもああして乱れるのではと思ってしまう。
そう思うと腹立たしくて仕方がないが、やはりアッシュには何故そう思ってしまうのか今は理解が出来ていない。
ただそうなる事を予想するとアッシュはとても不快に感じてしまい、このままルークを自分の傍から離すことをしたくないと思ってしまう。
いっそ自分だけしか知らない何処かに閉じ込めてしまおうかと思ってしまう。
そう考えた瞬間、アッシュの口角がつりあがった。
「そうだな・・・それが良い・・・」
そう独り言を呟いてアッシュはルークを抱きかかえたまま立ち上がった。
本来ならここにルークを連れてきて同調フォンスロットを開いたのは、今後ルークと連絡をとって接触を取りやすくするために今回無茶をして行なったのだ。
その為本当に攫うつもりなどまったくなかったのだが、今となってはその考えは完全に逆転してしまっている。
そしてそのままその場を後にしようと歩を進めようとしたが、後ろでした微かな物音に瞬時に振り返る。
しかし振り返ってみたもののそこにはなにもなく、アッシュは気のせいかとそこから目を逸らすと腕の中で気絶しているルークに目を落とした。
しかしその瞬間アッシュは我が目を疑った。
先程まで確かに抱きかかえていたはずのルークの姿はそこにはなく、確かに彼女を抱えている重みを消えうせていた。
何が起こったのか解らず呆然としていると、突然先程振り向いた方角から楽しげな女性の声が聞こえてきた。
ルークとは違う、どこかからかいを含んだその声が。
「いや〜〜、危ないわね。さすがにここで攫われるわけにはいかないしね〜〜」
その声に反応してすぐさま振り返ってみると、そこには確かに先程の自分と同じようにルークを抱きかかえている女性が立っていた。
「・・・っ・・」
「駄目よ〜。いっくらほしいからって攫おうとしちゃ〜〜。あ、でも時期がきたら別に良いけどね」
「何だ?お前は?」
訳の解らない事を口にする得体の知れないその人物に、アッシュは警戒の色を強めながら剣に手をかける。
そのアッシュに対してにっこりと微笑みながら彼女は名乗った。
「一応、マルクト軍第三師団副師団長兼ルークの世話係のリリス=リリン=カバラ少佐よ。あ、でも覚えなくて良いから」
リリスは1度言葉を切ってにっこりと微笑むと、非常に楽しそうな声で続きを告げた。
「だってあなた、すぐに私と会ったこと綺麗さっぱり忘れるから」
「・・何を訳の解らない事を・・・そいつをこっちに返せ!」
リリスの言っている事はアッシュに当然理解の出来ない事であった。
しかしアッシュの中で無意識のうちにこの目の前のリリスという存在に対して危険信号を発していた。
敵に回すのは非常に厄介な存在であると。
逆にそれゆえのアッシュの焦りようが手に取るように解るリリスは、とても楽しそうに笑いながらアッシュに向かって口を開いた。
「ふ〜〜ん・・返せねぇ。すっかり自分のモノ扱いね。・・・・・・まあ、あながち間違いじゃないかもしれないけど」
後半部分はかなり小声で呟いたためアッシュには聞こえていない。
しかしリリスにとっては内心かなり楽しい展開である事に変わりはない。
同時に少し困った展開であるのも事実であるが。
何しろルークをここで連れて行かれるわけにはいかない。
主役のいなくなる物語など成立するはずもない。
ましてや今のルークに対する感情にまったく自覚のないアッシュにルークを託すのは、正直リリスの中のとてもとても小さい僅かな良心が駄目だと判断を下していた。
そして仕方ないといったようにわざと溜息をつくと、リリスは一歩アッシュに向かって歩み出る。
そのリリスの動きに対し、怯んだように一歩後退するアッシュに、リリスはやはり面白そうな笑みを浮かべ、それがアッシュを余計不愉快にさせていった。
「・・・何がおかしい」
「ん?あんたのそのお馬鹿さが」
「・・ばっ・・」
侮辱されて頭にかっと血が上ったアッシュだったが、次の瞬間に起こった事にさっとすぐに血の気が引いた。
先程までそれなりの間合いにいたはずのリリスが、いきなり目の前に現れてその掌を自分の額に当てているのだ。
「なっ・・・」
「んじゃ、私に会ったのとルークを連れて行こうとしたあたりの記憶、他必要なところ適当に改変させてもらうわね」
リリスがそう告げるとアッシュは頭に強い衝撃のようなものを感じ、大きく目を見開いた次の瞬間にはその場に崩れ落ちるように倒れこみ完全に意識を失ってしまっていた。
そのアッシュの様子を見て記憶の変更に成功した事を確信したリリスは未だ気絶したままのルークを抱え直した。
「・・・じゃ、行きますか」
そう言うとリリスはいずれ勝手に起きて帰るであろうアッシュを無情にもその場に取り残し、ルークだけを連れてグランコクマに帰るべく歩き始めた。
アッシュがこの段階でルークと回線を繋いだ事から、また1つ歴史の流れが変った事に面白さを感じ性質の悪い笑みを浮かべながら。
「やっぱ、人間って面白い」
その本当に性質の悪い言葉を聞く者など、その場に誰もいるはずはなかった。
あとがき
またもや不完全版でお目見えです。
完全版はちゃんと裏に上げていますので、隠し見つけられていて、尚且つ規制に該当されない方はそちらもどうぞ。
まあ、そんなに勧められるようなものでもない気がしますが・・・
リリスは本当に性格が悪いですな〜〜(自分で作っておいて言うな;)
モデルになった某方とどっちが性質悪いかと思っていたりします。
こっちの方が性質悪いような気がしますが・・・
それはさておき、次回からようやく本筋に入って行けそうな気がします。
なんというか、アッシュが本当にしつこかったです・・・(おいっ)