Puzzle game
5:Rescue




それはルークの外見としての年齢、17歳の誕生日が間近に迫ってきたある日の事だった。
自室に入ってきたルークは瞬間的に目を丸くして驚いた。
自分の部屋に勝手にリリスが入り浸っているのは何時もの事だ。
いつも部屋にはきちんと鍵をかけて出かけているにもかかわらず、帰ってきてみると何時の間にか室内に陣取られているのは何時もの光景。
自分の知らぬ間に合鍵でも作ったのか、さもなくば神様特有の変な術でも使ったのか知らない。
もっともそんな変な術を使う神様なんて嫌だが、リリスならやりかねないし持っていかねない。
しかし今の状況でそれは一先ずおいておこうとルークは心の中をなんとか整理させた。
何故ならそれよりも重大と思われる状況が現在目の前で展開されているからだ。
何時もならリリスしかいないはずなのに、今日は他にも人がいてその人物とリリスは楽しげに談笑していた。
それもルークの知らない人物である。
しかし知らない人物というだけならルークもここまでは驚きはしない。
問題はその人物の外見である。
リリスより少し濃い目の紫の髪に、リリスと対になる銀色の目をした、おっとりとして優しそうな女性である。
ここまではさして問題はない。
問題はそれ以外の、彼女のその服装と、何よりも背中から生えている翼だった。
まともな人間にこんなものが生えているはずがない。
ルークがその人物の姿に呆然としていると、ルークが帰ってきたことにようやく気づいたのかリリスが声をかけた。
「あっ、ルークおかえり〜〜。ピオニー達とは話ついた?」
「あっ・・ああ・・・」
リリスに声をかけられてもまだ半ば呆然としているルークの視線は謎の人物に注がれている。
その視線にようやく気づいたのか、その人物はにっこり微笑んで挨拶をしてきた。
「こんにちは。お邪魔してるね」
「あ・・はあ・・・」
「でももうこんな時間なんだ。話に夢中になってて気づかなかった」
「ん?もう帰るの?」
虚空を見上げて少し考えるような素振りを見せるその人物に、その意図を察したリリスは少し残念そうに尋ねた。
「うん。私も残念だけどそろそろ帰らなきゃ。渡すものも渡したし」
「わざわざありがとね」
「ううん。私も久しぶりに会えて嬉しかったから・・・あ、でもなるべく早く帰ってきてね。アッくん凄く寂しがってるし」
謎の人物が口にした最後の方の言葉を聞き、リリスはどこか少しだけ困ったように苦笑した。
「あはははっ。じゃあ、今回のが終わったら1回帰るって伝えておいて」
「うん、わかった〜〜。じゃあお邪魔しました」
「あっ・・はあ・・」
おぺこりと笑顔でお辞儀をしてきた相手にルークは反射的にお辞儀をし返す。
そしてくるりと振り返るとその人物はリリスに向かって満面の笑顔で口を開いた。
「じゃあ本当に早く帰ってきてね。バイバイ、お姉ちゃん」
「解った〜。彼によろしくね〜」
リリスと謎の人物が互いに手を振り合い、リリスに笑顔の言葉で送り出されると、その人物はその場から文字通り姿を消した。
まるで最初からそこにはいなかったかのように一瞬のうちに。
そして謎の人物が去った場所に少しの間視線を固定していたリリスだったが、すぐに視線を未だ呆然としているルークに向けると如何にも楽しげといった何時もの笑みで口を開いた。
「で、ピオニーの許可も出たんでしょ?それじゃあ、早く行きましょうか」
「あ、ああ・・・そうだな」
リリスのその言葉でようやく我に返ったようなルークは、なんとか頭の中を本格的に整理し始める事ができた。
翼が生えていて、いきなり姿が消える人物。
非常識極まりないが、リリスという存在そのものが非常識なのだから、あれもありえることだろうと、ようやくなんとか納得できるまでにはなっていた。
ましてやあの様子からリリスのかなり親しい知り合いのようなのだから、あの非常識さも当然といえるのかもしれない、ひょっとしたらリリスと同じ神様、という類に属する存在かもしれないとルークは考えていた。
そしてそこでふとルークは何かひっかかりを覚えた。
何かあの人物は去り際にリリスに向かってとても重要且つ衝撃的な事を言っていなかっただろうかと。
そして頭を全力で回転させ、ようやく解ったそのひっかかりに、ルークは思わず驚愕の声を上げていた。
「って!おねえちゃんっ!!?」











ルークとリリスはテオルの森を抜け、エンゲーブを経由してチーグルの森の更に北の森にやってきていた。
ここに来るためにルークはずっとピオニーを説得し、ようやく許可が下りてこられにもかかわらず、先程からルークの溜息は止む事はなかった。
それというのも、出発前にグランコクマの自室での出来事が原因だった。
また1つ溜息をつくとルークはちらりとリリスを見て、それからまた深い溜息をついた。
「・・・お姉ちゃん・・・お姉ちゃんねぇ・・・・・まさか、お前に妹がいたとは・・・・・世界の脅威だ」
「失礼ね。それどういう意味?」
「お前の今までの行いを振り返ってみろ・・・」
ルークにそう言われてリリスは宙を見上げて考え込んでみる。
そしてぽんっと手を打って思い当たったことを口に出してみる。
「それって、この世界の時間を逆行させたり、あんたを女の子にしたり・・・」
「そうそう」
「面白そうだと思って、ジェイド達の記憶いじって、人間になりすましてマルクト軍に入り込んでることとか・・・」
「そうそう」
「あんたがアッシュに1ヶ月に1回は呼び出されてやられちゃってるのをだま〜〜って見守ってるのとか?」
「そうそ・・・ぶっ!!」
それまで的確なリリスの言葉に頷いていたルークだったが、さすがに最後の方はまずかったのか思わず噴出してみるみる顔を真っ赤にさせていく。
それをリリスは非常に意地の悪い笑顔で見ていた。
「ふふふっ・・・本当に、ご馳走様ね」
「・・り、リリス・・・お前・・・」
「仕方ないでしょ。私が見張ってないとまたあんたアッシュに攫われそうになる可能性大よ。・・実際、何度かあったし」
「うっ・・それは・・・」
コーラル城での事の顛末をルークはリリスから聞かされていた。
さすがにルークもあそこで攫われるわけにはいかなかったので、リリスが半ばデバガメしていたこと事態は許したのだ。
何しろあれはリリスにとっても計算外であったのだから、結果的に助けられた事には変らないのでリリスを怒る事はできなかったし、その前にあったケテルブルクの件もそれで許す事になった。
しかし記憶は多少いじたっとはいっても、回線を開いた辺りの事は当然ちゃんとアッシュの記憶に残っている。
その為ルークはあれ以降、何度か回線を使ってアッシュに呼び出され、最低でも1ヶ月に1回はそういう行為に及んでいた。
ルークがアッシュの誘いを断る事など出来るはずもなく、だからといってまたアッシュが衝動的にルークを攫おうとすることがないとは言い切れない。
そこでリリスが密かに見張りにつき、まずい状況になったらコーラル城の時と同じようなパターンで解決するという作戦に出ていた。
しかしこれ以外に良い案がないため仕方がないとはいえ、この作戦は当然ルークにはとても恥ずかしいものでしかない。
何しろリリスに筒抜けになってしまっているのだ。
一方のリリスは一体どういう感覚をしているのか、一切まったく気にせずに黙々と見張り役をしているようだった。
半ば楽しんでからかわれる事もあるが、明らかに普通とはかけ離れた感覚を持っているようで、神様とは皆こうなのだろうかとルークは思わされてしまう。
「ううっ・・そ、それとこれは話が別だろ!」
「あっ、無理やり話し終わらせる気だ」
「うっさい!・・俺が言いたいのは、そういう性格のお前の妹がお前と同じような性格してるんじゃないかと心配なんだよ」
「しっつれいね〜。イヴは私と違って素直で明るいとっても良い子よ〜」
妹を馬鹿にされたりして怒るのは当然だが、その怒り方はどうかとルークは顔を引き攣らせていた。
『妹は』ということは、リリスの言い方ではどう考えても自分の性格の悪さを自覚し肯定していることになる。
本当に何処かずれている、ひょっとしたらわざとやっているのではないだろうか、リリスなら後者の方が可能性としては濃厚だとルークは頭がなんだか痛くなるような気がした。
「・・・っていうか、イヴっていうのか。お前の妹」
「うん、そうよ。可愛かったでしょ」
そう言って妹の事を満面の笑みで誉めるリリスは、案外妹に甘いのだという事が解る。
その様子は普通の仲の良い姉妹の姉といった感じで、普段からこうなら良いのにとルークは内心思っていた。
そうであるならきっと平和なのにと。
「・・・そういえば、彼女何しに来てたんだ?それに・・あっくんが寂しがってるとかどうとか・・」
「ああ、それはねぇ・・・」
ルークの言葉にリリスが何か答えようとした時、2人は先程とは違う森の異変に気がついた。
「・・おいっ。リリス、これって・・」
「ええ・・・どう考えても、何か燃えてますって臭いよねぇ・・・」
「ああ!呑気に話してる場合じゃなかった!!タイミング良いのか悪いのかわかんねえよ!あのブタザル〜〜〜!!」
そう言ってこの場にはいないこの臭いの元の犯人に対し、ルークは少し怒ったような口調で自分がかつてつけた名前を叫びながら一目散に駆け出していた。
その後姿を見ながらリリスはしみじみと呟いた。
「う〜〜ん。逆行してから突っ込みに片寄ってるのかしら?っていうか、レベルが徐々に上がっているのかも」
その最大の原因であろう人物は、そう呟いた後いつも通りの楽しげな笑みを浮かべ、走り去ったルークの後を追ったのだった。











ようやく辿り着いた先では予想通りの展開が繰り広げられていた。
放たれた火は容赦なく森全体を焼き尽くすために徐々にその大きさを拡大していっていた。
その火の更に奥には逃げ場を失ったのであろう数匹の獣の影が見える。
そしてそれとは反対側、つまり火の手前側の方には見慣れた青い小さなチーグルの姿と、そしてこちらもルークにとっては見覚えのある、ルークが前の旅での最初の強敵であり、戦って殺して後悔した相手、ライガクイーンの姿がそこにはあった。
住処である森に火を放たれた怒りからか、今にもチーグルに飛び掛りそうな勢いだった。
「ま、待てって!」
慌てて間に割って入ると小さな2つの目と大きな2つの目、計4つの目の驚きという名の視線を同時に注がれる。
しかしそのうち片方の大きな目2つ、つまりライガクイーンの目は、森に火を放ったチーグルを庇うルークを敵だと認識したようで敵意を露にして吠えてきた。
そのライガクイーンの様子にルークは慌てて口を開く。
「お、落ち着けって!俺は敵じゃないし・・こいつだって別にわざとやったわけじゃ・・・」
今の自分ならかつてとは違ってライガクイーンを倒す事は可能だろう。
しかしルークは出来るならそれはしたくはなかった。
森を焼かれた被害者は彼女たちの方なのだから、彼女たちに本来倒されるいわれはないのだ。
それに以前のような後悔をルークはしたくはない。
その為にこの森が火事になるであろう時期の少し前に、ライガ達をチーグルの森とは違う別の人里から離れた森に移動させる。
リリスならライガとの交渉も可能だという事を聞いたゆえの計画だった。
それが駄目ならせめて火事を起こす張本人であるミュウを待ち伏せして止めるという事をしようと考えた。
ここでライガクイーンを倒してはそれが全て水の泡になってしまう。
しかしルークの考えとは裏腹に、ライガクイーンは更に殺気を膨らませて今にも飛び掛ってきそうだった。
「・・に、逃げてくださいですの!危ないですの!!」
後ろから必死にルークに逃げるように促す聞き覚えのある声がする。
そういえばソーサラーリングがないとまだ火は吹けないと言っていたから、何かの理由で長老から借りてきたリングを今持っているのだなと、ルークは何故かこんな状況にも関わらず冷静に分析できてしまった。
「・・そういうお前こそ、さっさと逃げろ」
「だ、駄目ですの!助けてくれた人を置いて行けないですの!それに・・・森が火事になっちゃったのは僕のせいですの・・」
後ろにいるため姿が見えないがしょんぼりと耳をたらして落ち込んでいる様子がルークには手に取るように解る。
「そんな事は知ってる。だからって、お前を守りながらじゃ火を消す事も、こいつの殺気を抑える事もできないだろうが」
「みゅっ?!・・どうして僕が火を吹いたこと・・・」
ルークの言葉に不思議そうな声をミュウが上げた瞬間、ルークの耳に聞きなれた声が聞こえてきた。
「受け取りなさ〜いっ!」
「リリス!?」
ようやく追いついてきたリリスの声に反応してルークがそちらに視線を向けた瞬間、リリスは何かをルークめがけて投げつけてきた。
それをルークは慌てて受け取って見てみると、それは小さな小瓶だった。
「・・小瓶?」
「それの蓋開けて〜」
いまいちリリスの意図が良く解らないが、ルークは半ば勢いのまま言われた通りに小瓶の蓋を開ける。
するとルークが小瓶の蓋を開けた瞬間、小瓶の中から許容量的にありえない量の水が噴出してきた。
その量は本当に信じられないくらいのもので、噴出した水はあまりの量に雨となって森全体に降り注ぎ始めていた。
そして暫くして、先程まで勢いの増し続けていた火は次第に消えていった。
その光景に呆然としたまま小瓶をもったままルークが立ち尽くしていると、何時の間にか近くまでやってきたリリスがルークのもう片方の手に握られていた小瓶の蓋を奪い取って小瓶に再び蓋をした。
すると噴出される水も止まったため、ぴたりと森全体に降り注いでいた雨も止んだ。
当然森を焼いていた火も完全に消えていて、燃えていたこの辺りはそれなりの被害だが、森が全焼するという最悪の事態は避けられたようだ。
「はぁ〜〜。やっぱりイヴにこれ持ってきてもらって良かったわ」
ルークが驚く中でリリスは1人呑気にそんなことを呟いた。
その言葉から察するに、どうやらこれは所謂『神様の道具』みたいなものなのだろう。
それをわざわざ妹に持ってきてもらっていたリリスの機転の良さに、ルークは初めて彼女に心の底から感謝したような気がした。
「あ、あの・・・」
ルークが少し呆然としていると、下の方からおずおずと遠慮がちな声が聞こえてきた。
そこでルークはようやくここに来て初めてまともに懐かしいミュウの姿を見た。
「・・・お前、大丈夫か?」
「は、はいですの。僕こそ助けてもらってありがとうですの!」
「いや・・・大したことじゃないし。でも、これからは気をつけろよ」
「はいですの!ありがとうございますのですの。ご主人様!」
最後に嬉しそうなミュウの一言に、ルークは思わずこけてしまいそうになった。
「ご・・ごしゅ・・・」
「あ〜〜・・・こういう展開になるか〜〜」
予想外の事にルークは顔を少し引き攣らせ、対してリリスはとても楽しそうである。
ルークの予想ではここでライガ達がチーグルの森に行くような事態にならなければ、ミュウが自分をご主人様と慕う事もなく、森から出て一緒についてくるという展開にはならないだろうと思っていたのだ。
ルークとしては危険だと解っている旅にわざわざ同行させるような状況を作る事もないと思ったためである。
若干、やはり少し鬱陶しいと思うところもあるが。
しかしこのままではまたミュウは自分についてくると言いかねない。
「い、いや・・・あのな、ご主人様って・・・」
「ご主人様はミュウの命の恩人ですの。身体をはってライガの女王様から守ってくれたですの。だからミュウはご主人様についていくですの!」
「っていってるわよ。連れて行ってあげたら」
ミュウの言葉に賛同するように、否この状況を楽しんでいるといった声を上げるリリスをルークはぎろりと睨みつける。
しかしリリスの方はやはりそれさえも楽しんでいるようだ。
やがてじっとミュウを見つめていたルークは深い溜息をつき、降参といったように手を上げた。
「解った・・・好きにしろ」
「ありがとうございますですの!」
そして嬉しそうなミュウの言葉にルークがまた溜息をついた時だった。
「ママ!!」
ルークの耳にどこかで聞いた事のある少女の声が届く。
そしてその声の主は先程まで火に追いやられて逃げ場を失っていたライガ達の中から一目散でライガクイーンの元に駆け寄った。
どうやらライガ達とずっと一緒にいたらしい。
そしてライガクイーンの元に走り寄ってしがみつくその少女の姿をはっきりと見たルークは思わず顔を引き攣らせた。
そこにいたのはまさしく前の時間でルーク達と何度も戦った六神将の1人、幼獣のアリエッタだった。
何故ここにいるのかと思いルークはふと、そういえば彼女の育ての母親はこのライガクイーンで会ったことを思い出した。
ならば彼女が母親達に会いに来ていても不思議ではない。
それがたまたま今回の騒動の時に重なったのだろう。
しかしここで六神将の1人であるアリエッタに会うのは少々まずい気がした。
ルークがそんな事を考えていると、不意にアリエッタがこちらに駆け寄ってきた。
そしてルークから1歩ほど間の空いた場所で止まると、じっとルークの顔を見つめた後ぺこりとお辞儀をして見せた。
「へっ・・・」
そのあまりに予想外の事態にルークは思わず面食らってしまった。
前の時間ではさんざん敵として戦ってきたのだからそれも無理もない。
「・・どうもありがとう・・・です」
しかし更にルークにとっては予想外にアリエッタはお礼まで言ってきた。
ルークがその意図が良くつかめずに考え込んでいると、アリエッタはルークに向かって口を開いた。
「ママに聞いた・・・です。あなたが、森が全部焼けるのを防いでくれた・・・って」
「いや・・それは・・・」
確かに防いだ事は防いだが、あれはリリスの持ち込んだ謎の道具の力であるし、何よりも自分はわけも解らないままにあの小瓶の蓋を開けたのだ。
確かに森が焼けきるのは防ぎたいと思ったが、ルークにはそこまで礼を言われるようなことをした気にはなれなかった。
しかしアリエッタやライガ達の方は違うようで、本当にルークに恩を感じているようだった。
「・・別に大したことしたわけじゃないし」
「そんなことない、です。あなたが火を消してくれなかったら・・ママ達、住む場所がなくなってた・・・です」
「・・・じゃあ、俺にお礼を言うのは良いからさ。代わりにこのチーグルを許してやってくれねえか?別にやろうと思って森を火事にしたわけじゃないんだよ・・」
「・・・ごめんなさいですの」
ルークの言葉に続いて自分のした事に心底責任を感じているのだろう落ち込んだミュウの声が聞こえた。
するとアリエッタの奥にいたライガクイーンが小さく鳴くと、アリエッタはそちらを見てこくりと頷いて再びルークに向き直った。
「・・・そのチーグルは許せないけど・・・森が焼けるのを止めてくれたあなたが庇ってるから見逃すって・・・ママが言ってる、です」
「そうか・・・ありがとう」
アリエッタの言葉にルークは安心したように満面の笑みを浮かべると、本当に嬉しかったのかアリエッタの頭を反射的に優しく撫でてやる。
ルークのその喜びは無理もないといっても良い。
前の時間では話し合いが通じず出来れば殺したくなかったライガクイーンに理解してもらえ、自分を母親の仇だと散々憎んでいたアリエッタから礼を言われているのだ。
この完全良好な状況逆転にルークが喜ばないわけはない。
チーグル達もライガ達に脅されてエンゲーブで盗みを働く必要もなくなり万々歳といったところだ。
若干、ミュウの事はやはり計算外であるが。
そして心の底から1人喜びに浸っていたルークは、不意にアリエッタの様子の変化に気づいた。
何やら先程までルークを見ていた顔は何時の間にか俯いていた。
「・・ん?どうした?」
何かあったのかとルークが少し心配そうに尋ねてみると、アリエッタは聞き取れるか聞き取れないくらいの小さな声で喋り始めた。
「・・な・・まえ・・」
「ん?」
「・・・・・名前、なんていう、ですか?」
「ああ・・・名前か。俺はル・・」
ふと本当の名前を言いそうになってルークは慌てた。
普段でも外出の時は必ず偽名を名乗っているのに、相手が六神将とあっては余計に名乗る事などできない。
なにしろ自分の名前、元々はアッシュの名前だが、あの名前は特別な意味を持つものなのだ。
本名など名乗れば一発で自分がアッシュのレプリカだと解ってしまう。
そう素早く考えたルークはすぐに偽名で名乗りなおす。
「る・・ルナだ。ルナ=カバラ」
「・・ルナ・・・お姉ちゃん」
「・・へっ?」
名前の後に続いた妙な呼称にルークが思わず声を漏らすとほぼ同時に、アリエッタはルークにぎゅっと抱きついた。
その事実に何が起こったのか頭の整理がつかないルークにリリスが横から面白そうに声をかける。
「あらら〜〜。ルーク、好かれちゃったみたいよ」
「えっ・・・?」
ルークがやはりリリスの言葉の意味が解らず呆然とし、そして再びアリエッタの方に視線を戻してみると、必死の様子でルークに向かってこくこくと首を縦に振っているアリエッタの姿があった。
「え・・えっと・・・・・」
「・・・ルナお姉ちゃんはママ達の恩人、です。それに・・・頭撫でてくれて嬉しかった、です。・・・アリエッタは、優しいお姉ちゃん好きだから・・アリエッタのお姉ちゃんになってほしい、です」
純粋なアリエッタのその言葉にルークは嬉しさを感じながら少々困っていた。
何故なら望む望まざるとは別で、六神将であるアリエッタとはいずれ戦うことになる。
少なくともアリエッタがヴァンの側についている限りはそういうことになるのだ。
それを考えると慕ってくれるのは嬉しいが、その時になってとても戦いにくいし、アリエッタに多大なショックを与えるような気がしてならない。
それに、なんだかこのままでは一緒にダアトに行こうとまで言われかねないような気がした。
さすがにそれは確立の低い事だが、その確立の低い事が起こってしまっては非常にまずい。
ルークは複雑な心境ながらも、ぐっと固い決意をしてアリエッタに向かって口を開いた。
「・・・お姉ちゃんって呼んでくれるのは嬉しいよ。けど・・・俺には俺の帰るところがあるからさ」
前の時間ではこんな事いえなかったかもしれない。
しかし今は間違いなく自分の帰る場所はグランコクマに1つは用意されている。
昔のようにレプリカである事で居場所を奪うなどの負い目を感じる必要がない。
レプリカであろうと自分を自分としてみてくれる人たちが確かにいる。
そう考えるとルークは自然と嬉しくなってきていた。
一方、ルークのその言葉に残念そうに顔を俯かせていたアリエッタは、再び顔を上げてルークに向かって告げた。
「・・・わかった、です。でも・・・一緒にいられなくても、ルナお姉ちゃんはアリエッタのお姉ちゃん、です。・・・それじゃあ、だめ?」
アリエッタのその不安そうだが少し期待の篭った目に当然ルークも駄目だとは言うことはできない。
やはりお姉ちゃんと慕われるのを止めさせるのは無理そうだが、最悪の状況だけは回避する事が出来たとどこかルークは安堵した。
「・・・っていうか、本気でダアトに連れてくつもりだったみたいね」
ぼそりとリリスがルークにしか聞こえないくらいで呟いた一言に、ルークはこくりと冷汗をかきながら頷いた。
「じゃ、じゃあ・・俺達は行くから」
「・・もういちゃうの?」
「うん・・あまり長居も出来ないからな」
とても残念そうなアリエッタには申し訳ないが、今回は用が済んだら早めに帰ってくるようにとのピオニーからのお達しなのだ。
破ればまたどんな罰を用意されるのか目に見えて、ルークは乾いた笑いを漏らした。
そのルークの様子にアリエッタは首をかしげ、ある意味ピオニーと共犯といえるリリスは笑いを堪えていた。
「・・・仕方がない、です。お姉ちゃん大変みたいだから・・・」
「うん、ありがとうな。アリエッタもアリエッタのママ達も元気でな」
「はい、です・・・また会う、です」
「うん・・じゃあな」
そう言って手を振るアリエッタとライガ達に見送られ、ルーク達は森の出口へと向かって歩き始めた。
やがてアリエッタ達の姿が見えなくなったところで、リリスがぽつりとルークに向かって口を開いた。
「・・・次に会う時は、敵としてでしょうね」
「・・そう、だろうな」
「みゅ?ご主人様どうしたですの?」
リリスの言葉に落ち込んだ様子を見せるルークを何も事情の知らないミュウは心配そうに見上げる。
自分を素直に心配するミュウに苦笑を浮かべ、ルークは「なんでもない」と答えながらもここで出来てしまったいずれ戦わなければならないであろうアリエッタとの絆に、嬉しさと辛さとが交じった複雑な思いを抱えていた。
マルクト帝国・ピオニー九世陛下からキムラスカ王国・インゴベルト陛下に新書が渡すための旅、すなわちこの世界の物語の最初が再び本格的に動き出すまで、もう本当に後少し。











あとがき

前回、前々回に対して今回はギャグで突っ走りました;
なんだかんでやはり私はアリエッタを気に入ってるんだな〜と思った今回です。
「Seven flames」同様にこちらでもアリエッタはルークをお姉ちゃんとして慕ってくれる事でしょう。
ちなみにちゃんとルークは髪の色、目の色変えて、帽子を目深に被っていますので顔はアリエッタにばれてません。
リリスの方も今回は公事というよりも私事の方なので、軍服ではなく動きやすい普段着姿です。
ちなみに今回でてきたリリスの妹さんですが、リリスの言うとおり本当に素直な良い子で、リリスの妹とは思えない人物です;
リリスが猫可愛がりしてるせいでお姉ちゃん大好きで、お姉ちゃんの事を第一に考えている本当に良い子です。
リリスは妹大好き、イヴは姉大好きなため、姉妹仲は非常に良いです。
某人気PCゲームの同名キャラとは名前は同じでも本当に正反対ですから(笑)
ちなみにフィクションですので、聖書の方とは一切関係がございません。
切り離して考えていただけるととても幸いです。(なにとぞご理解をお願いいたします)
でも多分解る人には解ると思いますが、イヴの言っていた「アッくん」とはあの方のことです;
こちらも少々扱いが違う形になっておりますので、その辺りはどうかご理解とご容赦をお願いいたします。
次回からようやくゲーム本編の物語が開始の予定です。






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