Puzzle game
6:Departure
ND2017 ウンディーネリデーカン・シルフ・30の日
この日、マルクト帝国のグランコクマ宮殿では、ついに本格的に全てが動き出そうとしていた。
「では陛下。行ってまいります」
「もういくのか〜。もうちょっと先でも良いんじゃないのか?」
ピオニーの少し冗談の入ったその言葉に、そこにいた何名かが溜息をついた。
「ダアトまで最低でも2ヶ月はかかりますからね。そろそろ行かないとまずいですよ」
「ジェイドに計算してもらった結果、このくらいの時期に出ておかないと、ティアがアラミス湧水洞に現れるまでに間に合いませんから」
「ルークの話から察するに、彼女にも事情を説明してこちら側に完全に引き込んでおいたほうが得策でしょう」
「それに・・俺がバチカルの屋敷にいない以上、ティアはただ捕まるだけになると思いますから・・・」
「そうなったらこっちの戦力がた落ちですよね〜〜」
「・・・戦力に関しては、あなた方3人がいれば十分すぎるかと・・」
リリスの楽しげな言葉にフリングスが乾いた笑いを漏らした。
確かに戦力といえば現在でも十分すぎるほどである。
死霊使いのジェイド、超振動の使えるルーク、そして一応マルクト最強ということになっているがその実態は神様なリリス。
この3人だけいれば国1つ敵に回したとしても勝てるのではないかという勢いである。
寧ろリリス1人だけいればおつりが幾らでも返ってくるほどの戦力であろう。
「いや〜〜・・なんていうか、こう特殊国家破壊みたいなチーム編成だよな」
「・・・陛下、あながちその見方間違ってないので・・・しゃれになってません・・・」
「というか陛下・・・私をカバラ少佐と同列にしないでください」
「大佐〜〜、それどういう意味ですかぁ?」
その意味の意図はしっかりと把握しているのだろうが、あえて楽しげに尋ねてくるリリスに対し、ジェイドは当然あさっての方向を向いて何も答えはしなかった。
「ん〜〜まあ、仕方ないか。ところで・・・本当にタルタロスなくていいのか?」
「はい・・・あれば楽なんですけど・・今の段階であっても前の歴史の通りだと六神将に乗っ取られるだけですし・・」
タルタロスがあれば確かに移動は楽になるだろうが、現段階であれをたった3人で動かせるとは思えない。
そうなれば必然的にタルタロスを動かすための兵を数名連れて行かなければならないのだが、前の歴史の通りいけばタルタロスは六神将に占拠されてしまう。
ジェイドとリリス、ルークの3人に合流後のティアも加われば、占拠されずに済む可能性は十分に高い。
しかしタルタロスの乗組員となった兵に余計な犠牲を強いる事にはなる。
タルタロスのあちらこちらに散らばった兵全てを守りきる事は正直不可能であろう。
ならば最初からタルタロスは使わず、辻馬車と船を乗り継ぐ、あるいは徒歩ですむところは徒歩で行った方が良い。
かなり辛い道のりになるだろうが、なるべく犠牲を抑えたいと考えるなら、この方が良いだろうとルークは思っていた。
「解った。じゃあ、タルタロスはお前の指定した時期にダアト港の方に回しておくからな・・・あと、アクゼリュスの方も手筈通り先にこっちで手を回しておく。気をつけて早く帰って来い」
「はい。ありがとうございます」
「リリスも気をつけてな。ルークのことくれぐれも頼むぞ」
「了解です。陛下」
「あと・・・・・・まあ、ジェイドは良いか。お前は殺しても死にそうにないし」
「・・・どういう意味ですか?陛下。それにそれなら、寧ろ私よりもカバラ少佐のほうでしょう」
「大佐こそどういう意味ですか〜〜〜?」
「そのままの意味です」
「はははっ。まあ、3人とも気をつけて行って来い。親書は後でエンゲーブの方に届けるからな。・・・・・土産、楽しみにしてるぞ」
「「「はいっ!」」」
ルークの日記より抜粋。
『予定よりも早くついちまったせいでアラミス湧水洞出口付近でリリスとジェイド・・と、ミュウとで野宿する事になった。
こういう時のために食料は持ってきてるから問題なかったけど、ミュウの奴が張り切って木の実とか集めてきた。
リリスの奴がそれをジェイドに進めたんだけど・・・どうも毒入りだったらしい。
見抜いたジェイドとリリスで馬鹿らしい追いかけっこしてたな・・・・(ひょっとして案外気があってるんじゃないのか?)
ああ、当然ジェイドが毒入り木の実をむりやり食べさそうとするリリスに追い回されるって言う図だ。
ミュウの奴が一頻り謝ってると、面食らったような表情で(実際無理ないだろう)立ち尽くしたティアが現れた。
俺が声をかけると正気に戻ったから、追いかけっこもいい加減やめたジェイドとリリスの2人も交えて事情を説明した。
当然だけど、最初はジェイドの時と同じで信じられないって顔してたけど・・確かに辻褄は合うって協力を約束してくれた。
こうしてまず第一段階をクリアした俺達は、第二段階であるイオンへの協力要請(ただしティアの時と違って俺の逆行話まではしない)の為、ダアトの街へ向かった』
自分の書いた日記を歩きながら読み返し、ルークは自然と溜息が漏れた。
後半部分はともかく、前半のリリスとジェイドの騒ぎなんてかなり間抜けな内容だ。
しかし改めて思うことだが、本当に以前の時間のジェイドと、今回の時間のジェイドは同一人物なのだろうかと。
なんだか随分と人間が丸くなったというか、悪い言い方をすれば情けなっているというか。
もっともそれはあくまでもリリスと相対している時だけなので、明らかにリリスが全ての原因だろうと思った。
ジェイドはきっと根本ではまったく変っていないのだろうが、リリスのキャラが強烈過ぎるのだろう。
そう考えると1番の被害を受けてるのはおそらく自分なのだが、本当にジェイドが哀れになってきた。
「ルー・・・ルナ、読みながら歩くのは危ないわよ」
「あ、ああ。悪い・・・」
ティアに注意されてパタンとルークは日記を閉じて荷物入れの中にしまいこむ。
「それでは早速導師イオンのところに向かいましょうか」
「ですが大佐・・・導師の部屋への行き方は導師守護役と詠師職以上の者しか・・・」
「それなら俺が知ってるから大丈夫だ」
少し心配そうなティアの言葉にルークがひらひらと手を上げて答える。
「というわけで、そちらの心配はないでしょう。後は見つからないように導師ご本人に接触するだけです」
「そうそう。ま、見つかったらちょっと眠っててもらえば良いわよ」
そう言って楽しそうに手をわきわきと動かすリリスを見て、他の3人は本能的に「絶対見つからないように行かなければならない」と、どこからか妙な緊張感が沸き起こっていた。
「じゃ、じゃあ・・・私は手筈通りモース様の所に顔を見せて注意を引き付けるから・・・その間にイオン様をお願いね・・・」
そう言ってそそくさと離れていくティアに、ルークとジェイドの2人は逃げたなと感じた。
どうやら彼女も課の短時間の間にリリスという人物の人となりを見抜いてきたようだ。
そんなティアの後姿を見送りながら、未だ何やら楽しげに企んでいる様子の見えるリリスに不安を覚えながら、ルークとジェイドは絶対に人に見つからないようになんとか導師の部屋への前とやってきた。
幸いどうにか見つからずにここまでこれた為、2人は酷くほっとしているが、リリス1人だけが何故かつまらなさそうにしているのはあえて見ないふりをした。
そしてここまでくればもう大丈夫だろうが、念のためにもう1度周りを確認してから扉をノックし中から返事が返ってきたのを確認してから扉を開けた。
「失礼します」
そう言って扉を開けて中に入ってみると、翠の髪の少年と茶色の髪の少女がいた。
ルークにとってはとても懐かしい顔でも、その2人にとってはまず見知らぬ人物達に驚いている様子だった。
「突然の訪問失礼します。導師イオン」
「あ、貴方達・・何者ですか?ここが導師イオンのお部屋だと解って・・」
「待ってください。アニス」
慌てながらもこちらを威嚇してくるアニスに対し、イオンは逆に冷静とも言える態度で彼女を宥める。
「・・イオン様?」
「軍服からそちらのお2人はマルクト軍の方のようです。もう1人も・・おそらくはその関係者でしょう」
「さすが導師イオン。その通りです」
「マルクト軍?!な、なんでマルクトの軍人がいきなり?・・はっ?!まさかイオン様を攫おうと?!!」
「・・アニス」
「う〜〜ん・・あながちその勘間違ってないかも」
アニスの少し曲解した想像にイオンは苦笑を浮かべるが、次にリリスが口にした言葉にアニスは完全に誤解をして先程よりも明らかに動揺して慌てだした。
「や、やっぱり!」
「・・・カバラ少佐。お願いですから誤解を招く言い方は止めてください」
「いや〜〜・・楽しくてつい」
状況を悪化させる台詞を口にしたリリスを嗜めるジェイドだったが、さすがリリスというべきか全く反省していないその態度にジェイドは咳払いをした。
「すいません。彼女は少々・・・いえ、かなり性格に問題がありまして・・」
「は、はあ・・・」
「もしも〜〜し。そこで納得しないでもらえます。導師イオン」
「す、すいません・・・」
「・・・いや、謝る必要ないから」
相変わらずの素直なイオンの性格を少し懐かしく思いながらルークは苦笑を零した。
「・・では、改めまして。マルクト軍第三師団師団長ジェイド=カーティスです」
「同じく、副師団長でカーティス大佐の副官のリリス=リリン=カバラです」
「・・・ルナ=カバラだ。・・ちなみに俺は軍属じゃないから」
「ジェイド=カーティス!あの死霊使いの・・?」
「ええっ?!!」
ジェイドの名前を聞いて記憶を辿っていたイオンがそう声を上げ、アニスまで驚いた声を上げた瞬間、ジェイドがにっこりとした微笑を浮かべた。
「導師に存じていただけているとは光栄です」
「・・ええ、貴方のことは教団の中でも有名ですから」
「この人があの死霊使い・・・っていうか、師団長ってことはお金持ち?!きゃ〜ん、アニスちゃん玉の輿の予感!」
イオンが真面目に話しているその横で、アニスの目が何やら輝いたのをルークは確認して、やっぱりアニスだなとなんだかしみじみと思ってしまった。
「・・そのカーティス大佐が、何故わざわざ僕のところに」
「マルクト帝国皇帝ピオニー陛下の名代として、貴殿にキムラスカ王国との和平の仲介役になっていただこうと思って参上しました」
「・・キムラスカとの、和平?」
「えええっ?!」
純粋にもっと詳しい話を聞きたいといった様子でのイオンの反応に対し、アニスは明らかに動揺して驚いている様子だった。
しかしそれも無理はないことだろう。
悲しい事だがこの時点では彼女はまだモースのスパイなのである。
戦争を起こそうとしているモースにとって和平が成立するということは一大事である。
ならばこの反応も仕方がないことである。
そしてルーク、リリス、ジェイドの3人はそのことを知っているからこそ、アニスのその過剰なまでの反応は気にしないが、何も知らないイオンはアニスのその反応に少し驚いているようだった。
「どうしました?アニス。そこまで驚くようなことでも・・」
「えっ、いや・・そ、そうですよね・・あはははっ・・」
それでもやはりまだ動揺の残っているアニスにイオンが小首を傾げる中、ジェイドは先程の話の続きを始めた。
「我が主君は無駄な争いで民が傷つく事を良しとはしておりません。そのためにはキムラスカとの和平締結が1番良い方法なのは間違いないのですが・・・現在事実上敵国である我が国の人間だけで交渉に行ってもまともに取り合ってはいただけないでしょう」
「それで、導師イオンを和平交渉の仲介役として、ご同行してもらいたいんです」
「ローレライ教団の導師ほど、仲介役として適任な存在はいないからな」
3人からそう説明を受けた後、イオンは何やら少し考えてから顔をあげて口を開いた。
「・・実は、ローレライ教団の中で、キムラスカとマルクトの間に戦争を望む者が出ているようなのです」
「それは本当ですか?」
本当だということは解っているが、あくまでも驚いているふりとしてジェイドが尋ねると、イオンは神妙な面持ちで首を縦に振った。
「ええ・・身内の不祥事で申し訳ないことです。僕としては、それをなんとか止めたいと思っていたのですが・・・」
「なら・・・」
「はい。今回のお話はそれにも繋がる事です。喜んで引き受けさせていただきます」
イオンのその好意的な答えに、解っていた事だが思わずルークは嬉しくなってリリスと手を合わせた。
一方、アニスは少し複雑そうにしているがそれはあえて見ないふりをした。
「では、すぐにでも我々についてここを抜け出していただけますか?」
「解りました。すぐに仕度を・・・アニス、一緒についてきてくれますか?」
「う〜〜・・・イオン様がそう仰るなら仕方がありませんけど。・・あまり無茶はなさらないでくださいね」
「解りました」
こうしてイオンとアニスを加えた一行は、ティアとも合流してダアトを抜け出したのであった。
イオン達を加えてダアトのあるパダミヤ大陸から再びマルクト帝国領のあるルグニカ地方に約2ヶ月半をかけてルーク達は帰ってきた。
ただしグランコクマのある北ルグニカ方面には行かず、直接親書の届けられる東ルグニカにあるエンゲーブへと訪れていた。
ルークにとっては前の旅で、実質最初に訪れた村である。
懐かしく思いながら思い出にふけっていると、ある事を思い出してあの頃の自分はなんて世間知らずで馬鹿だったんだろうと思い、つい前の旅でりんごを代金も払わず食べてしまった店『王道楽士』であの時のお詫びというようにまとめ買いをしてしまった。
そのルークの突然の行動に周りにいた殆どの人間に驚かれ、少し考えて買い物をしたほうが良いと怒られてしまった。
事情を説明するのも複雑なルークは素直にその言葉に頷いて見せた。
ただ1人、ルーク同様全ての事情を知るリリスだけは、ルークの意図を察して密かに笑っているようだった。
そのリリスの心情を察したルークが少し顔を赤くしてリリスを睨んだ時、世話になっているこの家の主であるローズが帰宅したようだった。
「おや、おや。随分とたくさん買ったようだね」
「あ、ローズさん・・お帰りなさい」
「ただいま。それにしても『王道楽士』の主人から聞いたよ。お嬢ちゃん、店の品全種買ってたそうだね」
「うっ・・・」
こうして噂は広まっていくのだろうと、ルークはなんだか物凄く恥ずかしくなってきた。
「す、すいません・・・」
「謝ることなんてないさ。寧ろこっちはあれだけ買ってもらえて村の方も大助かりさ。店の主人も凄く喜んでてね。お嬢ちゃんにお礼だって言って、これを渡してくれってさ」
そう言ってルークに渡されたのは見覚えのある1冊の本だった。
「これはコレクターブックですね・・」
「ふむ。中々良いものですね・・・ルナの無茶な買い物もあながち無駄ではなかったということですかね」
「・・・・・悪かったな、ジェイド」
「まあ、まあ。大佐もお嬢ちゃんもけんかしないで。・・・と、本命を忘れちゃいけなかった」
そう言ってローズは今度はジェイドに向かってそれを手渡した。
それを手にして見た瞬間、ジェイドの目が先程とはうって変わったものへとなっていた。
「これは親書・・・届いたのでね」
「ええ、つい先程。・・・大佐・・それにイオン様も、頼みますね。私らは・・・もう戦争なんてまっぴらですよ」
「解っています。必ずインゴベルト陛下からの良い答えを頂いてきますから」
そう言ってローズと和平の約束をするイオンをどこか頼もしく思う反面、ルークは少しばかり申し訳ない気持ちがした。
何故ならこの親書でインゴベルトが和平に首を縦に振らない事は目に見えているからだ。
『聖なる焔の光』が消えたとはいえ、キムラスカがあのユリアの預言成就を諦めているとは思えない。
それにイオンの言葉からどうやらモースもやはり戦争を起こそうと動いているようだ。
例え『聖なる焔の光』がいなくとも、アクゼリュスが崩壊して戦争が起きれば何とかなるといったところなのだろう。
インゴベルトがまともに取り合わないという事は解っている。
しかしそれでもルーク達はアクゼリュスの崩壊と、戦争開始をなんとかして防がなければならない。
預言による、否預言であろうとなかろうと、無駄な血が流れる事は2度と起きてはならないのだから。
少なくともこれはその為に自分に与えられたチャンスである。
リリスが自分の楽しみのためにこの世界の時間を巻き戻したとしても、ルークにとってはそうである事には変わりはない。
そのチャンスを最大限に生かして、必ずこの人達の笑顔を守り抜こうと、ルークは改めて決意したのだった。
ND2018 レムデーカン・レム・23の日
この日本当に全ては再び動き出した。
あとがき
ルークの日記抜粋が1番楽しかった回です(笑)
ゲーム本編では嫌味でパーティ内でも1枚上手だったジェイドですが・・・
こちらではすっかりリリスにからかいがいのある良いおもちゃ状態にされてます・・・;
あ、ちなみにジェイドでこれですので、ディストへの被害は更に深刻かと思われます。
今回からようやくゲーム本編沿いが正式に開始となりました。
あかげでティア、アニス、イオンの3人をいっきに出す事ができました。
なんというか・・アニスの扱いがちょっと、ですけど・・;(すいません)
私どちらかというと、やっぱりアリエッタよりなので・・・;(というよりもアクゼリュス崩壊後のアニスのルークへの数々の心無い暴言が許せな)
ちなみにグランコクマ〜ダアト、ダアト〜エンゲーブまでの到着日数は、攻略本のワールドマップや記述やらを参考に出させてもらいました。
改めてみると、ルークがタタル渓谷に飛ばされてから親善大使任命の日まで大体2ヶ月ですので、帰ってきたのが親善大使任命の翌日でしょうからそこから換算させてもらいました。
まあ、そうするとガイとかヴァンがやけに早く(早すぎ?)ルークに追いついたんじゃないかとかは思わないでください;
良く考えれば船だと数ヶ月くらいはかかりますよね?;
次回はあの人達による襲撃編です(えっ;)