Seven flames
1:Missing




〜ND.2000 ローレライの力を継ぐ者 キムラスカに誕生す
 其は王族に連なる赤い髪の男児なり 彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄へと導くだろう〜

2000年前、始祖ユリアは来るオールドラントの繁栄を預言にこう詠んだ。
しかし本当にそれはユリア自身がオールドラントの繁栄を願って詠んだものなのだろうか。
歴史は受け継がれながら人の記憶の中で変質し、真実を知る者は今や1人もいない・・・







ダアトのローレイライ教会地下にある神託の盾騎士団本部。
今は人気もあまりない地下の広い練兵場を、少々憂鬱な気分になりながらシンクが1人歩いている時だった。
「シンクーー!」
何やら頭上から聞こえてくる声に反射的に見上げてみれば、上の階からいきなり何かが落ちてきた。
否、正確には人がいきなり飛び降りてきた。
その見覚えのある焔色の髪にシンクが一瞬目を見開いていると、シンクの視線の先にいるその髪の持ち主は至って明るく声をかけた。
「おはよっ!っていうか、お前こんなところで何してるんだ?どっか行くのか?」
いきなりの質問攻めにシンクは少し呆れたように溜息をつく。
しかも溜息の原因はまだ他にもある。
1つは現在既にお昼を回っているにも関わらずの見当違いな挨拶。
しかしそれはまだ昨日、兵の訓練で夜遅くまで起きていて、今起きてきたところなのだろうから仕方がない。
1番問題なのはもう1つの方・・・
「ルーク・・危ないからあれほど、飛び降りるの止めなよって言ってるじゃないか・・」
「え〜〜!だって階段使うよりあの方が早いし。第一、俺が怪我するようなヘマするわけねーじゃん」
「それはそうだけど、万が一ってこともあるだろ。僕・・・もイオンもアリエッタも、君の怪我したとこなんかみたくないんだからね」
そう言って本当に心配してくれている様子から、ルークは少々押されぎみになり、しぶしぶといったように了承する。
しかしシンクはこうはいってもまたやるんだろうなと、また溜息をついた後、先程のルークの質問に答える。
「指令だよ。イオンがいなくなったからその捜索、及び身柄保護という名の拘束・・・だね」
「イオンが?!」
シンクのその言葉にルークの顔色が一瞬で変り、先程とは打って変わって慌てだす。
「な、なんで?!誰かに攫われたりしたのか?!あいつ、優しいうえに妙にボケたところあるから、知らない誰かについてっても不思議じゃないけど・・・」
「・・ルーク・・・さすがにそれは言いすぎ。それに、攫われたわけじゃなさそうだよ」
「ほ、本当か?!根拠は?!!」
あまりの狼狽ぶりに多少呆れながらも、これがルークの良いところの1つでもあるとも思いながら、シンクはルークに答えを返した。
「導師守護役が一緒に1人消えてるんだ。それも普段からイオンと一緒にいることが特に多い奴・・」
「ああ、確かアニスとかっていったか・・・」
「そう。彼女も一緒にいなくなったって事は、多分イオンは自分から抜け出したんじゃないのかな」
「なんで?!そりゃあ、ここあんまり面白いところじゃねえし、最近モースの奴がいい気になってて、イオンには息苦しいとは思うけど・・・・・はっ!まさかイオンは息抜きで
どこかに遊びにでもいったんじゃ!!」
「・・・・・君じゃないんだから」
イオンのことが心配で多少頭の螺子が飛んだような発言をするルークに対し、シンクは聞こえないように呆れながらそんな一言を呟いた。
「・・・でもイオンがいなくなったのは、モースのせいっていうのは大きいかもしれない。ほら、あいつ最近戦争を起こそうと色々と動き回ってるだろ?」
「ん・・?ああ、そういえば・・・」
「それでどうもマルクトが戦争回避しようとしているらしい・・・っていう噂があるんだよ。まあ、噂はただの噂ってこともあるけど・・・ひょっとしたら、本当かもしれないだろ」
「ああ、そっか・・・その仲介役でイオンが・・」
「そう・・・キムラスカとの間を取り持つなら、ローレライ教団の導師ほど適任者はいない」
その事実をどこか自嘲的に話すシンクに、ルークは複雑そうな表情をした。
「そういうわけで、僕とアリエッタをリグレットと、それからラルゴに命令が来たってわけ。それ自体はモースからなんだけど・・・それとは別に、今はバチカルに行ってるヴァンからも命令がきてる」
「師匠から?」
「うん。イオンを見つけたら、その近くにあるパッセージリングのダアト式封呪を解呪させろってさ」
「・・っ!ついに始めるのか?!」
「だろうね・・・」
シンクの言葉にルークは少し暗く影を落とし、シンクはそれを痛々しそうに見つめた。
「とにかく・・イオンのことは僕に任せ」
「俺も行く!」
なんとかイオンの事だけでも安心させようと続くはずだった言葉は、ルークの突然の声によって強制的に制止させられた。
「・・・ルーク・・・・・今、なんて?」
「俺も行くって言ったんだよ。イオンの事心配だしさ。俺だけここでじっとなんてしてられねえよ」
「だけど・・ルーク・・・」
「行くったら行くんだよ!」
なんとか説得を試みようとするも、それを言うよりも早くさらに激しく自己主張するルークに、シンクは深い溜息と共に説得が出来ないことを早々に悟った。
「解ったよ・・・連れて行く。・・・ただし、迂闊なことはしないでよ。リグレットやラルゴもいるんだから・・・」
「解ってるよ。・・・あいつらは完全にヴァン師匠よりだからな」
「そういうこと。アリエッタはヴァンのことも慕ってるけど、どっちかというとこっちよりだし・・ディストは蝙蝠だし・・・とにかくこっちの思惑がばれないようにしないと・・・」
「解ってるよ。あっ、でも・・」
あっさりと承諾したと思えばこれ以上何かあるのかとシンクがまた溜息を零そうとしたが、それはルークの満面の笑みと共に告げられた次の言葉で阻まれる。
「シンクは完全に俺の味方だよなっ!」
その言葉を聞いた瞬間目を見開いて暫し呆然とするシンクに気づかず、ルークは返答は解っているというように、意気揚々とシンクが向かっていた進行方向にさっさと歩き始めた。
やがて正気を取り戻したシンクは、自然と薄く笑みを零した。
「まったく・・・敵わないな・・・」
ただ一言ぽつりとそう呟くと、今頃出口付近でどこに行けばいいのか解らなくなっているであろうルークの後を追ったのだった。










『迂闊なことはしない』、というシンクとの約束もなんのその。
ルークは今まさにその『迂闊なこと』をしているのかもしれなかった。
もっともルーク本人にとっては、ちょっとリグレット達の目を盗んで1人でイオンを探しに行く、なんてことは迂闊なうちにも入らない。
しかも1人で行動してエンゲーブに立ち寄った結果、イオンの情報を入手することに成功したので、ルークは余計そんな事は少しも気にしていなかった。
もっとも最近、ある意味彼女の保護者と化しているシンクにとっては正反対である。
どこからともなく、「僕の方が年下なのに・・・」という声が聞こえてきそうである。
そんなシンクの心も知らず、ルークはイオンが向かったと聞いたチーグルの森に足を踏み入れていた。
「でも、あそこの人達俺の顔見て変なこと言ってたよな・・・『昨日の赤毛の』とか。・・・俺がエンゲーブ行ったのも、あそこの人達に会うのもあれが初めてなはずなのに・・」
しかし「あれは男だったから」と、ルークが女である事からすぐに別人だと解ったようだった。
だがふとルークはまさかとある存在の事を思い浮かべるが、すぐさま首を横に振ってそれを自己否定した。
「まさか・・な。あいつはキムラスカのバチカルの屋敷にいるはずだし・・・こんな敵国の片田舎にいるわけないよな」
そうは言ってみてありえない事だと解っていながらも、なんとなくルークはそうだったらいいな、そうだったら会えるかもしれないという捨てきれない少しの期待を描いていた。
そんな事を考えながら歩いていると、ふとルークの目に奇妙な小さな生き物の姿が映った。
「・・・なんだ?あれ」
目に入ったのは何やら小さくてちょこちょこ動いている青い毛並みの生き物。
どこかで見たことあるような気がしてルークは記憶を辿ると、ようやくその生き物が何であるか思い出した。
「ああ、前にイオン達と見た本に載ってたチーグル・・・って!」
チーグルといえばエンゲーブで食料を荒らした犯人(候補)で、村人達の話からしてイオンはそれを確かめるためにこの森に向かったその原因だった。
捕まえて巣まで案内させれば、ひょっとしたらイオンにあえるかもしれない、ルークがそう考えていると、先程からずっと視界にいたチーグルが、突然足を踏み外したのか近くの川に落ちそうになっていた。
人間ならまだ浅いといえる範囲の川かもしれないが、あの大きさのチーグルには十分深く、溺れても無理ないといえるくらいのものだった。
「みゅ、みゅ〜〜〜!!」
「ちっ・・!」
悲鳴なのか鳴き声を上げて川に落ちようとしているチーグルに軽く舌打ちすると、ルークは一目散に走ってなんとかソノチーグルが川に落ちる前にキャッチしてやる。
その際、勢いがつきすぎてスライディングのような形になり、少し肘の辺りをすりむいた。
「うっ・・・いてて・・・」
「みゅみゅみゅ〜〜!」
少し痛そうに擦りむいた肘を見てみると、手の中のチーグルもルークの肘を心配そうに覗き込んでいる。
「みゅみゅっみゅ〜〜みゅみゅ!」
「・・・もしかして、心配してるのか?・・お前のせいでこうなったってのに」
「みゅ〜〜〜・・・・・」
アリエッタの連れている魔物の例もあるので、ちゃんと人の言葉が理解できでいるのかもしれなという前提で話しかけてみると、やはり理解しているようでそのチーグルは落ち込んだように耳を下げた。
「・・・ああっ!もう別に良いっての!!大した怪我じゃないし・・・・・とりあえず・・シンクとかにばれないように治癒術で治しとこ・・・」
自分が少しでも怪我をするともっとも五月蝿いのは間違いなくシンクだ。
最初は心配するのだが、その後延々と説教を食らう。
戦闘などでついた傷に関してはさすがに心配こそすれ、説教というものはないのだが。
とにかく、戦闘にも役に立つのだが、何よりもシンクの知らないところで怪我をした場合、バレて説教を食らわないようにという不謹慎な理由でルークは治癒術を修得していたりする。
そういう理由もあり、すっかり得意になってしまった治癒術を自分に施しながら、ルークはなにやらある事を思いついた。
「・・おいっ、お前!悪いと思うんなら、お前らの巣に案内しろ。俺の知り合いが来たかもしれないんだ」
「みゅっ!みゅ〜〜〜!!」
ルークがそう言うとチーグルはすぐに理解したのか、少し表情が明るくなったように見えた。
そしてすぐさま案内しようと歩き出し、ルークも案内する気があるのだと理解するとすぐに立ち上がってその後を追ったのだった。










「もうとっくに来て帰った?!」
チーグルの巣に案内され、チーグルの長とやらにまず引き合わされ、その長がいきなり人の言葉を話した事実にも驚いたが、それ以上に既にイオン達がここを訪れて帰ってしまったという事実に大きなショックを受けて驚きの声を上げてしまった。
「うむ・・・イオン殿達は、この森にやってきたライガの女王を退治してくださってな。その後、1度この巣に立ち寄った後、すぐに森を出て行かれた」
「・・・ライガの、女王?」
チーグルの長が言葉にそれまで無駄足になってしまったとショックを受けていたルークは一瞬のうちに思考を切り替えて眉を寄せる。
「・・・なんで、この森にライガがいるんだよ・・?いや、いたんだよ?!」
チーグルの森と呼ばれるくらいだからこの森はチーグルにとってとても住みやすい場所なはずだ。
肉食でチーグルを食べる恐れのあるライガなどいれば、とても住みやすい場所とはいえない。
それにルークはこの地方でライガの住処といえば、もっと北の森のほうだという事を知っていた。
「・・うむ。実は、我等の同胞が北の地で火事を起こしてな・・・それでライガがこの森に移動してきたのだ。定期的に食料を届けねば、我らの同胞を攫って食らうといってな・・・」
「北の森・・・」
それを聞いた瞬間ルークの顔色が少し悪くなる。
ここから北の森を束ねるライガの女王といえば、アリエッタの育ての母であるあのライガだ。
ルークも1度だけアリエッタに連れられ、こっそりと会いに行ったことがある。
アリエッタの友人ということもあってか、ルークが会った時のそのライガの女王は、人を食べる事もあるとは思えないほど友好的で、ルーク自身も好感が持てたものだった。
アリエッタも自分の自慢の母親とルークを引き合わせられたのが嬉しかったのか、とても楽しそうにライガの女王とルークとの通訳をしていたことをこの間のことのようにルークは覚えている。
「・・マジかよ。・・・・・・アリエッタになんて言えばいいんだよ・・・」
ましてやそれにイオンが関わっていたなど、おいそれと言えば間違いなくアリエッタは激しいショックを受ける。
もっともイオンはそのライガがアリエッタの育ての母親だということも知らないだろうし、ましてやイオンだけで倒せるとは思えない。
ダアト式譜術を使うという手もあるが、あれは1度使うとイオンの身体にかなりの負担がかかるため、まずありえないことだろうと考えた。
そうすると、誰かがイオンと行動を共にして、その誰かがライガの女王を倒したことになる。
「くそっ!なんでこんな・・・大体、元々はお前らの仲間が火事なんか起こすからこんなことになったんだろ!」
少し自分でも大人げはないとは思うが、それくらいのことは自覚してもらわなければ、アリエッタの母親も浮かばれない。
ルークのその発言に、チーグルの長はもっともだというように頷いて見せた。
「うむ・・それもそうなのじゃ。それに関しては、同胞達の間で意見が出ておる。『ライガが倒されたとはいえ、このまま火事を起こし一族に甚大な被害をもたらしたものを、何の処罰もなしにしておくのか』・・・と」
「・・いや、そこまではしろとは言ってねえけど」
「いいや、既に処罰は決まった。よって、その者の処遇はルーク殿にお任せする」
「・・はぁっ?!なんで俺に?!」
ルークが何でそういうことになるのだと声を上げると、チーグルの群れの中から1匹の小さな青い毛並みのチーグルが進み出てきた。
それはルークが先程助け、ルークをここまで案内した子供のチーグルだった。
「この者が北の地で火事を起こした同胞じゃ。聞けばルーク殿に命を救われたと聞く。チーグルは決して恩を忘れん。季節が一巡りするまでの間、ルーク殿にお仕えし、その間は追放処分ということにする」
「か、勝手に決めるな!!」
「・・・ミュウはルーク殿についていくといってきかん」
ミュウというのがその青いチーグルの名前なのか、長はそう言うとその青いチーグル・ミュウに自分の持っていたソーサらーリングを渡す。
するとリングを足から身体に通すように装着すると、ミュウは嬉しそうにルークに話しかけてきた。
「さっきはありがとうございましたですの!これからよろしくですの、ご主人様!!」
そのミュウの期待に胸を膨らませた表情と瞳が、あまりにも邪険に出来るようなものでなかったため、ルークは思わず頷いてしまった。
「・・・解ったよ。連れてきゃ良いんだろ」
「ありがとですの!ご主人様!!」
そう言って嬉しそうに返事をするミュウに、ルークは何故か溜息がこぼれたのだった。












あとがき

やっちゃった的なパラレルですいません・・・
もしもアッシュの方が公爵家に返されてて、ルークが六神将だったら、というお話です。
しかも女性化させちゃってすいません・・;
結構、「本当にマルクトに誘拐されてたら〜」とか書かれている方は多いので、私は幾つかあたためていたパラレル設定の中からこれを採用しました。
私的に「本当にマルクトに〜」も書いてみたいです。
あそこの国の方々、皇帝陛下からして個性強くて最高ですので。
今回出てきたのはルーク、シンク、ミュウだけでした;
名前だけは他の皆さんもちらほら出てきてましたが・・・(アリエッタとイオンが特に多かったですね)
ルークとシンクの仲はあんな感じで凄く仲が良いです。
ここのシンクはかなり良い人いうか・・・まあ、ルーク至上なので;
そこらへんの詳しいことは設定をご覧くだされば幸いです。
アシュルクなのにアッシュが出てない!!(次回で出ますのでご容赦ください・・)






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