Travel at time
3:Talking




ロニール雪山でリグレットを撃退して下山した一同はケテルブルグで休息をとることにした。
そしてそのケテルブルグに堂々と建つホテルの食堂で、現在買出しや何やらをすると言って出て行ったルーク達と別行動を取っているアシャは、何故か自分の父親であるアッシュと向かい合って座っていた。
何故こんな状況になったのかはアシャにも良く解らない。
それは目の前で不機嫌そうにしているアッシュにとってはなおのことである。
確かルーク達が買出しに行くと言った時、自分をついていくと言ったのだが何故か微妙な苦笑をされて丁重に断られ、挙句の果てにこれまた何故か無理やりつれてこられたアッシュと一緒に待っているようにと言われた。
その時のアッシュの抗議の言葉は半端ではなかった。
無理やり連れてこられた上に自分があれだけ散々怪しいと豪語した人物と一緒に待てと言われては当然のことだろう。
しかし最後の最後にはルークに無理やり押し切られてしまい、現在律儀にも言われた通りアシャと一緒にここで待ちぼうけをくらっているのである。
『・・・なんだかんだでやっぱり父上なんだな。既にこの頃から母上の押しに弱かったのか・・』
一方のアシャは先ほどの父と母のやり取りを思い出しながらじっとアッシュを観察してそんなことを考えていた。
まだ理解しがたいというか、出来ることなら理解したくはないのだが、この頃の自分の両親が仲が悪いというか、父親が一方的に母親を嫌っている、ように振舞っているのがアシャには解った。
最初は本当にこの頃は毛嫌いしていたのかと、そんなアシャにとって絶対に信じたくない上に、受け止めたくない現実があるのかと思っていたが、実際にはアッシュは勿論のことルークも単純に自覚がないだけなのだなと2人のやり取り等を見て気づくことが出来た。
そういえば以前両親から聞いた馴れ初め話にも昔は自覚してなかったとか言うのも含まれていたなと今更ながらに思い出したのだが、まさかここまで自覚がなかったのかとさすがに両親が好きなアシャも呆れてしまっていた。
「おいっ・・何さっきから人の顔じろじろ見てやがる」
アシャがそんなことを考えているなど露知らず、じろじろと顔を見られている事に気づいていたアッシュがいい加減鬱陶しいという様子で不機嫌にアシャに声をかけてきた。
それに対してアシャは少し顔を引き攣らせ苦笑を浮かべながら答える。
「いや・・・別になんでもないけど」
「ふんっ、まあ良い。それよりも本当に貴様何者だ?あのリグレットをあっさりと負かすなど普通はできないはずだ。それに、その顔・・・・・」
「・・・それは他人の空似だってジェイドが言ったじゃん」
「あれで俺が納得するはずがないだろうが」
そう言って偉そうにふんぞり返るそのさまは、またしてもやはり自分の父親なんだなとアシャは内心感じ取っていたが、さすがにここで本当に事を言うわけにもいかず適当にはぐらかすことにした。
「っていってもな。俺の両親も赤毛で翠色の目だし・・・だいたい、キムラスカの王家特有っていっても、世界中くまなく探せばキムラスカ王家以外のどこかの一般家庭にだって出てくるんじゃないか?」
前者は本当だが後者に関しては勿論ん真っ赤な嘘である。
赤い髪に翠色の目の人間は確かに世界中くまなく探せば他にいるのかもしれないが、現在確認されているのは間違いなくキムラスカ王家に連なる者だけであるし、アシャは一般家庭などでなくれっきとしたそのキムラスカ王家、それも目の前にいるアッシュの血筋である。
しかし意外にもアッシュにはこれは効果的だったらしく少し反論に困っているようだった。
「だいたいあのリグレットとかいう奴だって聞くほど大したことないだろ。俺の父上や母上は勿論、その知り合いの人達や俺の仲間のがよっぽど凄く感じたしな・・・」
「そういえば、お前は両親から剣術を習ったのだったな」
「ああ。すっごい強いんだよ。うちの父上と母上は!」
アッシュ自身のことではあるのだが、両親の話題を振られてアシャは心底嬉しそうに目を輝かせた。
「父上は剣術も凄いけど譜術もできてそっちもすっごいんだ。母上は譜術は苦手だけど実は父上よりも強いし・・・っていうか、本気で怒らせたら怖いのは母上のほうだしな」
目を輝かせながら嬉しそうに楽しそうに話すアシャの姿は全身から言葉から心から両親が好きだと言うのが簡単に理解できるものだった。
そんなアシャの姿に何故かアッシュは自分でも知らぬうちに苦笑を浮かべてぽつりと言葉を漏らしていた。
「・・お前は両親が本当に好きなんだな」
「当たり前だろ!うちの家族は宇宙一だ!!」
アッシュの言葉に対して自身満々といったように堂々と豪語するアシャの方に食堂中の視線がいっきに集中した。
そのアシャの言動に半ば唖然とするアッシュに対し、アシャは視線にまったく気づいていないのかそれとも気づいていてあえて気にしていないのか延々とまだ語り続けている。
そしてようやく食堂中の異様な視線の集中に気づいたアッシュははっとしてアシャを必死に止めに入った。
「解った。お前がどれだけ家族が好きかということは解ったから・・・いい加減も止めろ」
「なんでだよ?まだ話すことは山ほどあるけど?」
「・・・こっちが恥ずかしい」
そう言ってアッシュは額を押さえながらちらりと食堂中に視線を向けると、やはりまだこちらに客達の視線は集中したまま、しかもなにやらひそひそと話す声まで聞こえてくる。
疲れたように深くため息をついたアッシュの姿を見て、アシャはまだ語り足りないが仕方がないといった様子でそれ以上話すことは止めた。
「まあ、あれだけ言えれば嘘でないということは解ったからな。本当にお前が俺のレプリカではないということは間違いないんだろう」
「当たり前だろ。だいたい・・俺はヴァンとか六神将とか言う連中嫌いだし・・」
何故嫌いなのかその理由は解らなかったが、アシャの口調と表情を見る限りこれも嘘でなく、本当に心底嫌いなのだということが簡単に見て取れた。
だからあれほどリグレットに対して罵詈雑言をぶつけられたのだろうとアッシュは思った。
「・・1つ聞くが、お前はヴァンや他の六神将の連中に会ったことがあるのか?」
「えっ・・いや・・・ないけど・・・」
アッシュ以外の六神将となるとディストには確かに会ったことはあるが、さすがにここで会ったことがあるなど言っては何か詮索されてはまずいと思ってアシャは瞬時にはぐらかした。
「・・会ったこともないのに何故そこまで嫌っている?」
「だって話し聞く限り六でもない連中だろ。自分達のやったことを他人のせいにしてさ。自分達は何にも悪くないって顔してるんだぜ。ふざけるなっての」
「確かにそうかもしれんが・・・」
「どんな理由があってもしていいことと悪いことってあるだろ?あいつらはその領域を思いっきり踏み越えて、自分達は正しくて当然のことしてるって思って平然としてるんだから。だいたい、自分達のせいで後々どんな厄介なことが起きるか理解してないくせに・・・」
「何か言ったか?」
アシャが最後の方に口にした言葉は自然と小声になったためアッシュには聞き取れず、そのためアッシュが不思議そうな顔をしてたずねるとアシャははっとして首を慌てて横に振った。
「な、なんでもないって!」
さすがにこんな話をするわけにはいかないと必死になっているアシャにアッシュが怪訝そうな表情を浮かべると、聞きなれた話し声が徐々に2人のほうに近づいて来ていた。
「あれ?なんか2人とも仲良くなった?」
「誰と誰がだ?」
きょとんとしたルークの2人を見ての素直な感想にアッシュは有無を言わさずすぐに反論の言葉を口にして立ち上がった。
「あ、アッシュ・・!」
「俺はもう行く。お前達に付き合っているほど暇ではないんでな」
「とかいって、律儀にアシャの相手してたみたいじゃないですか」
「五月蝿いぞ眼鏡」
ジェイドのからかう様な的確な突っ込みに、顔を引き攣らせながら怒気をはらんだ言葉を投げつけると、アッシュはそのまま何も言わずに不機嫌そうに食堂から出て行ってしまった。
「あ・・・行っちゃった」
「もう、大佐がからかうからですわよ。出なければもう少しいてくださったかもしれませんのに・・・」
「いや〜すみませんね〜。つい」
わざとらしく笑みを浮かべるジェイドの姿に、その場にいた誰もが絶対わざとだと心を1つにして同じことを思っていた。
「・・・で、アシャ。本当にちょっとはアッシュと仲良くなれたか?」
「へっ・・・・・まさか、ルーク。そのために俺とアッシュをここに残したのか?」
「うっ・・・まあ、そのぉ・・」
目を泳がせながら苦笑を浮かべるルークの姿に少し目を丸くさせ後口を開いた。
「仲良くなるも何も・・・別に俺は、アッシュのこと嫌いなわけないし」
「お前はそうでもあっちはなんていうか、その・・・」
「ああ、まあ・・慣れてないからちょっときつかったけど」
「・・慣れてない?ってなにに?」
きょとんとしたアニスの言葉にアシャは自分の口から思わず出た言葉にはっとして慌ててはぐらかす言葉を考えた。
「いや、気にしないでくれ」
いつも自分を大事にしてくれている父親から警戒心むき出しにされたことなどととても言えるはずもない。
その瞬間なにやらジェイドの眼鏡がひそかに光ったようにも見えたがあえて気にしないことにした。
「まあとりあえず、俺がレプリカじゃないって事だけは信じてもらえたみたいだぜ」
「へ〜、良かったな。どうやって信じてもらったんだ」
「ん〜と・・単に俺の家族の話したくらいだな」
「アシャの家族か〜。俺もちょっと興味あるかも」
「そうか?!」
ルークのこの言葉にぱあっと顔を輝かせたアシャはその後、延々と先ほどアッシュに話したよりもはるかに長く家族の話をし続けたのだという。
その間何かを察して即座に逃げ出したジェイド以外のメンバーは、延々と長時間にわたってアシャの家族話に拘束されたのだった。










既に日も暮れたケテルブルグのホテルの一室にはすっかり疲れきった様子のルークと、なにやらやけに満足した表情をしたアシャの姿があった。
「ルークなんか疲れた顔してるけどどうしたんだよ?」
「ん・・いや・・・アシャ・・・お前よくあんなに話せるな・・・」
「あんなにって・・・まだ語り足りないくらいだけど。まだはな」
「いや・・もういい」
またぱあっと顔を輝かせて話し出そうとするアシャをぴしゃりと静止し、ルークは本当に良くあそこまで1つのことで延々と話せるなと重いながら枕に顔を埋めた。
まさかその話の内容が自分自身のことでもあるなどと、当然ルークには想像もつかないことだろう。
ただルークが理解できたことは、本当にアシャは家族が大好きで自慢で大切なんだなと思ったことだ。
同時にそこまでアシャに想われてアシャの家族は幸せだなということと、こういう風に家族想いに育てられるなんてアシャの両親はよほど子育て上手で出来た人間なのだなと、アシャから聞いた話と合わせてもそう思えていた。
ある意味これは自画自賛なのであるが、アシャが自分の未来の子供であるということを知るはずもないルークにはそんなこと解るはずもない。
「俺も将来子供出来たらアシャみたいな子に育てられるかな〜・・」
そう言いながらなんだかルークは自分で言った言葉が虚しく思えてきた。
自分にそんな相手が現れてくれる可能性があるか解らないし、そもそもレプリカである自分に子供を作る能力がオリジナルと同じようにあるのかどうかすら解りもしないのにと。
しかしその心配は杞憂で実際に子供が生まれて自分の理想どおりに育ち、しかもそれが目の前にいるアシャだということを知るようなことがあればルークがどれだけ驚くかは用意に想像できる。
そしてルークがそんな事を考えているとも知らない当の未来の息子であるアシャはこちらのアッシュと和解(?)したことで、あるいは家族の話を思う存分話せたことで多少この時代にいても余裕ができたのか、呑気にルームサービスなど頼んでくつろいでいた。
運ばれてきたケーキと紅茶の良い匂いにつられたのか、ルークはピクリと反応してそのまま起き上がってアシャのほうを見た。
「ケーキ?!」
「ああ。ルームサービス頼んだけど食べる?」
「食べる、食べる」
そう言って先ほどまでの疲れ果てた様子が嘘のようハイテンションでこちらに寄ってくるその様を見て、アシャは「やはり母上なんだな」とまたしてもしみじみと感じながら本当に見た目も中身を年取ってないななどということを想っていた。
「アシャ〜。俺このミルフィーユもらって良い?」
「ああ。俺どうせザッハが良かったし」
「じゃ、ちょうど良かったな。いただきま〜す!・・うま〜い♪」
そう言って喜んでケーキを頬張るルークを本来は立場が逆なのではと思いながら微笑ましく見た後、アシャもケーキを口に運んで食べ始める。
「な、おいしいよな?アシャ」
「う〜〜ん・・まあ、普通かな」
絶賛してアシャに同意を求めるルークに対し、アシャは平然と可もなく不可もなくといったような発言をして見せた。
それにどこか不満だったのかルークは軽く文句を言い始める。
「なんだよその感想〜。こんなにおいしいのに普通って」
「ん〜・・だってな〜。いつも食べてるやつのがおいしいからさ」
「いつも食べてるやつ?」
「・・俺の幼馴染の作った料理」
喜ばしいはずなのにどこか複雑そうに告げたアシャの言葉にルークは少し興味を持ったようだった。
「幼馴染?そいつ料理上手いのか?」
「ああ、かなり。特にケーキ類は絶品だからな。おれ、あいつの作った料理に関しては嫌いな食べ物入ってても食えるし」
「へ〜そんなに凄いのか。で、アシャの嫌いな食べ物って・・・」
「・・・・・・・にんじん」
口にするのもどこか嫌だという事が伝わってくるようなその食材の名に、ルークも思わず笑みを凍らせて顔を引き攣らせてしまっていた。
「あ、アシャも・・・嫌いなのか?にんじん」
「ああ・・大嫌いだ。ちなみにうちの家族全員な・・・」
「だ、だよな〜。あんなの食べれないよな?」
互いに顔を引き攣らせながら嫌いな食べ物について語っていたが、ルークのほうはどこか仲間を見つけて嬉しいといった様子でもあった。
「・・・・・アシャは、そいつのに関してはにんじん入ってても食べれるんだよな?」
「ああ・・・」
「俺も・・そいつのなら食べれるかな?」
「・・・・・大丈夫だろ」
実際に食べれてるしという言葉は心の中にとどめ、あえて口に出すことはなかった。
しかしアシャが口に出していった一言だけで、どこかしらルークは希望を見たような表情になりそれを見たアシャは、少しだけ、本当に少しだけあの幼馴染兼自分の使用人がこっちに来てはくれないかと思ったのだった。












あとがき

前半アッシュ、後半ルークでそれぞれ親子1対1の会話でお送りしました。
ルークのほうは短かったですけどね・・・
そして自分の家族の事をその本人に延々と語って聞かせるほどやはりアシャは家族大好きです。
多分家族の事だったら1日だって語れるのではないでしょうか。
まあなんにしろアシャもこの時代にだいぶ慣れてきたようです。
今回色々と省いたところがあるのですが、そのせいで短かったです・・・;
次回はいけるところまで行こうと思いますので、もしいけたら最高でフェレス島あたりまでかもしれません。
でもそうなると登場するであろう六神将のうちディスト以外はアシャの被害を受けること確実です;;
なんだか当分出ることはないだろうといっておきながら他の子供達も早々に書きたい気分になっています・・・;







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