This voice(前編)




テニス大会はすでに終盤を迎えようとしていた。
前半はヨハンが意外(?)な才能を見せ、圧倒的に魔法院有利で進んでいたが、ぎっくり腰であえなくリタイアしたため、代わってユニシスが参戦し後半戦は、両者ほぼ互角であるが、またしても意外なことに魔法院側が勝っていた。
「先生が抜けてどうなることかと思っていたら、それでも魔法院の方が勝ってますね」
「そうですね。ユニシスもなかなかやるものですね」
「・・・っとうか、私にはアークがリュートの足を引っ張っておるようにしか見えんじゃが・・・」
葵のいう通り、実は魔法院側の2人は後半戦開始からアークを挑発していた。
心理戦でアークの冷静さを欠き、ミスを誘うという嫌な作戦に出ていた。
ただしこの発案は前半戦のことから頭に血が上ったアークを見たアクアの発案であり、日頃から何かとアークに言われているユニシスも内心ではかなり喜んで同意したのだった。
そのせいか、リュートがとるはずの弾も無理やりアークが取り、しかもそれが高確率でミスになるという事態を招いていた。
「だぁぁ〜〜!なんで、決まらないんだ!!」
「アーク、落ち着いて!」
「ノーコン・・・」
「下手くそ」
リュートが宥めるも、アクアとユニシスがすかさずまた挑発し、アークは落ち着くどころかさらに頭に血が上る始末。
もはやまともなテニスとはいえない状態になってきていた。



「まったく・・・何をやっているのやら」
「まあ、良いじゃないですか。あれはあれで面白いですし」
目の前の光景に呆れて溜息をつくソロイのすぐ隣で、対照的にシリウスが本当に面白そうに笑っていた。
しかしそこまではいつものことなので良いのだが、ソロイが気になるのはその手に握られたどう見てもラケットと思われるそれだった。
「・・・シリウス様。失礼ですが、まさか乱入するおつもりではないでしょうね?」
「いや〜、さすがソロイ殿。良く解りましたね」
「エラ〜イ。エラ〜イ!」
これもいつもの調子でボビーも交えてふざけたように答えるシリウスの言葉に、いつものことながら眉間に皺ができた。
「ご遠慮頂きます」
「え〜〜!それはないんじゃない?」
「これは不仲の魔法院と騎士院の交流を深めるためのもの。そこにシリウス様に割ってはいられては困ります」
「そんなこと言わないで。折角ラケットも用意したんですから。ソロイ殿の分もありますよ」
「・・・なぜ、そこで私の分があるんですか?」
ふと嫌な予感がして、その予感が外れであってほしいと願いつつソロイは尋ねたのだが、その予感があたっていたことが次のシリウスの言葉で解った。
「それは、ソロイ殿と私とで組んで、神殿代表ということで出場しようかと思って」
「お断りします」
「うわっ!何も即答することないじゃないですか?!」
「私の役目はプルート様もお守りすることです。その私が職務を放棄して参加などできるわけがないでしょう」
「まあまあ、そういわずに。なんだかソロイ殿と是非出たいって気分なんですよ」
「知りません。とにかく私は・・・・・」
シリウスに突き出されたラケットを押し返そうとラケットに触れた瞬間、ソロイはぴくっと何かに反応してその動きと言葉の両方を止めた。
その時の彼の不自然さに気づくものは、もはや珍プレーと化した試合に集中していただめ誰もいなかったという。






魔法院VS騎士院の試合に決着がついた。
結果は結局魔法院がポイントを死守しての完勝となった。
悔しそうにしているアークを目の端で確認しながら、してやったりという顔で満足げにしているアクアとユニシスをマリン達は確かに見た。
「お、お疲れ様です」
「ねぎらい・・・ありがとう」
「ったく、たいしたことないよな〜」
「そうね・・・でも、葵とリュートには少し悪いことをしたかしら?」
葵に対しては所属している騎士院を負かしたという意味から、リュートには作戦でとった行為のせいで迷惑をかけたことをアクアは言っている。
しかし葵とリュートの2人はちっとも気にしていない様子だった。
「気にせずとも良い。私は出させて貰えなかったわけだし。それにあやつにはよい薬じゃろうて」
「そうそう、葵さんの言う通り。これで少しは自分の短気さを反省するでしょ」
「だと良いんですが・・・・・」
付き合いがそれほど長いとは言えないが、とてもアークがこれくらいで堪えるとはマリンにはどうしても思えなくて苦笑した。
「とりあえず、皆さんご苦労様でした。それでは閉会式に」
「待ってください」
プルートが閉会式を始めようと声をかけていると、突然どこからか静止の声がかかった。
しかしそれは姿を確認するまでもなく誰のものであるかは明白だった。
「そ、ソロイ?どうしたんですか?」
「っていうか・・・ソロイ様が手にもってるのって・・・・・・」
「ラケット・・・・・ですよね?」
「ラケットですね」
「ラケットね」
「ラケットじゃな」
「ラケットだな」
「ラケットみたいですね」
「ラケットだね」
そして未だ悔しがってこちらの事態に気が付いていないアークを除く全員の意見は同じものだった。
「「「「「「「なんでソロイ(さん(様(殿))が、ラケットなんか握ってるんだ(ですか(じゃ))?)
あまりにも不釣合いというか、ありえない事態に全員の頭の中は完全に混乱していた。
「プルート様・・・」
「は、はい・・・?」
あまりにギャップに多少放心状態だったプルートは、突然自分に声をかけられて少しびっくりとした。
「お願いがあるのですが・・・」
「な、なんでしょうか?」
「私に試合をさせてください」
「「「「「「「・・・・・・・・・はい?」」」」」」」
ソロイに進言されたプルートだけでなく、先ほど心の声をハモらせた全員が驚きのあまりまたも声をハモらせた。
「ソ、ソロイ・・・どうかしたんですか?貴方がテニスをやりたがるんて・・・」
「私がテニスをすると何か問題でも?」
「そ、そういうわけではありませんが・・・」
そう言いながらもプルートは頭の中で必死にソロイがテニスをする姿を思い浮かべようとした。
しかしあまりにことに想像ができなかった。
そして他の面々もどうやら同じ状態のようだ。
そんなプルートや一同をきれいに無視し、ソロイは淡々と話を続ける。
「先程の試合・・・あれはポイントの数え方が明らかに間違っていました」
「・・・そ、そうなんですか?」
思わず元プロだというヨハンを見たが、ヨハンはただこくりと頷いた。
「え、ええ・・・確かに、ちがうな〜〜と思ってはいましたが・・・」
「じゃあ、なんで気づいた時に言わなかったんですか?」
「いや・・・そのままでも面白そうだな〜〜と思いまして」
はははっと笑うヨハンの姿に、呆れる者と多少情けなくなる者と半々に解れた。
そんな様子を放っておいてソロイの話はなおも続く。
「ですから、私が正しいテニスを示さなければならないのです。それが、部長の務め!!」
普段からは信じられないようなことで意気込んだソロイのその言葉に、一同はただ目を丸くしていた。
そしてソロイには聞こえない程度の声で話し合いだした。
「な、なんですか?「ぶちょう」・・・って?!」
「さ、さあ・・・私にもさっぱりで・・・・・・」
「テニス経験者の先生でも知らないんですか?」
「っていうか・・・・・テニスに関係したことなの?」
「ど、どうなんでしょう?」
「本人に問いただすのが1番じゃろうが・・・・・」
「なんか聞き辛いというよりも・・・近づき難いですね。いつもとは違った意味で・・・」
リュートのその言葉に一同深く同意する。
ソロイの普段から考えられないこの状態に分けが解らなかったが、ただ勢いに押されてプルートは許可を出すしかなかった。






あとがき

え〜〜、前後に分けてしまいました;
思ったよりもソロイとシリウスの会話が長引いたせいです。
とりあえず(遅まきながら)ドラマCDネタで、声ネタです(爆)
え〜、大概の方にはどうしてソロイに白羽の矢がたったのか解ると思いますが・・・(「部長」発言から)
後編でもう1人白羽の矢が立つ人がいますので・・・(←おいっ)
というよりももうすでにたっていますが・・・
とにかく後編はもっと酷く、申し訳ないことになりますので、駄目だと仰る方は後編はお読みにならないで下さい。
何があってもギャグなら許せる方のみ、続きをお待ちください。
まあ、声ネタという時点で想像つく方にはつくでしょうが・・・
ちなみにこの話では基本的に完全な突っ込みはユニシスだけで、アークが少し可哀相かと・・・
なにせドラマCDネタなので・・・(アークファンの皆様すいません;)




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