雪山




白く降り注ぐ雪は、人々の心に幸福をもたらし、子供達の心をその冷たさとは逆に温かくする存在。
誰もがその季節になると待ち焦がれるもの。
しかし、それは時として恐ろしいものに変わる・・・・・


あたり一面は白に覆われ、いったいここがどこなのかすらも解らない。
足は雪に埋もれ、寒さと疲れによって急激に体力はなくなり、仲間とはぐれ、孤独感から精神的にも侵されていた。
こんなつもりではなかった・・・
ある裏の情報屋から仕入れたレア級の情報で、この国の遥か最北にある雪山に宝が数多く隠されているという話だった。
しかし、そこは来てみれば、自然の脅威を絵に描いたような場所で、生命が踏み込んではいけないような・・・否、生命を拒むかのような場所だった。
それでも、ここまで来て引き下がるわけには行かず、足を踏み入れたその瞬間に仲間とはぐれ、山の中を彷徨っている。
最後には、ここがどこかも解らず、はぐれた仲間のことも考えられず、ただ自然というものの恐ろしさをその見に味わい、朽ちていった。
彼と同時にその仲間達も命の炎を凍りつかせていた事も知らず・・・・・

どこかで声がする・・・・・

・・・から・・

侵す・・・から・・・・・


継承戦争、セレスとの戦いから数ヶ月が経った奈落城では、新しいこの国の王となった金色の髪の少年がいまだなれない政務にいそいそと取り掛かっていた。
いくら王とはいってもまだ遊びたい盛りのようで、書類の決済をしながらもちらちらと時計を気にしてその時を待ち焦がれている。
そして秒針が3時を告げる。
「よ〜し!休憩だ〜〜」
そう言って伸びをすると足早に執務室から抜け出そうと扉を開けたその時、鈍い衝撃を感じてその場に座り込んでしまう。
「だ、大丈夫ですか?!アレク様!!」
「カロー・・・ル?」
どうも扉の前でノックをしようとしていたカロールに勢いあまってぶつかってしまったようだ。
「すいません。大丈夫ですか?」
「だい・・じょうぶだけど・・・何か用?」
「はい」
「・・・長くなる?」
アレクの神妙な面持ちでのその問いかけにカロールは少し考えてから答えを返す。
「多少・・・」
「だったら・・・」
ぐいっとカロールは突然アレクに腕を捕まれて驚いた。
そのまま歩き出すアレクに半ば引っ張られる形でカロールも自分の意志に反する歩みを始める。
「あ、アレク様?」
「長くなるんだったらお茶しながらね」
振り返って最強の笑顔で微笑む幼い王の姿にカロールは逆らえず、そのまま3時のお茶の席に招待された。


「じ、実はですね・・・今、奈落中で行方不明者が続出しているんです」
お茶の席でカロールは少し萎縮したように本題を話し始めた。
その理由は、普段いないはずの・・・しかもよりにもよってアレクに誘われて今ここにいるカロールに対して重い空気を纏っているプラチナとサフィルスのせいである。
普段はプラチナとサフィルスがアレクを取り合って冷戦状態にあるのだが、今回かロールの参入で見事2人共の標的が彼になったのだ。
ちなみにその原因を作ったアレクと、もう1人のいつもの参加メンバーであるジェイドは呑気にお茶を飲んだり、お菓子を食べていた。
ただし、アレクは気づいておらず、ジェイドは気づいていてあえて関わらないようにしている・・・という違いがあるが・・・・
「何それ?原因は?」
「どうも行方不明者は共通した情報をえて、ある場所に向かい・・・そこから消息が途絶えているんです・・・」
カロールの神妙な面持ちの言葉にアレクが小首を傾げる。
「ある場所?」
「奈落の最北にある雪山です。今まで誰も足を踏み入れた事がないという・・・」
「そんな所にどうして行ったんだろ?」
「どうも・・・大量の財宝が眠っているという話がついていたようで・・・」
財宝という言葉に好奇心旺盛なアレクの瞳が財宝=宝探しと結びついて輝き、多少テーブルから身を乗り出した。
「1つ質問して良いですか?」
今までただ静かに話を聞いていたジェイドがお茶の入ったカップを置き、アレクの財宝への興味をそぐかのように尋ねてきた。
「城の外の情報収集は主にロードの分割だったはずですが?」
「それが・・・ロード、二日酔いで寝込んでいまして・・・代わりに報告して欲しいと」
だが、その役を引き受けたのは失敗だったといまだ無言で突き刺さる2つの視線にそう思った。
ジェイドはここにいない人物に呆れながら再びお茶の入ったカップに口をつけた。
「ふ〜ん・・・あっ、そうだ!俺たちでその雪山に行ってみない?」
アレクの意見にジェイドとカロールだけでなく、今までカロールを睨みつけて、話を聞いているのかいないのか解らなかったプラチナとサフィルスも反応する。
その拍子にサフィルスは手に持っていた高級そうな、しかもまだお茶の入ったカップを床に落して割ってしまった。
「あ〜〜、何してるんだよ。サフィ」
「す、すいませ・・・そうじゃなくって!アレク様、さっきのカロールさんの話し聞いてました?!」
「なんだよ、聞いてたよ!」
少なくともお前達よりは!と、怒って交互に指をさされてプラチナとサフィルスは言葉に詰まった。
「でも、坊ちゃんの言うとおりですよ。今の話によるとその雪山に行くのは危険と推測できますしね」
「そ、そうですよ!」
ジェイドが結果的に助け舟を出す形となって、ここぞとばかりに復活するサフィルス。
「そんな危険なところにわざわざ行く事は・・・ましてやアレク様は奈落王なんですよ!」
「だから行くんじゃないか」
熱心に理解させようとするサフィルスの言葉を半ば否定して、アレクは真剣な面持ちでサフィルスだけでなくこの場にいる全員に語りかける。
「行方不明者だって、まだ生きてる可能性はあるし。だからって、他の奴に調査に行かせてもまた行方不明者が出るかもしれないし」
「それはそうですが・・・」
「だったら、俺が行って見るのが1番良いじゃん。自分の国の民を守るのは王様の責任だろ?」
「で、ですが・・・」
この後、延々1時間に及ぶ口論は続いたという。


「で、結局アレクに説得されたということだね?」
雪山へと続く道の途中、呆れたような表情でベリルは3人の顔を見た。
あの後、プラチナがアレクの側について2人がかりで3人を説得したのであった。
「プラチナ様のついたアレク様は強いですからね・・・」
ジェイドがポツリと漏らした言葉を聞き取ったサフィルスは彼を睨みつける。
「でもアレクのいうことも一理あるやろ」
「簡単に言わないで下さい・・・お兄ちゃん」
カロールは雪山に行くという断固としたアレクの意見に反対し、説得していた事と、その前のプラチナとサフィルスの精神的攻撃に疲れ果ててしまっているようで、いくら禁句を言われようと今回はその姿に遠慮してルビイは何も言い返せなかった。
「それにしても・・・あの雪山ねぇ」
「ベリル何か知ってるのか?」
「いや、まったく」
真顔で首を横に振るベリルに一同は多少驚く。
この奈落にあって、ベリルの知らない事はないだろうと今まで思っていたためである。
「ベリルも知らないの?」
「まあね・・・この奈落には東西南北に大きな山があるんだけど、今向かっているのはそのうちの1つ、北の山なんだよ」
「それがどうかしたのか?」
「・・・その山は、昔セレス様でも手を出せなかったんだ。それに・・・『妙な感じがするから近づくな』とも・・」
「ちょ、ちょいまち!それって・・まじでやばいんちゃう?!」
あのセレスでも介入しようとしなかった山の存在に今更ながら全員は脅威を感じていた。
「そういえば、ボクも昔おじいちゃんが・・・『東西南北の大山には、なにがあっても近づかないよう』・・・っていってたデス!」
プラムの追い討ちをかけるその言葉に全員の空気がいっきに重くなってしまった。

「でも・・・実際に言って見なきゃなにがるのか解らないんだし、ね?」
アレクのその明るい一言と笑顔で、周りの空気も幾分か軽くなったようだ。
「そうだな」
ぽんっと自分の頭に手をのせて微笑むプラチナに微笑み返し、アレクは再び一同を率いて雪山を目指すのだった。


そこはまさに自然の脅威といえる場所・・・
結界を張っていなければ一瞬のうちに凍死していたであろう事が予想される。
火属性のルビイとカロールで結界をはり、それを風属性のプラムが強化させるという方法ではありが、それでもこの雪山の気候を完全には遮断できていない。
ここまで来る間にも、まだ雪山の麓よりも少し離れた場所であるにもかかわらず、その影響が現れたかのような極寒の様子が広がっていた。
そして、大本の雪山に来てみればこのありさま。
吹雪は常に吹きつづけているものの、これが普通の吹雪ではないように感じられた。
威力もそうではあるが・・・どこか意志を持ったかのような、生きているような吹雪なのだ。
「なんなんや!これ!!」
「はう〜〜さむいデス〜〜」
「結界を張っていてもこれですか・・・」
「兄上大丈夫か?」
「うん・・・とりあえず」
手を繋いだり、声を掛け合っていなければ結界の中ですら相手がそこにいるかどうか解らない・・・
視界を覆い尽くす白い脅威に一同は苦戦していた。
この寒さもさることながら、どの辺りまで登ってきたのか解らない。
それ以前に、本当に今も登っているのかすら解らない・・・

ざくりと、雪に足の埋まる音を一体何度させたのか解らない。
かなり、長い間歩き回っていたであろう事が予想される中、ようやく1つの変化が訪れていた。
「なに?あれ」
なぜ、この不便な視界の中で解るのか謎だったが、とにかくその姿ははっきりと確認できた。
白い髪に、銀に近い白い瞳、肌までも雪のように白く、唇は紅い。
身につけているのはやはり白い着物、そして素足に下駄と呼ばれるもの。
まるでその姿は・・・
「ゆ、雪女?!」
「それは架空の存在でしょ」
この状況下で冷静に突っ込みを入れるあたりがさすがなジェイド。
「でも、普通じゃないのは確かだね」
まさしく、『雪』と表現するのがふさわしいかのような姿をした謎の女性の出現に全員は身構える。
「・・・・・奈落王・・・か」
冷たい、射るような瞳をまっすぐに向けられ、突然語りかけられアレクはびくんと一瞬方を弾ませる。
なぜ自分が奈落王であるということが一目でわかったのかという謎を残しながら・・・
「ここに何をしに来た」
「この山に来た魔人が次々に行方不明になってるって聞いて・・・」
「・・・捜しに来たのか、無駄なことを」
恐怖心を隠すかのように力強く言ったアレクの言葉は、女性の冷たい一言によって消されてしまった。
そして、その女性の言葉からある予測がされた。
「まさか・・・お前が?」
「・・・あの者達は、禁を犯した。この山に立ち入ってはならぬという禁を。ここは一種の聖地、そこに立ち入る事は・・ましてや私欲目当てであるのならばただですますわけにはいかん」
淡々と感情のこもっていない口調でそう言うと、今度はベリルとプラムの方を向いた。
「初代の奈落王にアプラサスの生き残り・・・お前達はそれぞれこの山に入るなといわれているはず」
「何でそんなこと知ってるデスか?!」
「天上、奈落において私の知らぬ事などない」
淡々と告げる彼女の姿、声、瞳・・その全てがこの雪山の異常な気候を作り上げているのではないかと思えるほど冷たく答えた。
「私は、天上・・・そして奈落という『世界』を創世した『意志』と『力』の4つ末端・・・その内の1つだ」
「天上と・・・奈落を・・?」
「そう・・天上も奈落も元は同じ存在が創りし兄弟のようなもの。違っていたのは天上は『神』という永久絶対的統治者に治めさせ、奈落はそこに住まうもの達が自由に統治権を変化させられるということ・・・」
そこで初めて彼女は溜息をつき生命らしい態度を見せた。
「しかし、天上の絶対的統治者であったはずの『神』は殺され、奈落は自由を超越した種族間の身勝手さがはびこる始末・・」
より冷たい眼差しで睨まれ、アレク達はびくりと気候の寒さとは違う冷気を感じ取って身体を震わせる。
「そして、その身勝手さを証明するように私欲にまかせた魔人がこの山に足を踏み込んだ・・・責められるいわれはどこにもないと思うが?」
「でも・・」
「お前達は・・自分達が相手にする事はまるで当然のように思い、逆に自分がされる側に廻った場合は『なぜ自分達ばかりが』と身勝手なことを思う。己が相手にした事を見ず、自らの利害のみを見る。天使も魔人も混血もアプラサスも・・・」
彼女が動いていないはずにも関わらずまる徐々に近づいてきているような感覚に襲われる。
「そして、相手にされたことと同等あるいは同じことをなして復讐とする。自らには復讐する権利があると主張する。だが・・・どんな理由であろうと、所詮は相手と同じことをなした時点で相手と同じ存在に成り果てているのだ」
彼女が真っ直ぐに指をさす。
その指が指し示すのは、唯一ではなく不特定多数・・この場にいない者達に対しても向けられているのだろう。
「そのような愚か者達が幾度ある『世界』にはびこり、我々は幾度も『世界』を消去した・・この奈落、天上も幾度目かの『世界』にすぎん・・・」
その言葉に彼女の言葉を呆然と聞いていたアレクが反応を示した。
「それまでの『世界』全部滅ぼしたってことか?!・・・このままだと俺たちの『世界』も同じように滅ぼすつもりか?!」
「無論・・・それが創世の末端『四季の王』の1人、この『世界』すべての冬を司る『冬の守護王』たる私の勤めだ」
アレクの必死な様子にも変わらぬ様子で彼女は淡々と答えを返した。
まるで初めからそれを答えるつもりでいたかのように・・・

どこまでも凍えるこの雪山の中で、彼女はこの雪山以上に冷たく、全てを凍えさせるような存在に見えた。
あるいは・・・この山の方が彼女の1部とも言える存在なのかもしれない。
暫しの沈黙の後、彼女の紅の唇が再び動いた。
「さて・・お前達、この山に踏み入った事を見過ごすわけではないが・・・奈落王を今はまだ殺すわけにはいかん・・・部下も含め今回に限り見逃すゆえ早々に帰るが良い」
彼女の言い分はこのまま帰れば見逃すが、これ以上留まるなら殺すという脅しに近いものだった。
そしてその意味は全員理解できていた。
はっきりといえば彼女に勝てる自身は誰も全くなかった。
普通に話しても彼女の威圧感はもの凄く、1人1人を圧迫してくる。
彼女に従って大人しく帰るのが上策ではある。
あるのだが・・・
「なんのつもりだ?」
彼女が睨んだ先には1歩前に出て彼女を力強く見据えているアレクの姿があった。
「アレク?」
「ごめん・・皆・・このまま帰れば良いんだろうけど・・・俺は王として事件の原因をこのままにして帰れないよ」
申し訳なさそうに、しかし覚悟を決めたようなアレクの声に驚いてしばらく思考が止まっていた一同ではあるが全員思わず表情が緩んでしまう。
「兄上らしい・・・」
「生きて帰れなかったら責任とれよ!」
「死んだら責任の取りようがないよ」
緊張の糸が切れたように笑いながらそれぞれの言葉で自分を後押ししてくれる仲間達にアレクは思わず苦笑いをこぼす。
「・・・覚悟は、決まったようだな」
冷たい彼女の声が一同を現実へと引き戻す。
きっと彼女を睨みつけるとアレクは強く言葉を紡いだ。
「行方不明者は・・どうした?!」
「・・・答える必要もないことだ」
そう答えると彼女は掌をアレクへとかざす。
その瞬間がくりと糸の切れた人形のようにアレクの身体は膝をついて真っ白な雪の上に倒れた。
「兄上!」
「アレク様!」
プラチナが真っ先にアレクの身体を抱え起こすが堅く瞳を閉じ、仲間達に何度呼ばれてもその瞳が開く気配はなかった。
それどころか息すらもしていない。
「・・貴様何をした!」
プラチナが怒りを露わにし、睨みつけた先にいる彼女はその声に答えるかのように胸の前で手と手の間に空洞を作るように組んでいた手を開いてそれを全員に見せつけた。
それは美しいを形容するだけでは足りないほどに綺麗な紅い光の球だった。
「これは奈落王の魂だ」
それを聞き瞬間的に一同の思考が絶望に支配されたかのように一旦麻痺する。
「この山に踏み入ったものはこうして皆魂を抜き取った。お前達も同じ末路だ・・」
そう言い、この雪深い中にあって足など沈めさせず、足音すらも立てずに彼女は1歩近づいた。
しかし彼女の言葉にも圧迫感にも先程までの恐怖というものをプラチナ達は感じていなかった。
恐怖よりも、アレクの魂を抜き取った彼女への憎しみが勝っている。
それを理解しているとでも言うように彼女が自分を睨むプラチナ達に徐々に近づいていた時、ふいに足が止まった。
「・・・・・て」
彼女が何か呟いた。
あまりにも小さな声でそれは聞き取れなかった。
「どうして・・この魂は、これほどまでに暖かい・・・」
彼女のその一言に睨んでいた全員の瞳が円くなる。
奪ったアレクの魂の暖かさに戸惑う彼女は、絶えられなくなったようにその場に膝をつく。

そしてアレクの魂を解放した

気がついたアレクの瞳が開いて最初に飛び込んできたのは今だ心配そうにしている仲間達の顔だった。
「兄上!」
「あ・・・ただいま」
その言葉からどうやら自分が魂を抜き取られたという自覚があるらしい。
にっこりと微笑むアレクの姿に全員はほっと胸を撫で下ろした。
「あ・・・」
アレクは今だ膝をついたまま何か考え込んでいる彼女に気がつき声をもらす。
そしてしばらくその姿を見た後、まだ魂を抜かれたあとで少しふらふらする身体で立ち上がる。
そして彼女へと不確かな足取りで近づいていく。
「危険だぞ!」
「・・大丈夫だって・・・・・多分」
心配そうにする仲間達の制止をにこりと笑って流し、アレクは彼女の数歩手前まで行き、立ち止る。
「・・・お前、寂しいの?」
アレクのその一言に彼女はアレクがそこにいるのに初めて気がついたように顔でアレクを見上げる。
「私が・・・寂しいだと?」
「・・・うん。俺、お前に魂抜き取られてからお前の心・・少し感じたから」
その中に確かにあった、かすかな「寂しい」という感情。
「私に・・そんな感情あるわけない!」
「でも、俺はそう感じたよ?」
明らかに動揺して怒鳴る彼女にアレクは微笑んでそう告げる。
「私は・・・・・ここで、役目を果たさなければ・・」
「うん・・・でも、友達くらいはいても良いよね?」
「そんなもの・・・私には・・・・・」
「いらない」・・・という言葉を彼女は自分でも解らないが何故か押し留まった。
アレクが自分に向けるその嘘のない真っ白な心の笑顔は今まで自分になかった何かを、あるいは本来望んでいたそれを与えてくれているような気が気づかずにしていたのだ。
「俺がお前の友達になるよ」
「・・・お前が?」
「うん。俺はアレク・・・お前の名前は?」
「・・・・・私には名前などというものはない」
俯き今までの冷徹で冷静な口調、振る舞いが嘘のように彼女は寂しそうに、しかしどこか諦めたかのように言う。
「名前、ないのか・・・でもそれじゃ不便だし・・・そうだ!」
名案が浮かんだとでもいうように満面の笑みを作ってアレクは彼女に人差し指を突きつけた。
「俺がお前の名前を考えてやるよ。友達になったお祝いに」
「えっ?」
「何がいいかな・・・・・」
彼女や仲間たちが呆然と見守る中彼女の名前をアレクは真剣に考えていた。
最初にこの山に来た目的など忘れたのではというくらいの勢いで・・・
無論そんなことはないのだが・・・

そしてしばらくしてアレクは太陽のようと表される誰もが見惚れる彼の最高の笑顔で彼女をこう呼んだ。

「スノウホワイト」

その瞬間彼女の中を今まで知りもしなかった暖かなものが満たしていた。




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