「フランスと、手を、結ぶ…?!」
 イギリスは上司の言葉を反芻する。言葉はとっくに脳に達しているのに、理解が追いつかない。
「今日は4月1日だったか?」
 ジョークも真面目な顔をした上司に一蹴された。
 本気、なのかよ…。信じられない思いで俯いていると、上司の手がイギリスの方に置かれる。
 時代は変わっていくものだ。ならば私たちと彼らの関係も変わることができるのではないか、
と説得されても、すぐに肯定的な返事ができるわけがなかった。

 ゆっくりでいいから、前向きに考えてくれ、そう言われて、頑張ってはみるものの、どうしても気持ちは沈む一方だ。
(あいつが俺を受け入れるはずがない)
 フランスを敵として固定することで、今まで大陸と渡り歩いてきたのだ。
 些細な諍いも含めれば、それこそ数え切れないくらいにいがみ合ってきた。
 今までのことをなかったことにできるはずがない。

 考え事をしている間に、海岸に着いていた。
(あの対岸からあいつが来たんだよな。あれから何百年も経ったんだよな…)
 思えば、随分と長いこと一緒にいるものだ、と感慨に耽っているうちに眠ってしまったらしく、
次に目を開けたときには、空が片方は茜色に、片方は紺色に染まっていた。
「ん…」
 伸びをすると、肩から上着がするりと落ちた。怪訝に思い拾う。豪奢な刺繍が施されたその上着はイギリスのものではなかった。
 まさか、と慌てて見回すと、見慣れた金髪が傍らでうっすら赤く染まっていた。
 声もかけられずに、自分にかけられていた上着を今度はフランスの上に被せる。
 無防備だ。おそらく彼も今回の件を聞いているのだろう。そして…
(こいつは、賛同している、のか?)
 意外だとしか言いようがなかった。
「…そんなに俺の寝顔に見惚れるなよ」
 片目だけ器用に開けて、フランスが茶化す。
「誰が見惚れるか、馬鹿!」
 いつから来ていたのか、そして、いつから起きていたんだ、と問う気も失せてしまった。
「お前、何しに来たんだよ」
「別に…結果的には昼寝しに来たことになるか」
 嘘だ。恐らく、俺の胎を探りに来たのだろう。
「ならもう帰れよ」
「そうだな。マズイ食事出される前に帰るとするか」
「…お前っ!」
 拳を上げると、軽々と起き上がってそれを避けた。
 上着をさっと羽織ってフランスが振り返る。
「じゃあ、また、な」
 沈む直前の鋭い朱色の光の中で、フランスが手を振る。
「…またな」
 夕日が沈んだ後の暗闇の中からイギリスが手を振り返した。



Present from
*東さま

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