馬鹿みたいに暑い帰り道、死体を発見しました。え、死体ってそんな、え?こんな細い道の壁にもたれてぐったりと座り込んでいる男を
みつけただけで、そんな死体だなんて決め付けられないですよね。いやいや、横っ腹からちょっと赤い液体が滴っているからってそんな、
死んでるわけないない。いたって平凡な女子高生をやっている私が、殺人事件に遭遇するなんてそんな。 いやいや、ないって。いや別に私はこの人が死んでるんじゃないかと思って横にしてるんじゃないからね?一応の確認ですよ。確認だっ て。黒髪の、足が長い男の人を横にして顔をよくよく見てみれば、それはなんだうちの学校の高杉くんではありませんか。うわ、こんな 近くではじめてみたよ。きれいな顔してるな…じゃなくて!えっと、高杉くんといえば不良で喧嘩ばっかりしてて退学も危ういと噂の彼だ ろうか。こんなに華奢な体して、喧嘩ばっかりしてるのかな。あ、もしかして。 「喧嘩に負けてこんな目に!?」 「…っげーよ」 思わず口に出してしまった言葉に予想以上に反応したのは私の前で横になっている彼、高杉くんである。負けたと疑われて飛び起きるっ て、どれだけ負けず嫌い君だよきみ。あ、でもよかったとりあえずは死んでないみたいだ。私の言葉に反射的に反応してしまったけど、 まだ意識は薄いようで、顔が青白い。太陽をにらむように、額に手のひらを乗せている。息が荒い。うわ、なんかこの人全体的にえろい な。漂わせている空気がえろいよ! 「元気になったようなので私はこれで」 「おい待て」 「あのスイマセン離してください暑くて溶けそうなんで早く帰りたいんですよ」 「怪我人おいて、ひとりどこへ行く気だよ」 「いやだから家に帰りた」 「運べ」 「は」 「歩けねぇんだよ。手伝え」 なんて、なんて理不尽な人なんだ!普段あんまり良い噂聞かなくて恐れられている高杉くんが目の前にいるっていうのに、私はぜんぜん 恐くない。むしろ今は弱っているようで私でも勝てちゃいそうなくらいだ。まあ、怪我してるなら手伝ってやってもいいか。無意識に出た 大きなため息に高杉くんは眉間にしわを寄せていたけど、それは怪我が痛かったからだと受け取っておくことにしよう。とりあえず肩を 貸そうと腕を伸ばすと、背中にどかっと乗ってきやがった。お、重い…!壁に手をつきながらふらふら歩き出すと、ぜーぜーというような つらそうな声が耳に直接入ってくる。暑い、けど、いま体が熱くなった。ぞくってなった。うわ、やっぱなんかこの人の周りの空気えろ い! 「…救急車呼んだほうがいいんじゃないですか?」 「いらねぇ。そんな大した怪我でもないし」 「はぁ…。(そんなふうには見えないけど)おうちどっちですか」 「お前帰りたいんだろ。お前ン家でいい」 「いやですよ家族に誤解されます」 「…そこみぎ」 話すのもだるくなってきたのか、高杉くんの声はだんだん弱まってきて、ついには指だけ動かして家を教えてくれようとした。うわ、顔色 真っ青じゃないですか。こりゃ早く部屋につれていってあげないと、死なないか?これ。なんとか急いで高杉くんを引きずって支持の通り に歩いていくと、ひとつのマンションにたどりついた。それも普通のマンションなんかじゃなくて、高級マンションとかいうやつではない だろうか。いやいや庶民の私にはよくわからないけど、きっとこりゃ高いだろ。高杉くん家ってお金持ちなのかな。とりあえずマンション の玄関まで行くと、暗証番号を押さないと前に進めない扉になっていた。えっと、セキュリティ?なんだっけ、こういうの。とりあえず 高杉くんの部屋のインターホン鳴らしてご家族にきてもらわなきゃ。 「えっと、何号室?ご家族の方いるかな」 「…とり」 「え?」 「おれひとり」 何が言いたいんだろうか、そう思っていると高杉くんはボタンをピッピッピと気だるそうに押している。呆然としていると扉が開いて、 私は急いで高杉くんと一緒に扉をくぐりぬけた。エントランスのようなところを少し歩くとエレベーターが見えて、それに乗り込むと高杉 くんは6というボタンを押した。へえ、6階に住んでいるんだ。ボタンを押すとすぐに座り込んでしまいそうになっている高杉くんをなん とか支えて6階に着くと、何番目かの部屋の前でポケットの中をあさりだした。そして鍵を取り出したかと思うとすんなりと開けてくれる。 あ、さっきの「おれひとり」の意味がわかった。一人暮らししてるんだ。玄関にはひとつの靴も置かれていなかった。 「え、と、寝室どこですか」 「ソファでいい…」 リビングにある大きな赤いソファに寝転がすと、高杉くんは真っ青な顔でこっちを見上げてくる。うつろな目さえなんだか色気を放って いて、なんだかこの人の近くにいるとぞくっとする。うわやっぱりえろいよ危険だよ危ないよ。 「それでは私はこのへんで」 踵を返して、すぐあとにくるであろう引き止めの声を待ったというのに、いつまで経ってもそんな声聞こえてこなくて、この静かな部屋に 荒いつらそうな息遣いが聞こえてくるだけだ。玄関で靴を履きかけて、やめた。もう一度リビングに戻ってソファの中身をのぞくと、死に そうな人間みたいな顔色をして、冷や汗なんか出している。あれ、これって本気で危ないんじゃ。急いでシャツを捲り上げて傷口を見ると 血はもう止まっているようで、薄い膜のようなものが張っている。あ、よかった、そんなに深くはないんだ。とりあえずこのままにはして おけないから消毒をしよう。そう思って体に触れると、ひどく熱を持っていた。熱がある、のとはちょっとちがう?あれ、これってもしか して脱水症状? 「高杉くん、何か飲む?」 「あ、ちい」 カラカラな声が部屋にこだまする。まず、水分か!キッチンへ駆け込んで冷蔵庫を開けるとミネラルウォーターくらいしかなかった。なん でこんなに空に近いんですか!あとで何か買ってこよう。これじゃあ何か作ろうにも材料がない。ミネラルウォーターを持って高杉くんに 飲ませて、きれいそうなタオルを濡らして高杉くんの傷口を丁寧に拭いている自分を少し不思議に思ってみる。いや、なんだこれ。明らか にこの状況っておかしいよね。誰が予想したよ、私と高杉くんの接触を。なに私もこんなふうに親切してやってんだよ。もう高杉くんは 意識も薄いのか目を半分くらいしか開けてないし。逃げるなら今のうちだろうに。ん?あれ、息がちょっと落ち着いてきたかな。目が閉じ かけてる。 「高杉くん、寝てもいいよ。というか寝ろ」 「お前、名前は」 「え、あ、あーです」 そう答えると、高杉くんはじっとこっちを見てから目を閉じた。なんだろう、なんで名前?あんまり覚えられたくないんですけど。ああ、 しまったここは偽名を使うべきだったかな!山田花子ですとか言っておけばよかったかな。うーん、まあいっか。 額に手をやると熱を持っていた。冷却シートも買ってこよう。傷口の手当なんてはじめてしたけど、これでいいのかな。まあいいや!しな いよりましだろう。タオルを濡らして額に乗せ、クーラーのリモコンを発見したから寒くならないよう弱めに設定して部屋を出た。とりあ えず近くのコンビニでそろえられるだけそろえよう! |