電話の音で目を覚ました。放っておこうと寝返りを打つのにベルは一向に止まず、俺の頭を刺激する。どのくらい鳴っていたのか、ずいぶ ん長いように感じる。あるときそのベル音が変わったのだ。昔懐かしい黒電話の音のような、りりりりりんという澄んだ音。あきらめて体 を起こして受話器を取るとそこにはなぜだか公衆電話のボックスの中で、今時めずらしいその場面にも、一転した景色にもなぜだか疑問な んかもてなかった。ボックスの外は真っ白で何も見えない。やけに寒々しいようなその景色に身震いさえした。俺は何も言わない。受話器 も、返事をする気配はない。俺はあきらめて受話器を置こうとすると、待ちわびたように声がした。待って、と。もう一度耳にそれを当て ると聞きなれた声が聞こえはじめた。

「別れよう」

はじめて疑問に感じた。どうして、口には出していないのになぜだか彼女には聞こえたようで、別れなきゃいけないからという。なぜだろ う、俺の心は穏やかだ。怖いくらい。

「別れてぇのかィ」
「ううん」

あいつの声も落ち着いている。まるで世間話でもしているように、興味なさげに返事をするのだ。悲しみも憤りも感じられず、戸惑いさえ 忘れた。

「でも、お別れしなきゃ」

せせら笑うような声に、俺はどこかあきらめて止めることもすがることもしようとはせずに、ただそうかと告げて首を傾げた。かっこつけ ているつもりはなかったし、冗談に受けているつもりもなかった。ただ真摯に、そうかと思った。

「こういう大事な話は直接するもんじゃねぇのかィ」
「総悟にこんな姿見せたくなかったから」

疑問にも思わずただそうかと告げる自分の声がやけに落ち着いているのが不気味だった。あいつに愛想がつきているわけでも、つきたわけ でもない。本当に好きだったのに、何も問わずにそうかと告げて受話器を置いた。








目が覚めたのは直後だった。