ワンダーディスカバリー
愛しあうもの同士が、キスやセックスをするのは自然なことだという。それが、よくわからない。キス、つまりは口と口を合わせる行為。それを気持ちよく感じたり、依存したりするのはなぜだろう。体の一部と一部を重ねあわせるということなら、手を繋ぐのだって一緒なはずでは?でも、一緒じゃないんだから、なんだかよくわからない。手を繋ぐのを気持ち良いと感じて、もっとしたいと思う人はいるだろうか?いや、いるだろうけど、キスほどではない気がする。食物を体の中に取り込むときに用いるのが口。それをあわせるだけで、どうして頭がぼんやりしたり、愛を感じたりするんだろうか。セックス。性行為。男の人は性器を女の人の性器の中に入れたり出したりする、あのワンパターンな単純行為に快感を覚えるのはなぜだろう。体のつくりだからといってしまえばそこでおしまいだけど、よくわからない。女の人は男の人の性器を体の中に入れられて、気持ち良いと感じるのはなぜだろう。別に男の人の性器でなくてもいいのでは?実際にただの棒やら自分の指やらを自分の中に入れて欲求を解消している人もいるというけれど、それでもやはり男の人の性器よりも快感は得られないという。どうして?
キスは、好き。目を閉じているときに、頭の中にどろりと何かが流れ込んでくるような、あの生暖かい感じが、なんとなく好き。本当に頭の中に何かが流れ込んできているわけじゃない。視界と頭の思考をぼんやりとさせてしまうあの、言葉にできないようなゆったりとした甘い雰囲気は病み付きになる。でも、どうしてだろうな。口と口を合わせているだけなのに。セックスは、まだ知らない。


小さな箱の中で絡み合う男女は、とても魅力的で、体中が熱くなってしまうような雰囲気をかもちだしていて、見ていることにどこか負い目を感じてしまうようなあられもない姿を惜しげもなくさらしている。女の人が苦しそうに眉間に皺を寄せる姿さえ魅力的に感じて、思わず顔が熱くなりそうだ。男の人よりも女の人を重視して撮られるこの映像は確かに刺激的だ。男の人がはまるのもわかる気がする。


「ど、どわー!てて、て、てめ、なに勝手に人の見てんだよ!?」
「ビデオ入ってたから、何みてんのかなとか思って、再生してみちゃった。やっぱり獄寺のなんだ」
「てめえはビデオ入ってたら何でもかんでも再生すんのかこのやろー!?」
「獄寺もやっぱこういうの見るんだねー」


はじめてだった、見るの。エロビデオ。その名のとおりエッチなビデオ。そういうものが実在するってことは当たり前のごとく知っていたけど、実物を見るのははじめてだった。獄寺の部屋にくるのははじめてじゃない。数なんて忘れてしまったけど、恋人として何度も訪れてこの部屋のにおいとか、雰囲気とか、覚えてしまっているくらいになった。そして獄寺が飲み物でも取ってきてくれているとき、ふとビデオデッキを見たら電源がついていて、何か入っているんだろうかとリモコンをとったらなんと、きれいなお姉さんが乱れに乱れて男の人と絡み合ってあんあん喘いでいるんだから、びっくりした。人のセックスシーンを見たことなんて、もちろんない。最初は人並みに赤くなってとめようとしたけど、人間のセックスというのは本当にこんなことをするんだと見入ってしまっていた。人の話を聞くだけじゃわからない、絵があるとこんなにもリアル。いや、リアルにセックスしているんだけど。


「お、おま、お前、なんでこんなに落ち着いてんだよ…」
「エロビと思わず、教育ビデオと思えば見られるもんだね」
「ある意味教育かもしんねーけど、だからってお前…!」


ぶつぶつ言っている獄寺を無視していたら、いつまでも突っ立っているのを変に思ったんだろうか、隣にえらそうに座ってきて、横目で獄寺を見てみたら難しい顔で私とテレビを交互に見ていた。顔が赤い。照れてるんだろうか。恥ずかしいならとめればいいのに。リモコンはまだ私の手の中にあるけど、ビデオデッキの停止ボタンを直接押せばとまるのに。何にしても、おかしな光景だろうな。カップルがベッドに座ってエロビを見るなんて。あれ、これってめずらしいことでもないの?エロビをカップルで見るのってめずらしくないことなんだろうか。よくわからないけど私には経験がない。頭に女の人の喘ぎ声が響いた。女の人はどっからこんな声を出しているんだろうか。私も出るのかな、こんな声。想像、できないや。


「…とめねーのかよ」
「ねえ獄寺」
「無視かよ」
「獄寺もセックスしたい?」


おもしろい顔。黒くない瞳を見開いて、私のほうを見て固まっている。答えに迷っているのか、それとも思考回路がショートしてしまったのか。どちらにしてもこんな獄寺、めずらしい。笑えないのに笑ってしまいたくなった。冗談だよ。そう言えたらよかったのかもしれない。私は獄寺を試すように、こんな質問をして獄寺を困らせてしまった。困らせたかったのかもしれない。それとも、私のほうがセックスしてみたかったのかもしれない。あ、そういえば、獄寺ははじめてなんだろうか。はじめてが別の人だったら、ちょっとは嫌な気分になるかもしれないけど、そこまで気にしない、かなぁ。獄寺が今愛している異性は私だっていう自信がある。途方もない自信。私は獄寺を愛している。んだと思う。だからセックスがしたいのかもしれないし、興味本位かもしれない。私はそもそもセックスをしたがっているんだろうか。固まっていた獄寺が、眉間に皺を寄せて顔をそらした。その顔はちょっと赤くて可愛い。あ、なんか心にどろっとしたようなあったかいのが流れてきた。愛しさって、呼ぶんだろうか。私は獄寺を愛している。


「べ、別に…」
「私が、したい、かも」


今日はいい日かもしれない。獄寺のめずらしい顔を二回も見られた。目を見開いて、こっちを見てくる姿は小さい子みたいだった。まん丸になった目が、ちょっとずつ閉じていって、それからまたゆっくりと開く。まつげが長い。とってもきれいな顔をした私の恋人である獄寺の顔がゆっくりと近付いて、唇が、触れた。




※この先不健全な描写が多数含まれます。苦手な方はここでお戻りください。無駄に長いです。