江戸川の日記念付属小説(2008)


<<07快斗誕生日記念小説   *連動小説リストへ*




 小五郎に買い出しを頼まれて、コナンはしぶしぶ外へと繰り出した。
――秋になると途端に夜の帳が落ちるのは早くなる。帰り際、ふと見上げた空模様にコナンは足を止めた。

「……懐かしいな」

 まだコナンになる前の頃、気分転換に、よく星空観察をしたものだ。
秋の心地良い風に吹かれて寝転がりながらの一時は実に爽快な気分になる。

(――行ってみるか)

 そう思い立つと、コナンは来た道を戻り始めた。



 工藤邸から北に一キロ程行ったところにある小高い丘の上。視界を遮るものもない、完全なパノラマ。
散歩の最中、偶然見つけた場所だったが、夜景を見るには絶好の場所だった。
街の外れにあるせいか、未だにあまり知られていない。

「変わってねーな」

 緩やかな坂を上りきり、コナンは辺りを見渡した。もちろん景観は変化している。
しかし、ここから見える街明かりと星空の煌めきは当時のままだ。
百万ドルの夜景とはよく言ったものだが、それとは違う感慨がここにはある。
あの頃そうしていたように、コナンは芝生に寝そべった。

(…………)

 変化した目線にコナンは思わず眉を寄せる。

(低すぎだな……)

 途端に視界から街灯りが消える。
――本来ならば、たとえ寝そべったとしても、まだ多少なりと街灯りは見えていた。

(ま、これでも別に構わねーか)

 確かに街灯りは見えないが、その分ただ純粋に星空だけを観賞できる。
特に今夜は曇りも殆どない空模様。星空観測には絶好のロケーションである。

「星か……」

 よく『人は死んだら星になる』と言われる。それは恐らく、先祖から継承され守られ続けた思いやりの言葉。
たとえ傍を離れても、いつも見守っていることの証明の代わりとして。
不安になったり悲しんだりせず、残された者がいつまでも笑っていられるように――。

(……ただの皮肉だな)

 中学時代、クラスで飼っていたインコが死んだことがあった。
そのことでしばらく落ち込んでいた蘭を元気づけてやろうと、ここで星を眺めながらそんな話をしたことがある。
――だから悲しんでいてはそのインコに失礼だと。

 しかし、真剣に悲しんでいる時は、それは慰めですらない。単なる嫌味か皮肉になりかわる。
――そう。彼女が口にしたように、それは次第に言い訳に聞こえ出す。

(……星ですらねーか)

 それがちっぽけであろうとも、夜空の星は常に輝いて、人に光を与える。
しかし、たまの電話ですらも詭弁に終わる自分には、人一人満足に照らせない。

「……どうすれば良い?」

 頭上で煌めく星に問いかける。
近くて遠いその存在。自分がいないことで悲しむ彼女を見ては、何も出来ない自分がもどかしい。
心を和らげさせようと、コナンとしていくら声をかけても、彼女が本当に求めるものとは異なるだろう。
その心に届く光は自分であって自分でない。

 心まで照らせなくとも、ただ笑ってくれればそれで良い。願いはその一つ。
どうすればそれが叶うだろうか――。



 しばらくして携帯が鳴る。
心配そうなその声に、もう帰ると返事を返してから、コナンは少し黙り込んだ。

「――ねぇ、蘭姉ちゃん。今、星が凄く綺麗だよ」

 今の自分には何も出来ない。でも何か術があるなら力の限り尽くしてみせよう。
心からの、その笑顔が覗けるその日まで……。



<<07快斗誕生日記念小説   *連動小説リストへ* >>あとがき(ページ下部)へ



レンタルサーバー広告: