* 新蘭お題リストへ * >>02.公認夫婦
――幼馴染に恋するなんて、日常茶飯事なんだから!
「分っかんないなぁ……」
「ん?」
ノートから目を離して、難しそうにそう呟く蘭に、
新一はノートに書き込んでいた手を止めると、蘭のノートを覗き込む。
「何だ?何処が分からないって?――って、あれ?でも蘭、お前ここの単元得意だろ?」
「……」
新一の発した言葉に、蘭は少し不満そうに新一を睨んだ。
「違うわよ、もう!」
怒鳴る蘭に、新一は訳も分からず目を丸くする。
「違うって……普通、テスト勉強してる人間が『分からない』っつったら、問題だろ?」
高校1年の夏。期末テストが近いというわけで、工藤家でテスト勉強することになった二人。
お互いテスト範囲の問題集を黙々と解いていた矢先に呟かれた蘭の言葉。
当然、問題集の問題に疑問点があったと思い込み、親切心で教えてやろうと反応したのだが、
どうにもそれが裏目に出たようで、不満げに返される。
「……バカ」
「何でだよ!?」
驚いて言われた新一の言葉に、蘭は無言で用意されたアイスティーを口にする。
それ以上話を続けない蘭に、新一としても続ける言葉が見つからなかった。
しばらくの沈黙の後、その場をしのぐように新一もアイスティーを口にした頃、遠慮がちに蘭が口を開く。
「……ねぇ、新一。普通、幼馴染に恋愛感情なんて持たないでしょ?」
「――!?」
蘭の口から出た予想外の言葉に、新一は口に含んだままだったアイスティーを思わず吹き出した。
「ちょっ!し、新一!どうしたのよ!?」
向かいのソファに腰掛けていた蘭は慌てて立ち上がると、
テーブルに置いてあった教科書や筆記用具を拾い上げ始めた。
「もう……。私のは大丈夫だけど、新一の教科書びしょぬれじゃない!」
蘭は完全に物が取り除かれたテーブルを布巾で拭きながら、目の前でむせ返ってる新一を見る。
「ちょっと新一!上着濡れてるじゃない。
ここの片づけはやっておくから、ちょっと着替えてきたら?」
「――え?ああ……悪ィ、じゃあちょっと頼むよ」
自室に駆けて行く新一を見て、蘭は肩をすくめるとテーブルを拭きながら呟いた。
「何もあんなに驚かなくたって良いじゃないの」
「ったくよー……行き成り何言い出すかと思えば……」
心なしか乱暴にクローゼットの扉を閉めると、新一はため息をついた。
「大体、あんなこと言うんなら、もっと状況考えろよ……
予告なしにあんなこと言われて、動揺しねー方がおかしいだろーが!」
そう呟いて、部屋を出て行こうとして手が止まる。
「……って、俺のあの行動……蘭のやつ何も思ってねーよな?」
あの蘭のことだ。
こういうことに鈍い蘭が気付いているわけはない。
それでも万が一のことを思うとなかなかドアを開けられない。
「新一?どうかしたの?」
「別に何もねーよ!今行くって!」
階下から聞こえた声に新一は慌てて返すと、意を決してドアを開けた。
「着替えるだけなのに、何でそんなに時間がかかるわけ?」
戻ってきた新一に、蘭は不思議そうに問う。
「良いじゃねーか、別に」
自分が起こした行動に顔が合わせづらかったから、とも言い出せず、
新一は不機嫌そうに蘭に対してそっぽを向けた。
その行動に首を傾げるも、蘭はお盆に乗せたガラスのコップを新一の前に置く。
「――はい。アイスティー、入れ直しといたから」
「ああ……サンキュー」
新一は焦っているのを隠すように、それを一口飲んでから蘭に訊く。
「なあ、蘭。さっきの話だけど、何でいきなりあんなこと言い出したんだよ?」
「え?あ、あれ?前、学校で園子が言ってたのよ」
「だーかーらー!そんなんじゃない、って言ってるでしょ!?」
「へぇー。あの、どう見ても夫婦さながらな、仲の良さなのに?」
「違うってば!」
授業の合間の休み時間。
クラスの間で新一の話題になり、いつものごとく園子が蘭をからかい始めていた。
「でもねぇ、蘭。アンタ、相当新一君の面倒見良いじゃない?」
「だ、だから……あれは……!」
蘭が園子に抗議しようとして、聞き慣れた声に遮断される。
「おーい、蘭!」
声のした方を振り返ると、新一が教室の前で蘭を手招きしている。
「ホーラ、蘭!旦那のお呼び出しよ!」
「園子!!」
ニンマリしながら言う園子に、蘭は苦笑いすると新一の方へ向かった。
「どうしたのよ?」
「なあ、蘭。オメーのクラス、次何の授業?」
「え?数学だけど?」
「じゃあさ、英語の辞書持ってたら貸してくれねーか?たまたま忘れちまって……」
申し訳なさそうに言う新一に、蘭は軽く笑った。
「新一も案外抜けてるのよね」
「おい――」
「あ!文句言うんだ?良いわよ、別に。その代わり、辞書は他で借りてよね」
抗議しようとしたのも束の間。蘭の言葉に新一は押し黙った。
せめて目だけでもと不満そうな視線を蘭に送ると、可笑しそうに笑われる。
少し待ってるよう新一に伝えると、蘭は自分の机へ辞書を取り出しに行く。
「ハイ。――今日は私のクラスもう英語ないし、急いで返さなくていいからね」
「サンキュー、悪ィな」
「ううん。でも新一なら、辞書なくても大丈夫なんじゃない?」
「まあ……な。でもあの先生、辞書で調べさせるの好きだからな。ないと色々やりづれーんだよ。
――と。あ、もう時間だな。じゃあな、蘭!」
軽く片手を上げて教室へ戻って行く新一をしばらく見送ると、蘭は園子の所へ戻った。
「――やっぱりそうじゃない」
「え?」
蘭が戻ってくるや否や、園子は呆れたように首を振る。
「別にさぁ?辞書忘れたくらいなら、他に貸してくれる人なんて大勢いるじゃない?
特に新一君なんて、そこらの女子生徒に頼んだって貸してくれるわよ。
それをわざわざ蘭に借りたのは、きっと少しでも蘭と話したかったからで……」
「ち、違うわよ!」
「じゃあ、何でわざわざ蘭に借りにくるわけ?」
それ以外に何があると言わんばかりに迫られて、蘭は困ったように視線をそらす。
「それは……わ、忘れ物した時に私が一番、気兼ねなく借りやすいんじゃないの?」
「言い訳ね、蘭。あれだけ、小さい頃からいっつも一緒にいて、
お互い、好きにならない方がおかしいのよ!」
「だから!別に私は新一のことがどうとか、全然そんなのは――!」
「良いじゃない、別に。幼馴染に恋するなんて、日常茶飯事なんだから!」
「――って」
(園子のヤロォ……)
蘭から一部始終を聞いて、新一は苦笑いする。
「それでね、まさかと思ったから、新一に確認したのよ。
幼馴染だからって、普通恋愛感情持たないでしょー?」
冗談交じりに訊ねる蘭を、新一は難しそうな顔で見た。
「……別に関係ねーだろ?」
「え?」
「その……恋愛どうこうに幼馴染云々ってのは」
蘭が驚いて新一を見ると、新一はわざとらしく問題集へ目を落とす。
「……ね、新一。今のどういうこと?」
「――よし、とっとっとテスト勉強終わらせちまうぞ!」
「新一ってば!」
それ以上何を言っても無反応な新一に、蘭は不満そうに口元を膨らませた。
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表現が拙い気はするものの、上手い直し方もよく分からず。
微妙に削ったり足したり、そんな修正の仕方になりました。
セリフがそう長くなく、地の文もそう長くない場合、展開早い方が読みづらい気がする。
かと言って、どちらかを長めにする能力もなく、割と原案そのままな編集のみ。
幼馴染で同じクラス設定もそれはそれで良いのですが、
個人的には意外と別のクラス設定の方が好きなのかもしれない。