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【 ※コナンと快斗は互いに正体認知済みです 】
寝ぼけ眼で、大きく欠伸しながら食卓へとやってきた快斗に母親が声をかける。
「おはよう、快斗。随分と眠そうね」
「ああ……昨日の晩、遅かったからなぁ」
テーブルへ着く前にもう一度欠伸をしてから、椅子に腰を落ち着けた。
目の前にタイミング良く置かれた朝食に、ため息をついてから箸をつける。
「そろそろ警部に予告状出さねーとダメだからな、犯行日近くはハードだよ」
愚痴るようにそう言うと、後は黙々と食事を胃へと運ぶ。
「――ごちそーさま」
食べ始めて十数分。
満足したように箸を置くと、手近にあった新聞へと手を伸ばした。
「あれ……?」
昨今のニュースを求め、手を伸ばした先に、
【黒羽快斗様】と書かれた封筒を見つけて、無意識に手が止まった。
「なあ母さん。これ何?」
「さぁ?朝刊取りに行った時、一緒に入ってただけ。見たら分かるんじゃない?」
そりゃそうだ、と笑って返してから、封を切って中を見た。
「ホォー…………」
一通り内容に目を通してから、意味深に言う快斗に、母親は不思議そうに訊いた。
「何だったの?」
「んー?」
焦らすように、のんびりと手紙を封筒へ戻してから、
企むような、また、いたずらっ子のような表情で母親へ視線を向ける。
「スカウト♪」
コナンがクラスのドアを開けると、天気同様明るい声がかかる。
「あ!コナン君!おはよう!」
「ああ、おはよ」
形式的な朝の挨拶を交わしながら、コナンは自分の机へ荷物を置いた。
「そうだ、知ってますか?」
「知ってるって?」
コナンが席に着くのを待っていたかのように、光彦がその場のメンバーへ言う。
「このクラスって、不定期に課外授業みたいなものをやるじゃないですか。
それが今度の土曜にあるらしいんですけど、今回は外部講師を招くそうなんです」
「あら。でもそのイベント、簡単に言えば子どもを自由に遊ばせる行事でしょ?
それなのに珍しいわね、講演会みたいなものって」
「講演会って何すんだよ?」
哀の言葉を聞いて、元太が怪訝そうな表情を見せる。
「さあね。実際、その日が来てみないと分からないけど、
分かりやすく言うなら、誰か大人が演説しているのを聞く感じかしら」
そう言われ、元太は露骨に顔をしかめた。
「――そうだ!ねぇ、光彦君。誰が来るとか内容とかは聞いてないの?」
「内容はちょっと……。職員室を通りかかった時に聞こえただけですから。
ただ、名前は聞きました。漢字は分かりませんけど」
「誰?誰?」
急き込んで訊く歩美に、光彦は少し時間をかけて答えた。
「えーっと……確か『クロバカイト』さんとか言っていたように思います」
(……ん?)
外部講師だとか、講演会だとか、演説だとか。
コナンは大して興味もわかず聞き逃すだけだったが、聞こえた名前に思わず振り返る。
「おい、光彦。今、誰って言った?」
「え?ああ、はい『クロバカイト』さんと……」
「クロバ……」
「あ、もしかして知り合いですか?」
「いや……」
光彦の問いに、コナンが答えたのは否定の言葉。
その後に、しばらく間をおいて真面目くさった顔で続けて呟いた。
「それがマジなら絶対何かあるな」
「?」
コナンの言った言葉の真意をはかりかねて、
その場にいた4人は不思議そうに顔を見合わせた。
――そして問題の土曜日。
哀曰く『外部講師を招いての講演会』のことは、にわかにクラスへ広まっていた。
その証拠に、担任である小林が教室に入ってくるや否や、
子供たちにその件を訊かれ、小林の方が驚いたくらいである。
「なあ、先生ー……。何で講演会なんだよ?」
「講演会?」
不満そうに抗議した元太の言葉に、小林は目を丸くした。
「違うわよ。確かに外部の方に依頼はしたけど、だからって講演会じゃないのよ?」
可笑しそうに笑って言ってから、おもむろにチョークを手に取り、
黒板に漢字で『黒羽快斗』と書いて、平仮名で『くろばかいと』とルビをふった。
「先生が、彼のお父さんのファンでね。今回、息子さんに頼んでみたのよ。
それが今から来てくれる、黒羽快斗くん。――どうぞ」
入室を促す言葉と共に、教室のドアが開く。
若干名を除いて、その場にいた人間が一斉にそちらへと目を向けた。
その入ってきた人物の顔をチラリと見ると、コナンは小さくため息をつく。
(……ちょっと調べりゃ、俺のクラスだって分かんだろーが。断れよ……)
そんなコナンの沈痛はいざ知らず。
クラスへと入ってきた快斗は、まず小林の方へ歩み寄って社交辞令な笑みを見せる。
「どうも、先生。今日はお招きありがとうございました」
そう言ってお決まりの、挨拶代わりのバラ出しマジックを披露した。
「あら!」
早速の催しに小林は驚いて快斗を見る。
それに満足したような表情を見せてから、今度は教室内の子供達へと視線をめぐらせた。
「初めまして、Boys & Girls♪
さっき、簡単に紹介された黒羽快斗です。
まあ、それ以外には……。普段はただのしがない高校生だけど――」
意味深にそこで言葉を切ると、ゆっくりと両手を前に出す。
「手先の器用さには、そこそこの自信があってな――」
快斗は子供たちの視線が自分の手へ集中してるのを確認してから、
威勢の良い音を片手の指で鳴らした。
すると、静まり返っていた教室に、鳩の羽ばたく音と、紙吹雪が上から舞い落ちる。
その瞬間、教室内は歓声が上がり、一気に雰囲気が賑わった。
「『手』を扱わせたら、周囲を楽しませるマジシャンに早変わりってわけさ」
快斗流自己紹介が済んだところで、誰かが一人拍手をし始めると、
それが教室全体へと伝染して、全員が突然現れた奇術師へと拍手を送る。
「ねぇ、ねぇ。凄いね、あのお兄さん!」
「ホントですよね。さっきまで、あの手に何もありませんでしたよ!」
「まあ、何かタネがあるんでしょうけど、楽しいのは楽しいわね」
「うん!」
とまあ、そんな調子で教室内は盛り上がり始めた。
目の前で、先ほど出した鳩で遊ぶ快斗に、大抵の人間はワイワイ騒ぐのだが……
「なんだよ、コナン。その顔」
「――え?……ああ」
元太に指摘され、不機嫌そうに前方を見ていたことに気付く。
「具合悪いの?コナン君」
「そうじゃねーよ」
「じゃあ、もしかして楽しくなかった?」
「いや?」
残念そうに言った歩美の言葉に、コナンはチラリと快斗の方へ複雑な視線を向けた。
「ただまあ、何と言うか。……癪なだけさ」
「え?どうし――」
「――うわっ!すげーっ!」
歩美がコナンの言葉の意味を訊こうとした瞬間、教室の前方がやけに盛り上がった。
その歓声につられて、一時快斗から関心の外れていた5人が快斗へと目をやった。
いつの間にやら両手にトランプがあるところから見て、
何らかのトランプマジックで周りをアッと言わせたようである。
「なぁ、なぁ!お兄さんと怪盗キッドって、どっちが手品の腕、上なのかな!?」
「ん?」
殆どの生徒が、快斗を囲んで、次々に繰り広げられるマジックを楽しんでいて、
その中の一人の言葉に、快斗は意外そうに相手を見た。
「さぁなぁ。ボウズはどっちだと思う?」
「うーん……。かと言って、僕もキッドと会ったことないからなー。お兄さん!」
「お。嬉しいねぇ。でもまあ、そういうことは客観的に見れる奴じゃねーとな。
ちゃんとした判断は下せるとしたら――なぁ、メガネのボウズ!」
「へっ?」
行き成り自分に話が振られて、コナンは驚いたように快斗を見た。
「マジックの腕が、俺が上か、キッドが上か。ボウズは何度か会ったことあるんだろ?
キッドの記事を読むと、たまーに載ってるからな。どう思う?」
「はぁ?んなもん、両方とも――」
楽しそうに言う快斗を、半ば呆れながら答えかけて言葉を切った。
「『両方とも』なんですか?」
急に言うのをやめたコナンを、その場にいた人間は不思議そうに見る。
それに気付いて、コナンは疲れたようにため息をついた。
(何で俺が墓穴掘るような行動しなきゃなんねーんだよ……?)
そんな思いをこめて、睨むような視線を快斗へ送る。
それに気付いたらしい快斗は、面白そうに笑って見せた。
快斗の反応を確かめると、コナンは一瞬眉を上げた。
(ふーん……テメーがその気なら――)
「――両方ともあんまり変わらないんじゃない?
二人とも特にずば抜けて凄いってわけじゃないと思うけど?」
快斗に対する皮肉なのは明らかである。
何が言いたいか分かっている快斗を除き、周りは驚いたようにコナンを見た。
「え……?コ、コナン君?」
ためらいがちにかけられる声。
それに気付いているのか、そうでないのか。
かけられる声に返答することはせず、コナンは真っ直ぐに快斗を見る。
それを見て、快斗は意味深な笑みを口元に作った。
(おー、おー。分かりやすいくらいに、思いっきり対決モードですか)
快斗は一度息をついた。
「まあ、個人的には、そっちの方が好都合かな?」
そう言って、パチンと指を鳴らすと、室内を飛び回っていた鳩を消し去る。
「よーしっ!まあ、前置きはここまで。とりあえず、全員席につこうか」
パンパンと手を叩いて、自分を囲っていた生徒達を個々のテリトリーへ戻す。
それから、全員が席についたのを見越して教壇の前に立ち、トランプを取り出した。
「じゃあ、本題な。ただ単にマジック見せてるだけじゃ、面白味にも欠けるだろ?
だからと思って、事前に幾つか選りすぐって用意してきたから、何人かで組んで
今から見せるマジックのタネを暴いてもらおうかと思ってな」
そこまで言うと、手馴れた手つきで手元のトランプをきる。
「まずは一般的なトランプマジックから。
――ホレ!適当に6人前後のグループ作ったら、始めるから早くしろよー。
あ、そうそう。一応、解けたグループに景品用意してあるから、
勘のいい奴と組んだ方が特は特かもしれねーぞ?」
示し合わさずとも、既に自然と組んだお馴染みの5人。
快斗の言った言葉に自信あり気な様子で、口々に話し出す。
「それなら、僕達のグループはきっとパーフェクトですね!」
「うん!何て言ってもコナン君がいるもん!ねっ?」
「……ああ」
歩美に言われて、呟くようにそう言うと、横目で快斗を見る。
「――どんな無理難題出されても解いてやろうじゃねーか。探偵の威信にかけてもな……」
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探偵&怪盗タイプな話でもなければ、コナン&快斗+殺人事件タイプな話でもなく。
ダチ物というのかはいざ知らず。この二人で、事件絡まない日常話書いたのは初めてです。
ついでに、小説でキリリク受けるのも初めてでした。141200番というキッド関連番。
キッドか快斗関連が良いな、と思ってると「快斗がコナンのクラスへ1日教師に来る話」
とのリクエストが舞い込んできたので、二つ返事で引き受けて書き出しました。
コナンのクラスで、不定期な課外授業の実施とか、小林先生が盗一さんのファンとか
その辺は、この話を成り立たせる上でいりそうだったので、勝手に作ってみた。
快斗が目に見えてコナンで遊んでるのは、コナンの反応書くのが実に楽しいので追加。
コナンがキッド=快斗を知っている、と明確化されてるのもシリーズ以外では初ですね。