ドリーム小説
四宝神刀 二




黒崎家に虚が襲撃した翌日。
普通に学校に登校したは、1時間目、2時間目と同様、3時間目が始まる前もきょろきょろと辺りを見渡していた。
「(ん〜〜・・・さすがに、昨日の今日では学校にこないのかな?)」
さすがにあれだけのことがあったのだから学校を休んでも仕方がないと、は昨夜の一件を思い出しながら一護の事を多少なりと心配していた。
「(しかもなんか、家にトラックが突っ込んだことになってるし・・・今度瞬間的に壊れたものが直る装置でも開発させようかしらねぇ)」
誰かが聞いていたら即座に、誰にそんな大それたものを作らせるつもりだ、という言葉が飛んできそうだが、生憎それはの心の中の声だったので誰も突っ込んではこなかった。
「トラックぅ!!じゃあ何?あいつケガしたの!?それとも死ん・・・」
「でねえよ」
何かクラスメイトが縁起でもない言葉を口にしているなとが思っていると、先程まで多少なりと心配していた人物の声が聞こえて瞬時に振り返った。
「ウチの連中は全員無キズだ。残念だったな」
「黒崎くん!」
「うん、元気そうで何よりね♪」
白々しくにっこりと微笑みながらが話しかけると、一護は胡散臭そうな目を向けた。
「お前・・・」
「ちょ、ちょっと待て!一護」
一護がに話しかけようとした時、横からそれを遮って浅野が声を上げた。
それを如何にも面倒くさそうに一護は見た。
「・・・何だよ?」
「お前・・・お前!いつの間にさんと仲良くなったんだ?!!」
「別に仲良くなった覚えは・・・」
「酷いわ、黒崎くん!そんな冷たいこと言うなんて・・・」
否定しようとした一護のその言葉に、即座には憂いのある表情でそう告げた。
その言動は周りにいる者たちへ誤解を与えるには十分すぎるものだった。
「い、一護あんた・・・」
「うわーー。一護がこんなに手が早いとはしらなかったなぁ」
「っ・・・一護の裏切り者〜〜〜!!」
思った以上のクラスメイト達のその反応に、は満足して笑いを堪えていた。
そのの様子にただ1人気づいた一護は、ぎろりと彼女を睨みつけやけになりながら叫んだ。
「あーー!もう五月蝿い!!お前も周りに誤解を与えるようなこと言うな!」
「くっくっ・・・だって、反応がどんなか見てみたかったのよね」
「・・・おまっ・・・・・いや、とりあえず今はそれは置いておくとして。ちょっとお前に聞きたいことが・・・」
「んーー・・・私と話すよりも、どうやら先に話さなきゃいけない相手が居るみたいよ」
一護の言葉を遮り、はそういうとすっと一護の後方を指差す。
それにつられて一護は振り返ると、まるで信じられないものでも見たような表情になる。
「貴様・・・あなたが黒崎くん?よろしく!」
この場にいないはずの意外は人物の当然のような出現に一護は固まっていた。
その反応をはまた心の中で笑いを堪えていた。
「あ、彼女今日から来た転入生の朽木さん。凄いよね、こんなハンパな時期にさんに続いて2人もうちのクラスに転校生が来るなんてさ」
「まあ、私もルキアも家の事情だからね。偶然なんてものはあるものよ」
「あれ?さん、朽木さんの事名前で呼んでるけど、2人ってもう仲良くなったの?」
「転校生同士だし、ねぇ?」
「そうですわ」
にこやかに話しているとルキアに対し、周りのクラスメイト一同は納得しているが、一護1人だけは「絶対に違う」と心の中で激しく突っ込んでいた。
「黒崎くん。私まだ教科書とかないの。貴さ・・・あなたのを一緒に見せてもらってもいいかしら?」
そう言って一護に差し出したルキアの掌を、だけはしっかりと見ていた。
当然「さわいだら殺す。」と書かれた掌をである。
その事実にはまたクラスメイト達に悟られまいと必死に笑いを堪えていたのだった。











「さてと・・・」
は椅子から立ち上がるとすっと狙いを定めていた。
授業が終わってすぐにルキアと共に一護に呼び出されたのだが、自分は他に用事があるからと丁重に断った。
もちろんそんなことで退く一護ではなかったが、が「あることないこと言いふらす」といった言葉に観念したようだった。
ルキアの方はどうやら彼女も一護に用があったようで、逆に好都合そうにそのままついていった。
そして2人が去って暫くして、はその用事を済ませるべく、狙いへ向かって歩いていった。
「ちょっと良いかしら?石田くん」
さん・・・?ボクに何か用?」
意外な人物から声をかけられ、雨竜は当然怪訝な表情で彼女を見つめた。
「ええ・・・ん〜〜と」
はきょろきょろと辺りを見渡し、誰もいないことを確認すると改めて口を開いた。
「単刀直入に言うけど・・・一護とルキアに余計な手出しはないでちょうだい。特に一護・・・」
「はっ・・?なんの・・・」
「貴方・・・滅却師ね?」
「なっ・・・・・」
思わぬ人物から正体を言い当てられ、雨竜はまともに動揺の色を見せた。
その様子には満足そうに微笑んだ。
「やっぱりね。しかしまさかこんな所で滅却師に遭うなんて・・・ちょっと驚きね」
「・・・君は何者だ?」
「なんだと思う?」
「・・・普通の人間ではないことは確かだな。まさか君も・・・」
「君も死神か?・・・かしら?」
まさに今自分が言おうとした言葉をに当てられ、雨竜はまた動揺した。
「一護とルキアの正体には気づいてるんでしょ?」
「ああ・・・どうやら君は彼らと関わりがあるようだな。ということは、やはり・・・」
「でも、残念。私は死神じゃないわ。だって・・・」
そう言ってにっと笑うとは雨竜の霊絡を掴んだ。
「死神の霊絡は紅い・・・私の霊絡、紅く見える?」
「いや・・・普通の色だ」
「でしょ?まあ・・・意図的に普通の色にしてるんだけど、ね」
のその発言に雨竜は目を見開いて驚いた。
霊絡の色を自分の意志で変えられるなど聞いたこことも見たこともなかったからだ。
「ああ、だけど私が死神じゃないってのは本当。ただ、私の霊絡の本当の色がある種の特定の人物に知られると、ちょっと厄介なことになるから、普通の色にしてるだけだけど」
「・・・・・・」
「さて、問題です。私の霊絡の本当の色は・・・何色でしょう?」
そう謎かけをするの表情は笑顔であったが、何か得体のしれない威圧感を感じ、雨竜はただその場に立ち尽くして冷汗を流していた。











「おかえり、一護」
「遅いぞ!不良息子!!」
「別に今日は普通じゃん。おかえり一兄」
「お兄ちゃんおかえり」
「おっかえり〜」
「・・・・・・・・・」
帰ってきてすぐに団欒の始まっている場に足を踏み入れた一護は思わず呆然としてしまった。
その様子に気づいていないのか、あるいは意図的に無視しているのか、とにかく呑気に自分に挨拶をする家族+αに固まってしまった。
「な・・・・・」
「な?」
「なんで、ここにお前が居るんだ?!!」
叫んでびしっと一護が指差した先には、まるで当然とでもいうように黒崎家の団欒に参加しているの姿があった。
そしてその一護の言葉に反応し、暫しの間黙って一護の方を見つめていただったが、何も言わないまままた本日の黒崎家のメニューである鍋をまたつつき始める。
「聞けよ!!」
素晴らしい無視をしたに対し、一護の当然の突込みが入る。
そんな一護の様子を見かね、苦笑しながら真咲が説明する。
「実はお夕飯の買出しに行った帰りに偶然あって、親切に荷物を半分持ってくれたのよ。で、話を聞くと偶然にも一護と同じクラスらしいじゃない。1人暮らしだって言うし、これは何かの縁だと思って今日のお夕飯に誘っちゃったのよ」
「そう言う事〜〜」
真咲の言葉に続いてはけらけら笑いながら肯定した。
しかし実際は黒崎家が虚の襲撃を受けた後、真咲がお礼も兼ねて今度ご馳走するという約束をしていていたからだった。
だがその事実を知らない一護は2人の答えに顔を引き攣らせた。
「お袋・・・そんなことで初対面の人間を夕飯に誘うなよ・・・」
「・・・どうして?」
一護のその言葉に実は初対面ではないと真咲は言いかけそうになったが、さすがにそれはまずいと思い、なんとか誤魔化すことに成功した。
そして真咲の真意とは裏腹な言葉に一護以外の家族達は賛同する。
「そうだぞ一護。彼女はなかなか見所のある人物だ。何より、母さんの荷物を持ってくれて、母さんに親切にしてくれたからな!」
「・・・お父さんのお母さん主義な意見はともかくとして。別にさんなら問題ないんじゃない。ちょっと話しただけだけど、おちゃらけてはいるけど結構出来た人だし。信用おけると思うよ」
「そうだよねー。なんかお姉ちゃんできたみたいで嬉しいし」
その様子に「嘘だろ・・・」と一護は脱力した。
どうやら家族は全員の味方のようだ。
「どうかした?一護」
「いや・・・」
きょとんとする真咲を誤魔化すと一護は自分の席についた。
ちなみにその隣にはしっかりとが陣取っている。
そのを暫し無言で見つめ、やがて箸を動かしながら一護は彼女に小声で話しかけた。
「・・・どういうつもりだ?」
「ん〜〜何が?」
同じく小声でも一護に対応する。
「なにがじゃねえよ!なんで、ここに居るのかってことだ?!」
「あれ?さっき自分の母親から説明受けなかった?」
「・・・聞いたけど、全部信用なんてできるわけねえだろ!この間の件だってあるのに・・・そもそもお前何も・・」
「私の事を気にするより・・・」
一護の質問攻めにも涼しい顔をしながら食事をしていただったが、突然箸の先を少し持ち上げて上をさすと一護の言葉を遮って告げた。
「まずあんたの部屋に住んでる相手を気にしたら?」
「・・・はっ?」
一瞬の言っている事が理解できなかった一護は少しの間呆けていたが、やがて何か思い当たったのか箸を置いて立ち上がると駆け足で部屋を出て行こうとする。
「どうしたの?一護。ご飯は・・・」
「今日はもういい!!」
驚く家族の中から真咲がかけた言葉に、一護はただ一言そう告げるとすぐに自分の部屋へと大急ぎで駆け上がった。
その様子に驚いて呆ける黒崎一家とは対照的に、は心底楽しそうな表情を彼らには気づかれないようにしていた。
「・・・真咲、真咲」
「えっ・・・はい」
はなんとか笑い終え、未だ呆けている一家の中から真咲だけを小声で呼ぶ。
それに気づいた真咲は我に返ると同じく小声で返事をしてに耳を寄せる。
「実は、一護の部屋にあっちに帰れなくなった死神が1人居ついちゃってるみたいなのよ」
「えっ?!それ本当ですか?」
「そっ。この間の虚が出た時に来た死神ね。一護自身もさっき私が教えてようやく気づいたんだけど。で、悪いんだけどこれからそいつ用に少し多めにご飯作ってやって。一護がこっそり持ってくだろうから」
「はい。解りました」
驚きながらの話を暫く聞いていた真咲だったが、すぐに事の次第を理解して同様楽しそうな表情を浮かべる。
「なるべく怪しまれないよう。うまい具合に量調節してね」
そう言って密かに笑い合う2人の姿は、まさしく共犯と呼ぶに相応しかった。











美味しいものをお腹いっぱい食べ終えたは暫しの談笑の後、黒崎家(一名除く)に温かく見送られ満面の笑顔で帰路についていた。
「さってと〜、今回は何も言わずに出てきたからさっさと返らないと夜一が五月蝿いかも・・・」
そう言いかけた時、は嫌な気配を察して今自分が来た道を振り返った。
それは間違いなく虚の気配。
しかもどう考えてもそれは一護の家の方からしていた。
「・・・どうしてもこうも、あの家族をそっとしておいてくれないかな」
舌打ちそう言うとは元来た道を戻ろうと地面を強く蹴った。
そして次の瞬間には、の姿はその場から黒崎家へと戻っていた。
位置はちょうど一護の部屋の窓が見える場所。
はそのまま飛び上がると1階の屋根に飛び乗り、すぐさま勢いよく目の前の一護の部屋の窓を上げた。
「一護!ルキア!」
「はあっ?!!」
「き、?!」
突然かけられた意外な声に驚き、部屋の中で虚と交戦していた一護とルキアはこちらを振り向く。
しかしその隙を虚が逃すわけもなく、一護に向かって一撃を振り下ろそうとした瞬間、すかさず睨みを利かせたが軽くその一撃を止めて見せた。
そしての出現に動揺していたルキアだったが、さすがにその隙を見逃すわけもなく一護に指示を出す。
「一護!頭を狙え!!」
「わかってるよ!!」
一護もルキアの言葉で我に返ったようで、すぐさま斬魄刀で虚の頭を斬り裂く。
「・・・浅い」
小さく呟いたの言葉の通り、虚の傷は浅くそのまま逃げ出されてしまう。
しかし傷が浅いというだけでなく、虚を斬った瞬間一護の様子がおかしかったのも逃がした原因の1つだった。
はそれを目聡く見逃さず、むしろそちらの方を気にしていた。
そしてルキアはそれに気がついていないようだった。
「・・・逃がしたか・・・!追うぞ!!」
「・・・まてよ!!」
の事は気になるが、虚を倒すことが先決だとルキアは判断し、あわてた様子で一護に呼びかけるが、一護はそれを叫んで呼び止めると、信じられないような表情をしていた。
「・・・どういうことだ・・・?・・・今のは・・・井上の兄貴だった・・・!」
その言葉には一護が動揺していたのを納得した。
虚の素顔が知り合いの顔、しかも普段からよく知っているクラスメイトの身内の顔ならば動揺して当然である。
そしては同時にルキアが一護にまだ全ての事を話していなかったのかと内心舌打ちをした。
「・・・ルキア、まだ全部説明してなかったのね?」
「ああ・・・」
「どういうことだなんだよ?!の事も気になるけど、今はそれよりもあの・・・」
「虚ってのは、元は普通の人間の魂よ」
のきっぱりとしたその発言に一護は動揺の色を見せる。
「なっ・・・」
「言いたいことは色々あるだろうけど、全部後回し!それよりもあいつを追うわよ」
「なっ、ちょっと待てよ」
「口論している暇はない!あの女が―――死ぬぞ」
の言葉に納得のいかないという様子だった一護だが、ルキアの鬼気迫る言葉に勢いが薄れる。
「・・・あの女?」
「・・・織姫よ。虚は、生前最も愛した者の魂・・・例えば肉親のを求めるという習性がある。苦痛から逃れるためにね。あの虚が織姫の兄だったというのなら・・・今の状況、間違いなく彼女が危ないわ」
のその言葉に、一護はただただ絶句した。
そしてその様子に小さく溜息をつくと、は一護とルキアの腕をつかんだ。
「えっ?!」
「ちょ、何を?!」
「はい、はい〜。少し黙ってね。あんた達の足じゃ間に合わない可能性もあるから。私が連れて行ってあげるわ」
「連れていってって・・・」
「どうせ一護、瞬歩なんてまだできないでしょ?ルキアはその状態だし・・・・・まあ、出来たとしても私よりははるか〜〜〜〜〜に遅いでしょうし」
「なっ?!」
瞬歩が何か解らないため首をかしげたままの一護に対し、さすがに瞬歩のことをよく知っているルキアは馬鹿にされたと思い反論しようとする。
しかしそんな反論などが待つはずもなく、にやりと笑うと楽しげに2人に告げる。
「2人とも、振り落とされないようしっかりとつかまっておきなさいよ」
そう告げた瞬間、やはりすでにその場に3人の姿はなかった。









「と〜〜ちゃっく!・・・・・・っていうか、大丈夫?」
は一護とルキアを連れ、文字通り瞬間的に織姫の住むアパートに前に辿り着いた。
その速さはまさに瞬歩の名をそのまま体言しているようなものだった。
だがそれゆえに、一護とルキアはその信じられないスピードに、幾ら自分達で動いてはいないとはいえ、身体がついていかなかったのだ。
「・・・馬鹿な。あれが瞬歩だと?・・・幾ら瞬歩が高速移動のための歩法とはいえ、あんな瞬歩、見たことも聞いたこともない・・・」
「ああ・・・まあ、ぶっちゃけ本家本元だし」
「はっ・・・?」
多少落ち着きを取り戻したものの、先程体現した信じられないものに、ルキアは目を丸くして言葉を漏らしていた。
その言葉に思わずはぽつりと小さく呟いていた。
「今・・・何か言ったか?」
が何か言った事に気がついたルキアが怪訝そうな表情でそう尋ねると、はぎくりとして内心焦りながらも話題をそらそうとする。
「何も!それより、早く織姫のとこいかな・・・」
言いかけたその時、上の方から大きな音と霊圧がし、3人は揃ってそれがした部屋の窓を見る。
「・・・少し遅かったみたいね」
「っ・・・なんて、呑気なこと言ってる場合じゃないだろが!!」
「そうね〜〜・・・んじゃ、跳ぶわよ」
「へっ・・・」
一護の非難が発した言葉に一護もルキアも揃って目が点になる。
そして次の瞬間には、は2人を抱えて飛び上がり、織姫の部屋の窓に無事到着し、そこから一瞬のうちに窓を開けて転がり込むという荒業をやってのけていた。
「よしっ!」
「よしって・・・貴様・・・」
またしても信じられないことをやってのけたに、2人の非難の目はもちろん降り注いだが、先程とは違い今回は呑気に問答をしている時間はなかった。
すぐに3人の目に織姫の兄であったはずの虚が映ったからである。
「・・・邪魔をする気か・・・!!」
そう低く言葉を漏らした虚を3人が睨みつけていると、後ろの方から聞きなれた声がした。
「やっぱり!黒崎くんに、朽木さんに、さんだ!!」
「えっ?ちょっ・・・なんで、ここに・・・?!2人が?!」
何やら明るい織姫の声に対し、驚いた様子のたつきの声。
ただ2人の言葉から解るのは、織姫とたつきでは見えている人数が違うということ。
この場合、死神化している一護がたつきには見えていないというのが妥当だが、そこで目を丸くして一護は驚いていた。
「井上・・・おまえ・・・どうして俺の姿が見えて・・・・・」
「・・・まずいわね。魂魄が身体から抜けちゃってるわ」
の的確な状況判断の言葉に驚いて一護は目を見開く。
「嘘・・・だろ?」
「嘘じゃない。残念だったな織姫はもう――死んだ!!」
一護の言葉を肯定したのはではなくすぐ背後に迫っていた虚だった。
そしてそのまま一護は虚の尻尾に払われ、窓を突き破り外に放り出されてしまう。
「一護!!」
「縛道の七十二!」
慌てて一護の名を呼ぶルキアに対し、はすかさず虚に縛道をかけ動きを封じた。
ルキアはそののしたことに驚いて彼女を呆然として見つめた。
なぜならは、詠唱破棄どころか、縛道の正式名称さえいわず、番号のみで虚に術をかけたからである。
「ふぅっ・・・鬼道はあいつの専売特許なんだけどねぇ。・・・さてっと」
ルキアには解らない謎の言葉を呟くと、は壊れた窓から下を覗いて一護に呼びかける。
「一護〜。とりあえず、上がってきなさい。一応、完全じゃないとはいえ、決着ついたから」
「お、おう・・・」
「はっ?一護・・・・・・?」
下から驚きながらも一応返事を返す一護と、状況が飲み込めていないたつきの呆けた言葉が後ろからしたのは同時だった。
「これから織姫の蘇生するからね」
さらにのその発言に、たつきは驚いて未だ床に転がっている、魂のない肉体に目をやった。










まるで一仕事終えたかのような良い表情で、は額をわざとらしくぬぐって見せた。
ちなみに汗などまるでかいていないし、それはルキアが驚くほど短時間で終わった。
「さてっと・・・これでもう大丈夫っと」
がそう言うと今まで目を閉じていた織姫の身体は目を開く。
「織姫!!」
「あっ、たつきちゃ〜ん」
を覗く心配そうな一同に対し、織姫本人は至って呑気にたつきの名を呼んだ。
その様子に安心感と別のものもあいまって一同は脱力する。
「・・・で、なんでさんや朽木さんがここにいるわけ?それに、さっきから皆一護って・・・」
「ああ、あんたは見てないのよね?」
「はっ・・・?見え・・・・・?」
「じゃ、ちょっと見えるようにしてあげるわ」
そう言ってきょとんとするたつきの頭には触れる。
そして暫くしてがたつきの頭から手を離した瞬間、たつきは驚いて声を上げた。
「い、一護あんたいつからそこに?!それにその格好は・・・っていうか、その化け物な」
「織姫の兄よ・・・」
たつきの言葉にさらりとは返答した。
そして驚いた表情で一同はを見つめた。
ただし一護とルキア、織姫とたつきでは驚いたことへの意味合いがまったく違う。
一護とルキアはがあっさりとその事実をばらしたことに、織姫とたつきは目の前の虚の正体に対してである。
「おにい・・・ちゃん?」
!なんで・・・?!」
「黙っててもためにならないわよ。一護」
の言ったことは確かに正論であるが、それでもストレートすぎると一護は多少非難の目を向けていた。
それに対し、はただわざとらしく溜息をついた。
「ホ・・・ホントに・・・お兄ちゃんなの・・・?」
「・・・ああ、そうだよ織姫」
驚く織姫の言葉にそう言って返す虚の声は優しい兄のものだった。
「どうして・・・黒崎くんやたつきちゃんに酷い事したの・・・?どうして・・・」
「どうして・・・決まっているだろう?あの2人は・・・俺とお前の間を引き裂こうとしたからだよ!」
しかし次に出た言葉はその片鱗さえもなく、さらにはその言葉の内容に見に覚えがないとたつきと一護は驚いていた。
「つらかった・・・おまえの心から・・・日毎に俺の姿が消えていくのを見るのは」
「ち・・・ちがうよお兄ちゃん!それは・・・」
「俺は淋しかった・・・淋しくて淋しくて何度もお前を殺・・・」
「馬鹿野郎!あんた・・・一体なに見てたんだよ・・・」
虚の言葉を遮り、一護が突然声を上げた。
そしてその横ではたつきも何か言いたげの虚を睨みつけていた。
「井上のヘアピン・・・あんたからのプレゼントなんだろ?」
「織姫・・・教えてくれたよ。お兄ちゃんが初めてくれたプレゼントだって・・・だから毎日つけてるんだって・・・」
一護とたつきのその言葉に、虚である織姫の兄は驚いて織姫の髪にしてあるヘアピンを確認した。
そして力が抜けたかのように呆然としていた。
「―――気づかなかった。あのヘアピン捨てたものだとばかり・・・」
「・・・私の知り合いにこんな人物がいるわ」
半ば茫然自失している織姫の兄に、はまるで独り言のように呟き始めた。
「そいつはとても家族思い出ね。命がけで自分の家族を守ったのよ。そして自分が死・・・にかけている間でさえ、自分よりも家族の事を心配して・・・・・」
そこまで話すとはいつもは決して見せないような、哀愁の漂う笑顔で織姫の兄に結論を告げた。
「あんただって・・・本当はそういう部類の人間のはずでしょ?織姫が大事・・・だから、淋しくてこんなことになった・・・・」
「・・・・・・・」
「けどまだあんたは間違いを完全には犯してはない。そしてこの先も犯さないために、あんたがしなきゃいけないことは・・・」
「・・・解ってる」
の言いたい事を察し、織姫の兄は一護の斬魄刀を手に取ろうとする。
しかしそれをがやんわりと止め、すっと織姫の兄の前に手をかざす。
「斬魄刀で貫くよりは、こっちの方が楽に浄化できるから、ね」
「お、おい・・・どうするんだよ?!」
それまでのいつもとは違う雰囲気にあの言葉以来黙っていた一護だったが、突然の展開に慌てて思わず声を出す。
「このまま私がこいつを浄化する・・・」
「浄化って・・・」
「斬魄刀で斬るのと同じ。斬魄刀で罪を洗い流し、尸魂界に行けるようにする・・・それと同じ事を私の力でするだけのこと・・・」
「・・・・・・」
「大丈夫。尸魂界と地獄は別物よ」
そう言ってにこっと微笑むの手から光が溢れ出し、いよいよという時に織姫が1歩前に出て悲しげに微笑みながら口を開いた。
「・・・お兄ちゃん・・・いってらっしゃい・・・」
その織姫の言葉に微笑を浮かべながら、織姫の兄は尸魂界へと旅立って言った。



「・・・で、なんであんた達3人が居るわけ?っていうか、これどういう状況?」
先程までの神妙な雰囲気はどこへ消えうせたのか、たつきのその言葉に一護とルキアは激しく動揺する。
そしてルキアが素早く記憶置換装置を取り出そうとした時、その手はにやりと何かをたくらむような笑みを浮かべるによって阻まれた。
・・・何をする・・・!」
「まあ、まあルキア、落ち着きなさいって。別に記憶置換する必要ないと思うのよね?」
「・・・はっ?」
「織姫はなんか今回の一件で能力目覚めかけみたいだし・・・たつきの方もそれなりに霊感開花してるみたいだし・・・」
後半のたつきの件に関してはほとんどがのせいとも言える。
そしてそんなの楽しそうな様子に、一護とルキアは嫌な予感を覚える。
「とりあえず、今後戦力は多いにこしたことはない!ってこと、全部の事情説明した上でこの2人は仲間に引き込む!!」
「はぁあ?!」
「ちょ、ちょっとま・・・」
「問答無用!私は決めた!もう決めた!あんた達の意見は一切シャットアウト〜〜〜!!」
そう言って楽しげなを半ば呆然とした様子で見るたつきと、状況も理解していないのに楽しそうな織姫と、先程までのはなんだったんだと激しく今後も先行きが不安になる一護とルキアがいたのだった。










あとがき

長かった・・・・・;;
まさかここまで長くなるとは思っていませんでした。
織姫の兄の話をどうまとめようかととっても悩んでしまいました;
現状あんな中途半端になってしまって申し訳ありません;
今回のifは「もしも織姫、たつきの記憶が消されていなかったら」でした。
主人公は今回も色々とやらかしました;
とりあえず主人公は死神ではありませんが、斬鬼走拳の全てが使えます。
それもはっきり言って原作で藍染隊長が言っていた、「限界」以上にお使えになります;
その中でも特に走が得意ということで、その理由は後々明かしていきます。
実は今回の話で結構伏線だの謎だのばら撒いています。
全部見つけられる方は・・・・まあ、読まれた方全員でしょう;








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