ドリーム小説
四宝神刀 三




その日の朝、開かれた教室の扉に、既に登校してきていた1年3組の面々は注目した。
「おはよー!」
「はよー」
「おっはよー!!」
一緒に現れた3人はある意味不思議な取り合わせだった。
これが織姫とたつきの2人だけであったのなら、いつものことなのでまったく不思議ではない。
だが、今日は何故かその中にが混ざっていた。
教室中の注目を集める中、平然とした3人はそのまま自分の机に向かって歩いていっていた。
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ったーー!」
その不思議さにようやく疑問をぶつけようと最初に動いたのは千鶴だった。
「あ、千鶴ちゃんおはよー」
「おはよ姫v・・・じゃなくて、なんでさんと一緒なの?」
気を取り直して改めて尋ねる千鶴に、後ろの方でクラスメイト達も同意するように頷いている。
「あーー・・これは・・・」
「あのね。あたし、今さんと一緒に住んでるの」
どう説明すべきかとたつきが悩んでいると、当の織姫があっさりとばらした。
その言葉に一瞬沈黙したクラスメイト達だったが、すぐに驚愕の声が一斉に上がった。
一部、 悲鳴じみた声を上げたものもいたが。
「ちょ・・どういうことの?!姫!」
聞き捨てならないと慌てた様子で千鶴が織姫に詰め寄る。
すると織姫はむしろそんな千鶴の様子に全く気づかず、またさらりと本当のことを告げる。
「あたしちょっと事情があって住んでたとこ追い出されたの。で、新居が見つかるまでホテル暮らししようと思ってたんだけど、さんがね・・・」
「ホテル代も馬鹿にならないし、私1人暮らし・・みたいなものだから、うちで共同生活しない?って、誘ったのよ」
織姫の言葉に楽しそうに笑いながらは自分が言った台詞を再現して見せた。
「で、お言葉に甘えさせて貰うことにしました」
そう言ってにっこり笑って説明を終える織姫に、クラスの面々はなるほどととりあえず納得した。
しかし千鶴はというと、なぜかふるふると身体を震わせていた。
「・・・千鶴ちゃん?」
織姫は不思議そうに顔を覗き込むと、千鶴は顔を上げて物凄いテンションで語りだした。
「姫!それならそうとなんであたしに相談してくれなかったの!うちなら幾らでも部屋貸してあげるのに!今からでも遅くないわ、うちに・・・いや、ちょっと待って!」
何やら思いついたのか、1度口を閉じると千鶴は織姫との2人を交互に見た。
そしてまた先程と同じ、否それ以上のテンションで話し始めた。
さん!むしろあたしも一緒に住みた・・」
「ふんっ!」
皆まで言いかけた千鶴に対し、これ以上は危険だと判断したたつきの一撃で騒動に一時幕が降りたのだった。













朝のクラスの騒々しさからは一転。
昼休憩に示し合わせたかのように、5名の者達が屋上に集まって静かに話し合いをしていた。
「しっかし・・よくもあそこまでデタラメが言えたな・・・・・」
「ん?なにが?」
呆れた様子で話しかける一護に、はわざとらしい言葉を返した。
「『ホテル代も馬鹿にならないから・・』云々だよ・・・ったく、本当は霊能力の特訓の為だろうが」
「あれ?でも、『ホテル代』云々の話もしたよね」
「そうそう。一護、私達は別に嘘は言ってないわよ。全部丸まる説明しなかっただけでね」
そう言ってまるで昔からのコンビのように笑いあって意気投合していると織姫に、一護とたつきは呆れたように溜息を漏らした。
「・・・で、その特訓ってのはどうなんだよ?」
「結構、順調よ。織姫、結構才能あるみたいでさ。あともう一息かな〜」
「へ〜〜・・凄いじゃねえか。井上」
「えへへへへへ」
「・・・あたしは駄目だけどね」
一護の言葉に照れる織姫に対し、1人遠くを見ながらたつきは呟いた。
昨晩のみ、たつきも織姫に付き合ってのいるアパートに泊り込んで一緒に特訓を受けていたのだ。
それを聞き逃さなかったはすかさずフォローする。
「ま、こういうのは個人差もあるし・・・たつきもそのうち何とかなるわよ」
「・・・夜一さんにはぼろくそに言われてたけど」
「あははっ。まあ、夜一はちょっときついとこあるからね」
「・・・夜一?」
とたつきの話題に出てきた聞きなれない名前に一護が怪訝そうな表情をする。
「おいっ、・・・お前、1人暮らしじゃ・・・」
「ああ、うん。まあ、1人暮らしみたいなものよ」
「はっ・・・?」
「確かに・・・あれは1人とは数えないと思うわ」
「はい・・・?」
「あのね黒崎くん。夜一さんって、猫なんだけど喋るんだよ」
「・・・はああぁ?!」
とたつきの微妙な発言に訳が解らないといった様子の一護だったが、織姫が楽しそうにあっさりといった言葉のせいで、逆に余計に混乱してしまった。
「猫が・・喋る」
「うん。まあ、夜一はちょっと特殊だしー」
そう言って一護が混乱している中で、けらけらと笑っていたは、暫くしてからぽつりと呟いた。
「ま・・あくまで猫の姿の時はね・・・」
「あっ、なんか言ったか?」
「んーん。別に」
「・・・一護・・・・・これはどうやって飲むのだ?」
の曖昧な答えに一護がさらに質問しようとしたが、それよりも早く先程から1人だけまったく会話に参加せずに何かを真剣にやっていたルキアが口を開いてそれを差し出していた。
そして当然一同がルキアに注目してみると、彼女はジュースのパックを差し出していた。
「あっ?どうって、ストローさしてにきまってんだろ」
「ストロー?」
あまりにも当たり前のことを尋ねてくるルキアを不思議に思いながらそう返す一護に対し、方やルキアの方はストローが何かすら良く解っていないようだった。
そんな光景を他の3名がじっとみていると、不意に聞きなれた声がかけられた。
「あれぇ!またいっしょにいる。キミたちずいぶん仲いいねぇ。しかも今日は井上さんと有沢さんも一緒かぁ」
「水色」
「一護、なんか最近もててない?」
「・・・なんでそうなる?」
「ちがうの?まあキミが否定するなら別にいいけどさ」
そう言って水色は一護の横に腰を下ろすと、一護と少し話した後、とルキアの方へ話をふる。
「こんにちは。朽木さん!さん!」
するとストローとパックと格闘していた(?)ルキアは慌ててそちらに向き、は楽しそうに手を振っ手返事をした。
「こんにちはー」
「こんにちは・・えっと・・小島くん・・・?」
「あったり!まだちゃんと自己紹介してないのに憶えててくれたんだね」
そう言って水色が意気揚々と自己紹介を始めようとすると、横から真顔の一護がさらりと勝手なことを口にした。
それを慌てて否定する水色に対し、一護はやはり真顔で説明する。
それを楽しそうに見ると織姫、呆れているたつき、訳が解らないといった様子のルキアが暫く見ていると、また新しい声が後ろから聞こえてきた。
「おーす。いっしょしてイイっスかーー」
「おーケイゴ」
そう言って現れた浅野は一護と挨拶を交わしていたが、ふと視線をずらした先にあるものを見つけて歓喜の声を上げた。
「ややっ!そこにいるのは美少女転入生の朽木さんにさん!!更には井上さんまで!!どうしてここに!?」
「一護が口説き落として連れてきたんだよ」
「バッ・・ちが・・・」
「うん!そのとーりー!!」
!!?」
「なにィ!?一護てめえ!!」
水色がさらりとついた嘘に一護がすぐに否定しようとしたが、悪乗りしたがあっさりと嘘をついて肯定してしまった。
それに激しく反応する浅野。
「グッジョブ!!」
「お・・・おう・・・」
何か文句でも言われるのかと思いきや、泣きながら礼を言われてしまった一護は、多少顔が引き攣って引いてしまった。
その後もかなりテンションの高い浅野に、と織姫と水色は楽しそうな様子で、一護とたつきは呆れた様子で、そして状況の解らないルキアはストローに悪戦苦闘していると、暫くたって何やらガシャと言った音に一同が振り返った。
そこにあったのは、一羽のインコの入った鳥篭があり、そしてその横には1人の学生が立っていた。
「チャド・・・!」
「ム・・・」
呼ばれた名前に手を上げて返事をする茶渡に対し、一同はすぐに彼の身体中の手当ての後に気がついた。
「ケガ・・・してるな?どうしたんだ?」
「・・・頭のは昨日・・鉄骨が上から落ちてきて・・」
「てっ・・・鉄骨!?」
「手とかのはさっきパン買いに出た時に・・・オートバイと正面衝突した」
「何してんだテメーは!?」
あまりの惨状に、しかしそれでも至って平然としている茶渡に、一護が驚きながら少し呆れも含んで声を上げた。
しかもその後自分よりもバイクに乗っていた人物の方が重症だと更に平然という茶渡に、一護達はもう呆れ果てた様子で突っ込みを入れる勢いも落ちていた。
一方、一同がその茶渡を気にする中、は1人だけ彼が連れてきた鳥籠の中のインコにずっと注目していた。
するとインコが突然喋り始めた。
「コンニチハ!ボクノ ナマエハ シバタ ユウイチ! オネエチャン ノ ナマエハ?」
その声に他の面々はすぐさま反応する。
だが、よく喋るインコに素直に驚いて凄いといっているのは、浅野と水色の2人だけで、他の面々は差はあるが同様に何やら気づいたようだった。
「チャド・・あおのインコはどこで・・・?」
「・・・昨日・・・・・・・・・・もらった」
少し緊張した面持ちで尋ねる一護に対し、茶渡は物凄く簡潔すぎる答えを返した。
それに対して突っ込みを入れたのは浅野で、質問した当の一護が少し緊張した様子で考え込んでいると、隣からルキアが声をかけた。
「案ずるな。確かに何か入っているが悪いものではない。淋しがっているだけの霊だろう」
「あ、やっぱり・・・霊が入ってるんだ・・・」
やはり気づいていたらしいたつきがルキアの言葉を聞いて、少し複雑そうに口を開いた。
「ただこのまま放っておいては何時虚になるやもしれん。今夜あたり魂葬に向かった方が・・」
「あの子はね・・・」
ルキアが冷静に説明している途中で、がぽつりと漏らした言葉に一同が反応してすかさずそちらを見る。
「あの子はって・・・どういう意味だ?」
「・・・あの子は確かにただの霊だけど。あの子から微かに虚の気配を感じる・・・」
のその言葉にまた一同はインコの方に視線を送る。
しかしよく気配を辿ってみても、全く何も感じない。
再び一同がに視線を戻すと、は至って平静に説明する。
「虚が整が狙うのは比較的珍しいことじゃない。そうでしょ?ルキア」
「あ、ああ・・・」
「あの子もそうなんでしょ。で、あの茶渡とやらが散々な目にあってるのは、十中八苦その虚のせいね」
「なんだと?!」
さすがにの次の言葉には一護は慌てて反応した。
「虚があの子を狙って・・・それに巻き込まれたってとこかしらね・・」
冷静に分析しているに対し、一同の間には冷汗が流れる。
「・・予定変更だ、一護。・・なるべく早々に片をつけるぞ・・・」
「ああ・・・」
もはや先程の余裕のないルキアに対し、一護も緊張した面持ちで返事を返したのだった。













「で・・・」
放課後、授業が終わって早々になんとかインコの霊を魂葬しようとしていた一護達だったが、肝心のインコと共に茶渡の姿が見当たらなくなっていた。
「チャド・・・どこにいったんだ・・・」
「早くせねば、また虚に襲われるかもしれん」
焦る一護とルキアに対し、は至って冷静に状況を把握する。
「なるべく人を巻き込まないようにしてるんじゃない?とりあえず・・・あっちみたいね・・」
そう言ってインコの中に入っている霊の霊圧を辿ったが指を指した。
「よしっ!それじゃあ、行くか」
「そうね〜。あ、織姫。さすがにまだ完全に能力開花できてないあんたじゃどうしようもないし・・・今回は先に帰ってて。私の代わりに夜一にしっかり鍛えてもらいなさい」
「は〜〜い」
「たつきも一緒に教わるだけ教わっといて〜〜」
「了解」
そう言って手を振る2人と別れ、3人は茶渡とインコの探索を開始した。
そして走って探し回っている途中で、ルキアは不思議そうにに尋ねた。
「しかし・・・。お主は本当に何者だ?」
「へっ?なんのこと?」
「とぼけるな!あんな弱々しい霊など、目の前にいなければ私でも気配など感じられぬ!まして奴は今あのインコの中に入っていることでインコの魂と重なり合って存在が不明瞭になっている・・・」
「だから・・・?」
「それをまともに辿って見つけることなど不可能はずだといっているのだ!」
「・・・・」
ルキアのその言葉に一護は「そうなのか?」と驚いたような顔をし、は無言のまま明後日の方向を見ていた。
「しかも先日の異常なまでの瞬歩の性能・・・お前は一体・・・」
「・・・一兄・・・!」
ルキアがを更に問い詰めようとした瞬間聞こえてきた聞き覚えのある掠れた声に、一同は反応して足を止め声のした方向を見た。
「夏梨・・・!」
そこには冷汗を大量に流し、フラフラの夏梨が壁に寄りかかってなんとかといった様子で立っていた。
そしてそのまま力が抜けたのかずるりと道に倒れこんでしまう。
「夏梨!」
慌てて駆け寄り身体を支える一護の服を握り締め、夏梨は朦朧とした意識を必死に起こしながら口を開いた。
「・・一兄・・・さっき・・インコ連れた一兄の友達がケガして・・・ウチに来て・・・」
「チャドが!?」
思わぬところから出た情報に3人は驚いた。
「そのインコについてた霊の記憶・・・あたしが一番歳が近かったからだと思う・・・あの子の心に一番強く残った記憶が・・・あたしの中に流れ込んできたんだ・・・」
何を言おうとしているのか当初解らなかった3人だが、次に夏梨が告げた言葉に目を見開く事になる。
「・・・あの子目の前で・・・目の前でお母さんが殺されたんだ!!」
夏梨のその言葉に一護にもルキアにも衝撃が走った。
だがは密かにその2人以上の衝撃を覚え、まるで何かを思い出すかのように硬く拳を握り締め、表情は険しくなっていた。
しかしそんなの様子は、夏梨の言葉に衝撃を憶えている一護とルキアには悟られることはなかった。
「・・・おねがいだよ一兄・・あの子を・・・あの子を助けてやって・・・!おねがいだ・・・!むこうに行けばお母さんに合えるってあの子に教えてやってよ・・・あの子をこれ以上一人にしないで一兄・・・」
「夏梨・・・」
「・・一兄の友達も・・・ケガしたまま、ウチ抜け出して・・・早くしてやって!」
夏梨のその必死の言葉を聞いて一護は激しく迷っていた。
またケガをしているという茶渡も心配だし、夏梨の言うとおりあのインコに入った霊をどうにかしてやりたい。
しかし苦しそうにしている妹を放っておくことは一護には出来なかった。
どうしようかと一護が迷っていると、自分に代わって夏梨を支える手が現れた。
「・・・
「・・・夏梨のことは私が家まで送る・・だから、あんたは行ってあげなさい」
のその言葉を聞き、一護は少し悩んだが、暫くして決心したように勢いよく立ち上がった。
、妹のことくれぐれも頼む!行くぞ、ルキア」
「ああっ」
後ろ髪を引かれるような思いで走り去っていく一護とルキアを見つめながら、暫くして夏梨を抱き上げたはぽつりと呟いた。
「・・・こいうのも既視感って、言うのかしらね」
ただそう一言漏らすと、は瞬歩で黒崎家へと向かった。













「「夏梨!!」」
夏梨を抱えて瞬歩で即座に黒崎家に到着したを出え迎えたのは、血の気の引いたような声を上げる一心と真咲だった。
「夏梨!いった、どうしたの?!」
「精神的に参ってちょっと衰弱してるだけよ!すぐに部屋で寝かせてあげなさい」
「わ、解りました・・・!」
慌てる真咲に適確に説明と指示をするから夏梨を受け取ると、真咲はすぐに夏梨を抱きかかえて部屋に連れて行った。
残されたと一心は2人が去った後を暫く見つめた後、やがて一心の方からに声をかけてきた。
「・・・娘のこと、本当にありがとう」
「気にしなくていいわよ・・・・・それに、あんたも気づいてるんでしょ?」
にそう言われて一心は少し怪訝そうな表情をする。
ふと思いかえしてみれば、彼女の口調が以前に会った時の自分に対するものとは違う気がした。
「夏梨が衰弱した件に虚が関わってるって・・」
「虚・・・?」
「とぼけても無駄よ。あんた・・・死神でしょ」
「!!」
単刀直入の指摘にまともに反応した一心を見てははっきりと確信した。
「やっぱりね・・・初めにここに来た時は、ごたごたしてたうえ、あんた気絶してたから気づかなかったけど・・・この間、夕食食べに来た時に微かに気配が感じたからそうじゃないかと思ったのよね・・にしても」
じろじろと一心の身体を眺めた後、は軽く溜息をついて言葉を続けた。
「さっすがは、喜助・・・見事なまでの義骸だわ」
「浦原を知っているのか?」
突然出た懐かしい知り合いの名に、また一心は驚くこととなった。
「まあね〜。その様子じゃ、私の事は知らないみたいね。・・・もっとも、私もあんたの事知らなかったけど・・・」
そういった後ぼそりと「後であの2人しごいてやる・・」という黒い呟きが聞こえたが、一心は恐ろしさで聞こえなかったふりをした。
「・・・あんた、何者だ?」
「死神、じゃないわよ。ああ、言っておくけど・・あの2人に聞こうとしても無理だからね」
その言葉の中には、確かに何も話さないように指示してあるという意味が含まれていた。
「・・・・・・・」
「だいっじょうぶ!私はあんた達の・・あんた達家族の全面的な味方だから」
「・・・あんたには妻や娘が助けてもらって感謝してるが・・・・・正体の知れない人物を簡単に信用するなんてことは・・・」
「い〜〜え、信用できるはずよ」
一心が当然のように疑心暗鬼になっていると、どこからくるのか自信満々にが声を上げた。
そしてにっこりと微笑んできっぱりと告げる。
「だって、それが・・・真咲の願いだもの・・・正確には・・・あんた達の幸せ・・だけど・・・」
「えっ・・・?」
何故か出た妻の名に一心が驚いていると、はまたにっこりと微笑んで一心に背を向けた。
「それじゃあ・・・私は件の虚を成敗しに行っている一護のところに行くから」
「って、お、おいっ・・」
「じゃあね♪」
慌てて引き止める一心の言葉などまったく聞かず、は背を向けたままちらりと一心の方を向き、一方的に別れを告げると風の如く去っていった。
後には事態が今一理解できずに混乱している一心だけが取り残されていた。












が現場に到着すると既に一護と虚の戦いは最終局面を迎えているようだった。
そして近くで様子を伺っているルキアと茶渡を見つけると、は2人の傍にすぐに近づいていった。
「ルキア!一護の様子はどう?」
!」
「ムっ・・・また転校生・・・」
呼びかけられて反射的にの名前を呼ぶルキアに対し、また現れた転校生に茶渡は少し混乱する。
しかしそんな茶渡の様子には気づかず、2人は会話を続けていた。
「善戦はしている。しかし・・・今一つ決め手にかけている」
「そう・・」
「ゴメンナサイ・・・」
2人が真剣に会話をしていると、突然インコがぽつりと謝罪の言葉を漏らし一同はそちらに注目した。
「ボクガ・・・ボクガ ママヲ 生キカエラセタイナンテ オモッタカラ・・・」
インコが口にしたその言葉に、ルキアとは見る見る目を見開いていく。
「ゴメンナサイ・・・ ゴメンナサイ・・・ ママハ 生キカエッテホシイケド・・・ デモ ボク モウ・・・」
「・・・待て」
インコが次々に話す内容に、ルキアが表情を強張らせて緊張した声を出した。
「母親を生き返らせる・・・だと?それは・・・誰かが言ったのか・・・?」
ルキアの問いかけに事情が飲み込めない様子のインコに対し、ルキアは更に言葉を続けた。
「そんな方法があるなどと・・・誰かがお前に言ったのか!?」
「・・・そうだよ。あのガキの母親は俺が殺したのさ!」
ルキアがインコに尋ねた内容の返答は違う。
しかしまるでルキアの問いかけの答えに重なるように、虚の嘲った声が聞こえてきた。
そして全員が一斉にそちらに注目し、虚は次々に事のあらましを語りだした。
インコの中に入っている霊の母親を殺したこと。
それが卑劣にもどれほど楽しかったかということ。
しかしその際にベランダから足を踏み外して自分も死んだこと。
その後、虚となって子供の魂を抜いて籠に入ったインコの中に入れたこと。
そのままの状態で3ヶ月逃げ切れたら、母親を生き返らせてやると言ったこと。
そしてそれが当然のように嘘であったということ。
更にその後の虚の優越感に満ちた言葉は聞くに堪えなかった。
その場にいる誰もが当然その虚の卑劣さに怒りを覚えていたが、特にはまた拳を酷く握り締めそこから血を流し、何か個人的な思いがあるのか虚を物凄い形相で睨みつけ、しかし怒りによってあふれ出しそうになっている霊圧をなんとか押さえ込んでいた。
そのまま飛び出して自分が止めをさしてやりたい気にもなっていたが、怒りによって戦闘能力が高くなった一護が圧倒的な強さを見せていたため、なんとかそれは押しとどめることが出来た。
怒りで圧倒的な強さを見せた一護に対し、見苦しく選択した虚は、結局一護の斬魄刀の一振りによって斬り捨てられた。
そして虚の断末魔の悲鳴と共に、巨大な門が出現した。
「な・・・ッ何だ・・一体・・・!?」
「・・・地獄だ」
初めて見る巨大な門の姿に一護が驚いていると、ルキアが冷静に状況を説明し始めた。
「斬魄刀で斬ることで罪を洗い流すと言ったな。そうして尸魂界へ行けるようにしてやると。だが全ての虚が尸魂界といけるわけではない。なぜなら斬魄刀で注ぐことができるのは虚になってからの罪だけだからだ!」
ルキアのその言葉と目の前の門の出現に、一護はただ驚き黙って話を聞いていた。
「生前に大きな罪を犯した虚は・・・地獄の者達に引き渡す契約になっているのよ」
「そら!地獄の門が開くぞ!!」
ルキアがそう告げた瞬間、全ての鎖が解かれた巨大な門は勢いよく開かれ、巨大な刀のようなものと、それを持つ巨大な腕と、門の奥にいる巨大な顔が現れた。
そして虚を串刺しにしたそれは、狂気じみた笑い声を上げた後、門は閉じられそのまま跡形もなくその場から消え去った。
もちろん串刺しになった虚と共に。
「・・・地獄に堕ちたか・・・」
ぽつりと言葉を漏らした一護は、ただあまりの出来事に冷汗を流しながら喉を鳴らしていた。













虚を退治も無事に終わり、後はインコの中に入った霊を魂葬させるだけだと、一護達が説得と慰めの言葉をかけている中、は1人だけ離れた場所で密かに何かをしていた。
「・・・それでは確実に夜魔に・・・」
そう言って何やら手紙のようなものを手に持ってなにやら1人言を呟いていた。
「・・・子を想う母の心・・・母を想う子の心を踏みにじり嘲るような者は絶対に許してはならぬ・・・・・その罪良く知り後悔と懺悔の念で満たすよう・・・より深い、深い・・・獄に堕とすよう裁をふれと伝えよ・・・・・・」
何時もとは全く違うとても冷たい瞳と声でそう誰かに呟くの手から放された瞬間、それはまるで空中に溶けるように消えてしまった。
そして暫くしてふうっと力を抜いて溜息をつき振り返ってみると、そこには無事インコを魂葬することができたらしい一護達の姿があった。
そのどこか晴れ晴れとした姿を見つめ、やがては優しく微笑むとぽつりと告げた。
「あの子には悪いけど・・・せめて・・・あんた達母子は救えて良かったと思うわ。・・・・・一護」
その言葉は当然一護達の耳には届かず、ただ風に溶けて消えていた。


















あとがき

今回も微妙に難しかったです・・・
1番きつかったのは、一心さんが死神だと言うことの辻褄あわせ!
本誌で正体発覚して嬉しい反面、そうだとは知らずにこれ書いてた身としてはかなり困りました。
でも、なんとか今回どうにか(無理やり)まとめられて良かったです;
主人公の正体の問題上、気づかないのは絶対におかしいので。
今回短くまとめるために色々とすっ飛ばして無理やりくっつけた場面が多々あることはご了承ください。
そして今回のIfはまあ・・・色々;
織姫が主人公と同居しちゃうのは予定通りです。(後、夜一さんもか)
さて、次回はファンの皆様すいません・・・
コン登場の回はすっ飛ばして(いや、ホントすいません;)いきなりグランドフィッシャーの回に参ります。
ここで早々に主人公と一護、真咲の本当の初めての出会いを明かします。
なんで主人公が今回そこまで母子関係に過剰反応したのかも・・・
ついでに新キャラも登場予定です!



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