ドリーム小説

四宝神刀 五




ピクニックから数日後、つまりはグランドフィッシャーを倒してから数日後の夜。
夜一は織姫が買い物に出かけていったのを見届け、それを好機にと今は自分以外でこの部屋に1人しかいないに話しかけた。
「・・・様」
「ん?何?夜一」
「・・・この間から、少し様子がおかしいようですが?」
少し遠慮がちに尋ねる夜一に、はぴたりとお茶請けの煎餅に伸ばしかけていた手を止め、振り返ると溜息をついて特に隠す様子もなく白状した。
「はぁ・・ばれるとは私もいよいよ末期かしらね」
「変な事を言わないで下さい・・・そもそも、様にしては結構解り易い態度でしたよ」
「・・・そう?」
「そうです。井上・・あ奴も意外に勘が鋭いようですから、気づいているようでした。だから、わざわざ様と儂が話をしやすいよう席を外してくれたのでしょう・・・」
この上、織姫にまで気を遣われていると思わなかったは、失敗したという表情で手を額に当てて脱力した。
そして仕方がないとばかりに正直に話し始める。
「この間のピクニックの時・・バレたのよね〜〜・・・一護に」
「バレた・・・とは?」
「一護の母親・・・真咲を生き返らせたこと・・・」
「っ!!」
のその衝撃的な言葉に夜一は声もなく、しかし酷く驚いた表情をした。
「で、ちょっとぎくしゃく・・みたいな事に今現在なってるのよ・・」
「生きかえ・・・何時の事ですか?!」
「6年前の6月17日・・・」
その日付を聞き、呆然としていた夜一がそうかといったように溜息をついた。
「・・なるほど。儂と別行動をしておった時ですか・・・どうりで知らないはずです・・・・・しかも」
夜一は良く憶えている。
夜一がと合流したのはその2日後の良く晴れた日。
空座町とは違う別の町でのこと。
その時のの様子は、何かとても良いものを見つけたというように、非常に機嫌が良かったのを憶えている。
何があったのかその時は聞いてもは1つも話してはくれなかった。
しかし先程のの一言でその謎が全て解けた。
生き返れるほどの善行を死の間際に行なった者。
夜一が聞く限りが死に立ち会った者の仲で、それほどの事を行なえた人物は初めてだ。
それだけの人物に出会えたのなら、確かにの機嫌も相当良くなるというものだ。
これでここ最近夜一が気になっていた、が黒崎一護並びに、その一家を気にかけている理由も良く解った。
「そういうこと・・・まあ、暫くは様子見で・・最悪時間で解決していくしかないわ」
「・・・そうですか」
確かにこればかりはでもどうしようもないと夜一は思った。
母親が1度死んでいて、しかもそれを生き返らせたのが自分がクラスメイトと思っている相手とあっては、一護の心境もかなり混乱していることだろう。
ここは本当に時間で解決していくのが1番かもしれないと夜一も考えていた。
がそんな事を何故出来たのかは、彼女の正体を明かせばすぐにも解決することだろうが、まだそれを明かすには話を聞く限り一護はまだ未熟だろうと夜一も思っていた。
少なくとも、始解くらい出来るようにならなければ話にならない。
「・・・気苦労が絶えませんね」
「あははっ、ごっめーん」
溜息をついてそう言った夜一に、がおどけて謝って見せると、当然のように夜一はまた溜息をついた。
「で、実はもう1っコあるのよ。あ、別にこっちは深刻な、とかそういう類じゃないけどさ」
「・・・なんですか?」
人1人生き返らせていたのを秘密にされていたくらいだ。
夜一は他に何を言われても、これ以上の事はないだろうから別段動じないだろう思っていた。
しかしそれは次のの笑い飛ばしながら言ったその言葉によって完全に変わっていた。
「実は同じ日にさ・・・黒いのに逢っちゃって」
「そうで・・・・・・・ええええええぇえっ!!?」
先程の考えからは一転、それはと違い夜一にとっては、先程が話した人を生き返らせた云々と同様に、とても重要で衝撃的な事実だった。











「ほおーーーーっ」
その日は空座第一高校の一学期末考査の成績発表の日だった。
掲示板に張り出された学年別の順意表を目にしながら、たつきは感嘆の声を漏らしながら横にいる織姫の頭を撫でていた。
「3位か――あいかわらずやるねぇ。あんた」
「えへへーー」
「すごーい!織姫ってこんな頭良かったんの!?」
「とてもそうは見えないでしょ。でもこの子、中学の時からベンキョウできるの」
何やらとりようによっては少し酷い事を言っているたつきに対し、しかしそんなことをまったく気にしていない織姫は、逆に誉められて嬉しそうにしている。
そして他愛のない話を始めた女子一同の横で、先程のたつきと同じ感嘆の声ではあるが、明らかに発音と種類の違うものを浅野が上げていた。
「ほおーーーっ。今回も無事我々の中で50位以内に入るなどという裏切り者はでなかったようだ!!」
「おっしゃる通りです。隊長!」
「・・・・・・・」
そんなある意味空しい小芝居を浅野と水色が繰り広てはいたが、それを呆れた様子で後ろから見ている一護の表情と、目の前の成績表が確かに現実を突きつけていた。
『23位 黒崎一護』と・・・
しかし現実を見たくない2人はなおも妙な小芝居を続け、現れた茶渡まで巻き込もうとした。
だが彼が指差したものを見た瞬間、浅野と水色は顔色を変えていた。
『11位 茶渡泰虎』
それを目にした瞬間、水色は膝を組んで落ち込み、浅野はかなり動揺して叫んでいた。
「おおおおおまえらなんかあっちいけ!お前らがそんな悪魔だとは思わなかった!!ああ、思わなかったよ!」
「・・・悪魔って、なんのこと?」
浅野がオーバーリアクションを続けていると、が何事かと不思議そうな顔をして現れた。
・・・」
「やっほー!一護」
の出現に少し複雑そうな表情をする一護に対し、はなるべく平静を装って普通に笑って挨拶をする。
するとその微妙な空気に気づけなかった未だテンションの高い浅野がの手を握り締めてきた。
さん!聞いてくれーー!一護とチャドの奴が俺達を裏切ってあんな悪魔な成績をーーー!!」
「・・・ケイゴ、ケイゴ」
涙ながらに私的な事を熱く語る浅野の肩を、水色が少し複雑そうに叩いた。
「ん?なんだ?水色」
「んーなんていうか・・・そういうことはやっぱあれ、見てから言った方が良いよ」
「はっ?どういうい・・み・・・・・」
水色が指差していたもの、すなわち成績表を改めて良く見た浅野は、それを見つけた瞬間顔を引き攣らせていた。
そして成績表とを交互に見ながら、口をパクパクさせながら驚いている。
『同点1位 
「い、い、いいい1位?!学年で1位?!!つまり、学年で1番頭いいってこと?!!」
その衝撃の事実を知って浅野は先程以上のオーバーリアクションで驚き、そしてついには驚きすぎて燃え尽きていた。
「あ、燃え尽きた・・・」
そんな事実を誰かがぽつりと口にした。
「ふわぁ〜、本当だ〜〜。さんすっごーーい」
「そういえば・・さん、編入試験で満点とったって噂に聞いたような・・」
「マジっ?!」
水色が思い出すかのように告げた言葉に、当然一同はまともに驚いていた。
さん・・・頭良かったんだ・・」
「まあ、それなりに・・・・・本当は今回も満点取れたんだけど。さすがに連続じゃあ、こっちが何もしてなくても怪しまれるかもしれないしねぇ・・」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもないわよ♪」
が何やら小声で言っていた独り言を聞き取れなかった一護は、不思議そうにに尋ねたがお約束の台詞を返されてしまい、そのまま溜息をついてそれ以上詮索しないことにした。
そして何やら思い出したかのように別の事に思考を働かせ始めていた。
「・・名前、何つったけな・・?石田・・・えーーっと・・・ウイリー・・・?」
一護のその独り言、正確にはその独り言の中に出てきた名前にぴくりと反応した。
それは間違いなく、あの滅却師の石田雨竜のことだ。
あのグランドフィッシャーの件以降から最近まで、はぎくしゃくしていたことから一護とルキアの虚退治には同行していない。
別段それほど強力な虚が出てきている気配はなかったし、それに一護に何か危ないことでも起きれば、すぐさま駆けつける自身はあったからだ。
だから一護とルキアにその間何があったのかは知らないし、は特に聞くつもりもなかった。
おそらくその期間に雨竜は一護達余計なちょっかいをしかけてきたのだろうということが推測できた。
「・・・忠告はしたはずなんだけどねぇ」
ぼそりとそう呟くの言葉は、石田の説明を織姫から受けている最中の一護に、今度こそ届くことはなかったのだった。










放課後、一護は雨竜の後を尾行していた。
そしてその更に後をが尾行していた。
本来なら一護が雨竜を尾行し始めるその前に、は雨竜と接触して話をしたかったところだが、一護がそれよりも早く雨竜を監視し始めたため、そんな暇は与えられなかったのだ。
そのために現在のような状況に至っている。
「・・・でも、あの状態じゃあ・・一護が尾行してるのは気づいてるわよねぇ」
何しろ一護の霊力は常に本人の意識外で溢れ出ている状態なのだ。
雨竜は霊絡が視えるくらいであるから、探査能力が高いことはまず間違いない。
そんな人物が今の状態の一護に気づかないというのはありえないことだった。
ちなみに、本人は完璧に霊圧も気配も消して2人を尾行しているため、まずどちらにも気づかれる事はないという自信がある。
そしての予想通り、やはり一護に気づいていた雨竜が呆れたように一護に声をかけた。
それに対し、言葉とはうらはらに一護は別段ばれていたことを気にしていない様子だった。
だが雨竜の巧みな挑発に次第に乗せられ、彼は結局雨竜の策略にまんまとはまる形で勝負を受け、彼の目の前で死神化するという流れになっていた。
「・・・一護。気持ちは解るけど、乗せられすぎ・・」
その一護のあまりの単純さに、は軽く苦笑しながら溜息をついた。
しかし次の瞬間、雨竜が取り出したものにの顔色は変わった。
「対虚用の・・・撒き餌!?」
見覚えのあるそれには目を見張ってまともに驚いていた。
雨竜があれを取り出したということは、何をするつもりかは大体予想がつく。
そしてそれをした結果どういうことになるのかも。
その予想を雨竜の言葉によって肯定された時、は一護の慌てた声と重なる形で、思わず声を上げて飛び出していた。
「止めなさい!それを撒いて、どういうことになるのか?!本当に解ってるの?!!」
!」
の声に一護が驚いて振り返ったその時、雨竜は2人の言葉をあっさりと無視して撒き餌を砕いていた。
それに気がつき、呆然としている2人に、雨竜はしっかりとした声で告げた。
「他の人間の心配なんて必要ない!集まった虚は一匹残らず、僕が滅却するんだから!君も・・・虚から人々を守りきれる自信があるのなら・・・この勝負受けれるはずだろう?」
そう告げる雨竜に対し、一護は反論できずただ悔しそうにしていた。
しかし一方のは、黙って雨竜の前に進み出ると、一呼吸置いた後、厳しい表情で雨竜を見て彼の頬を叩いていた。
その事実に叩かれた雨竜も、見ていた一度も何が起きたのか解らず呆然としている。
そんな2人にまったくお構いなしに、は変わらず厳しい表情で告げる。
「集まった虚は一匹残らず滅却するから大丈夫?!ふざけるのも大概にしなさい!この勝負は・・最初からあんたの負けよ!」
「なっ・・・?!」
さすがに「負け」という言葉に雨竜が反論しようとしたが、それよりも早くは彼を無視して後ろで呆然としてる一護に話しかけた。
「一護・・・こうなったら、もう仕方ないわ。早く行きなさい」
「えっ・・でもよっ!」
「虚は霊的濃度の高い人間を主に狙う!この意味、あんたなら解るでしょう?!」
にそう指摘された瞬間、一護の頭には妹の夏梨を始め、織姫やたつき、茶渡の顔も浮かんでいた。
「織姫とたつきと茶渡は私の方で手を回しておくから!あんたは、夏梨のとこに行ってあげなさい!」
「っ、解った!!」
の言葉を聞き、一護はすぐさまその場から立ち去っていった。
一護がその場を去った後、残されたと雨竜は互いに睨み合いを続けていた。
「・・・本当に街の人の事を考えるなら・・・普通は、最初から危険な目になるべく合わせないと考えるものじゃない?」
「・・・だから、僕が全部滅却すると・・」
「・・・・・それは、最初から危険な目に合わせないとは言えない」
「・・・・・・・・・・」
「あんたは最悪の選択をした。・・・滅却師失格といって良いほどの、ね」
「っ!」
さすがにのその言葉に、険しい表情で反論しようとした雨竜だったが、その後すぐに続けられたの言葉でそれは防がれた。
「この街はね・・・他に比べ、全体的に霊的濃度が濃すぎるのよ・・」
「えっ・・・?」
「一護達家族・・浦原商店の連中・・滅却師のあんたや・・・今はルキアや、霊能力に目覚めかけている織姫やたつきや茶渡もいる・・・」
指折り数えて霊力を持った人間を上げていったは、そこまで名前を言いあげると少し複雑そうな表情で言葉を続けた。
「それに・・・何よりも、私がいる・・・」
「・・・えっ?」
のその言葉に雨竜は怪訝な表情をする。
確かに彼女の霊力は高そうではあるが、何故そこまで深刻な表情をするほどなのか良く解らなかった。
まるで彼女1人だけが特別高いといっているようだが、そこまでのものとは雨竜には思えなかった。
しかしそんな雨竜とはうらはらに、は冷汗を流しながら告げた。
「そんな所に撒き餌なんて撒いてみなさい・・・あんたの予想を遥かに超えた数が・・・この街に集まってくるわよ・・」
「・・・なん、だって?!」
によって告げられたその言葉に、雨竜はようやく自分が行なった事の重大さに気づいていた。
しかし今更気づいても遅く、空座町上空に開いた亀裂からは、大量の虚が押し寄せてきていた。



事の重大さに気づいた雨竜がその場を走り去った後、その姿が完全に見えなくなったところで、は懐にしまっていた携帯のようなものを使用していた。
「・・・ああ、喜助。私」
『あれ?様っスか・・?それ使われるの珍しいっスねぇ』
が繋いだ電話の先の声、それは間違いなく浦原のものだった。
「事態が事態だから仕方ないでしょ。あんたには意思伝心できないんだから!」
『いや・・・そんな、あたられても・・・』
「あたりたくもなるわよ!この状況じゃぁ・・あんたも気づいてるでしょ?!」
『まあ、大体は・・・』
「じゃあ、話が早いわ。あんた達は学校に行って!織姫とたつきがいるはずだから、そっちの救援を急いで!ついでに、夜一には茶渡の救援に向かわせるよう連絡とって!」
『それはいいッスけど。様は・・?』
「・・・私は、あの馬鹿ひび塞ぐ!」
のそのとんでもない一言に、浦原が電話の先で多少動揺したのが伺えた。
『・・・そりゃあ、様なら出来ないこともないでしょうが・・・いいんスか?その場合、あの方々に所在が知れることになるかもしれませんよ』
「覚悟の上よ!でも、他にどうしようもないでしょうが!」
『了解しました。それでは、こちらはそのつもりで動きますので・・』
「ええ、頼んだわよ・・・」
はそう言って念を押すと、浦原との通信を切り、広がり続けるひびの真下へと急いだのだった。













最初に出来たひびとまるで連動するように、次々と虚が現れてくる日々が空座町の上空に出来上がっていた。
その無数に出来上がったひびの無視し、はきっかけとなった最初に出来たひびの丁度真下辺りに到着した。
そして真下からそのひびを睨み上げながらぽつりと呟いた。
「・・・この仮の姿のままだと少しきついかもしれないけど」
そんな事を口にしてすぐには首を大きく横に振った。
「・・元の姿に戻るって、それこそ今は出来ないし・・・とにかく、今はやるしかないわねっ」
そう言って決心を固めると、は空のひびに向かって手をかざし、続いてなにやら唱えながら次々に印のようなものを結んでいく。
その間、虚が幾度か現れてを襲おうとしたが、が詠唱と印を開始した時から自然に出来上がっていた結界のようなものに阻まれている。
それだけでなく、結界に触れた虚は次々と昇華していった。
そのため暫くたった後は、に近づく虚は自然といなくなっていた。
そしての方は、冷汗を流すほど霊力を消費したところで、ようやく長い詠唱と印も最終面に差し掛かっていた。
「・・・東西南北 四宝の一条 始祖天命において告げ給う 我は汝の敵 我は汝の味方 我は創りし者 我力と意思におき 閉じよ 界の異門!」
の放った最後の一音と最後の印。
それとほぼ同時に空にあったひびは塞がり始め、他の無数の穴もそれに連動する形で閉じ始めた。
それを見届けたはふうっと軽く息を吐いた。
「あ〜〜・・やっぱり、制御の塊そのもののこの仮の姿の状態でやると疲れるわ。霊力もこの姿の時に出せる3分の2くらいは持ってかれたかしら〜〜」
そう言ってあからさまな素振りをしながらその場に座り、辺りの空座町全体の霊圧に気を配る。
織姫、たつき、茶渡の3人はどうやら浦原と夜一にそれぞれ保護されて大丈夫だと解った。
しかし予想外だったのは、どうやら今回の一件で織姫とたつきは幸か不幸か霊能力が開花したらしい。
茶渡もあのインコの一件で霊能力の才能を感じて、織姫とたつき同様に指導していたのだが、複雑なことだがその成果があったというものだ。
夏梨の方は一護が助けに言った様子はないが、一心といることからおそらく大丈夫であるとは判断した。
幾ら義骸に入っている状態とはいえ、虚の察知ぐらいは出来る。
おそらくは危険回避くらいはできるはずだ。
もっとも、以前1度黒崎家が虚に襲われた時の事もあるので少し不安もあったが、ひびも塞いで虚の増加もこれ以上はないため、問題はないだろうと思った。
そして一護と雨竜とルキアと・・・ついでにコンだが、どうやらこちらも無事だということは解った。
後は彼等に任せておけば何とかなるだろうと、が自分は適当に休んでおこうと決めかけた瞬間だった。
空座町の上空にとてつもない違和感を感じた彼女は、すぐに空を見上げて愕然とした。
そこには新しい、しかし先程よりも大きなひびがあった。
「・・・嘘でしょ。ちゃんと、塞いだはずなのに」
愕然としながら、やはりこの姿のままでは無理だったのかとは思いかけたが、ふとは違和感を感じたもう1つの理由に気づいて顔色を変えた。
「・・・そう、これはあんたの仕業なわけね」
この事態を起こした犯人の予想がついた時、は不敵に笑っていたが、その顔には確かに緊張と悪寒で一筋の冷汗が流れた。
「確かにあれは虚圏と現世を繋ぐものだから、尸魂界にいるあいつらより、あいつの方が私のことを察知するのが早いし、確実なんでしょうけど・・・」
そう言いながらそれを見つめるの目に、その巨大な姿はついに姿を見せた。
「・・だからって、随分と派手な挨拶よね」
出現した大虚の姿を目にし、そう言って自嘲的に笑うに、「本来お前ならこれくらい、ただのお遊び程度のことだろう」と、誰かが不敵に笑いながら囁いたような気がした。
「そりゃ、そうだけ・・・・・一護!」
律儀にその空耳のような言葉に返事を返そうとした時、大虚が現れたすぐ近くにいる霊圧を感じ取っては慌てた。
そしてすぐさま、疲れた身体を動かし、得意の瞬歩でその場を後にした。
向かうのは大虚が現れた場所。
そしておそらく今頃は、大虚を見て呆然となっているであろう一護達のいるその場所。












がそこに到着したのは、無謀にも大虚に突っ込んでいく一護をとめようとしたルキアを、更に浦原が縛道まで使って止めている時だった。
「この戦いは必要な戦いなんスよ。朽木さんにとっても、彼にとっても」
「考えようによってはそうかもしれないけどねぇ!!」
浦原のその言葉を聞いたは、同意のような言葉とは異なり、見事突っ込みのように浦原に飛び蹴りを食らわせていた。
「店長―――!」
慌てて叫び駆け寄るテッサイに対し、当の蹴られた浦原は、その場に悠然と立つを見て冷汗を流した。
「き、様!?」
!」
「・・確かに、これで一護も成長するかもしれないけど、荒療治にも程があるわよね?喜助ぇ」
「あっ、あはははっ・・・」
顔は笑顔であるが目は笑っていないという、怒りのオーラを身に纏いながらそう言うに対し、浦原はただ引き攣った苦笑を浮かべるしかなかった。
しかしが浦原をそれ以上責める暇もなく、一護は大虚の巨大な脚に蹴られ吹き飛ばされていた。
「一護!」
「ま、待ってください!様」
慌てて助けに行こうとするを、少し恐ろしかったが浦原は必死に呼び止めた。
その呼び声に意外にもぴたりと止まったは、しかし振り返らないそのまま浦原に告げた。
「止めるんじゃないわよ、喜助・・・・・あれは、私に売られたけんかなんだから」
「なにっ・・?」
のその言葉の意味が解らず、ルキアは眉を潜めて声を漏らした。
「雨竜の空けてしまったひびは完全に塞いだわ。だから・・・あれが出てきたのは、それとは関係ないのよ」
「ど、どういうことなのだ?!」
「・・私に気づいた奴が、この機に乗じて私に挨拶代わりに送り込んできたんだから」
「っ!」
のその言葉にただルキアは愕然と驚いていた。
が言う『奴』というのが何のことか解らなかったが、しかし大虚を挨拶代わり程度のことで送り込んでくる程の相手とあれば、それはとても尋常ではない相手であることが解る。
そしてもう1つ、その相手にこれが挨拶代わりになると判断されているの正体が、ルキアにはますます解らなくなってきていた。
・・・お主・・・」
「・・でも、様。恐れながら言わせてもらうっスけど、いつまでも過保護ってわけにもいかないでしょう?」
ルキアが声をかけようとした瞬間、意を決したような浦原がに声をかけ、ルキアの声は遮られた。
そして浦原のその言葉にはまともに反応する。
「何ですって?」
「・・だってそうでしょう?もし今後、様がどうしても黒崎さんの危機に駆けつけられない事があったとして・・・その時、黒崎さんがまともに力を扱えないんじゃどしようもないっしょ?」
「・・・・・・」
「ここは今回、思い切って突き放す覚悟で、暫く様子を見られてはどうっスかね?」
浦原のその言葉を一通り聞いたは、暫く無言で彼を見つめていた。
一方の浦原も、進言しては見たが、この後の自分にとっての悪い展開を考えると冷汗が止まらなかった。
やがて沈黙が続いた後、がようやく重たい口を開いた。
「・・そうね。あんたの言う通りかもね、喜助」
様・・」
「ここは一護を信じるわ。ま、もしもの場合は絶対にすぐに助けに行くけど」
「そうっスか」
「・・ただし」
の言葉にほっと安心して息を吐いた浦原だったが、にっこりと微笑んだの次の言葉でその安堵は打ち消されてしまう。
「後で殴らせろv」
健やかにそう言い放ったの言葉に、浦原は涙を流しながらその場に倒れこんでいた。












終わった。
とりあえず事態は無事、といっても良い程度には終わった。
一護や雨竜が色々と試行錯誤したりしながら戦っていたが、最後の最後で力を解放した一護が大虚を一刀両断するという形で終わった。
これには少しも驚いていた。
確かに一護にはこれくらいの潜在能力は眠っていると感じてはいたが、まさか死神の力を得てからこんなに早い期間でここまで到達するとは思っていなかったのだ。
どうやら今回ばかりは浦原の意見は正解だったようだ。
しかし、だからと言って先程言った殴る発言を撤回するつもりもない、とは密かに心の中で思っていた。
その時だった、一護が突然倒れ、そして手に持っている斬魄刀の形状が崩れ始めたのは。
その事態が何故起こったのかすぐに理解したは、すぐさま一護に駆け寄った。
「黒崎!」
「どいて!」
事態に驚き慌てる雨竜を押しのけ、は倒れている一護の額に触れた。
・・っ」
「・・・よく頑張ったわね、一護」
そう言って微笑んだの掌から淡白い光が溢れ、それと同時に一護は額に何か温かいものが広がっていくのを感じた。
すると徐々に一護の霊力は元の安定を取り戻し、完全に安定した頃には一護は自然に目を閉じてそのままね眠りについていた。
「・・・本当にお疲れ様」
一護が眠ったのを確認すると、は一護の額から頭に手を移動させ、暫くその頭を優しく撫でてから手を放した。
雨竜はが簡単に一護の霊力を安定させた事も驚いたが、それと同じくらい、彼女が一護にとったその一連の態度や表情が、まるで母親が子供に対するようなものに見えて驚いていた。
そんな事を考えながら雨竜が目を丸くしていると、立ち上がったが振り返りもせず声をかけてきた。
「雨竜・・・・・」
「えっ?」
今度は自分の下の名前を呼ばれた事に雨竜は驚いて声を漏らしたが、そんなことは気にせずは言葉を続ける。
「後でちょっと、話があるから・・・そのつもりで」
「・・・解った」
拒否する気など雨竜にはなかった。
もっとも出来ないというのが正確なところである。
に忠告されたことを無視し、その上あんな事を引き起こしたのだから。
しかしそんな雨竜に対し、少しの間の後、は雨竜にフォローを入れた。
「・・大虚の件は気にしないで良いわよ。あれは、私のせいみたいなのもあるし、ね」
「えっ・・・?」
のその言葉に不思議そうに雨竜は声を上げたが、はそれ以上それに関しては何も口にすることもなく、雨竜も詮索できない雰囲気を感じてそれ以上何も聞かなかった。
「さてと・・これから大変なことになるのは間違いないわね」
天を仰ぎ見てそう言ったには、これから起こりうる事態の数々は、ある程度予想できていたのだった。













あとがき

主人公の頭の良さは、まあ仕方がないことなんです;
解らないはずがないというか・・・
なので、本人も言ってたように、さすがに満点とり続けっていうのは、変に勘ぐられる恐れがあるので、わざと難問か間違えたりしてます;(おいおい)
今回のIfは即時ひび修復と、大虚の出現条件ですかね・・・・
あと、茶渡救出に夜一さん投入でした;
ちなみに主人公は今回仮の姿とか言ってましたが、別に義骸に入ってるわけじゃありませんので。






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