ドリーム小説
蒼紅華楽 




布団とはまた違ったモノが手に触れる感触。
規則正しい息遣い。
明らかなすぐ近くにある人の気配。
それに起きて早々に気づき、急いでそれを確認しようとした日番谷は、それを見た瞬間声も出ず固まってしまった。
そこには昨日確かに「帰る」と言って出て行ったが、いつの間にか自分の布団に潜り込み、堂々と自分の横で寝ていたからである。
斬魄刀を取り去っているのは勿論、日中着ている羽織や黒い死覇装等も何故か脱ぎ、着ているのは少し丈が長めの特殊な紅い半襦袢のみ。
その為、足は無防備に思いっきり曝け出し、穏やかな寝顔で手まで握られているおまけつきのため、日番谷の理性はことごとく試されているようにも思える光景だった。
「・・・何がどうなって・・・なんでこいつがここで寝てるんだよ?」
まだ頭が混乱する中、このままではさすがに色々まずいと判断した日番谷はを起こしにかかる。
「おいっ、起きろ!」
少し大きめな声で未だ夢の中のを起こそうと呼びかけ、それと同時に繋がれた手をなんとか解こうとする。
しかしそれでもは一行に起きる様子がなく、しかもそれどころか繋いだ手を解かせまいとして余計にしがみ付いてきた。
その行動に日番谷の顔がより赤く染まっていく。
「おいっ・・・自己防衛本能はどこいったんだよ?!こういう時こそ起きろ!」
確かに日番谷の2度の経験から言えば、他人が近くにいるこの状況下でが起きないのは明らかにおかしい。
本来なら既に攻撃の1つでも仕掛けてきていそうだ。
しかしは何故かまったくそういう気配を今回は見せず、ただ穏やかな睡眠をとり続けていた。
・・・起きろ!起き・・・っ、起きろ!!」
勢いのまま口にしたの名前に日番谷がはっとするのとほぼ同時に、ぴくっと握られた手からの反応が伝わってきた。
そしてまだ少し眠そうにゆっくりとの瞼は上がった。
「・・・・・朝か?」
「・・朝か・・・じゃないだろうが」
の寝ぼけていると言っても過言ではない言葉に日番谷はただ深い溜息をついた。
「・・・お前、いったい何時、なんで俺の布団の中で寝てるんだよ?」
「・・・・・ああ」
暫しの間の後、ようやく目も少し覚めてきたのか、は日番谷の言っている事を理解したように手を打つ。
しかしすぐには答えると思ったのも束の間、そのまま起き上がっていそいそと身支度を整え始めていた。
「・・・おいっ」
「言い忘れたことがあったのでな」
日番谷がいい加減にしろと言いかけたところではようやく答えを返し始める。
「それで戻ってきたのだが、お前はもう寝ていたのでな。私も丁度眠くなってきたし、目の前に丁度良く布団があったので」
「・・・・・勝手に潜り込んだ、と?」
「ああ」
全く動じることもなくあっさりと返事を返すに日番谷は脱力してしまった。
だからといって他人の、しかも男の布団に潜り込むの感覚はいったいどうなっているのだろうか。
それともそこまで自分は意識されていないのだろうか、という考えにまで及んでしまい多少虚しくなってしまった。
そんな日番谷を身支度を完全に整えたは不思議そうに眺めていた。
そして暫くして虚空に手をかざして例の合言葉を唱える。
「『右に来世を 左に常世を 映せし鏡の色において』」
隊舎へと繋がる穴が開いたのを確認すると、は未だ心ここにあらずになっている日番谷の方を振り向いた。
「・・・それでは私は帰るぞ」
「ああ・・・」
に呼びかけられて少し現実に戻った日番谷は小さく返事をした。
そしてそれを聞いてはすぐに穴に向かおうとしたが、何かを思い出したかのようにぴたりと止まり、は再び振り返って日番谷の方を向いて口を開いた。
「・・・また言い忘れるところだった」
「・・・なんだよ?」
やはりどこか普通とは感覚の違うのペースに溜息をついた日番谷だが、次の瞬間からでたのはとても予想のつかいあに意外な言動だった。
「・・・ありがとう。冬獅郎くん」
まるで華が咲くような満面の笑顔でそう告げたは、それだけ告げると穴に向かっていき、やがて穴が閉じたことによって完全にその姿は消えた。
後には予想外の出来事にただ呆然として固まっている日番谷が残されていた。
「・・・・・何がありがと・・・っていうか、今名前・・・・・」
ただ一言、ただ一つの行動にただ驚いて呆然として目を見開きながらそう呟く日番谷が、が耳栓をしていない自分の前で平然と合言葉を言った事に気づいたのはこの少し後だった。












帰ってきて早々は隊員達の熱烈な歓迎を受けた。
それこそ「心配しました」、「無事でよかったです」という有触れたものから、「朝帰りなんて何してたんですか?」というものまでだった。
ちなみに「朝帰り」云々を言ったのは久遠で、にすぐさま一蹴された。
そしてそんな隊員たちに「十番隊の隊舎で寝ていた」と、素直にありのまま話しただが、それを聞いた瞬間何故か隊員たちの目が光り輝き、複数名がかなりにやけた顔になった。
そんな隊員たちの不可思議な様子が気になりつつも、は通常業務をこなしながら各自の報告を聞いていた。
「雨竜と織姫に関してはとりあえず、大丈夫だと思います。頭が相当切れるようですから、下手な手は打たないでしょう」
「・・・夜一様ですが、手はずどおり隊舎の方へ案内させていただきました。情報や隊舎にある目ぼしい物をお持ちになって戻られましたが・・・」
「そうか・・・」
隊員たちの報告、特に夜一に関するものを注意深く聞きながら、はとりあえず今の所は彼らの報告の通り大丈夫だろうと踏んでいた。
「・・・あ、ところで隊長。昨日阿散井とやりあった例の奴は大丈夫なんでしょうか?」
「ああ、大丈夫だろう。花太郎もついていたし、それに先程霊圧を探ったが無事なようだ」
「そうですか」
少し昨日の事が気がかりになっていた捺芽は、の今の一言でようやく人安心だと胸を撫で下ろした。
そしてこの2人の会話の内容は、初耳である他の隊員たちの興味を引いた。
「えっ?!阿散井とやりあった奴がいるんですか?」
「そういえば・・・確か個人戦闘をして負けたとかで、牢にいれられたとかいう話を聞いたような・・・」
「相手は、誰だったんですか?」
阿散井に勝ったという人物にますます興味深そうにに一同は尋ねる。
そしてそれを見て溜息をついたは、隠すことでもないと口を開いた。
「オレンジの髪の・・・確か一護という名前だったか」
「ああ、一護殿ですか。それなら納得です」
からその名前を聞いた時雨が楽しそうにそう告げたことにより、今度はを含め全員の視線が時雨に注がれた。
「・・・納得とはどういうことだ?時雨」
「すいません、隊長。言うのが遅れてしまいました。その黒崎一護殿。どうやら喜助様の弟子らしいのです」
時雨の言葉に一斉に一同から驚きの声が上がった。
「っていうことは・・・隊長の弟弟子になるってことですか?!」
「それなら阿散井を倒したことにも納得がいきますよ」
「・・・でも、時雨副隊長。昨日はそんな事一言も仰ってなかったじゃないですか?」
「ああ、それは・・・隊長にまず初めにお伝えしようと思ったんだが、隊長が昨日お戻りにならなかったので、すっかり忘れてしまっていたんだ」
苦笑しながら「失態だな」という時雨に対し、他の隊員達はそういうことかと納得して見せた。
そしては一護が自分の弟弟子にあたると聞き、昨日の一件をあっさり納得していた。
「なるほど・・・きー兄が師ならあの強さにも納得だ」
「それに隊長の弟弟子ですしね」
「・・・まさかあいつが私とそんな繋がりがある奴とは思いもしな」
「「隊長!!」」
の言葉はかなり急いでいた事が明らかな程息を完全に乱し、勢い良く扉を開けた琥珀と霧生の2人によって途中で阻まれた。
そしてその2人の方を一同は一斉に驚いた顔で凝視する。
「・・・2人共、いったいどうした?」
「す、すいません隊長。命じられた四十六室の調査中でしたが、どうしてもお耳に入れなければならないことがあり、急遽戻ってまいりました」
「それは構わんが・・・いったいどうした?お前達がそれほど焦るほどの何があった・・・?」
のその問いに2人は少し言い辛そうに顔を見合わせたが、すぐに霧生が真剣な表情で告げた。
「・・・藍染五番隊長が、今朝東大聖壁で、遺体となって発見されました」
それを聞いた瞬間、一同の間から驚愕の声が漏れでた。
だが、そんな中はただ1人動じずにじっと2人の話の続きを聞く。
「第一発見者は五番隊副隊長の雛森です。ただ、市丸三番隊長を見た瞬間、彼を犯人だと断定したようで、斬りかかった所を三番隊副隊長の吉良に止められました」
「その後2人揃って斬魄刀を解放。しかし、まともにやりあう前に日番谷十番隊長に取り押さえられたらしく、大事には至らなかったようですが」
「・・・冬獅郎くんが?」
琥珀から出た日番谷の名にが反応し、思わず表情を少し穏やかにして名前を呼んだ瞬間一同の目が丸くなる。
そして暫しの間の後、全員で円陣を組んでに聞こえないくらいのひそひそ声で話し出す。
「おいっ!今の聞いたか?!」
「聞きました!確かに隊長、日番谷十番隊長のこと下の名前で・・・」
「ということは・・・」
「ああ、何時の間にそんなことになったのか知らないが・・・」
「でかしました!日番谷十番隊長!!」
「・・・・・・何をこそこそいているのだ?」
真剣な話の途中で何やら妙な行動を取っている隊員達を不思議に思いが声をかけると、すぐに時雨をはじめとする一同は何事もなかったかのように元に戻った。
「なんでもありません。で、琥珀に霧生、続きを」
「はい」
「・・・・・・・」
さすがにおかしいとは思ったが、あえて追及はしないでおくことにした。
この辺りはの隊員達に対する全幅の信頼の賜物である。
「えっと・・・その後、雛森、吉良の両名とも拘束、拘置されたもようです」
「ちなみに藍染隊長の死因は斬魄刀によって一撃。遺体は東大聖壁に吊るされていたそうです」
「隊長・・・藍染五番隊長が殺されたということは・・・白だったということでしょうか?」
琥珀のその言葉に周りはいっきに静まり返った。
藍染を今回の一件の首謀者と睨んでいた零番隊の面々にとっては、それが今回の藍染殺害でひっくり返された形になったからだ。
しかしその中でだけはやはり全く動じず、冷静に目を瞑ると霊気を研ぎ澄ませた。
そしてやがて目を再び開くと厳しい表情で冷静に隊員達に告げた。
「・・藍染が死んだ?馬鹿を言うな。奴はしっかり生きているぞ」
「なっ・・・?!」
その言葉に一同はまた騒ぎ出した。
「藍染五番隊長が・・・生きてる?」
「本当ですか?隊長!」
「ああ・・・念の為先程、霊圧を辿った・・・死んだどころか、随分と元気に生きているようだ」
のその言葉に誰も最早疑うこともなく聞き入っていた。
の探知能力の凄さは零番隊員であるなら当然知っているところだ。
「・・・しかも奴め、今現在どこにいると思う?」
「どこなんですか?」
「・・・清浄塔居林・・・・・中央地下議事堂だ。そして、どうやら四十六室は全員・・・死んでいるな」
から出たその場所の名と、現状に全員は驚いていた。
特に四十六室に関して調べていた琥珀と霧生の2人は。
「そんな・・・俺達がこっそり調べた時には、普通に会議してましたよ」
「・・・・・・『天桜』」
「はい」
琥珀が告げたもっともな疑問に対し、は自分の斬魄刀の名を呼んだ。
すると彼女の後ろに緋色の髪に緋色の瞳、女性の姿をした彼女の斬魄刀『天桜』の本体が具象化して立っていた。
「お呼びでしょうか?我が君」
「『天桜』。お前なら、奴の斬魄刀の能力が解るな」
「はい。それも一重に我が君の莫大な霊力のお陰ですが」
「・・・奴の斬魄刀の『本当の』能力は?」
「・・・・・霧と水流の乱反射で敵を撹乱、などと表向きは言っているようですが・・・『鏡花水月』の本当の能力は完全催眠です」
「完全催眠・・・なるほど、すると地下議事堂全体にそれをかけ、琥珀と霧生の目を誤魔化すことは?」
「十分に可能かと。ただ、琥珀様も霧生様も、もし攻撃などされてこようものなら、おかしいことにお気づきにはなられたでしょうが」
最後の一言はまったく気づかなかった自分達に対するフォローなのだろうと、瞬時に察した琥珀と霧生は『天桜』に頭が上がらない思いだった。
もっとも『天桜』の言う通り、もし攻撃でもされていたなら気づいていた自身は十分に2人にはあった。
「・・まあ、奴は琥珀と霧生が密かに調べていたなどと気づいていなかったのだろうが」
「さすがに、そこまでヘマはしませんよ・・・」
しかしさすがに全く完全催眠に気づけなかった自分達の落ち度に、琥珀も霧生も苦笑いを浮かべていた。
「・・・それにしても奴も詰めが甘いな。いや、気づかない他の連中が馬鹿なのか・・・」
「どういうことですか?」
はあっと溜息をついているに牡丹は不思議そうに尋ねた。
「そもそも、隊長格がそう簡単に殺されるか?」
のその言葉に、ほとんどの隊員があっと今気づいたような表情をする。
それを見たは、まさか自分の部下達まで気づいていなかったのかとまた溜息をついた。
「藍染を殺せるとすれば、同じ隊長格だ。しかし、だからといって夜中に誰にも気づかれないというのはおかしくないか?」
「そういえば、そうですよね・・・」
「十三隊の隊長達以外で奴を殺せるとすれば、全員が十三隊の隊長格以上の実力の我々零番隊の者だ。だが、我々が犯人でないことは、自分たちが1番良く知っている」
そのの言葉に一同は全員同時に頷いた。
彼らにとっては藍染を殺したところで何のメリットもない。
が殺せといえばそうするだろうが、がそういった類の命令を出したことは1度もない。
「我々零番の者意外となると、それこそ十三隊の隊長の誰かだ。しかし、それにしても同じ隊長同士なのだから、あっさり藍染を殺せるわけがない。少なからず、戦闘は起こり、そして隊長格の巨大な霊圧を誰もが察知するだろう」
「確かに・・・・・」
「しかし誰もそれに気づかなかった。・・・昨晩は表で睡眠を取っていた私ですらだ」
「・・・確かに、こちらに帰っていたのならともかく、表にいたのなら隊長ならすぐにお気づきになりますよね」
何しろには瀞霊廷とその周辺に張り巡らされた霊力の網がある。
それで普段からこの瀞霊廷で何か事件が起きればすぐに解るようにしているのだ。
しかも今は事態が事態なだけに、普段よりよりすぐに解るように。
通常の空間とは違う零番の隊舎のあるこの空間ならともかく、表の普通の空間にいる以上は、霊圧の衝突などがあればすぐ解らないはずがない。
それは寝ている時も同じである。
にもかかわらず、が気づかなかったのは、そんな事実はなかったということを示唆している。
「では、藍染は無抵抗なままやられたか。そんなはずはない。私はそこまで奴が潔いとも鈍いとも思っていない」
「・・・だから、藍染五番隊長の霊圧を辿られたのですね?」
「そうだ。明らかにおかしかったからな・・・そして結果は先程話したとおり」
の持論の1つに「疑わしいものはどこまでも疑え」というのがあるのを零番隊員達は知っていた。
は藍染の死を聞いてもそれをあっさり受け入れず、それでも疑い続けたからこそ今回のように今回のような答えを導き出せたのだろう。
まさしくの持論が役に立った瞬間でもあった。
「なんにしても・・・これで藍染は、白どころか完全に黒だ」
がそう告げた瞬間、隊員達は先程までとは違い、まるで獲物を捕らえたような目で笑いながら頷いていた。
そして暫くの間の後、が何かを思い立ったように口を開いた。
「・・・琥珀」
「はい?」
「お前、確か十三隊隊員全員の個人情報は把握しているな?」
のその言葉に琥珀は初めきょとんとしていたが、すぐににっこり微笑むと自信満々に頷いた。
「十三隊は勿論、隠密機動、技術開発局等・・・全死神の個人情報は把握済みですが」
琥珀は零番隊の中でも極めて頭が良い。
その為、趣味と言い張って何故か全死神の個人情報を覚えているのだ。
またそれ以外にも地下水道を初めとした瀞霊廷全域の構造全てを熟知している。
これは零番の他の隊員達にからも、「どんな頭の作りしているんだ」という言葉が飛び出したことがある。
「それなら・・・過去・現在に限らず藍染の部下だった者も解るな?」
「はあ・・・それは勿論ですが・・・」
「なら、それを洗いざらい全て教えてくれ」
の言っていることの真意が解らず、琥珀とほとんどの隊員達はきょとんとしている。
たださすがに長年の副官を務める時雨と、の斬魄刀である『天桜』だけは彼女の考えている事に察しがついたようだ。
「・・・私の考えが正しければ、市丸以外にも隊長格で、藍染の共犯者は確実に1人はいる」
厳しい表情で告げたのその一言に、零番隊のほとんどの者が目を見張っていた。













あとがき

今回何時にもまして短いですが、私的に切が良かったので・・・;
主人公の斬魄刀の本体初登場です。
彼女(?)も隊員達と同じで主人公至上主義です。
他人の斬魄刀の能力が解るなんてある意味反則かもしれませんが、主人公の卍解の能力はそんなの比較にならないくらい反則です;
それこそ巷で反則技と騒がれている藍染隊長の完全催眠より遥かに;
まあ、五話で主人公も語っていますが、主人公の斬魄刀はあらゆる能力から自動で主人公を護るので、実は藍染隊長の完全催眠もきかないんですよね・・・(やっぱり反則)
そして最後に、日番谷くんの布団に潜り込んで寝ぼけている主人公を書くのはとっても楽しかったです;





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