ドリーム小説
蒼紅華楽 十一
が琥珀に藍染の過去現在に限らず全ての部下だった者を教えてくれと言ってからかなりの時間が経過していた。
そしてようやく全て琥珀が言い終えた時、以外の隊員達は感心するような、呆れるような視線を琥珀に送っていた。
「・・・琥珀。よくお前、そんなに覚えてられるよな」
「はい?そうですか?」
「そうですか?じゃないだろう・・・普通そんなに素で覚えてる奴はいないぞ・・・」
「・・・考えてみれば、十三隊は私達の所と違って、一隊が200人以上の構成なんですよね・・・」
「普通覚えてられないですよ・・・」
そんな声が飛び交う中、言われている当人の琥珀はただ苦笑を浮かべていた。
「まあ・・・そのおかげでこうして情報が得られたのだからな。賞賛だな」
にそう言って誉められた琥珀は嬉しそうに照れた笑顔を浮かべた。
そしては隊員達に1枚の紙を見せた。
それには数人の名前が自身の字で書かれていた。
「今、琥珀に上げてもらった中で、今回の一件に関わりありそうな者達を書き出してみた」
「え〜〜っと・・・あれ?これって・・・」
「・・・そしてやはり・・・東仙は藍染と共犯のようだ」
のその言葉に隊員達の間の空気も何時の間にか張り詰めていた。
「・・・奴が盲目というのは皆が知っている話だ」
「はい・・・」
「完全催眠はどうも視覚に影響を与えるようだからな。なら、眼の見えない東仙に完全催眠は効かないのは当然だろう」
「・・・今回の藍染五番隊長の偽死体を見た場合、1人完全催眠にかかっていない東仙九番隊長が気づくのは明白・・・というわけですか」
時雨のその的確な言葉にはただ黙って静かに頷いて見せた。
「だがそれは藍染とて解っていることのはずだ。なら、東仙に対する対策を別にしなければならないが・・・それよりももっと簡単なのは、奴を仲間に引きずりこむことだ」
「あ〜・・・それで、さっきのやつですか」
「そうだ。奴が藍染の元部下だったのなら、引きずり込むのは割合簡単な事のはずだからな」
「確かに・・・でも、それ以外にも面白い名前が上がってる気がしますけど・・・」
が名前を記した紙を見つめながら、霧生は口角を吊り上げてそう告げる。
「市丸三番隊長が藍染五番隊長の元副隊長。そのうえ、阿散井、吉良も元五番隊ですか・・・」
「そういえば、現五番隊副隊長の雛森と同期じゃなかったか?その2人・・・」
「うわ〜〜・・・なんか思いっきり関係ありそう・・・」
「・・・とりあえず、これからは藍染、市丸に加え、東仙も警戒していくぞ」
「承知いたしました」
隊員達全員を代表して時雨がそう返事をした。
そこから少しの間の後、は大きく目を見開くと、すぐさまその場から勢いよく立ち上がった。
「た、隊長・・・?」
「表に出てくる!それから捺芽!お前はすぐに八番隊の京楽のところへ行け!」
「えっ・・・」
の切羽詰った様子に加え、突然の使命に驚く隊員達の中でも捺芽は一際驚いていた。
しかしの次の言葉ですぐに察しがいった。
「一護が更木とやりあっている・・・それに、茶渡が京楽に負けた・・・」
「茶渡が・・・!?」
「京楽ならおそらく、命を取るような真似はしないだろう。だが、念のために・・・」
「解りました!」
の言いたい事全てを察すると、捺芽はすぐさま急いで室内を出て行った。
「私も急ぐ・・・後は任せたぞ。時雨」
「はい」
最後にそれだけ告げ、時雨の短い返答を聞くと、も捺芽と同じようにすぐさまその場を後にした。
一護と更木が戦っている現場に向かっている間、2人の霊圧を探り続けているは怪訝な表情を浮かべていた。
「・・・1度消えかけたと思えば復活して霊圧が比べ物にならないほど上がった・・・今は、むしろ更木の方が押されているか・・・」
そうしてまた感覚を研ぎ澄まして霊圧を辿り、よりいっそう難しそうな表情を作る。
「更木の方も霊圧が上がったが、一護もさらに・・・・・この短期間でこれだけ成長するとは・・・」
も少々一護のこの成長ぶりが気になり始めていた。
とても義兄に修行をしてもらったというのだけでは、説明がつかなくなってきているのではないかと。
「本人の元の才能か・・・」
が短くそう告げた時、2つの霊圧の衝突が終わった。
その両方の霊圧が徐々に小さくなっていくのを感じ、同時にその片方がその場から離れていくのを感じた。
おそらくやちるあたりが更木を連れて行ったのだろうとは推測し、その場に残されている一護の救助に向かうべくより急いだ。
そしてようやく現場に辿り着いたの眼に映ったのは、ぼろぼろになって倒れる一護の姿と、その一護の傍にいる懐かしい霊圧を持つ黒猫の姿だった。
「・・・夜姉」
「・・・か?」
お互いまさかここで会うとは思っていなかったため暫し呆然としている。
そして沈黙を破り、先に口を開いたのは夜一の方だった。
「・・・すまなかったな。」
夜一のその謝罪の一言には眼を見開いて不思議そうな顔をする。
「お前に何も告げずに尸魂界から出て行き、こうして帰ってきた今お前に迷惑をかけてしまって。儂らが出て行った後、お前がいったいどんな思いをしたか・・・本当にすま」
「謝らないで、夜姉」
夜一の謝罪の言葉を呆然としながらずっと聞いていただが、夜一が全て言い終わるよりも早く口を開くと首を横に振った。
「私解ってるから。夜姉ときー兄は何も悪くない。あの時はああするしかなかったって良く解ってる」
「・・・」
「私は、2人に感謝することは山ほどあるけど・・・責めることなんて1つもないから・・・それに」
はそこまで言うと一旦途中できり、そしてにっこりと微笑んで続きを告げた。
「忘れないで・・・覚えていてくれただけでも嬉しいから」
「・・・当たり前じゃろ。お前を忘れるはずがない。例え血は繋がっていなくとも、お前は儂らの妹じゃ」
「・・・ありがとう・・・そして、お帰り・・・夜姉」
「ああ・・・ただいま。」
そう言い合って2人で微笑み合い、暫しの静寂の後、今度はが先に口を開いた。
「・・・夜姉。一護の事頼める?」
「ああ、もとよりそのつもりでここに来たのじゃからな」
「解った。私は・・・更木の様子を見てくる」
「更木の・・・?」
のその言葉に夜一は何か考えがあるのかと思い、その心中を察するようには頷いて見せた。
「更木は、確かに戦闘に固執しているけど、だからこそ信用は置けると思う。助かればまた一護と戦いたがると思うの」
「なるほど・・・逆に一護が捕らわれたり、殺されたりすれば再戦は叶わぬ。じゃから、そうさせぬため、上手くすればこちらの手助けをしてくれるかもしれんということじゃな?」
「そういうこと・・・」
の肯定の言葉に夜一の表情に笑みが浮かんだ。
「解った。それならば、そちらはお前に任せる。頼んだぞ・・・」
「うん。任せておいて。それじゃあ、また」
「ああ・・・また」
お互いにそう言って再会の約束を交わすと、すぐさまは更木とやちるの霊圧をおってその場を後にした。
残された夜一は暫しその姿を見送った後、一護を助ける準備に取り掛かったのだった。
が一護と更木の戦闘後の現場に到着し、夜一との再会を果たすよりも前。
捺芽は八番隊副隊長の七緒が倒れている茶渡に止めをさそうとしている場面に出くわし、すぐさま間に入り七緒の手を掴んでそれを止めていた。
「・・・何をしている?」
茶渡に止めをさそうとした七緒を睨みつけ、怒りの篭った声でそう告げる捺芽に、七緒は恐怖を感じ取りびくっと身体を震わせた。
「あ、あなたは・・・」
「君、確かちゃんの所の燈空くんじゃない」
京楽に名前を呼ばれて反射的に彼まで睨みつけてしまった捺芽だが、ここまで至ってよく考えてみれば、少し自分の取った行動は失敗したかとも思っていた。
「どうも。京楽八番隊長」
「こちらこそどうも。ところでそろそろ七緒ちゃんの手、放してあげてくれないかな?」
そう言われてすぐに捺芽は七緒の手を放し、そしてちらりと倒れている茶渡の方を見て死んでいない事を確認してほっとした。
「・・・燈空四席、どういうことか説明願えますか?あなたの取った行動は明らかに旅禍を庇う行為と思われますが」
七緒からその指摘を受け、捺芽はやはり失敗したと内心思った。
茶渡を助けるにしても他に幾らでもやりようはあった。
ただ、目の前で殺されようとしているのを見て、頭に血が上ってしまったためにあのような軽率な行動を取ったのだ。
内心、捺芽はに謝罪していた。
「ん〜、そっちも気になるけど・・・とりあえず七緒ちゃん」
どう答えようかと捺芽が考えていると、まるでえ助け舟でも出すかのようなタイミングで京楽が七緒に話しかけた。
「はい?なんでしょうか?」
「女の子があんな事するもんじゃないよ」
京楽のその言葉に七緒だけでなく、捺芽までもが呆然と驚いた。
「燈空くんが止めなきゃ、ボクが止めてたところだしね」
「なっ・・しかし・・・!藍染隊長を殺したのもおそらくこの旅禍の一味・・・」
「・・・うんそうだね。でも・・・そうじゃないかもしれない」
「その通りです」
2人の会話を聞いていた捺芽は、七緒が旅禍達が藍染を殺した犯人ではないかと言った事に不快を感じながら、2人の話に割って入った。
「燈空くん?」
「藍染五番隊長が殺されたのは東大聖壁。なのに、その犯人がこの辺りをまだうろついているのはおかしくないですか?」
「それは・・・・・」
「なるほど・・・確かにそうだね・・・」
捺芽の言葉に呆然として聞いている七緒に対し、京楽は苦笑して納得して見せた。
「た、隊長?!」
「確かに燈空くんの言う通りだね。彼らの目的が本当にルキアちゃんを助ける事なら・・・こんなところに未だいるのはおかしいし、そんな敵を挑発して動きにくくするようなことはしないだろうね・・・」
捺芽は京楽の言葉に一瞬、どこで旅禍達の目的を知ったのだろうかと思ったが、茶渡の性格を思い出しおそらく彼から聞いたのだろうということを察した。
そしてもう1つ、先ほどの口調からして、京楽がどちらかというと旅禍に対して、まだ好意的なほうなのではないかということも察していた。
「まあ、他にも燈空くん・・・というよりも、ちゃんは色々と知ってそうだけど」
京楽のその言葉に捺芽はなかなかに食えない相手だと内心考えていた。
そして仲間に引きずり込んだら頼りになるかもしれないということも。
「それはまあ・・・今の所は・・・」
「内緒か・・・まあ、それでも良いけどね。君達は基本的には悪い子じゃなさそうだし。・・・七緒ちゃん」
「は、はい・・・?」
京楽の甘い態度に少し不満を感じていた七緒だが、京楽に声をかけられてはっとした。
「そういうわけで、無闇に殺す必要はないでしょ。救護隊を呼んでどこかの牢へ入れといてもらおう」
「・・・他の者達にしてみれば、彼らを犯人の第一容疑者に上げている。だから、事情聴取のために殺すべきじゃないと考える・・・・・そういうことですね?」
「そういうこと・・・わかるね」
「・・・了解しました。ただちに手配致します。差し出がましい真似をして申し訳ありませんでした」
頭を下げて救護対を呼ぶために七緒がその場を離れ、捺芽と2人だけになってから京楽はぽつりと呟いた。
「・・・ふう・・・面倒なことになってきたねえ・・・どうも」
「・・・・・そうですね」
「・・君達はその原因はもう突き止めてるんじゃないの?」
「・・・さあ、どうでしょう」
京楽の冗談めいた口調、しかし本気で尋ねてきている察しのつくその言葉に、捺芽も冗談めいたような口調でそう返した。
本当になかなかに食えない相手だと感じながら。
少し帰りの遅いを気にかけながら、時雨が十三隊の詰め所の廊下を歩いていると、目の前に奇妙なものを発見した。
それは真正面から見れば、まるで足の生えた書類の山だった。
少し呆然としていた時雨だったが、すぐさまその正体を察して声をかけた。
「あの〜、日番谷十番隊長ですか?」
「あっ?その声は羽鳴か?」
時雨の予想は正解していたようで、その体格からは無茶なくらいの書類の山を日番谷は1度に運ぼうとしていた。
そして暫く無言でそれを観察していた時雨が思ったことを口にした。
「・・・絶対、途中でこけるかして崩れて大変ですよ」
「五月蝿い!」
言われたくないと思っていた事をあっさり時雨に突っ込まれ、日番谷は思わず声を上げていた。
そしてそのまま時雨を無視し、かなり無茶だが早足でその場を去ろうとする。
しかし今にも書類が崩れてしまいそうなその光景に、時雨は軽く溜息をつくと日番谷にすぐに追いつき、日番谷の抱える書類の束から半分以上を奪った。
「あっ・・・」
「持ちます。さすがに見てみぬふりは出来ませんから」
「あ、ああ・・・ありが・・・・・」
「他の人なら平気で見捨てるんですが・・・・・将来隊長の旦那様になる方かもしれませんしねぇ」
「だっ・・・!?」
時雨の言った一言に反応し、日番谷は思わず立ち止まって顔を真っ赤にする。
時雨はその日番谷の様子に満足そうに微笑むと、そのまま歩いて先を行く。
はっとした日番谷は楽しげな時雨の後を急いで追った。
「お前・・・なんって事いうんだよ!」
「え?だって、そうじゃないですか?」
「あのなぁ・・・」
「だって昨晩、十番隊舎にお泊りになったんでしょう?隊長」
誰にもばれていないと思っていた事がばれていた事実に、日番谷は一瞬頭の中が真っ白になってしまった。
「・・・お前、それどうして、知って・・・」
「えっ?だって、うちの隊長が直接話してくださいましたよ」
時雨のその言葉に日番谷は今度は表情が引き攣った。
それと同時にやはりの感覚はどうなっているんだとも思っていた。
そんな日番谷をじっと見ていた時雨は残念そうな溜息をついた。
「その様子じゃ・・・何もなかったみたいですね」
「何も、って何がだよ?っていうか、なんでそんなに残念そうなんだよ?」
「そりゃあ・・・放送禁」
「もういい・・・皆まで言うな」
時雨の言おうとした事にすぐに察しがつき、日番谷は彼が全てを言い終える前にそれを止め脱力した。
その後も、やはり時雨が余計な勘繰りをいれつつ、日番谷がそれをなんとかかわしつつ歩いていると、2人はようやく目的地である十番隊隊舎に到着した。
「あ、つきましたね」
「そうだな・・・」
少し残念そうな時雨に対し、これで助かったというように日番谷は溜息をついた。
そうして2人が隊舎前で立ち尽くしていると、中から松本がひょっこり顔を出した。
「隊長・・・に、零番の羽鳴じゃない」
「ああ、松本。ちょうど良かった。はい、これ・・・」
時雨はにっこり笑い、何の説明もなく時雨は強制的に持っていた書類の山を全て松本に押し付ける。
事態の理解できない松本が日番谷を見ると、日番谷は溜息をついて松本に説明する。
「五番隊の引継ぎ業務だ。運んでる途中でこいつに会って、手伝ってもらった」
「はあ・・・それにしても、随分な量ですね」
「そりゃあ、全部引き受けてきたからな」
「そうで・・・」
日番谷の言葉に納得しかけて返事をしかけた松本だが、すぐに目を見開いて驚いた表情になる。
「全部?!」
「そうだよ・・・」
「何考えてるんですか?!大変ですよ!」
「・・・解ってるよ。良いから、さっさと持って入って、自分の分を取り掛かれ・・・」
「・・・後で何か奢ってもらいますからね」
悪態をつきつつも松本は日番谷の言葉に従い、時雨から受け取った書類を持って中に入っていった。
そしてそれを見届けた後、日番谷は時雨に向き直って声をかける。
「それじゃあ、悪かったな。手伝ってもらって」
「いえ、いえ別に。俺としてはさっさと隊長とくっついてもらえば良いだけですから」
「・・・・・・・・・・・」
時雨の少し冗談じみているとも取れる言葉に、顔を引き攣らせながら「隊長・副隊長揃ってどういう思考回路してるんだ」と日番谷は内心思っていた。
「じゃ、じゃあな・・・」
「あっ、日番谷十番隊長・・・」
時雨の言葉を無視してさっさと中に入ろうとした時、後ろから声をかけてきた時雨に日番谷は反射的に振り返った。
「・・・なんだ?」
振り返った以上仕方がないと尋ねる日番谷に、時雨はにっこりと微笑み、そしてお辞儀をして神妙な口調で言った。
「隊長を・・・・・いえ、姫様をよろしくお願いします」
そう告げると顔を上げてもう1度微笑むと、そのまま踵を返してその場を去っていた。
「・・・姫様って・・・誰が?」
後には時雨の残した謎の言葉に、呆然と立ち尽くす日番谷だけがその場に残されていた。
あとがき
やっと夜一さんと主人公再会です。
夜一さんと話している時主人公の口調が変わってましたが、あっちが元々の口調だったりします。
今となっては特に大切に思っている相手にしか使いませんが。
京楽さんはなかなかの切れ者だと思っておりますので、今回あんな事になりました。
多分京楽さん相性的には零番隊と良いと思います;(勝手に)
そして今回も指摘に時雨は色々とやらかしてくれました;
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