ドリーム小説
蒼紅華楽 十六




「今回私が吐血した件・・・お前ももう気づいていると思うが・・・・・間違いなく奴だ」
「・・・やはりそうですか」
神妙な面持ちで告げるに、時雨も少し顔を蒼くさせながら返事をした。
「・・・奴の狙いはおおよそ見当はつくが・・・とりあえず今は保留だ」
「えっ・・ですが・・・」
「今回のことはともかく、そうすぐには次を仕掛けてこないだろう。それよりも、今は処刑と藍染のことだ」
時雨としてはどうしてもあの事は気がかりではあったが、自身がそういう結論を出した以上はそのことについてはこれ以上何も言わないことにして口を塞いだ。
「そちらの方が急を要する。とりあえず、夜姉や十一番隊の連中と連絡を1度とっておけ」
「解りました」
「・・・さすがに私もまだ本調子ではないようだからな。すまないが暫く寝る・・・その間の指揮は、頼んだぞ」
「はい。承知いたしました」
時雨からの忠実な返答を聞くとはそれ以上なにも言わず、予告の通りそのまますぐ眠りついた。
そしてその寝顔を暫く見届けた後、時雨はに一礼して部屋から退室していった。












共同執務室にやってきた時雨を出迎えたのは、当然というような他隊員達からの激しい質問攻めだった。
「時雨副隊長!」
隊長どうでしたか?!」
「まだご気分が優れないようですか?」
心底心配しているというのがはっきりと解る隊員達に、時雨はすでに何時もの調子を取り戻した様子で話しかけた。
「ああ、大丈夫だ。ただ、まだ少し本調子ではないから、少しの間眠られるそうだ」
「・・・良かった〜〜」
「ホント・・・話聞いた時は、俺達心臓止まる思いでしたよ」
時雨の言葉に安堵する一同は気が抜けたのか全員その場に座り込んでいた。
「ま、お前達の気持ちは良く解る。・・・でも、良い事もあったぞ」
「・・・良い事?」
「隊長と、日番谷十番隊長がくっついた」
時雨の満面の笑みを浮かべての言葉に対し、一瞬きょとんとした後すぐさま一同から歓声が上がっていた。
「本当ですか?!」
「それが本当なら、今夜は隊長を囲んでお祝いですね」
「祭りだ、祭りだ〜〜!」
浮かれて騒ぎまくるその光景はもうすでに何時もの零番隊の雰囲気そのものだった。
しかしその雰囲気に少し残念そうに、時雨が水をさした。
「そうしたいのは山々なんだが・・・今の現状考えると難しいだろうな」
「・・・まあ、確かに」
時雨のその言葉に素直に納得したが、心底残念そうな言葉が上がった。
しかしそのすぐ後に時雨が満面の笑みでそれをフォローした。
「まあ、この件が終われば大丈夫だろう。そうすれば、どれだけ騒ごうが・・・それこそ表の十三隊の連中に迷惑掛け捲って騒いでも問題全くなしだからな」
その時雨の言葉に一同の間でまた歓声が上がった。
しかし、今のこの時雨の言葉は十三隊の者達が聞いたら、確実に迷惑で発狂するような内容なのは確実だ。
「そういうわけで・・さっさと今回の件を片付けるぞ」
「「はい!」」
時雨の言葉に隊員達は当然意気揚々と言った様子で返事をした。
「とりあえず、隊長がお休みになられている間、俺が全権任されてるから・・・何か変わったことはなかったか?」
「いえ、特に・・・あっ」
特になかったと言おうとした牡丹が、何やら思い出したかのように小さく声を上げた。
そして冷汗を流しながら少し言いづらそうに衝撃的なことを告げた。
「そういえば、ルキア嬢の処刑・・・・・明日の正午に日程変更になったそうです」
牡丹のその一言に一同の空気が固まった。
「・・・それを早く言え」
「すいません・・・隊長のことですっかり忘れてました・・・」
牡丹の告げた内容はとても重要なことですぐに報告が必要だが、確かにが倒れて隊全体が混乱した最中では無理もあるかと、時雨はそれ以上牡丹を責めることは止めた。
「まあ、仕方がない。今からでも対処の取りようは幾らでもあるからな。・・・とりあえず湖帆、夜一様と一護殿に報告しに行ってくれ」
「解りました」
「場所はわかるな?」
「夜一様の霊圧を辿れば、なんとか可能です」
「よし、では任せた」
時雨の言葉にこくりと静かに頷くと、湖帆は一護と夜一の下へと向かうべく室内を後にした。
それを見送った後、時雨は隊員達を見渡してから一言告げた。
「さてと、俺達も隊長が起きられるまで、色々頑張るか」
その言葉に一同はただ笑ってこくりと頷いていた。













湖帆が時雨からの指令を受けて一護と夜一の下に向かっている丁度その頃、2人のいる双極の丘下の地下では一護と夜一が現れた意外な人物に驚いていた。
「恋次・・・!!」
「“なんでてめえがこんな所に?”そう言いたげなツラしてるな」
突然現れた阿散井の的確な言葉に、一護は無言のままそれを肯定した。
もっともそれは当然の反応とも言えるが、それを特に気にした様子もなく阿散井は言葉を続けた。
「なに大した理由じゃねえ。ちょっと時間がなくなっちまってな。俺も集中して鍛錬する場所が欲しかっただけだ」
「時間が・・なくなった?・・・どういうイミだよ?」
一護のその言葉に阿散井の様子が一気に神妙なものに変わった。
「・・・そうだな。・・てめえには教えてといてやる。ルキアの処刑時刻が変更になった」
「・・・・・なんだと?」
「新しい処刑時刻は―――」
「明日の正午です」
阿散井が言おうとした台詞は遮られ、別の誰かが変わりにそれを告げた。
そしてその声とその声の主の放つ霊圧に反応し、3人が一斉にそちらを振り向くと、そこには湖帆が何時の間にか堂々と立っていた。
「なっ・・・誰だ?!」
「・・・お前は、零番隊の」
「湖帆ではないか」
驚いて身構える一護と阿散井に対し、夜一だけは見知った人物の登場に落ち着いていた。
そして湖帆は冷静で丁寧に夜一に挨拶をする。
「ご無事で何よりです、夜一様」
その夜一の反応に一護と阿散井は当然驚く。
「えっ?夜一さん知り合い・・?っていうか、今恋次が零番って言ったような・・・」
「おいっ、一体どうなってやがるんだ?」
そんな驚く2人に対しても湖帆は至って静かに口を開く。
「一護殿ですね?初めまして、零番隊第八席の春日湖帆と申します。以後お見知りおきを。それから・・・・・こんな所にいたのか、脱走六番隊副隊長」
「んなっ?!」
明らかに夜一や一護に対してとは扱いの違う、それもある意味物凄く酷い扱い方で阿散井は気に障った。
「うるせーよ!大体、なんで零番がこんなところにいるんだ?!しかも、なんでこいつらにそんな丁寧な態度なんだよ」
「当然だろう。夜一様は隊長の義姉上様兼師であられる方であり、一護殿は隊長の弟弟子殿なのだからな」
湖帆が告げたその説明に今度は阿散井は衝撃のあまり声も出すことが出来なかった。
そしてさらん夜一の言葉が追い討ちをかける。
「儂等が瀞霊廷に入った時から、零番隊はの命令でずっと我等を支援してくれておるのだ」
その種明かしに阿散井は最早開いた口が塞がらない状態だった。
それも無理はないことだろう。
全員が隊長格以上の実力を持ち、隊長であるに関しては十三隊の隊長が束になったよりも強く、総隊長以上の権力を持つ。
そんな化け物集団と謡われる零番隊が、実は最初から敵も同然だったと解れば少なからずショックがある。
「安心しろ。どうやらお前も夜一様達の味方に回ったようだからな。危害を加えるつもりはない」
しかしそれは逆に言えば、味方に回っていなければ今すぐにでも危害を加えるという意味にも取れ、阿散井の背筋に一瞬冷たいものが走っていた。
そんな阿散井の様子は見事に無視し、夜一は湖帆に真剣な様子で尋ねる。
「・・・しかし、湖帆。先程の話は本当か・・・?」
「はい。処刑時刻の最終決定は、明日の正午で間違いないです」
その湖帆の変わらぬ言葉に、夜一の表情がみるみる沈痛なものに変わっていた。
「・・・それではとても卍解なぞ・・」
夜一が全て言い終える前に、まるでそれを否定し遮るように、何かが激しく砕けたような音がした。
音の方を見てみると、一護が手にしていた刀を粉々に砕いていた。
「・・・そんなんでいいのかよ、夜一さん・・・この修行あんたから誘ったんじゃねえかよ・・・だったら、あんたから諦めてんじゃねえよ・・・」
「じゃが一護・・・!明日までに卍解が完成せねば・・・」
「言ったろ。出来なかった時のことは聞かねえ。期限が明日になったてんなら・・・」
そこで1度言葉を切ると一護はすでに粉々に砕いていた刀を素手でさらに砕いて、更に勢いをつけて叫んでいた。
「今日中に片付けりゃいいだけの話だ!!」
「その通りです」
そして一護のこの言葉に湖帆ははっきりと同意していた。
「夜一様、申し訳ありませんが・・・この度の件は一護殿の仰るとおりです。現在大事をとってお休みされている隊長も、同じような事を仰るでしょう」
「・・・・・大事?」
湖帆の言葉に確かにと納得していた夜一だが、最後に湖帆が告げた言葉にさっと顔色が変わる。
「それは・・・に何かあったということか?!」
「はい・・・」
完全にうろたえている夜一に、湖帆は隠すでもなく正直に返事をした。
「どんな状態なのだ?!すぐに様子を見に・・」
「それはいけません」
心配で今すぐにもの所に行きそうな勢いの夜一に対し、湖帆はきっぱりと告げた。
それに対して当然夜一は当然反論した。
「何故だ?!」
「隊長ならそう仰るからです。隊長なら、自分の事を見舞うよりも、夜一様がご自身の目的を遂げられる事を望まれるでしょうから・・・」
湖帆のそのもっともな言葉に、さすがに夜一も言葉を失った。
「・・・大丈夫です。時雨副隊長のお話では、もうほとんど大丈夫なようです。今は少し眠られているだけとの事ですから・・・」
「そう、か・・・」
夜一はまだ少し納得できなかったが、それでも湖帆の言葉を信じて無理やり自分を納得させようとしていた。
「一護殿の卍解修行、差し支えなければ私もお手伝いします。もっとも、もしどうしても駄目なようでしたら、我々零番だけで朽木を助けますが・・・」
「そんな必要ねえよ!俺は絶対、明日までに卍解を習得してやる!!」
「解りました」
一護のはっきりとしたその一言に、湖帆は機嫌の良い笑みを浮かべて返答した。
「それでは・・・せめて隊長がお目覚めになるまで、お付き合いさせていただきましょう」
そう告げる湖帆の言葉を聞き、一護は身構え、夜一は溜息をついて覚悟を決めたようだった。












湖帆が一護、夜一、(と阿散井)に接触している頃、十一番隊隊首室では不穏な空気が流れていた。
その不穏な空気を流している人物は物凄い満面の笑みで、その隣にいる人物はその空気に直にさらされている目の前にいる人物達を哀れに思いながら苦笑していた。
「まあ、そういうわけで・・・そろそろ動いていただいてよろしいでしょうか?」
「・・・動かないわけにはいかないような空気出してよくいうよ」
「・・・何か言ったか?」
時雨の言葉に一角がぼそりと突っ込んだが、その一言をしっかりと聞いていた地獄耳の時雨は笑顔のまま威圧していた。
「別に俺達の方は問題ねえが」
「そうですか。それではとりあえず、捕まっている茶渡と岩鷲を助けてもらいましょうか」
「茶渡くんたち、大丈夫なんですか?」
心底心配そうな織姫の言葉に、時雨の横にいた琥珀はこくりと頷いた。
「それは大丈夫です。入れられているのは、四番隊の救護牢ですから・・・」
「卯の花四番隊長は厳しいところは厳しいけど、比較的融通の利く方だと思うしな」
「そこは隊長も認めてましたよね」
うんうんと頷きあう時雨と捺芽を見て、織姫と雨竜の2人は無事だという確信を持って安堵した。
「で、助け方なんですが・・・更木十一番隊長のお好きなようになさってくださって構いません」
「そいつは・・・暴れても良いって事か?」
「「えっ?」」
「はい。寧ろ思う存分やってください」
「「えええぇっ?!!」」
更木の言葉に小さく声を漏らして一瞬固まった織姫と雨竜だったが、さすがに次に時雨があっさりと言った言葉にはまともに驚いて叫んでいた。
それ以外の面々はというと、やっぱりなというような表情をしていた。
ただしやちるのみはとても楽しそうである。
「あ、あの・・・もっと穏便な方法は」
「ない」
「ないこともないと思いますが・・1番手っ取り早いといったら・・・まあ・・」
「面倒くせえ」
雨竜の反論は時雨、琥珀、更木の順に言われた言葉によってあっさりと却下された。
というよりも、琥珀以外の2人の返答はかなりいい加減にも思われる。
その事実に雨竜はなんだか頭が痛くなってきていた。
やちる以外の十一番隊の面々は最早完全に諦めている様子だった。
「まあ、今度のが最後になりそうですし・・・俺達の中からも同行者出しますよ」
「・・・あちらも何か仕掛けてくる可能性はありますしね」
「それなんだけど・・・本当に藍染隊長が生きているんですか?」
弓親の神妙な言葉に全員が反応してそちらを振り向いた。
「ああ・・間違いなく」
「隊長が霊圧を探られたから・・・間違いありませんよね」
2人のはっきりとした言葉に、場の空気ががらりと重たいものに変わっていった。
「四十六室が全滅してた、か・・・・・なんか、とんでもねえ話になってきたな・・・」
「これじゃあもうどっちが正しいかって感じだね・・・」
「・・・・・正しい、なんて最初からないさ」
弓親の言葉に、時雨が真剣な表情でぼそっと呟いた。
「・・・時雨さん?」
「正しいも悪いもない・・・寧ろ自分の正しさを他人に押し付けるやり方の方が気分が悪い・・・」
時雨の尋常ならないその様子に、その場にいた全員がぞくっと背筋に冷たいものを感じた。
「ふ、副隊長・・・」
恐る恐る琥珀が声をかけると、先程までの雰囲気が嘘のように何時もの調子に戻った時雨はにっこりと笑っていた。
「って、隊長なら仰ると思うけどな」
あはははっっと笑ってみせる時雨だったが、その場にいたほとんどのもには、先程の時雨が自分の意思を持って本気で言っていたのだということが解った。
「ま、とりあえず・・・一先ずは全力で朽木の処刑阻止する、ということで」
笑ってそう告げる時雨に、全員は先程の時雨の威圧感から、ただ黙って同意し頷くことしかできなかった。













ついにルキアの処刑当日となったその日、瀞霊廷内いるの多くの者達がそれぞれの思惑を巡らせて動く中、零番隊隊舎の離邸でもまた、自分の思いを巡らせて動き出すべく起き上がり仕度を整えている者がいた。
「さて、行くか・・・」
誰もいない空間にただ1人そう呟いて己の斬魄刀と羽織を身に着けると、無事完全回復を果たしたは静かに部屋を後にし隊員達の下に向かった。













あとがき

今回本当に短くて申し訳ありません;
結構どう書こうか悩んだのが今回だったりします。
始まりと終わりは最初から決まっていたんですけどね・・・・・
でも私的には今まで1番目立たなかった湖帆の出番をまともにかけて良かったです。
後は霧生ですかね・・・
彼は琥珀とセットでないとまともに出てこれてませんし・・・
なんとか全員にまともな活躍の場を与えたいです。
次回は主人公完全復活でお届けします;(意味不明)
ちなみに、夜一さんと浦原さんは義妹である主人公を溺愛しているということだけ、今回追記しておきます。





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