ドリーム小説
蒼紅華楽 十七
「・・・おはよう」
共同執務室の扉を開けて出たの第一声に、その場にいた隊員達一同は振り返ると一斉に表情を明るくさせ、そして我先にと飛ぶついていった。
「たいっちょーー!」
「もう起きられても大丈夫なんですか?!」
「心配したっすよー!」
「・・・重い、熱い、離れろ」
自分に引っ付いて騒ぎまくる隊員達に、は何時か言ったのと全く同じ台詞を告げた。
しかしそれはが本当に回復した証拠だと隊員達は瞬時に悟り、ほっと胸を撫で下ろすとまだ引っ付いていた気持ちを抑え、に従って離れた。
「おはようございます、隊長。お身体の具合は本当にもう大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。私が休んでいる間、ご苦労だったな、時雨」
「いえ、隊長の御為とあれば幾らでも」
そう言ってにっこりと微笑む時雨に、目配せで礼を告げるとはいつもの自分の席に着いた。
「で、何か動きはあったか?」
「はい・・・朽木の処刑が早まりました」
「・・・・・日程は?」
「今日の正午です」
時雨からそう報告を受けたは、別段慌てる様子もなく、冷静に時計に目をやって時刻を確認し、そして軽く溜息をついた。
「ここまでくれば、もう裏で静かに動く・・・というのは無理そうだな」
「はい。そのつもりで、更木十一番隊長に、派手に動いていただくように頼んでおきました」
そう言って微笑む時雨の表情は、さすがにに向けているだけあって白かった。
しかし十一番隊に一緒に頼みにいった琥珀だけは知っていた。
その時の時雨の頼み方は今とは逆にあまりにも黒い笑みで、しかも出てる雰囲気は問答無用だったということを。
更木ややちるなどは特に気にしてない、というよりもむしろ気づいていないようだったが、他の十一番隊の面々や雨竜は顔がかなり引き攣っていた。
特に何故か一緒にいた荒巻などは、顔が引き攣るどころか、恐怖で今にもその場から逃げ出したいように見えた。
実際逃げ出したかったことだろう。
「多分、そろそろ動くと思いますが」
「そうか・・・」
時雨の言葉を聞いて何やらが考え込んでいると、部屋の扉が開いて今までこの場に唯一不在だった人物が帰ってきた。
「副隊長、今戻り・・・・・・・隊長!」
「湖帆」
時雨に挨拶を仕掛けた湖帆だったが、に気づくと驚いた声を上げ、すぐさま足早に傍に近づいてきた。
「ご心配しておりました、大丈夫ですか?起きられても平気なのですか?」
「ああ、大丈夫だ。皆には心配をかけてすまなかったな」
のその言葉を聞くと湖帆は普段からは見せないような笑顔を浮かべ、心の底からほっとしている様子だった。
「で、湖帆。お前は今までどこに行っていたのだ」
「あ、はい・・・時雨副隊長のご命令で夜一様と一護殿の下に、朽木の処刑日程が変更になったのをお伝えにいっておりました」
「夜姉と、一護のところに?」
「はい・・・ついでにどこかの脱走六番隊副隊長もいましたけど」
「はぁ?!阿散井が?」
湖帆から上がった意外な人物の名前に、驚く一同の心情を代表するかのように氷室が声を上げた。
そしてはすぐさま一護達の霊圧を辿り、3人の現在地を確認する。
「・・・夜姉達がいるのは以前夜姉ときー兄が話してくれた、双極の丘の地下か」
「はい・・・」
「確かにあそこは聞いた限りでは修行には最適だろうが・・・・・よくも阿散井の奴は見つけられたものだ」
「脱走3人組の中で、あいつだけどこにいったものかと思ってましたけど・・・・・まさかそんな所にいたとは」
今の今まで1人だけ行方不明ということになっていた阿散井の行動を、素直に感心しながら時雨は軽く溜息をついた。
「あいつもどうやら朽木を助ける側に回ったようです。それで、一護殿と共に卍解の修行をしていました」
「・・・なるほど。一護は夜姉の言葉からおおよそ予想はしていたが、阿散井も卍解にいけるくらいの実力はあったか・・」
「私も、少々一護殿の修行のお手伝いをしていましたので、このような時に帰還が遅くなって申し訳ありません」
「いや、逆にこのような時だからこそ、よく手伝ってやってくれた」
がそう感謝の言葉を口にすると、湖帆は心底嬉しそうな表情で笑っていた。
これもあまり普段からは見られないようものなので、他の隊員達からは「二度目だ」などとの物珍しげな声が上がっていた。
「で、2人の卍解のできはどうなのだ?」
の質問に湖帆ははっと我に返って答えを返す。
「阿散井は無事習得したようです。一護殿は、まだのようでしたが、夜一様のお話ではもう少しで大丈夫とのことでしたので戻ってまいりました」
「そうか・・・なら、こちらも早急に動くとしようか」
ついにの口から出たその一言に、隊員達全員の口角が吊り上った。
「氷室と牡丹は更木達の手伝いに行け。捺芽は牢に入れられている花太郎の解放。湖帆は阿散井を探して動向を見ていろ。あいつに関しては助けるのは本当に危なくなってからで良いだろう・・・」
「解りました」
「琥珀と霧生は私と一緒に来い・・・それから、時雨と久遠は・・・・・・」
処刑当日の朝。
処刑当日とはいえまだ早朝といって良いその時刻では、静けさで朝鳥の鳴き声程度しか聞こえてこないはずにもかかわらず、遠くから徐々に近づいてくる不審で物凄い勢いのその音に、その日掃除当番となっていた十一番隊の平隊員2人は、振り返ってそれを確認した瞬間顔を引き攣らせて叫び声をあげることになった。
「お早うございます、更木隊長ーーー!!」
引き攣るどころか涙を流しながらそう言った2人が、下手な言い訳をしているのを無視したのか、まるで2人の存在に気づいていなかったのか、更木はそのままの勢いでそこを通過していった。
その後姿を呆然と眺める2人に対し、後から続いた人物達がまるで代わりのように声をかけた。
「サボんならもっとバレねーようにやれ。ボケ」
「チリ一つでも残したら殺すよ」
「ではでは諸君!おつとめ頑張ってくれたまえ!」
「あーー・・・失礼します・・・」
そう言って更に通過していった人物達を呆然と眺めながら2人は呟いた。
「・・・なんで荒巻のヤロウが隊長に随伴してやがんだ・・・?」
「つうか・・・今隊長の背中に2人乗ってなかったか・・・?おまけに、最後の1人・・・誰だ?」
平隊員2人が呆然とそんな会話を交わしていることなど知らず、やちると織姫を肩に乗せた更木と、その後に続く形の一角、弓親、荒巻、雨竜は何かをひたすら走り続けていた。
「・・・で?次はどっちの方角だ?女」
「・・・えーーっと・・・多分こっ・・・」
「あっちだよ!!」
更木に尋ねられて織姫が方角を指差そうとした瞬間、笑顔のやちるがそれを織姫に頭突きをしてそれを無理やり止めて反対の方向を指差した。
その光景を目の当たりにして、走りながらも顔を引き攣らせる後ろの4人。
「いたあ!ひどいよやちるちゃん、なにするの!!」
「ねーー!!剣ちゃんもこっちだと思うもんねーー!」
「・・・・・・」
織姫の抗議の言葉にも全く耳を貸さず、楽しそうにやちるは更木に声をかけるが、当の更木は自分の背中の上で展開されている事態に声も出ない様子だった。
「織姫ちゃんに任せた方がいいんじゃないスか?副隊長、探査能力に関しちゃむのうもいいとこなんだし」
「うるさいぱちんこ玉!」
一角が思わずさらりと口に出した言葉に対し、怒ったやちるが容赦なくその頭に唾を飛ばし、その行為にきれかけた一角が刀を抜こうとした。
その光景を雨竜と荒巻はやはり引き攣った表情で眺め、弓親が一角をなんとかなだめていたその時だった。
「・・・何、仲間割れみたいなことしてるんだ?」
突然聞こえてきた声に一同が思わず立ち止まり、声のした方向を見てみると、そこには少し呆れた表情の氷室と、面白そうに笑っている牡丹が立っていた。
「零番の常盤三席に、東雲五席!」
「ちっ、おせーぞ。助っ人ってのは、てめーらか?」
「そういうことになりました」
その氷室の言葉を合図にするように、2人は更木達の目の前に移動してある方向に指をさした。
「茶渡と岩鷲が捕まっている四番隊の救護牢はこっちですよ」
「私達にしっかりついてきてくださいね」
そう言ってすぐに走り出した2人はとても楽しげだった。
何故そんなにたのしそうなのだろうかと雨竜は顔を引き攣らせながら少しある意味で不安になっていた。
一方で一角と弓親の2人は、氷室と牡丹の2人の続きながら向かっているその方角を確認しながら、「やはり副隊長のは外れていたな・・」と内心思っていた。
そして暫く走っていると、氷室と牡丹の言っていた通りちゃんと四番隊の救護牢に到着した。
「とっつげき〜〜!」
物凄く楽しそうな氷室と牡丹を見ながら、やはり不安になってきた雨竜の予想は的中していた。
四番隊に突入した瞬間、詰めていた四番隊員達は心底驚いたぎょっとした目でこちらを見ていた。
その中を走り回っているだけにも関わらず、寧ろそれ自体が暴れまわるという表現に当てはまっているようだった。
実際走り回っているだけにも関わらず四番隊員の間からは悲鳴が上がっていたがそれも無理はない。
楽しそうな先頭の2人と、特に気にした様子もない十一番隊の面々と織姫に対し、雨竜だけこの状況に酷く頭痛がしてきていた。
そして暫く走り回った後に、ある場所で氷室と牡丹は足を止めた。
自然に後続の面々も足を止める。
「お、ここだ。ここだ」
「ここですね」
そう言って顔を見合わせた2人は、くるりと振り返って更木ににっこりと笑っていった。
「更木十一番隊長。ここの床、思いっきりぶち抜いてください」
「あっ?床を?」
「はい。この下ですので」
2人のその言葉を聞いて更木は理解したのかにやりと笑うと、はっとした雨竜が止めるが一足が遅かったためそのままその床をぶち抜いていた。
そしてぶち抜かれた足場と共に一同はそのまま下に落ち、見事着地した場所でいきなり派手な悲鳴を耳にすることとなった。
「ざーーーざざざざざざざざ更木剣八!!十一番隊長!!と・・・」
恐怖のあまり顔を引き攣らせた状態で叫んだ岩鷲は、他の人間の気配に気づいて別の方向に目をやると、更に見知った顔に今度は引き攣ったのとは違うまともに驚いた顔を見せた。
「あーー!てめーあん時の変態オカッパナルシスト!!」
そしてその言葉に今度は怒りで顔を引き攣らせたのは弓親の方だった。
「・・・どちら様かな?悪いが僕は醜い顔は憶えられない体質でね」
どんな体質だよ、と雨竜が内心突っ込みを入れる中、弓親の発言に岩鷲がどこか抜けた言い返し方をしていると、雨竜の存在に気づいた茶渡が声を上げた。
「石田!無事だったのか?」
「茶渡くん!」
岩鷲のオーバーリアクションの数々に気を取られていた雨竜は、ようやく茶渡も一緒にいた事に気づき驚きの声を上げた。
するとその時、更木の後ろからひょっこりと織姫が顔を出した。
「茶渡くん、岩鷲くん!!2人とも無事だったんだね!よかった!!」
「井上!お前も一緒だったのか?」
「うん!私は十一番隊、石田君は零番隊の人に助けられて、今までずっと十一番隊で匿ってもらってたの」
「零番隊・・・というと、確か捺芽さんの・・」
「ああ、そうか。確か最初に瀞霊廷に突入した時、お前の担当は捺芽だったな」
茶渡の言葉を聞いてぽんっと手を打った氷室が彼の前に進み出た。
そしてそれに習うかのように牡丹も前に進み出る。
「あんた達は・・・?」
「初めましてだな。零番隊第三席及び副官補佐の常盤氷室だ」
「同じく零番隊の第五席・東雲牡丹です。以後お見知りおきを」
そう言って自己紹介をする2人の零番隊という言葉に、茶渡が少し安堵して力を抜いたような気がした。
そんな茶渡の様子を見た2人は、捺芽が上手い事やっていたという事を確信して笑いあった。
「さてっと・・・それじゃあ、何時までもこんな所にいないで、さっさと出て双極に向かうとするか」
「では、捕らわれだったお2人はこれに着替えてくださいませ」
そう言って牡丹が取り出したのは、茶渡と岩鷲のサイズにきっちり合わせた死覇装だった。
「・・・どこに持ってたんっスか?」
どこからともなく、しかし当たり前のように取り出した牡丹に対し、氷室を除いて呆然とする一同の心情を代表するかのように一角が1人突っ込みを入れていた。
氷室と牡丹が織姫、雨竜、十一番隊の面々と合流していた頃、は十三隊の隊舎の廊下を琥珀と霧生を伴って歩いていた。
黙々と歩いてある場所に向かっているらしいに、琥珀は不思議そうに少し遠慮しながら尋ねた。
「・・・隊長、お聞きして良いですか?」
「なんだ?」
「双極の丘にいかなくて良いのですか?今のうちに双極を破壊しておくという手もあると思いますが・・・」
「あ、確かにそうだよな。っていうか、結構いい考えかも」
琥珀の言葉にぽんっと手を打って霧生が同意した。
一方のはというと、琥珀の問いかけに暫しの間の後、別段気にした様子もなく答えた。
「確かに、それが1番簡単な手だと思うが・・・それをすると水面下で動いている者達の努力を無駄にする、と思ってな」
「水面下で動いている者達・・・?」
「・・・着いたぞ」
琥珀の再度の質問に答えることもなく、目的地に到着したことを告げたの声で2人が目のしたのは、十三番隊の隊舎だった。
「ここは・・・」
少し驚く2人に対し、はなんのためらいも迷いもなく歩みを進めた。
そしてその後に琥珀と霧生も続く。
暫く隊舎の中を歩いてようやくが足を止めた目的地には、先客が既に2名いて突然現れた達を目を見開いて凝視していた。
「・・・・・・零番隊隊長・・・」
「・・・・・・」
予想外の人物の登場に驚いている十三番隊の三席である小椿と清音のだったが、清音の方はすぐさまはっとしてある扉の前に立って達に対して立ちはだかるような体勢を取った。
琥珀と霧生がその行為に対しあまりにも無謀だと思っている中、は無言のまま一歩づつ清音、というよりも扉に向かって近づいていった。
そしてが一歩近づくたびに小椿と清音には緊張が走っていた。
「・・・安心しろ。別にお前達の邪魔をしに来たわけではない」
「えっ・・・」
清音との距離を後一歩というところまで縮めたがきっぱりとそう告げると、清音はただ驚いて目を丸くした。
その様子を特に気にした様子もなく、は扉の先にいる人物へと向かって声をかけた。
「聞こえているか?浮竹。それの解放に手間取っていては、処刑に間に合わないぞ。私がすればすぐ終わるはずだから、今すぐ私と代われ」
「「えっ・・ええええええっ!?」」
予想外の言葉に初めは呆然としていた小椿と清音だったが、すぐさままともに驚いた声を上げた。
そしてこのの発言には、状況が理解できていない琥珀と霧生も少し呆然としていた。
そんな4人をは放っておいまま暫く待っていると、中から少し困ったような顔をして浮竹が姿を現した。
「・・・どういうつもりだ?」
「どうもこうも、今言った通りのことだ。解放の仕方なら私も以前夜姉から聞いて知っている」
「・・あいつは・・・いや、あいつらはお前には何でも話してるんだな」
「比較的な」
自分の言葉にさらりと短く告げたの言葉に、浮竹はどこか意味ありげな溜息をついた。
「それに私はこういう事は結構得意だ。お前よりは遥かに効率良く解放できると思うが?」
「そこまではっきり言われると、さすがに少し落ち込むな・・・」
「そうか?」
浮竹の言葉の通り少し気落ちした様子にも、はなんでもないように返事を返した。
そのせいで浮竹はまた少し落ち込んでしまう。
「まあ・・あくまで手伝うのは解放だけだ。自分の部下くらい自分で助けたいだろうからな」
「・・・」
「もっとも、最終的にお前達ではどうしても駄目なようなら・・・我々が全て行うが」
「いや、その必要はない」
が至極当然のように口にした言葉に対し、浮竹は即座にきっぱりと返事を返した。
「朽木は俺の部下だ。だから、俺が必ず助けてみせる」
はっきりとした強いその浮竹の言葉に、小椿と清音が頷きながらも、「『俺達が』です」と口にしているのが聞こえてきた。
浮竹のその強い決意の篭った言葉と、小椿と清音の言葉を聞き、暫しの間の後は口を開いた。
「そうか・・・それなら、もう言わないぞ。お前達でちゃんと助け出すが良い」
「ああ、勿論だ・・・」
「・・・今度は助けられると良いな。お前の部下を」
の呟くようなその一言に浮竹は目を見開いた。
彼女が言っているのは間違いなくあの事件のことである。
まさかの口からあの事が出てくるとは思いもよらなかったのだ。
「・・・っ」
「私が中に入っている間、お前達はこの3人と一緒にいろ。良いな」
「はい」
「解りました」
何か言いたそうだった浮竹が次に口を開く前に、は琥珀と霧生の2人に指示を出し、2人はそれに対していつも通り素直に返事をしていた。
「それでは行ってくるぞ」
はそれだけ告げると、もこれ以上は誰の言葉も受け付けないというように、扉を閉めて解放のために中に入っていった。
そして閉められた扉を暫く呆然と見つめていた浮竹は、やがて少し苦笑しながら一言呟いた。
「・・まったく、敵わないな・・・」
浮竹が漏らしたその言葉を聞き取った琥珀と霧生は、ただ満足そうに笑ってが姿を消した扉を見つめていたのだった。
あとがき
・・・誰か文章力を私にください。
特にラストの浮竹隊長と主人公の会話部分・・・
なんだかどう書こうかと思っていたらあれよあれよとこんな感じに・・・
申し訳ありません・・・;;
さて、今回主人公によって役割分担させた一同ですが・・・
ぶっちゃけいうと琥珀と霧生は余り物です・・・(すいません)
時雨と氷室はそれぞれこの2人じゃなきゃ駄目なので、あの役割分担ですが・・・
時雨に関しては、どうしても絶対彼じゃなきゃ駄目なので・・・
多分、時雨好きでいてくださる方には「なんでそうなの?」みたいな展開になるかもしれませんが・・・;
あくまでも私の予想としてはそう思われるのではないかというだけです;
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