ドリーム小説
蒼紅華楽 十八




茶渡と岩鷲の2人をかなり無茶な方法で助け出した後、氷室達は双極の丘へと急いで向かった。
そしてその途中で、彼等は見事行き止まりに行き着いていた。
「・・・あのぉ」
「なんですか?」
少し遠慮がちに声をかけてくる雨竜に対し、牡丹が不思議そうに返事をした。
「道・・・こっちって行ってましたよね?」
「そうですよ〜」
「・・・どう考えても行き止まりですけど」
「ああ、だってわざとだからな」
乾いた笑いを漏らしながら決定的なことを言う雨竜に対し、氷室がまったく気にした様子もなくしれっと答えた。
「なっ?!わざとって、どういうことですか?!」
氷室の言った言葉に一角は慌てて、当然といえば当然の反応を見せる。
しかしそれでも当の氷室と牡丹はまるで至って平然としたままで、彼等が疑問に思っていることを遠まわしに話し始めた。
「だってな・・・ここ丁度よさそうな広さだし」
「双極で他の皆様とまとめてお相手するよりましだと思いますしね」
「俺はそれでも良かったがな」
何やら訳の解らないことを口にする氷室と牡丹に対し、更木だけが何故か状況が解っているようだった。
そしてその更木の様子はどこか楽しげで、その様子を見たやちると一角と弓親の3人は多少察しがついたようだった。
それ以外の一同が未だ不思議そうにしている中、氷室がある方向を見て口を開いた。
「いい加減バレバレなんで、出てきたらどうっすか?」
「常盤の言うとおりだ。コソコソしやがってみっともねえ連中だ・・・霊圧消して隠れるなんざ、隊長格のすることじゃねェだろうが」
「・・随分な口の聞きようだな。自分達が何をしているのか解っているのか?」
まるで2人の挑発に乗るように聞こえてきたその声と共に、突然はっきりと4つの霊圧が現れ、更にそれとほぼ同時にその霊圧の持ち主4人が姿を見せた。
その人物達の登場に一部を除き一同は衝撃を受け、中でも荒巻は恐怖で顔が引き攣っていた。
「こ・・狛村隊長・・・東仙隊長・・・射場副隊長・・・檜佐木副隊長・・・ウ・・ウソだろ・・隊長格が・・よ・・四人も・・・!!」
「狼狽えるな荒巻!数ではまだこちらが有利だ・・・それに・・・」
恐怖で4人の名前を呼ぶ荒巻に対し、弓親はそれを嗜めながら零番隊隊員である氷室と牡丹の方を見た。
その弓親の視線につられるように2人を見た荒巻は、多少安堵して落ち着きを取り戻しているようだった。
しかし彼等の希望予測を、更木の次の言葉が打ち砕いた。
「喚くな。誰がてめえらに戦わせてやるなんて言ったよ?・・もちろん、常盤に東雲も含めてだ」
「・・・やっぱりっすか」
一方、氷室と牡丹は更木のその言葉を聞いて、本当に予想していた通りだというように苦笑して見せた。
それを証明付けるように、そしてそれが目の前に立ちふさがる4人にとっては、挑発にもなるような言葉を更木は口にした。
「四対一か・・・試し斬りにゃ、ちっと物足んねエがな」
「四対一・・・だと?儂等四人を・・・貴公一人で相手にするというのか・・・?」
それは実際しっかりと挑発になったようで、それを上から降りてきたと同時に言った狛村の言葉が証明してた。
「・・貴公の腕は知っている。だが、それは少々おごりが過ぎよう。更木剣八」
「ゴチャゴチャうるせえな・・・さっさとかかって来いよ。なるべく四人一遍の方がいいぜ。四方囲んで一気に襲えば、誰か1人ぐらい俺を斬れるかもな」
「そうっすね。それに、むしろ更木十一番隊長が1人で相手することで助かったのは貴方達の方だと思うんっすけど?」
「・・・常盤っ!」
明らかな挑発を続ける更木の言葉にまるで手助けするように、口を開いてそう言った氷室に4人が反応した。
「だって、俺と牡丹が戦ったら・・・貴方達、瞬殺っすよ」
「ですよね」
にっこりと笑いながら、しかし明らかな毒を吐く氷室と牡丹に、4人の神経はより逆撫でされていた。
「零番隊の貴公等までもか・・」
「すいませんね。狛村八番隊長・・・俺達の基本方針は『隊長のために行動しよう』なので」
「できれば、狛村八番隊長と・・そちらの副隊長お2人には退いていただきたいんっすけど・・」
「退けば俺達が更木十一番隊長説得して、追わないように頼みますから・・・もっとも」
そこまで言うと氷室はいったん言葉を切り、先程までとは違った鋭い視線を東仙のみに向けた。
「東仙九番隊長は絶対退かれないと解ってるっすから、最初から言っても無駄でしょうし・・」
「当たり前だ!隊長だけじゃなく、俺達だって退く気は・・」
「貴方が考えているような意味じゃ・・・ないです」
氷室の言葉に対し、隊長に従う忠実な副隊長らしい台詞を言った檜佐木に対し、牡丹が少し哀れむような視線を向けながらそう告げた。
そして当然彼には、そんな牡丹の意図など全く解らず怪訝な表情をする。
「・・東仙九番隊長・・・・・俺達が何も知らずにここに来たと思ってるんっすか?」
「・・・なに?」
「あまり俺達を・・・いえ、うちの隊長を侮らないでください。もしここから生きて帰れたなら、他の2人にもそう伝えておいた方が良いかもしれないっすよ」
全てを見透かしたかのように笑いながらそう告げた氷室の後半の言葉に、東仙は周りには解らないようにぴくりと反応して見せた。
しかしその反応を氷室と牡丹の2人だけは見逃さなかった。
「・・・他の2人?何のことだ」
「戯言だよ狛村。どうやら我々に動揺を与えようとしているのだろう」
怪訝そうな声で尋ねる狛村の言葉に、東仙はまったく動揺していないような声でそう告げた。
実際にその声は至って冷静なものだったが、全てを予め知っている氷室と牡丹には、外に見せていないだけで内心はかなり動揺しているだろうということが解っていた。
そうしてまるでお互いに狸の化かしあいのようなことをしていると、氷室達の後ろから場違いに呑気な声が聞こえてきた。
「剣ちゃーーーん!!あたしたちさっきのいっちー捜しのつづきやってるねーー!剣ちゃんも早く来てねー!!」
「あァ、すぐ行く」
そう言って更木と言葉を交し合った谷やちるは、後ろにいた他の面々を連れて颯爽とその場から走り去っていた。
その様子を見ていた牡丹は、にっこりと微笑んで氷室と更木に話しかけた。
「それでは氷室三席、更木十一番隊長・・・私はあちらに付き添いますので」
「ああ、頼んだぞ。牡丹」
「はい!」
返事をしてすぐに牡丹は一同の後を追っていった。
「・・・常盤」
「はい?」
「テメェはいかねエのか?」
氷室がここに残って東仙達と戦うつもりだった場合、自分の取り分が減ると思っていた更木は念のために氷室に尋ねたのだが、氷室は首を横に振ってそれを否定した。
「安心してください。更木十一番隊長の邪魔はしませんから。俺は基本的にただ傍観してるだけっすから」
「なら問題ねエな」
氷室の返答にただ満足そうに笑うと更木は斬魄刀を四人に向かって構えた。
しかし更木の願望は、むしろ氷室ではなく、対峙している側が原因で打ち破られた。
「・・・隊長ここは・・」
「まず俺達に行かせてください」
そう言って前に進み出てくる副隊長2人に、更木が舌打ちをして不満そうな声を上げていると、横の方から聞き覚えのある声がして、その声の主の気配は目の前に現れた。
「そうなるとこちらも・・・」
「俺達が行くしかないっスよね!隊長!」
現れたのは先程やちる達と共にこの場を去ったはずの一角と弓親で、2人は高らかに目の前にいる射場と檜佐木とやりあうことを宣言していた。
そしてその2人に対し更木は当然の突込みを入れたが、まったく聞く耳を持っていない2人のうち一角の相手を挑発する言葉によって見事に消されてしまった。
そしてそんな2人の様子に、更木は諦めたといった様子だった。
「・・・ちっ!要するにテメーらも戦りてえワケか。しょうがねえな。ゆずってやるから他所でやれよ。俺の邪魔しやがったらテメーらから斬るぜ」
「了解ィ!!」
更木からの許可も出て楽しげな2人は、各々副隊長2人と一触即発と言った様子で少し会話を交わした後、素早くその場から立ち去って言った。
そしてそれを見送ってから氷室は更木に声をかけた。
「・・・よく譲ったっすね」
「まったくだ・・・まあ、かわいい部下の頼みとあっちゃ、隊長の俺はガマンするしか無えからな」
「俺の時はガマンできないようでしたが?」
「テメーはの部下だろうが」
「まったくっす」
更木に言われたことを心の底から肯定し、氷室は心底楽しそうに笑って見せた。
そして更木の方もどこかこのやり取りを楽しんでいるようでその表情には笑みが浮かんでいた。
実際はこの状況全てを楽しんでいるのであろう事が次の言葉から読み取れた。
「・・・まあ、これでも寝起きの運動くらいにはなるだろうからな」
「・・まだ言うか。だから貴公はおごりが過ぎると・・・言っておるのだ。更木!!」
更木の数々の言葉に限界に達した狛村が刀を抜き、その剣圧のみで地面は割れた。
それがこの戦いの開戦の合図となった。
開かれた戦端を予告通り、少し離れたところに瞬時に移動し傍観を始めた氷室は、その戦いを目の当たりにしながらぽつりと呟いた。
「さて・・・本当におごりが過ぎるのは、誰なんだろうな・・・」
それは激しい戦いを始めた3人の耳に決して届くことはなかった。












隊長格同士の戦いで二対一・・・
普通に考えればどうあっても更木に不利なであるだろう。
しかし現状はそうではなかった。
狛村と東仙の攻撃を次々と防ぎ、かわし、時には自ら進んでまで受ける。
それでも戦いは終始、更木の優勢だった。
もっとも氷室には最初からこうなるだろうということは予想がついていた。
更木は北と東で違うが、と同じ八十地区の出身者。
流魂街出身である氷室だが、彼がいたのはそこよりもまだましな地区であり、八十地区には足を踏み入れたことすらない。
しかし彼等零番隊の隊員達は、に頼んでその八十地区の話を聞いたことがあった。
話に聞くだけでも悲惨な状況の場所。
そんな所から同様、更木も這い上がってきたのだ。
否、は浦原と夜一の2人に助けられるような形でその地区を抜け出す程度はしたのだから、自力で抜け出して這い上がってきた更木はそういった意味ではよりも凄いのかもしれない。
そんな場所にいて、そんな場所から自力で這い上がってきた人物に対し、東仙と狛村が2人がかりでも勝てるとは氷室は思っていなかったのだ。
先程、東仙は更木に「正気まで無くした」というような台詞を言っていたが、その台詞を言う時点で彼がどんな場所にいたのかを全く理解できていない証拠ではないのかと思っていた。
もっとも更木も正気でないと肯定したが、あれほどやちるや部下から慕われている更木が本当に正気でないとは氷室には思えなかった。
むしろ八十地区出身でありながら、同様まともに正気を保っていた凄い精神ではないかと思っている。
そして氷室にしてみれば、そういうことを告げる東仙の方が、まともな正気を持っていないのではないかとある理由で思っているほどだった。
「力量が違いすぎて当然っすね・・・貴方達とでは見てきたものが違いすぎる。そして・・・それをなんともないと思えているから余計に凄いんっすよ・・・」
そう氷室が呟いたところで、戦いは局面を迎えていた。
更木の挑発に乗るまいとした狛村に変わり、東仙が卍解することを宣言したのだ。
さすがにこれには氷室も反応した。
確かに更木はあの2人より強い。
しかしそれはあくまでも卍解がない状態で、である。
今まで斬魄刀の始解さえしたことのない更木が卍解が出来るはずもない。
個人的な戦闘技能や精神力は事、卍解の戦いではほとんど意味をなさないことを当然である。
「・・・まあ、その為に隊長は俺をよこしたんだろうけど」
そう言ってもしもの時の為にと氷室は自分の斬魄刀に手をかけた。
だが更木の性格上、自分の斬魄刀の能力が確実に必要になるであろう事は予想がついていた。
その時聞こえてきた東仙の言葉に、氷室は深いそうに眉を潜めた。
「この男は魔物だ。暴力を食らい血を啜る。我々とは違う存在だ。ここに居させてはならない。この男はいずれ必ず、護廷十三隊の平和と破滅させる」
その言葉は確かに更木の言葉を語っていたが、氷室はそれを聞いてとても不快そうに影を落として呟いていた。
「・・・それはどんな平和なんだろうな」
他の零番隊の隊員達が聞いても、それは確かに不愉快に感じられた言葉だろう。
その後も東仙の口から出る言葉は、氷室には常に独りよがりで不快なものに感じられた。
このま自分が出て行ってすぐにでも東仙を斬ってしまいたいほどに。
しかしその衝動をなんとか押し止めていた矢先、東仙はついに更木に向かって卍解していた。
「『鈴虫終式・閻魔蟋蟀』か・・」
外から見るとまるで円く傘を張るような形で現れたその空間の名前を口にしながら、氷室は自分と同じようにその空間の外にいる狛村の近づいてきた。
当然反射的に身構える狛村に対し、氷室はまったく敵意を見せず苦笑しながら口を開いた。
「安心してください、狛村八番隊長。貴方と戦う気はありませんから」
「・・・それを信じられるとでも?」
「・・・・・隊長は、貴方のことをそれなりに気に入ってらっしゃいます」
突然前置きもなくそんな事を語りだした氷室に、狛村は怪訝な表情を浮かべる。
それを気にせずに氷室は続ける。
「ある意味同じですからね。貴方と隊長は・・・」
「同じだと・・・?」
「貴方は総隊長・・隊長は喜助様と夜一様のため・・・・・立場も対象者も違いますが・・・・・誰かのために死神になった・・という意味では、貴方と隊長は同じなんっすよ・・」
「・・・・・っ!」
「だから隊長は、総隊長は嫌いですが、その総隊長に恩義を感じて死神になった貴方は認めています。そして・・・」
そこまで言うと氷室は1度深い溜息をついた。
「価値観や事情は違えども・・・だからこそ尸魂界を護りたいという気持ちは同じはずなんですが・・・」
「常盤・・・」
「お喋りはこのくらいにしましょうか」
何か尋ねたいことがありそうな様子の狛村の言葉をあえて遮り、氷室はそう言って己の斬魄刀を鞘から引き抜いた。
「邪魔しないでくださいね・・・そうでない人も確かにいるみたいですから・・」
「・・・っ、何をするつもりだ?!」
「決まってます。結果的に更木十一番隊長の楽しみを邪魔することになるでしょうが・・・卍解が出されたとあっては、俺がそれを打ち破るのが1番安全なてのなので・・・」
「・・・莫迦な、できるはずがない。お主がいかに強かろうと、卍解した東仙もまたこの中なのだぞ。それを・・・」
「普通は無理でしょうが・・・俺なら外から・・・・それも東仙九番隊長を直接攻撃しなくても大丈夫なんですよ」
「なにっ?!」
狛村が氷室の言葉にただ驚いていると、氷室は鞘から引き抜いた己の斬魄刀を東仙の張った空間へと掲げ、そして始解の言葉を唱えた。
「斬り割き拓け『空割』」
氷室のその言葉と共に彼の斬魄刀の刀身に何か蒼い紋様のようなものが現れ、そしてそれを確認した氷室が頭上から一気に振り下ろし東仙の張った空間に向かって斬りつけた。
「なっ・・・?!」
そしてそれを見た瞬間、狛村は我が目を疑っていた。
氷室の振り下ろした『空割』の太刀筋のその通りに、東仙の空間が切り裂かれていた。
そしてその切り裂いた場所から、中で戦っている2人の姿が見えた。
それは意外にも更木が東仙の攻撃を散々受けた後ながらも、彼の手と斬魄刀を今はしっかりと握って感覚を取り戻している瞬間だった。
「へぇ・・・・・」
更木の戦闘能力の高さに氷室が素直に感嘆の声を漏らした瞬間、氷室が切り裂いたその場所から、東仙の卍解によって発生したその空間は瓦解していった。
空間が完全に消え去り、東仙は卍解が自分の意思とは別に消え去ったことから力を消耗してその場に足をつき、更木は何故あの空間が突然消え去ったのか解らないといった様子であたりを見渡し、先程から氷室と通常の空間に居た狛村は起こった事態がまだ信じられず呆然としていた。
そして辺りを見渡していた更木は、斬魄刀を手にしている氷室を見つけると、恨みがましそうに彼に声をかけた。
「・・・常盤。テメーまさか、余計なことしたんじゃねェだろうな・・・」
「はははっ、すいません・・・」
笑って正直に謝る氷室に対し、更木は確信を得て引き攣った表情を見せた。
「ったく、やっぱりか・・・で、何をしやがった?」
「俺の斬魄刀・『空割』の能力は空間切断でして」
「・・空間切断?」
「はい。ようするに、空間を斬って、自分の今いるこの空間と別の空間を繋げる穴を作れるんっすよ。勿論、その穴から繋がった別空間、別の場所に行く事も可能なんです」
「・・・それで、なんで奴の卍解が消えたんだ?」
「術・能力等によって人為的に発生した特殊空間の場合、斬ったところから瓦解させることも出来るんっすよ・・・まあ、あるお1人が作られる特殊空間だけは例外っすがね」
そう言いながら氷室はとても楽しそうに笑っていた。
そしてそんな氷室の様子を見ながら、何故自分の斬魄刀の能力が通じない相手がいると解っていて、そこまで楽しそうに笑うのだろうかと狛村には不思議で仕方がなかった。
その時、力を消耗して倒れていた東仙がよろよろと起き上がってきた。
「・・・まだだ・・・まだ終わらない・・」
しかしその立っているのも最早限界といった様子に、更木の興はどうやらそこで冷めてしまったようだ。
「・・やめだ、飽きた。結果的に俺がやったんじゃねエが・・・そんな中身半死人の相手なんかやってられるか。俺ァ行くぜ」
更木の言う通り、外見上はそれほど致命傷ではないが、中身がぼろぼろで霊力を消費しきった状態の東仙の現在の容態はかなり悪いといえる。
それこそ半死人という言葉は間違いではないほどに。
「死んだらつまんねエぞ。なにしろ、死んだらもう誰も斬れなくなっちまうんだからな」
後ろを向いてそう言った言葉に、東仙は激しく反応し、力の入らない身体を無理に動かして更木へと刀を突き刺した。
しかしその刀は身体を貫かず、ただ死覇装にめり込んだだけだった。
それでも懸命に東仙は更木を刺し貫こうとしながら、苦しそうに口を開いた。
「私は・・・私の正義の全てを懸けて・・・お前を止めなければならないのだ・・・!」
「・・・くだらねぇ」
「・・まったくっすね・・」
東仙の言葉に対し自然に出た更木の言葉に、氷室は冷たく同意していた。
「・・・その正義ってなんなんっすか?」
そう言って不快さを込めている言葉に振り返ってみれば、そこには東仙を睨みつける氷室の姿があった。
「・・・常盤?」
「貴方の言っている正義は自分勝手なんっすよ。他人に自分の考え、自分の正義を押し付けて・・・・・相手の立場に立って考えたことなんて、まるでないでしょう・・・」
「なん・・だと?」
氷室の言葉に忌々しそうに目を向けた東仙だったが、それ以上の感情の篭った氷室の視線によって何も反論などいえなくなってしまった。
「・・・その勝手な正義のせいで本当に正しいもの、哀れな者が犠牲になる。その最大の例がうちの隊の牡丹や琥珀っすよ・・」
「東雲と明塚・・・?」
氷室の言葉を聞き続けている更木達だったが、詳しい事情を知らない彼等にとって、あの普段何の悩みもなさそうな者達がどんな目にあってきたかなど想像することも出来なかった。
「貴方の言う正義は貴方の1人の勝手なもの。貴方の正義はそれとは違う正しさを持つ者にはただの押し付け・・」
そこまで言うとすっと先程よりも更に目を鋭くし、決定的だというように氷室は最後の言葉を告げた。
「貴方の正義は・・貴方の平和しか救えませんよ・・・東仙九番隊長・・・」
まるで計ったように一陣の風が吹く中、氷室はただ冷たくそう告げて、目の前にいる正義を掲げた本当の裏切り者を言葉で密かに断罪していた。














あとがき

今回は、東仙隊長好きな方すいません・・・
でも本当はまだ氷室に言わせたいことあったんですが、長くなりそうなので省きました(これでも;)
しかし個人的には東仙隊長の言っていた正義って、結構自分勝手なものだと思います。
だって、ようするに自分が認められないものは全部悪くて、自分の悪いところは認めないように思えます。
全部相手のせいにして、自分は正義って・・・
だから私は、むしろ何をしても全ては自分で責任を背負ってる更木隊長の方に好感度を持ちます。
確かに独断専行とか良くしてますけど、自分でしたことは自分でけじめつけるみたいなとこあるし、部下には慕われてるって事はそれだけの人格の持ち主だしってことですから。
なによりも、本当の悪人ならやちるみたいな純粋培養な子が懐いたりしませんって。
子供は正直ですから(彼女の実年齢が何歳かは知りませんが;)
そして今回ちらりと氷室が語った牡丹と琥珀が犠牲になった云々ですが・・・
特に牡丹の方が過去悲惨な目にあってたりします・・・;
結果的に見れば本人は悪くないのに、処刑されかけてました;;
それを助けたのが実は主人公だったりしますが、機会があれば部下達の過去も何人かは書きたいと思ってます。






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