ドリーム小説
蒼紅華楽 一




隊舎に戻ってくるといきなり、は隊員達から熱い抱擁という名の洗礼を受けた。
「隊長〜〜〜♪」
「どこいってたんっすか?!心配しましたよ〜〜」
半ば楽しげな隊員達に対し、暫くして眉をしかめながら淡々と告げた。
「重い、熱い、離れろ」
「が〜〜ん!隊長酷いっ」
「俺達こんなに隊長の事心配してたのに!」
「・・・泣きまねはやめろ」
なおもふざける隊員達に、はあと軽くは溜息をつく。
しかしこれがいつも通りの平和な零番隊の日常であることにも変わりないためはあえてこれ以上は何も言わない。
日常が失われることは心底辛いことであるということを彼女は知っているからだ。
「はい、隊長。お茶です」
「ああ、いつもすまんな。牡丹」
椅子に座るとタイミングを見計らったようにお茶を持ってきた第五席の東雲牡丹には礼を言った。
すっかり隊のお茶汲み係りと化している牡丹だが、それはお茶汲みが好きな彼女自身の望むところであった。
「で、私がいない間に変わったことは?」
「特にありません」
副隊長・羽鳴時雨のにっこりとした微笑とともに言われたその言葉に、はやはりなという溜息を漏らした。
「ま、その方が平和で良いだろうが」
「上からは無駄飯食いとか言われますかね〜〜」
第三席・常盤氷室がけらけら笑いながら言った言葉には少し空気を重くしながらポツリと告げた。
「・・・あんな連中に悪く思われるなど、それこそ私には願ったりだ」
「わ〜〜〜・・・・・」
やぶ蛇だったかとわざとらしく声をあげる氷室に、時雨が軽く頭をはたいた。
「でも隊長・・・そうでもないみたいですよ」
第六席・明塚琥珀の声にだけでなく、隊員全員が彼の方を向いた。
すると彼は顔を引き攣らせて嫌そうな顔をさせながらある一点を指差していた。
そして彼の指差すそこを見て全員がことの次第を察して同じようにそれに対し、少なくとも好意的ではない表情を瞬時につくった。
彼の指差すそこには、1羽の地獄蝶がいたのだった。








突然勢いよく開け放たれた扉に集められた隊長達全員がそちらを呆然として見つめた。
開け放った張本人、は時雨を引き連れながら怒りを抑えきれないといった様子で総隊長へと迷いなく突き進んだ。
その光景を引き続き隊長達は呆然と見ていたが、内の3名はその人物は見て別の反応を示した。
その内の1人である総隊長は少々厳しい顔つきになる。
そして残りの2人はというと・・・
「お前・・・」
?!!」
つい数時間前に初めて会った日番谷は驚いて声を上げようとするが、それは日番谷以上に驚いた反応を見せた浮竹の言葉に遮られた。
しかも彼がの名前を呼んだことにより日番谷は今度はそちらに注目した。
そんな2人に目もくれず、は総隊長の目の前まで来ると、ぎろりと睨んで地を這うような声で言った。
「これはどういうことだ?クソジジイ」
彼女から出たあまりの暴言に、隊長全員が思わず固まってしまう。
しかしそんな事に気づきもせず、は言葉を続ける。
「霊力の無断貸与及び喪失・滞外超過如きで、死罪など聞いたことがないぞ・・・」
「すでに決定したことじゃ」
「その決定に異論があるといっているのだ!」
総隊長相手にも関わらず恐れを知らないその物言いに、暫く呆然と事の成り行きを見ていただけだった隊長達だが、ことの重大さが解った者達数名が声を上げた。
「貴様何者だ?!」
「元柳斎殿に向かってなんと言う口の聞き方を?!」
そう言って取り押さえようとしたものもいたが、それは決してかなわなかった。
行動を起こそうとしたその矢先に、いつの間にか目の前に斬魄刀を構えた時雨が立っていたからだ。
「なっ?!」
そのあまりの素早い動きに隊長達は驚愕に目を見開く。
時雨はにっこりと微笑んだ状態で彼らにやんわりと、しかし言葉の持つ威力は強く警告した。
「うちの隊長の邪魔はしないでください。でないと俺が貴方達の相手になります。こう見えても、貴方達数人を同時に相手にできるだけの力量はありますから」
その言葉に一瞬ひるむが、すぐに反論しようとした者も当然いた。
しかしその言葉は浮竹によって遮られてしまう。
「彼の言うとおりだ。彼らの隊は全員が我々隊長クラスの実力のものばかり。しかも五席から八席までは力はほぼ均衡しているが・・・隊長から四席までは実力にそれなりの開きができている」
「ちなみに、俺は副隊長ですので」
浮竹のその言葉と時雨の言葉に全員がただ呆然と時雨とを交互に見た。
そして藍染が緊張で喉を鳴らしながら浮竹に尋ねた。
「浮竹・・・彼らは何者だ?君は知っているのだろう?」
尋ねられ少し困ったような表情をしながら浮竹は総隊長を見た。
すると総隊長はに睨みつけられながらも、浮竹に1つこくりと頷いて了承の合図を送る。
こうなっては仕方ないということかと浮竹は溜息をつきながら口を開いた。
「彼らは零番隊の隊員だ」
「零・・・番?」
聞きなれないその言葉に眉をしかめながら砕蜂が口にした。
「聞いたこともないが・・・」
「それは当然だ。彼らの存在は基本的に秘密裏だから。公に知っていたのは総隊長と四十六室くらいだろう。独立特秘処置機関・零番隊・・・主な任務は、護邸十三隊では対処できない危険任務の完遂だ」
「えらい物騒やな。にしても・・・秘密裏ならなして浮竹隊長はしってん?」
市丸に尋ねられて浮竹は少し複雑そうな表情をする。
「・・・以前、に会ったことがある。その時知っただけだよ」
「会ったことがあるって、どないな関係なんや?」
「変な勘ぐりはやめてもらいましょうか?市丸三番隊長」
興味本位で浮竹から聞き出そうとした市丸だが、いつの間にか時雨が忠告といわんばかりに斬魄刀を構えてそう言った。
「ただ本当に会ったことがあるだけのようです。ねえ、浮竹十三番隊長」
「ああ・・・」
時雨と浮竹は目線を合わせながら頷きあう。
確かにそれで一応の筋は通るのだが、その説明に誰も納得はできていない。
一方、その話の当事者の1人であるは、総隊長との静かな睨み合いを続けていたが、痺れを切らしたのか再び声を荒げる。
「貴様らはいつもそうだ。掟、掟といい、結局は自分達の都合ばかりではないか!」
「随分ないいようじゃな、
「当然だろう!掟など人が勝手に決めるもの!間違ったものだってある!それなのに、掟や貴様らの都合ばかり優先し、正しい者を罰することを私は認めない!!」
「・・・それはあの2人のことを言うておるのか?」
総隊長のその言葉にはぴくっと反応した。
そして苦々しそうにただ一言言い放った。
「あの2人が・・・間違ったことをするはずがない」
「だが実際にあの2人は罰せられた」
「それは貴様らが、勝手な都合で罰したのだろうが!!」
は総隊長の言葉にまるで何かの箍が外れたかのように、先ほどまでとは比べ物にならないほど声を荒げた。
「私は認めていない!あの人が罰せられるような事をするはずがない!!それを助けたあの人が罰せられるいわれもどこにもない!!」
は思わず背の斬魄刀の柄に手をかける。
しかし刃を抜くことは決してせず、ただ威嚇にも似た視線と霊圧・殺気を総隊長に向けた。
その霊圧はすさまじく、この場にいる隊長はずのもの数名でさえ思わず床に手をついたり、倒れこんでしまうものさえいた。
「な、なんだよ・・・この霊圧・・・」
考えられないような事態に驚いて声を上げる日番谷に、時雨は微笑みながら冷静に言葉を返した。
その姿は慣れているとでも言いたげだった。
「隊長の霊力は尸魂界一ですよ。その実力は、そうですね・・・貴方達十三隊の隊長が全員束になったよりも上です」
その言葉にの霊圧になんとか耐えれていた者達が各々の反応を示しながら彼女を見た。
「っ・・・そのくらいにしておけ、。感情に走ってそれ以上のことをすれば君の立場は悪くなる。・・・そうなれば、君の望みも叶わないぞ!」
浮竹が必死に搾り出したその言葉にぴくりと反応したは、何かに弾かれたように苦々しそうな表情を作って霊圧と殺気を抑えた。
その瞬間荒んだ呼吸を必死に整えようとする者が続出した。
「・・・帰るぞ。時雨」
「はい」
まだ何か言いたそうな表情をしていただが、それ以上は何も言わず時雨に声をかけて総隊長に背を向けて扉に向かって歩き始める。
時雨はただそれに大人しくしたがって付いていく。
扉の前まで来るとは振り返り、再び総隊長を睨みつけて最後に一言だけ吐き捨てた。
「忘れるな。私は絶対に、お前達を許さない」
「まっ・・・」
誰かが静止の言葉をかけるよりも早く、その言葉を最後に2人は室内から姿を消した。
あまりの一連の出来事に呆然としていた一同の中から、正気に返った砕蜂が総隊長に物凄い勢いで尋ねた。
「良いのですか?!あのような勝手な振る舞いをした者をそのまま帰して?!!」
「・・・零番の隊長の権限は、わしと同格じゃ。そのため今の一連の行動を罰する権利はわしにはない」
「なっ・・・・・」
つまり格も実力も十三隊の隊長よりも上だと、総隊長は告げているのだ。
あまりのことに思わず足元をふらつかせるものまで出てきていた。
「まあ、あれは昔からああじゃからな。皆もあまり気にするでない。・・・さて、思わぬ乱入者のせいで話がそれたが、本題に戻るとするか」
まるで慣れているとでも言わんばかりにまったく普通に本題に総隊長は戻った。
しかしあまりの衝撃の大きさに、大半の者は暫く動揺したまま話を聞いていたのだった。









1番隊の隊首室から出た後、まだ怒り覚めやらぬといった様子のまま、は足早にある場所に向かっていた。
罪人とされている朽木ルキアが現在収容されている六番隊の隊舎牢へである。
時雨はそれにただ黙って後をついていく。
そして牢に到着した2人は牢の前で掃除道具を抱えた1人の死神に出くわした。
「えっ・・・貴方達、誰ですか?」
「・・・零番隊の者だ。朽木ルキアと少し話しをさせてもらう」
少しの間考えて先程の一件ですぐにでも一般の死神にも知れるだろうから隠しておく必要がないだろうと考えたは、暫くの間のあとはっきりとそう名乗った。
「はっ・・・?零番・・・??」
しかし当然今はまだ広まっていないため、そう告げられた彼は少し混乱していた。
その混乱を横にと時雨は了承を得ないまま勝手に牢の中に入る。
「あっ、ちょっと待って・・・」
はっと正気に戻った彼の制止の言葉など当然聞く耳を持たず、牢の中に入ったと時雨は少し驚いて自分達を見るルキアと対面した。
「お主ら・・・誰だ?」
「零番隊隊長のだ。こっちは副官の羽鳴時雨・・・」
「零番隊・・・・・聴いたこともないぞ」
「それはまあ・・・極秘裏な部隊だったからな・・・・・」
時雨がルキアの言葉に苦笑交じりにそう返した。
過去形なのはこれから極秘裏でなくなるという事を組とってのものだった。
「単刀直入に言う。お前が現世で見聞きし、体験したことを詳しく話せ」
「・・・・・・・」
突然のその言葉にルキアは眉を潜めて警戒の色を強める。
それをくみ取ったは1つ溜息をついて言葉を続けた。
「安心しろ。その話如何でお前をどうこうするつもりもないし、他の連中にも言うつもりはない。・・・・・この小刀に誓って絶対だ」
そう言って自分の懐に指している小刀には優しく触れた。
「隊長がこういうなら絶対大丈夫だ。隊長はあの小刀への誓いを裏切るくらいなら死を選ばれる。もちろん、隊長の副官として、俺もその誓いに絶対的に従う」
そう言ってにっこり微笑む時雨と、真剣な表情のを暫く交互に見てから、ようやくルキアは信用に足りるかもしれないと重い口を徐々に開き始めた。



「つまりは、生きた人間を助けるため力を譲渡し、予想外にも結果的に全ての力を奪い取られたため尸魂界に戻れず、仕方なく力を譲渡した人間に代役を務めてもらうことで死神としての任務を続けていた、か・・・・・」
「・・・霊力の無断貸与はともかく、喪失と滞外超過はどう考えても不可抗力ですよね」
「私としては・・・霊力の貸与に関しても、むしろ人の命と魂を守るため仕方なかったのだから、責められるよりも評価されるべきだとおもうがな」
話を全て終わった後の2人の自分に対しての好感的な意見にルキアは少し呆然とする。
むしろ「馬鹿なことを・・・」という言葉が出てくると思っていただけに、この2人の反応は完全に予想外だった。
「・・・目的のための掟から、掟のための目的になってしまっているからだ・・・」
「えっ・・・」
苦々しげに、まるで何か恨み言でも呟くかのように口にされたの言葉と様子に、ルキアは一瞬その身体をはねさせてただ小さく声を上げた。
しかしすぐにの雰囲気は元のものに戻っていた。
「・・・とにかく、お前と話して決定的な結論が出た。お前は、処刑されるべき者ではない」
「ですね」
2人の話している言葉の意味が罪人の号をはられてしまったルキアにはすぐには理解できないものだった。
それを感じ取ってなのかはルキアに向かってこう告げた。
「お前を処刑させはしない。私達が助けてやる」
「えっ・・・?」
「それまで・・・希望を失わずに元気でいることだな。・・・・・ルキア」
それだけ言うとは隊長衣を翻し、ルキアに背を向けてその場から去っていった。
後には呆然としたルキアと、が最後に口にした事に目を丸くした状態で取り残された時雨がいた。
そして少しして時雨は満面の笑みになると上機嫌にルキアに告げた。
「良かったな」
「えっ・・・・・・」
何が良かったのかも解らないルキアに対し、やはり時雨は上機嫌で言葉を続けた。
「お前は隊長に気に入られたようだ。隊長は親しみを感じる相手でないと名では呼ばないからな」
最後に姓でなく名で呼んだのがその証拠。
それによって何がそんなに嬉しかったのか知れないが、時雨は始終上機嫌のままルキアに挨拶するとそのまま急ぎを追って牢を出て行ってしまった。
この珍客の弩等の訪問に、暫くルキアは呆然と牢の外を見つめ続けていた。







隊首会が終わり、1番隊の隊舎から少し離れたその場所で、日番谷は浮竹を呼び止めていた。
「おい、ちょっと待て浮竹」
「日番谷・・・どうかしたのか?」
「・・・お前、本当にただの知り合いなのかよ?」
日番谷の断片的な言葉に浮竹は思考をめぐらし、暫くしてから「ああ・・」と呟きながら彼の聞きたい事を察した。
か・・・そういえば、君もなんだか会ったことがある様子だったが・・・」
が乱入した時、日番谷が咄嗟に声をかけかけた事を思い出した浮竹は逆に彼に尋ねてみた。
「・・・数時間前、廊下のど真ん中で寝てやがったんだよ。おまけに起こそうとしたら刀向けてきやがった」
日番谷のその言葉に浮竹は苦笑をもらした。
「なるほどそれで・・・いや、いかにもらしいというか・・・・・」
「なにがらしいんだよ・・・というよりも、やっぱりただの知り合いじゃないだろ」
「彼女は・・・・・友人の義妹だ」
浮竹の意外なその言葉に日番谷は思わず目を丸くした。
「それで興味を持った・・・というのかな?彼女が1度だけ俺に接触してきたことがあるんだ。それで少し話しはしたが、本当にそれだけだ」
「本当に?」
随分と疑ってかかってくる日番谷に浮竹は瞼を瞬かせたが、すぐに何故か楽しそうな笑顔になった。
「・・・妙に聞いてくるな。日番谷、ひょっとしてに一目惚れでもしたか?」
「なっ・・・そんなんじゃねぇ!」
「はははっ、解ってる。冗談だ」
浮竹のその言葉に日番谷は当然彼を引き攣った顔で睨みつける。
しかし浮竹のほうはそんな日番谷をまったくきにせず話を続ける。
「本当だ。なんなら本人に聞いてみるといい」
「って、あいつ普段どこにいるんだ?零番隊なんて今日初めてきいたし、当然隊舎なんて見たこともないぞ」
「さあ・・・?」
「さあ・・・って、お前」
浮竹の苦笑交じりの声に日番谷は思わず呆れてしまう。
浮竹のほうも困ったように苦笑を漏らしながら告げた。
「実は俺も零番の隊舎がどこにあるのか知らないんだ。あることはあるようだが・・・・・はその場所を聞いても教えてくれなかったし」
「・・・じゃあ、本当にその1回の接触だけだったんだな」
「ああ・・・向こうから会おうとしない限り会えないと思う。だからそうでない時に会えた日番谷は相当運がいいと思うぞ」
何がそんなに運が良いのかと思わず口に出しそうになった日番谷だがその言葉をあえて飲み込んだ。
そして今日1日のことを振り返り、虚空に向かって溜息を吐いたのだった。







あとがき

浮竹隊長の性格が偽者くさくなったことにはごめんなさい;
主人公があれだけ怒った理由と、ルキアに対して好感を持ったは後々明かしていきます。
そして今回の時雨が言っていた主人公の他人に対する呼び方ですが、零番隊員は全員名前で呼ばれています。
ちなみに浮竹隊長に関しては「浮竹」と呼ばれているのであまり親しみはもたれていないようです;





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