ドリーム小説
蒼紅華楽 三
六番隊副隊長・阿散井恋次は今の己の現状を今一度よく分析していた。
しかしすればするほど何故こうなったのか自分自身ですら解らない。
とにかくルキアの所から出た彼は現在、ほとんど強制される形でと行動を共にしていた。
曰く、各隊の隊舎を案内しろとの事だ。
「実際に行ったことはないのでな。迷うかもしれないことを考慮してだ」
はそう言ったが阿散井はまだ少し納得がいかなかった。
は各隊に顔見せをしに隊舎を周るからその案内をしろとの事なのだ。
それはまだ解るんだが、何故か彼女は目と鼻の先にある六番隊を避けた。
「・・・あの、隊長」
「なんだ?」
「うちの隊にはよっ」
「それは別にいいと言っただろうが」
皆まで言い切るよりも早くに言われた言葉に、阿散井はもう何も言う気力もなくなってがっくりと肩を落とした。
それをじっと暫くじっと見つめた後、ははあっと軽く溜息をつきこう言った。
「隊員だけなら良いのだがな・・・・・・奴もいるだろう」
「・・・奴って?」
「朽木白哉だ」
の口から出た自分の隊長の名前に阿散井は目を丸くした。
「それってどういう意味ですか?」
「・・・・・・私は、奴は好きではない」
きっぱりと告げられた言葉に阿散井は唖然とした。
「ついでに言うなら、一、二、三、五、九、十二への案内も不用だ。これらの隊の隊長共も好かんからな。・・・・・というよりも、嫌いな部類だな・・・特に一は論外だ!」
単純だが確かにはっきりしているその言葉に、阿散井は本当に嫌いなんだということを悟った。
しかし悟りはしたがどうして十三隊のうち半分もの隊長をここまで毛嫌いしているのかが解らなかった。
特に人柄の良い五番隊長の藍染に関しては。
「・・・まあ、他は良く知りませんけど・・・藍染隊長とかは嫌うような人じゃないと思いますけど」
「・・・・・・・・・・・・・」
阿散井はそう言って藍染の弁護に回ったが、それを聞いたは何故か飽きれたような表情をしていた。
「・・・お前は単純だな」
「えっ・・・?」
「ああいう完璧すぎるくらい人柄の良く、普段から人の良い笑顔を浮かべている奴ほど・・・・・疑ってかかるべきなのだぞ」
「・・・・・・」
「・・・少なくとも、私はそう教えられた」
誰にとは言わなかったが、そう言った時のの表情を少し緩くなっていたように阿散井は思えた。
その表情に阿散井は少し見惚れていた。
「それから三番隊の市丸・・・奴のようにああいった胡散臭い笑顔を常に浮かべている奴も信用が・・・」
「ちゃんやないか〜〜v」
噂をすれば影という言葉は本当にあるらしい。
が話しているそこへ嬉々とした声を上げて話の当事者である市丸が現れた。
そしてそのままへ抱きつこうとしたが、自身の素早い当身によってそれは防がれ、市丸は哀れにも軽く吹っ飛んでいた。
「っ・・・酷いやないの、ちゃん」
「煩い、黙れ、直ちに消えうせろ」
無敵の言葉三連発に阿散井はに畏怖の念を送っていた。
そして冷たく言葉を言われた張本人の市丸は、少なからずショックを受けているようだった。
「酷いわ、ちゃん。折角こうして会えたいうのに」
「私は会いたくなどなかった。ついでにいうなら、馴れ馴れしく呼ぶな」
市丸が何を言おうが冷静なまま冷ややかには罵詈雑言を繰り出していた。
その様子に阿散井は「本当に嫌いなんだな・・・」と心の中で痛感していた。
「阿散井・・・行くぞ」
「えっ!は、はい」
「ちょい待ちぃ!阿散井くん・・・これはどういう事や?」
にっこりと微笑む市丸の笑顔は恐ろしかった。
完全に目は笑ってないし、バックには黒いオーラが出ている。
さすがに隊長格の機嫌を損ねたとあって、阿散井は顔を引き攣らせて怯えていた。
「な、何がですか?」
「なしてちゃんと仲良さげにしとるんか、や」
「別に仲良くしている覚えはないがな・・・」
市丸の言葉にすかさず無表情のままさらりと言ったの一言に、阿散井は半ばショックを受けていた。
しかしそんなことには気づいていないのか、あるいはただ無視しているだけなのか、はそのまま再び歩き出した。
「いいから、さっさと案内しろ。日が暮れる」
「あっ、はい!」
「僕もついていくわ〜」
「・・・・・ついてくるな」
本気で嫌そうなが冷徹な言葉を投げかけるも、強引に市丸の同行は決定したのだった。
四番、七番、八番と順番に周り、達は十一番隊の隊舎前に来ていた。
見事にが嫌いだと言い切った隊長のいる隊は避けてきている。
「失礼するぞ」
「ん?誰だ?」
中に人がいるかどうかも確認せず、が扉を開くとそこには3人ほど十一番隊の隊員がいた。
そのうちの1人が怪訝な表情でを見ながら尋ねるが、はこの質問を軽く無視する。
「更木の奴はいるか?」
「・・・てめぇ、うちの隊長を呼び捨てかよ。っていうか、何も」
「剣ちゃんなら今いないよ。なんか人探しだって」
顔を引き攣らせながらにけんかごしに言っていた一角の言葉は、あっさりとしたやちるの言葉によって遮られてしまった。
「そうか・・・」
「うん!そうだよね?つるりん」
「誰がつるりんだ!!?っていうか、何あっさり答えてるんですか?!副隊長」
やちるの言葉に怒気をはらんだ言葉と、非難の言葉をぶつける一角。
一方のは一角の言葉に一瞬行動を停止させた後、後ろを振り返って阿散井に尋ねる。
「本当にこいつが副隊長か?」
「はい・・・」
「そうか・・・・・」
そう言って暫くじっとやちるを見つめた後、何故か一同の予想外にもはやちるの頭を撫で始めた。
その意味不明の行動に半ば呆然とする一同。
「まあ・・・小さいとは聞いていたがここまでとはな」
「ちゃん、ずっと表に出てきてへんかったのに、どこでそんな情報仕入れとるん?」
市丸がそう尋ねてきて暫くはじっと黙っていたが、はやがて嫌々そうにしながらも彼の質問に答えた。
「・・・うちの情報収集能力を侮るな」
答えはただそれだけだった。
ある意味明確とは言えないその答えに半ば呆然としてしまう。
しかしはそれ以上語る気も、問い返させる気もない様子だった。
「まあ、更木がいないのでは仕方がない、副隊長のお前が言づ」
そう言いかけた瞬間、ははっとしてそのまま横に飛び去る。
他の面々もよりは反応が遅かったが、それを感じて各々その場から退避していた。
そして次の瞬間、がいたそこは瓦礫の山と化し、その場には斬魄刀を手にした更木が立っていた。
「ちっ!やっぱ、良い反応するじゃねぇか」
舌打ちはしたももの更木のその声も表情も、久々の上等の獲物を見つけた時のように嬉しげだった。
「やれやれ・・・話には聞いていたが、余程の戦闘狂のようだな」
片や狙われた張本人であるは溜息をついているものの、それほどさして気にもしていない様子だった。
そのに向かって容赦なく更木は刀を構える。
「最初に会った時から戦ってみたいと思って今まで探し回ってたんだがな。零番の隊舎なんてみつからねーし、てめぇの姿も見当たらない。今日はあきらめて帰って来てみれば・・・わざわざそっちから出向いてくれたってわけか」
「・・・別にお前と戦いに来たわけではないがな」
そして別次元にある零番の隊舎が見つかれないのも当然である。
「お前がどういうつもりでここに来たのかなんてかんけぇねえ!いますぐ俺と戦え!!」
「・・・・・・断る」
更木の言葉に当然はそうきっぱりと答えた。
しかしそれで更木が退くわけでもない。
「そう言われて俺が引き下がると思うか?」
「・・・まだ少ししかお前と面識はないが、お前がそういう性格ではないのは良く解る」
「解ってるじゃねえか・・・だったら・・・・・・」
「ああ、だから・・・やれ」
が言ったその言葉をその場で理解できたものはいなかった。
ただ誰もが何を言っているんだというような目をしていた。
しかし確かにその言葉を理解できていたものはいたのだ。
「承知しました。隊長」
楽しげとさえ言えるその声が聞こえたと思った次の瞬間、護邸十三隊最強の戦闘部隊である十一番隊の隊長は、見事な簀巻きにされていたのだった。
「なっ!!?」
「ご苦労だ。時雨、氷室」
驚く一同を尻目にそう言ったの背後にいたのは、零番隊副隊長の時雨と、同じく三席の氷室だった。
いつの間にいたのか2人はの後ろに立ち、しかも更木を簀巻きにしたであろう状況証拠を持ってその場にいた。
「いえ、いえこれくらい。隊長のお役に立つことが俺達の至上の喜びですから」
「いっや〜〜。中々似合ってるっすね、更木十一番隊長。す・ま・き・姿」
にっこり微笑んで告げる時雨と、けたけた笑いながら告げる氷室。
2人の笑い方や話している相手に違いはあるが、明らかに2人の言葉の中身は更木を馬鹿にするようなものだった。
ある意味含みを持たせている時雨のほうがストレートな氷室よりよっぽどたちが悪い。
「で、隊長この後はどうしましょうか?」
「・・・捨てろ」
「了解です」
「「「ちょっと待てーーーーー!!」」」」
さらりとしてとんでもないの発言に、簀巻きにされている張本人と一角、弓親から非難の声が上がった。
「冗談に決まっているだろう」
さらにさらりと言ってのけるに、非難を発した一同は怒りがこみ上げてきた。
「えっ?冗談だったんですか?残念ですね」
残念そうにそう言っている時雨は簀巻き状態の更木を本気で捨てる気満々で、すでに手は更木をつかみあげていたところだった。
「・・・副隊長、解っててやってるな」
腹黒い時雨の笑みに彼の性格を悟っている氷室は引き攣った笑みを浮かべながらぼそりと告げた。
「冗談でそういうこと言うな!!」
「・・・冗談くらい言えねば浅い人間になる、と私は教わったが」
「誰にだよ?!!」
最早あの一言だけで突っ込みどころが満載過ぎて突っ込んでいる一角は疲れきっていた。
そして意外にクールに見せかけ、実は目の前にいる少女はかなり天然なのではないだろうかと一同思い始めていた。
そんな一同の心情や自分への突っ込みはさらりと無視し、は時雨と氷室の2人に向き直る。
「ところで、お前達はどうしてここにいる?」
「そりゃあ、ここに顔見せにきたんっすよ」
「まあ、そっちはついでで隊長をお迎えに来たというのが主ですけどね」
「私を?」
2人の言葉に怪訝そうな表情を浮かべるに対し、2人は同時に満面の笑みできっぱりと告げた。
「「どっかの性質の悪い狐に付きまとわれてるみたいでしたから」」
その2人の黒い笑みを見た阿散井、一角、弓親は、「どっちの方が内心性質が悪いんだ」と思っていた。
更木はなんとなく理解したようで、やちるは解かっていない様子だった。
「それはご苦労だな」
「いえいえ」
「そらぁ、ちゃんも大変やな・・・・・って」
ただ当事者であるはずの市丸は最初それが自分を指していることに気づいておらず、見当違いな事を言っている途中でようやく気がついたようだ。
「性質の悪い狐って、ひょっとして僕の事?」
そう気がついた時点で本人にも多少自覚があるということになってしまうだろう。
そして市丸から何か次の言葉が出てくる前に、時雨と氷室は逃げの体制に入っていた。
「それでは我々はこの辺りで・・・あ、申し送れましたけど、俺は零番隊副隊長の羽鳴時雨です。今後ともよろしく」
「同じく三席副官補佐の常盤氷室だ。三席つっても、十三隊の隊長並の権限は持ってるから、そこのところよろしく!」
「・・・・・隊長のだ」
「「じゃ、そういうことで」」
逃げの体制に入っているということもあり、時雨と氷室は早口で自己紹介すると、颯爽と名乗ることを忘れていた気づいたが名乗った後、すぐさまを押すような形でその場を後にしていった。
そしてそのあまりの素早さに呆然として取り残される一同。
「・・・なんだったんだ?今のは」
「さあ・・・・・・ん?ちょっと待て。今あいつら零番隊とかって・・・」
「なんだお前ら気づいてなかったのか?」
「ちゃん、ちゃんと隊長衣きとったんのになぁ」
顔から血の気が引いてきている一角、弓親に対し、その場にいる隊長2人は呑気に肯定していた。
確かに言われてみれば彼女が羽織っていたあれは隊長衣だったし、それにここの所更木はその零番隊長と勝負してみたいと言って探し回っているのを知っている。
最低でも更木が彼女にいきなり斬りかかった時点で気づいておくべきだったのだ。
「・・・俺達、もしかしてとんでもないことしたか?」
「・・・・・かもな」
茫然自失状態になっている2人を、阿散井は人事とは思えぬ同情の目で見ていたのだった。
あとがき
今回理由を上げなかった主人公が嫌いだと公言した隊長達を嫌いな理由はまた今度です。
主人公は隊長を嫌っているのであって、別にその隊長が属している隊自体が嫌いなわけではありません。
だから顔見せに行きたくないと豪語した隊に関しては、隊長以外の隊員には悪いと思ってます。
そして主人公は意外と十一番隊と気が合いそうな予感です。
さて次回は今回日番谷君出せなかった分もたくさん彼に出ていただく予定です。
そろそろ本格的に原作沿いに入らせていただきます。
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