ドリーム小説
蒼紅華楽 五





数十年前のこと、日番谷が真央霊術院に入るよりも前、日番谷は1度虚に襲われたことがある。
星の出ていない霞む月夜のことだった。
何故その日、真夜中に外に出て、しかも人気のない場所に行ったのかは今となっては思い出せない。
ただその時確かに日番谷は虚に襲われ、瀕死の重傷を負ったのだ。
霞む視界に薄れていく意識の中、日番谷は確かに自分の死を予感していた。
虚に最期の一撃を加えられると思った。
しかし実際には虚の最期の一撃はいつまでも振り下ろされず、逆に薄らぐ意識の中で何故か聞こえたのはその虚の断末魔。
何が起こったのか解らない日番谷が必死に目を凝らそうとして、その目に確かに飛び込んできた。

蔭るは風の如し黒・・・
散るは華の如し緋・・・・・・・

綺麗な黒髪・黒瞳、手には刀身が緋色の刀を持った少女がいた。
自分の顔を覗き込むその顔があまりにも綺麗だったので、この場所が尸魂界でありながら、日番谷は自分の瞳に映るその少女が、まるで天使のように見えた。
その少女の姿をもっと見ていたいと思った所で彼の意識は途切れた。
そして目を覚ましたのは夜明けのことだった。
当然その時にはすでにどれだけ探しても少女の姿はなく、何故か瀕死だったはずの日番谷の身体は完全に傷が癒えていた。
一瞬夢かとも思ったが、確かに現実であったことを日番谷は、目の前に広がる虚の遺した攻撃の跡で荒れたこの場を見て認識した。
そしてそれと同時に彼が思ったのは、もう1度あの天使に会ってみたいということ。
その想いはどうにも止めようもなく、あの天使の正体が死神だと気づいた日番谷は、自然に真央霊術院の門をくぐることになった。
いつか瀞霊廷で再会できることを願って。






日番谷はただ呆然としていた。
真央霊術院を卒業してすぐ護廷十三隊に入り、自由に瀞霊廷の中を動き周れるようになった彼は、すぐに探し人である少女を探した。
しかしどこを探しても見つからず、誰に聞いても知らないと返されるだけ。
次第にあれはただの幻だったのかと思うようになり、探すのを半ば諦めて、その記憶の姿は段々と薄れていった。
最近では完全に探すのを諦めていたといっていい。
だから最初見た時もそうだとは気づきはしなかったが、どうやら相手の方は先ほどの口ぶりから覚えていて気づいていたようだ。
「・・・覚えてたのか。というよりも、どれくらいから気づいてたんだ?」
「最初にお前に会った時だ」
「最初から・・・」
「でなければお前はあの時、刀の錆だぞ。私が止めたのは、以前助けた相手なのに自分の手で斬ってしまっては寝覚めが悪いと思った故だからな」
のそのある意味とんでもない言葉に日番谷は言葉を失う。
そんなことで自分は2度助かったのかとなんとなく空しい気分になってくる。
しかしそれよりもショックなのは、自分が天使とまで思った人物の中身がこんなのであったことだ。
「どうかしたか?」
「いや・・・・・」
「そうか。なら、もう大丈夫だな?傷も完全に癒えているはずだろう」
「えっ・・・?」
ずっと考え込んでいた日番谷はに言われ、初めてあれほどの傷を負っていた自分の身体が完全に癒えていることに気がついた。
そしてその日番谷からはかぶせていた『天桜』の布を取り、再び『天桜』に巻きつけ始める。
「この『天桜』の始解時に現れる巻き布は、触れた対象の全ての傷病を癒す能力を持っている」
「それが、お前の斬魄刀の能力か?」
「いや・・」
「いや、って・・・お前実際に今・・・・・」
「それはこの巻き布の能力であって、『天桜』の能力全てではない」
「・・・・どういうことだ?」
の含みを持った言葉に怪訝そうな表情をする日番谷に対し、布を巻き終えた『天桜』を日番谷の目の前に突き出しては告げる。
「『天桜』は尸魂界唯一の、複数能力保持斬魄刀だ」
「複数能力・・・?!」
「・・・私の霊力は莫大過ぎる。だから、私の斬魄刀である『天桜』は1つにとどまらず複数の能力を持った上に、解放していない状態でもその力が外に多少あふれ、私をあらゆる能力から自然に守るということまでやってのけている」
の語る『天桜』の反則な力に驚きつつも、日番谷は納得がいった。
だからにはあの虚の霊力を食らうという能力も効かなかったのだ。
しかし、だからこそ疑問は残るのだ。
これだけの力を持つうえ、地獄の門まで自分の意思で開けるが一体何者なのか・・・
「お前・・・」
日番谷がに尋ねようとした時、瀞霊廷の方から警鐘と共に慌しい連絡事項が響いた。

『隊長各位に通達!隊長各位に通達!只今より緊急隊首会を召集!!繰り返す・・・』

「緊急・・・隊首会だと・・・?」
「・・・・・・・・・」
その報告に驚いて目を見開く日番谷に対し、はただ無言で瀞霊廷の方向を何か言いたげに睨みつけていた。










隊長の召集と共に二番側臣室に副隊長達も集められていたが、当然まだ揃っていない者も多数いた。
「隊長・副隊長なんてのは、尸魂界中にちらばって忙しくしてるような連中ばかりだからねェ」
現れた松本がその理由を説明するように告げ、深く溜息をついた。
「全員集まるのに半日くらいかかるんじゃない?ウチの隊長さんもサッパリ連絡つかないのよ。困るわァ・・・」
「乱菊サンとこの隊長って誰でしたっけ?」
「アレよ、日番谷の――――」
「あ―――――例の天才児か。そりゃたい・・」
「そ、ついでにウチの隊長の寝込み襲った、な」
阿散井が言いかけた途中で何やら楽しげな声が聞こえたため、全員無言でそちらを見た。
するとそこにはいつからいたのか、時雨が全員のすぐ傍に楽しそうに座り込んでいた。
「うわっ!羽鳴?!!」
「なっ、いつの間に・・・」
「松本が『忙しくしてるような連中ばかり』って言ったあたりから」
ほぼ最初からじゃないかと全員が突っ込んだと同時に、今まで時雨の気配に気づかなかった自分達を情けなく思った。
ちなみに、隊長のと違い、零番隊員は全ての隊長・副隊長にちゃんと顔見せはしてある。
「別に俺は零番だから召集令は関係なかったんだけどな」
「じゃあ、何でここにいるんだよ?!」
「えっ?面白そうだし。別に参加するしないは自由に決めて言いわけだしな」
めったにない副官章着用での召集令を「面白い」の一言で済ませる彼は、やはり大物なのかそれとも単にふざけているのか副隊長達は悩んだ。
そして出した結論は両方だろう、だった。
「お前な・・・」
「・・・阿散井くん」
阿散井がはあっと溜息をついたところで、今まで遠慮して黙っていた雛森が口を開いた。
「あ?」
「うちの藍染隊長・・・みてない?」
「・・・いや・・・・・見てねぇ」
「そう・・・」
「・・・・・・・・」
阿散井の言葉に雛森は納得したようだが、無言でそれを眺めていた時雨は、阿散井が答える際に目線をそらしたことと、間があったことに対して疑惑を感じていた。
しかも自分達の隊長の嫌う藍染に関わる話であるから余計にである。
「今朝もずっとおかしくて・・・でもきいても何も答えてくれなくて・・・あたし・・・どうしたらいいか・・・」
「・・・心配すんな。何もねえよ。この召集だってすぐに解かれるに決まってる」
ただ2人の会話と阿散井の様子を見聞きしている分では、阿散井は雛森のことを気遣って何か隠しているだけだと感じていた。
おそらく隠しているのは藍染と1度接触したのであろうということだろうと思った。
疑うべきは雛森の言葉の内容と、阿散井が何故か接触したことを隠さなければならない、藍染の動向の方にあった。
この時、時雨はここに来て良かったと思っていた。
に報告すべき情報があったからである。
そしてそれを悟られないように、今度は自分からこの空気を打破しようとする。
「そういえば、うちの隊長も知らないか?」
「はっ?うちのって・・・隊長か?」
「あの人以外うちの隊長はいない。・・・で、どうも隊長もずっと見当たらないんだよなぁ」
「俺は、見てないけど」
「私も・・・」
「・・・またどっかの廊下で寝てるのかなぁ」
時雨のその言葉に副隊長全員の思考回路が一瞬停止した。
そして一同同時に心の中で突っ込みを入れた。
「(廊下で寝てる・・・って)」
しかしその中で松本だけがはっとした。
そういえばが十番隊を初めて尋ねてきた時、日番谷が寝ているところを起こそうとして、とか言う会話があったことに。
どういった状況でそんなことになったのかと考え、日番谷にも聞いてみたがいっこうに答えてくれはしなかったが、廊下で寝ていて通行の邪魔をしていたのであったら合点がいく。
「半日以上も連絡がないってのは珍し・・・」
「時雨副隊長〜〜〜〜〜!」
「「「「うわぁっ!!」」」」
またもや気配もなく現れた1つの影に副隊長一同はまともに驚く。
ただ呼ばれた時雨だけは笑ってその人物の名を呼んだ。
「ああ、牡丹か。どうかしたか?」
「はい。実はですね。隊長が1度隊舎に戻られまして、その時に副隊長がいなかったので、伝言を頼むといわれまして」
「隊長戻られたのか?」
「はい!」
嬉しそうな牡丹に対し、なんて自分はタイミングが悪いんだと時雨は溜息をついた。
「で、伝言とは?」
「はい・・・それがですね・・・」
牡丹は時雨を副隊長達から離れたところに引っ張っていき、時雨に耳打ちをしてからの伝言を伝える。
するとその伝言を聞くうちに時雨の表情がみるみる変わっていく。
「・・・それ、本当か?」
「はい」
「そうか・・・」
そして暫く考え込み、すっと顔を上げて笑顔で副隊長達に手を振った。
「悪いけど俺、ちょっと用ができたから、これで帰らせてもらうな」
「はっ?」
「それじゃあな」
「皆さんお疲れ様です」
訳も解らず勝手にそう告げる時雨に一同があっけに取られた瞬間、時雨と牡丹の姿はその場から既に消え去っていた。
そして後に残された副隊長達はただ呆然としていた。
「・・・結局何しにきたんだ。あいつら・・・」
その場にいる全員の心情を阿散井が代表して口に出したのであった。











召集がかかった昼間から、すでに時刻は夜に移り変わっていた。
そしてようやく緊急隊首会を開始することになった一番隊隊首室の重たい扉が開いた。
「・・・来たか。さあ!今回の行動についての弁明を貰おうか!三番隊隊長・市丸ギン!」
隊長達が並ぶ室内に呼ばれた市丸は臆するこもなくたち入った。
「何ですの?イキナリ呼び出されたか思うたらこないな大袈裟な・・・尸魂界を取り仕切る隊長さん方がボクなんかの為にそろいもそろってまァ・・・・・でもないか」
むしろその様子はどこか楽しげでさえあった。
「十三番隊長さんがいらっしゃいませんなァ。それに零番のちゃんも」
「浮竹に関しては病欠だよ」
「またですか。そらお大事に」
「・・・零番に関しては、独立じゃからな。は十三隊の隊首会には参加せんでも良いことに・・・」
「いや、今回は参加させてもらおうか・・・」
総隊長が事情を説明しようとした時、丁度話題に上がっていた人物の声が聞こえ全員がそちらを向いた。
そしてそこには全員が思っていた通りの声の主であるが厳しい表情でたっていた。
・・・」
「お前・・・・・」
驚く一同は無視し、は一歩一歩室内に足を踏み入れながら市丸を睨みつけていた。
そして市丸の正面で足を止めると、あからさまに市丸に敵意をむき出しにしていた。
「私もこいつに色々と聞きたいことがあったのでな」
「・・・だったら、なんで一緒に来なかったんだよ?」
が現れた事に驚いていた日番谷だったが、先程隊首会へ行く自分と分かれたはずのに当然の疑問を告げる。
そしてむしろ日番谷のその言葉に他の隊長達は驚いていた。
「日番谷・・・君、ちゃんと一緒だったの?」
「・・・ああ、ちょっとな」
「・・・・・隊舎へ少し用があっただけだ」
京楽の言葉に日番谷が複雑そうに答え、は日番谷の問いに少しの間を持って答えた。
「ええな〜十番隊長さん。ちゃんとなにしとったん?」
「フザケてんなよ」
いい加減本題に入れないことに痺れを切らした更木が口を開いた。
「てめえ。旅禍と一人で勝手に遊んできたそうじゃねえか」
その言葉で周りの空気も最初の頃のぴりぴりしたものに完全に戻る。
「しかも殺し損ねたってのはどういう訳だ?てめえ程の奴が旅禍の4・5人殺せねえわけないだろう」
「あら?死んでへんかってんねや?アレ」
「何!?」
「いやァ。てっきり死んだ思うててんけどなァ。ボクの勘もニブったかな?」
市丸の告げたその言葉に、はぴくりと反応し、あと少しで震える手が斬魄刀にかかろうとした。
そしてその様子に気がついていたのは日番谷だけだった。
「我々隊長クラスが相手の魄動が消えたかどうか察知できないわけないだろ。それともそれができないほど君は油断してたとでも言うのかネ!?」
「いややなぁ。まるでボクがわざと逃がしたみたいな言い方やんか」
更木に続いて涅の発言に対しも、市丸はとぼけてそう言ってみせた。
「・・・それに、あの時邪魔も入ってん」
「邪魔・・・?」
「なぁ・・ちゃん」
市丸のその発言に一同の視線がに注がれる。
一方のはそうきたかと内心舌打ちをしていた。
「・・・どういうことじゃ。
「別に何でもないクソジジイ。第一、貴様らに答えてやる義理はないと思うが」
「貴様!またそのような口を!!」
「零番隊長である私の権限は、総隊長と同格、あるいはそれよりも上!十三隊の一隊長風情である貴様こそ口の聞き方に注意したらどうだ?!」
のその発言に砕蜂は悔しそうにを睨みつけていた。
しかしさらには砕蜂を睨みつけて容赦のない一言を口にした。
「・・・所詮は自分の主も最後まで信じきることのできなかった馬鹿者の分際で」
「なっ・・・・・」
「私は貴様が隠密機動の総司令官であり、刑軍の軍団長であることなど認めていない。その椅子に真に相応しい人物を・・・私は良く知っている」
目を見開いて冷や汗を流す砕蜂は、が何を言っているのか、そして誰の事を言っているのかすぐさま察しがついた。
「・・・貴様」
反論したかったが砕蜂の口からはそれ以上何も言うことはできず、後はただ苦虫を噛み潰したように押し黙ったままだった。
「・・・まあ、良い。がこうなのは今に始まったことではないからの。儂にはおぬしをどうこうする権限はなし。采配をするとすれば四十六室に任せるとしよう」
「・・・私がそう大人しく連中のいうことを聞くか」
がぼそりと呟いた一言は、幸いなのか誰の耳にも届いてはいなかった。
「じゃが、まあ。これでおぬしがここに呼ばれた理由は概ね伝わったかの」
気を取り直したように総隊長が本題に戻して市丸に告げる。
「今回のおぬしの命令なしの単独行動。そして標的を取り逃がすという隊長としてあるまじき失態!それについておぬしからの説明を貰おうと思っての!そのための隊首会じゃ。どうじゃい、何ぞ弁明でもあるかの。市丸や」
総隊長がそう告げて、を含む全ての隊長達の視線が注がれる中、市丸は暫くの沈黙のあといつもの笑顔を崩さずにきっぱりと告げた。
「ありません!」
「・・・なんじゃと?」
「弁明なんてありませんよ。ちゃんのことがあったとはいえ、ボクの凡ミス言い訳のしようもないですわ。さあどんな罰でも」
「市・・・」
「ちょっと待て市丸・・・」
市丸の潔いとも取れるその言葉に、しかし不信を抱いたままのは声をかけようとしたが、それよりも先に切り出した藍染によって阻まれてしまう。
がその藍染の方を怪訝な表情でみたその瞬間、三度目の警鐘が高らかに打ち鳴らされた。

『緊急警報!!緊急警報!!瀞霊廷内に侵入者有り!!各隊守護配置についてください!!』

「なんだと・・・?!侵入者・・・!?」
「まさか・・・例の旅禍か!?」
隊長達が慌てふためく中で、は落ち着いて瞬時に霊圧を探っていた。
そして出した結論は、瀞霊廷内のどこにも旅禍の気配などないということだった。
そうすると誰かが何かの目的で鳴らさせたのであろうということをが考えていると、彼女の横を通り過ぎていく人影があった。
「おいっ!?待て剣八!まだ・・・」
それは藍染の呼び止める声もまったく聞き入れず、1人先走った更木だった。
その後姿を見送ったはふぅっと溜息をつき、あまり教える気のなかった旅禍侵入の事実を完全に話す気はなくなった。
「・・・致し方ないの・・・隊首会はひとまず解散じゃ!市丸の処置については追って通達する。各隊即時廷内守護配置についてくれい!」
その言葉に従って退室していく隊長達を横目に、が自分はこれからどうするものかと考えてくると、ある2人の人物が小声で話しているのが聞こえてきた。
「随分と都合良く警鐘が鳴るものだな」
「・・・ようわかりませんな。言わはってる意味が」
「・・・それで通ると思ってるのか?僕をあまり甘く見ないことだ」
市丸と藍染の旗から見れば一触即発と取れるそのやり取りをは怪訝な表情で聞いていた。
そしてふと、2人の方を密かに日番谷が見ていることを確認したは、日番谷も2人の会話を聞いていたであろう事を推察した。
そして暫く考え込み、市丸と藍染が立ち去ったところで、日番谷の元に近づくとその手を無言でつかんだ。
その突然のことに日番谷は目を丸くしてまともに驚く。
「なっ・・・な、何するんだよ?!」
日番谷は慌てふためきその顔が少し赤いが、はそんなことは気にせず、というよりもむしろ気づかずただ一方的に日番谷に告げた。
「・・・ついて来い」
「なに・・・」
「お前を信用して・・・零番の隊舎に案内してやろう」
の告げたその一言に先程よりよりいっそう驚いて日番谷は目を見張っていた。












「よ・・ちさん・・・夜一さん!」
雨竜の呼ぶ声に反応し、今まで思考の世界に沈んでいた夜一はようやく現実に引き戻された。
「な、なんじゃ雨竜」
「いや、なんかぼーっとしてたみたいですから・・・」
「夜一さんどうしたんですか?なんか、白道門の一件から変ですよ」
織姫にまでそう指摘され夜一はふうっと溜息をついた。
「いや・・・なんでもない。それよりも、一護の様子はどうじゃ?」
「全然だめです。あいつだけなんですけどね。砲弾に霊力こめられてないの・・・」
「・・・そうか」
空鶴邸に来てどれくらいの時間がたったのだろうか。
未だ一護1人だけが砲弾に霊力をこめられずに奮闘していた。
「本当にあいつ大丈夫か?死神のくせにえらい才能ないな」
「まあ、あやつは俄か死神じゃからな」
空鶴のあきれ果てた言葉に夜一は溜息をつき、雨竜は苦笑し、織姫と茶渡はなんとかフォローできないものかと考えていた。
するとそんな時、ばたばたと慌てた足音がこちらに近づいてきた。
「く、空鶴様!!」
「どうした?!騒がしいぞてめえら!」
「も、申し訳ありません。ですが・・・」
「ご無沙汰しております。空鶴殿」
慌てた様子の金彦と銀彦のすぐ後に現れたのは、にこやかな表情を浮かべた時雨だった。
その死覇装を纏った時雨の姿にすぐさま死神だということを察した雨竜達は驚き、同時に警戒する。
「なんだ。時雨じゃねえか。久しぶりだな」
一方、空鶴はというと実に親しい相手にでもいうように挨拶をした。
「・・知り合いですか?」
「ああ。夜一もお前らも心配するな。こいつは確かに死神だが、瀞霊廷の他の連中にちくったりはしないぜ」
そうは言われても一同は目の前にいる一護以外の死神に警戒を緩めることはできなかった。
しかし一方の時雨はぱあっと明るい笑顔を浮かべると、夜一の方を見て口を開いた。
「あなたが・・・夜一様でいらっしゃいますね」
「はっ・・・?」
突然『様』付けで呼ばれて何が何やら解らないというように夜一は目を見張った。
その間にも時雨は夜一の前に来て正座すると、深々と頭を下げた。
「お目にかかれて光栄です。俺は零番隊副隊長の羽鳴時雨。以後お見知りおきくださいませ」
しかもかなり丁寧な言葉遣いでそう言われ、夜一自身も何が何やら解らなかったが、『零番隊』と言う言葉にはっとする。
「零番隊じゃと?!あの、伝説の部隊が再び結成されたのか」
「さすがに貴方は零番の事をご存知でしたか・・・」
「・・・その零番隊の者が何の真似じゃ。いや、そもそも何故我々がここにいると・・・おぬしの口ぶりからすると、儂に会いに来たようじゃが・・・」
察しの良い夜一に「さすがだな」と時雨は満面の笑顔を作る。
「ええ、その通りです。門での通行が不可能な現状、あなた方は必ず空鶴殿を頼られると、うちの隊長が仰ったからです」
「零番の隊長じゃと・・・?」
「その隊長のご意向で、我々零番隊員はあなた方が瀞霊廷へ侵入後、密かに助力するという事を決定しました。それを隊長の命令でお伝えに来たのです」
「「「「なっ・・・!!」」」」
時雨のその発言に旅禍一同は当然信じられないというように驚きの声を上げる。
「そんな・・・君達は死神じゃないか。そんなことして、なんの得が・・・」
「隊長の決めたことだからな。俺達が従うのは瀞霊廷の上の連中じゃない。あくまで隊長ただお1人だ」
雨竜のその質問に、夜一や空鶴に対するような敬語でなく、時雨本来の口調できっぱりはっきりそう告げた。
その言葉に確かに篭っている決意に雨竜は圧倒される。
「・・・その言葉、本当に信用して良いのか?」
しかしそれでもまだ疑念を持った夜一の言葉が時雨に届いた。
それは当然のことで、時雨も予想通りの範疇だった。
「ええ。全面的に信用していただいて結構です」
「・・・・・」
「我々零番隊隊長であり、貴女と喜助様の義妹君である様のご意思・・・と、言えば解って頂けますか?」
それは夜一に対する時雨の信用してもらう上での切り札とも言える言葉だった。
そしてその告げられた懐かしい、そして白道門で聞こえた姿の見えない声を聞いて以来頭にあった名に、夜一はただ驚いて目を見開くだけだった。











あとがき

主人公と日番谷くんの関係発覚でした。
本当に日番谷くんが偽者くさくなってきてすいません;
主人公2回も日番谷くんの命の恩人になってしまっています;;
2話で浮竹さんが日番谷くんに「一目惚れでもしたか?」発言して、日番谷くん否定してましたが、本当は実はしていたという話です;;
そしてついに旅禍組も本格的に出てきました。
ただ今回主人公との接触はなしで、先に時雨に行ってもらいました。
ちなみに零番隊と空鶴は結構前々から仲が良いことに設定上なっています。
これは前の浮竹さんの時と同じで、主人公が夜一さんの友人ということで興味もって接触したのがきっかけです。
ちなみに空鶴さんのほうは浮竹さんと違って主人公からちゃんと名前、しかも「さん」付で呼ばれてます。
ただ岩鷹とは主人公も零番全員も接触ないということで・・・
そこらへん海燕さんがらみの事情でそうなってます。
次回はいよいよ日番谷くんが零番の秘密基地・・・基、隊舎にご招待されます。






BACK         NEXT