ドリーム小説
蒼紅華楽 七
零番隊員達が勝手に自己完結した後現れたは、よく見てみれば何やら風呂敷に包んだものを持っていた。
「・・なんだ?それ」
「これか?ただの重箱に詰めた料理だが・・・」
のそのまったくの予想外言葉に日番谷は呆気に取られてしまう。
そして隊員達の間からは激しい歓声が上がった。
「マジっすか?!隊長」
「隊長が作ったんですよね?!隊長が!!」
「隊長、私達の分もありますよね?!」
そんな隊員達が口々に騒ぎ立てるのを呆然と見ながら、日番谷は思わず思ったことを呟いた。
「あんな短時間でどうやって・・・というよりも、お前料理できたのか?」
そしてその前半の言葉はともかく、後半の言葉に隊員達は反応し目を光らせた。
「失礼ですよ!日番谷十番隊長!!」
「そうっすよ!隊長の作られた料理って、めちゃくちゃうまいんっすから!!」
「俺なんて・・・初めて隊長の料理食べた時は、暫くの間他の奴がつくった食い物食べる気しなかったな〜〜」
そのあまりの反応と勢いに思わず日番谷は怯んでしまう。
そして当の料理を作った本人であるは、なんでもないことのようにそれを暫し傍観していた後口を開いた。
「元々前から作っておいた1日寝かせた方が味がよりよくなる料理や、日持ちするような料理を詰めただけだからな。それほど時間がかかっていなくても不思議ではないだろ?」
「ま、まあそう言われれば・・・」
「それに私は現世に居た頃は幼い頃から自炊していたから比較的料理は出来る方だ。・・・使っていた道具や材料も質の良いものばかりだったおかげで、楽に上達ができたしな」
「現世に居た頃って・・・・・お前、どんな生活してたんだよ?」
日番谷のその質問にぴたりと動きを止めると、は何か考えるような素振りを見せた後、何故か話をそらそうと質問とはまったく違うことを返した。
「・・・投獄されてからろくなもの食べておらんだろうからな。ルキアに持っていってやろうと思ってな」
「そういうことを聞いてるんじゃな・・・・・って、誰に持っていくって?」
質問とはまったく違う事を返されたが、思わぬ名前に日番谷はに対してまた答えてもらいたいことが増えた。
「それでは私は日番谷を表まで送ってルキアの所に行くからな。何かあったら時雨が指示を出すように」
「解りました」
「おいっ・・・ちょっ・・・」
「お前達の分もちゃんとあるから。食べたい時にでも食べておけ」
そう言って日番谷の手を取り、無理やり引っ張っては出て行ってしまった。
そしてそれを確認したすぐ後、満面の笑みを浮かべた零番隊員達はの作った料理を食べるべく一斉に調理場に向かったのだった。
零番隊の隊舎を出た後、2人はまだ通常空間に戻らず、桜並木の続く零番隊隊舎が存在する隊舎を歩いていた。
暫くお互い黙ったまま歩いていたが、は小さく溜息をつくと日番谷に話しかけた。
「なんだ?何か言いたいことでもあるのか?」
「・・・言いたいことというか、聞きたいことなら山ほどある。けど、とりあえず今聞いておきたいのは・・・」
そこで日番谷は一旦言葉を切ると、改めてに尋ねた。
「なんで旅禍の協力なんかするつもりなんだ?」
「・・・・・・・」
「羽鳴との会話でお前が旅禍を手伝おうとしてるのは解った。だが朽木を助けたければ他にも方法があるかもしれないだろ。なんで・・・・・」
「・・・四楓院夜一という人物を、知っているか?」
のその言葉に日番谷は思わず目を見開く。
何度かと零番隊員達の会話に出てきた名前で、日番谷もどこかで聞いたことがあるとずっと思っていた。
すぐには思い当たらなかったためそのままにしておいたが、に言われ日番谷は自分の記憶を辿り、そして行き着いたその人物の見当に驚いた。
「まさか・・・先代隠密機動総司令官及び同第一分隊刑軍総括軍団長で、四大貴族の1つ、四楓院家の当主・・・・・」
「・・・私の義姉だ」
から出たその言葉に日番谷はまた大きく目を見開いた。
「・・・私が、東流魂街の八十地区の出身であることは、もう知っているな?」
「・・・・・ああ」
「本当に酷いところだった。私は十の時現世で死に、尸魂界に来てあそこに放り込まれた。血みどろのというに相応しい場所。地獄より地獄らしい。子供といえど、戦う術がなければ生きていけない。・・・いつも持ち手のない刃で自分の手を血で染めながら、自分の身を守っていた。あそこでは寝ることさえも安息ではない」
西流魂街の一地区で暮らしていた自分とはまるで違う次元の話に、日番谷は無表情で話しているよりも痛々しくなり、思わずから目をそらしていた。
そして時雨がいつか言っていたように、が寝ている時近づいた他人を無意識に斬りつけるのは、その時身についた自分の身を守るためのものだと改めて理解した。
「食べるものも、水さえもめったに手に入らず、私は疲れ果てぼろぼろだった・・・そしてある時、意識を失った私が次に目を覚まして最初に見たのは、先程までいた血まみれの世界ではなく、ある2人の優しい笑顔だった」
「・・・それの1人が四楓院夜一か?」
「そうだ・・・そしてもう1人は、十二番隊隊長であり技術開発局局長・・・浦原喜助・・・」
その名前に日番谷はまた驚愕の色を見せる。
「それって、あの霊力を分解する義骸を作ったことで永久追放になった罪人の・・・」
「っ・・・きー兄は何も悪いことなどしていない!」
日番谷の発言には過剰反応して思わず怒鳴りつける。
その様子に日番谷は思わず怯んで言葉をなくす。
「あの義骸を作ったのにも何か訳があるに決まっている!なのに、瀞霊廷の上の連中はむやみにきー兄を尸魂界から永久追放にし、それを助けた夜姉までその地位を剥奪される始末・・・いや・・・誰がどう思おうと、今でも隠密機動の総司令官は夜姉で、十二番隊の隊長で技術開発局の局長もきー兄だけだ!」
「・・・・・・・」
「私は認めてない!あんな・・・自分の主君も信じきれないような奴や、自分の地位をかさに研究といって裏で非道を行っているような奴が・・・断じて、あの2人の後釜だなどと・・・私は認めていない!」
はあえて名前を上げはしなかったが、それが誰のことを指しているのかは誰でも解ることだった。
そして緊急隊首会でが砕蜂に言っていたことの全容を日番谷はようやく知ることになった。
「誰が信じまいと私は信じている・・・あの2人が間違ったことなどするはずがない」
「・・・そこまで信じてるのか?」
「当然だ。あの2人は私をあの血まみれの世界から連れ出してくれた。偶然私を見かけた私を哀れと思ったためとはいえな。そしてさすがに瀞霊廷とはいかなかったが、あそこより遥かに治安の良い地域に私の身を移してくれた」
「・・・・・・・・」
「それからもずっと・・・あの2人が尸魂界から出て行くまで。別れさえ告げられなかったから、あの2人が出て行った事実に気づくのに随分かかったが・・・・・それでも私は信じているあの2人は確かにそれまで私を助けてくれていたから」
そう言ったの表情は微かに笑っているように見えた。
「だから・・・今度は私が護るんだ・・・あの2人が帰ってくるこの世界を。そのために私は本来嫌いな死神にまでなったのだから・・・・・だから、夜姉のしようとすることに、協力するのは当然のことだ」
ただ1つ1つの言葉を大切そうに紡ぐの言葉と雰囲気はいつもと違い自然と穏やかなものに変わっていた。
その様子に日番谷は何故か悔しさを覚えて拳を握り締めていた。
六番隊の隊舎牢から四深牢に移されたルキアは、思いもかけない訪問者に多少呆気に取られていた。
「し、隊長・・・!」
「すまんな、ルキア。色々ごたごたしてお前の所に来るのが遅くなった」
「い、いえ・・・それよりも・・・」
驚くルキアの目線はやはり風呂敷に包まれた重箱に向けられていた。
「ああ、これか・・・お前牢に入れられてろくなものも食べていないだろうと思ってな」
「は、はあ・・・」
「まあ、遠慮せずに食べろ。一応味は万人向けのはずだ」
そう言って驚くルキアを気にせず、は風呂敷を解いて重箱の蓋を開けた。
そして現れた料理の品々、盛り付けにルキアは思わず目を見張った。
「・・・これ、誰が作ったのですか?」
「私だが、どうした?」
のその発言にルキアはまた驚き、の顔を凝視していた。
「私は・・・またどこかの料理人が作ったのかと・・・」
「そうか?これくらい誰にでも出来ると思うが?」
のそのなんでもないという言葉と表情に、ルキアは思わず首を横に振りそうになった。
「どうした?食べないのか?」
「・・・い、いただきます」
暫し驚いて呆然としていたルキアだが、に促され冷たい石畳に座って箸を取り食べ始めた。
口に運んだ料理は見た目以上に美味しく、またさらに驚いてしまった。
そしても座り、一緒に持ってきたお茶などを汲みながら思い出したようにルキアに告げる。
「そういえば・・・今回侵入してきた旅禍の目的はお前を助け出すことのようだ」
「そうですか・・・・・って、ええっ?!」
のその発言を普通に流しかけたルキアだが、すぐに内容のおかしさに気づいて声を上げた。
「な、何故・・・そんな事をご存知なのですか?!」
「時雨が接触して確認したからな。ついでに言うなら、我々零番はそれに協力するつもりだ」
さらにあっさりと告げたのその言葉に、ルキアはあいた口が塞がらなくなった。
そんなことが知れれば裏切り者扱いを受けることになるのだからルキアの反応は無理もない。
「・・・何故そんな事を、と聞きたそうな顔だが簡単なことだ。旅禍のうちの1人は、私の義姉だ」
「おねえ・・・さま?」
「ああ・・・血は繋がってはいないがな。それでも、私には血の繋がり以上に大切な義姉だ」
「・・・・・・・」
「だから協力する。それに我々も元からお前を助けたいと思っていたからな。ある意味ちょうど良い・・・」
そう良いながらの瞳に映った確固たる決意に、ルキアは反対するような言葉を言っても無駄、むしろそれこそ失礼にあたると察した。
そしてそう考えたと同時にルキアはあることを頼もうと決めた。
「・・・でしたら、隊長。お願いがございます」
「・・・なんだ?」
「私のために瀞霊廷と戦おうとしてくれている者全員はもちろんですが・・・・・恋次から聞いた話ではその中に、オレンジ色の髪に身の丈程の大刀を持った死神がいるはずです・・・」
ルキアにそう外見的特長を聞きは思い出していた。
確かにその特徴を持った旅禍を彼女はあの白道門の一件で確認している。
市丸を挑発しわざわざ向かっていき、神鎗を直接食らっていた人物である。
「以前お話した、私が死神の力を譲渡した人間はそやつです・・・」
「・・・・なるほど」
「私のせいで運命を捻じ曲げてしまった人間です・・・・・ですから、どうかあいつの事を助けてやってください!無事に現世に帰してやってください」
ルキアの悲痛なその言葉から、は瞬時に彼女が現世でその一護と一緒に過ごした期間が、辛いどころかむしろ幸福であったことを瞬時に悟る。
そしては今にも泣きそうになっているルキアの頭に手をのせて口を開いた。
「安心しろ・・・そいつは勿論、全員無事に現世に帰してやる。お前を助けてな」
がそう告げた瞬間、突如四深牢から見える狭い空がはぎしく光った。
「なんだ・・・これは・・・!?」
「・・・どうやら、来たようだな」
驚くルキアとは対照的に、は至って冷静な態度で空で4つに別れた光を見つめていた。
がルキアと共に四深牢から空を見ている頃、時雨と牡丹は瀞霊廷の屋根という屋根を跳び移って移動していた。
「それにしても本当に遮魂膜突き破りましたね〜。さすが空鶴殿の開発された特殊霊珠核といったところですか」
「そうだな・・・それに空鶴殿の技量あってこそなせることだろう」
「ですね・・・・・あっ!副隊長、あそこ発見しました」
牡丹の言葉に時雨も自分の目で確認したようで、先客達に気づかれないよう霊圧を消すと物影に身を潜めた。
「うわ〜〜・・・運のないことにもう一触即発みたいですね」
「そうだな。相手は・・・確か十一番隊三席の斑目と五席の綾瀬川か」
「よりにもよってあの戦闘狂集団の上位ですか・・・・・で、旅禍の方は・・・」
「ん〜〜・・・俺もあの2人には会っていないな。でも外見的特長は夜一様から聞いているから、あれが黒崎一護とやらだろう。あんな派手な髪にあんな馬鹿でかい斬魄刀の死神なんて、そうそういないからな」
「ですね・・・で、もう1人なんですけど・・・・・あれって、墜天の崩れ渦潮じゃないですか?」
一護と一緒にいる岩鷲の服の模様を見て、少し驚いたように時雨に告げる。
「なるほど、彼が志波家の末っ子。空鶴殿の弟か・・・まさか一緒に来てるとわな」
「驚きですね・・・でもそれ以上に驚きなのは・・・」
「ああ、初めて見るが・・・空鶴殿にちっとも似ていない」
「海燕殿にもですね〜〜」
「なぜ、彼1人だけ容姿がああなのだろうか?」
岩鷲を初めて見た時雨と牡丹は本人はかなり失礼きわまりないことを平気できっぱりと断言していた。
まず間違いなく岩鷲が聞いていたら怒るだろうが、時雨と牡丹の声は彼は勿論、他の3人にも聞こえていない。
そしてそんな話を2人がしていると、当の岩鷲はその場から逃げ出していた。
それを見て暫し沈黙した後時雨と牡丹はまた口を開いた。
「・・・本当に彼は空鶴殿と海燕殿の弟なのでしょうか?」
「疑わしくなってきたな。あの情けないところもだが、顔からして特に」
どちらも言っていることは酷いが、時雨の方が牡丹よりも遥かに言っていることは酷かった。
そして逃げた岩鷲の後を弓親が追うのを見て、時雨は溜息をついた後牡丹に指示を出した。
「牡丹・・・こっちは俺が見てる。お前はあっちを頼む」
「了解しました。時雨副隊長」
時雨のその指示ににっこりと笑うとすぐに牡丹は2人の後を追いかけた。
残された時雨は、2人の間に割って入ろうかと考えたが、「あれくらいなら大丈夫だろう」と、半ば投げやりな心情で今回は傍観することに決めた。
そして思ったとおり2人は互角に近い勝負を繰り広げていた。
「思ったとおりだな・・・・というよりも、あっちはまだ本当の力出し切れてないみたいだな」
そう言った時雨は瞬時に一護の潜在能力に気がつき、むしろ互角の勝負に留まっていることを不思議に思う。
「・・・でも、夜一様のお話だと死神になったのはついこの前みたいだし無理もないのか。でもそう考えると、結構戦い方が出来すぎてるようにも・・・・・」
時雨がそう考えて頭を悩ませていると、一角も同じような事を考えていたらしくそれを一護に尋ねた。
「師は誰だ?一護」
一角のその言葉に時雨はぴくりと反応した。
確かに師がいるとすれば一護のこの状態もある程度納得がいく。
そして一角に尋ねられた一護は隠そうともせずあっさりと答え始める。
「十日ほど教わっただけだから・・・師と呼べるかはわかんねえけど・・・戦い方を教えてくれた人ならいる」
「誰だ?」
一護の答えを興味深そうに待っていた時雨だが、次に一護から出たその名に衝撃が走った。
「浦原喜助」
その名を聞いて時雨は暫し呆然となっていた。
それは一角も同じようだが、明らかに2人の受けている衝撃の意味は違っていた。
そしてようやく我に返った時雨はぽつりぽつりと呟き始めた。
「喜助様の・・・なるほど、ということは・・・」
そして次の瞬間、彼の口元は実に楽しそうに笑んでいた。
「隊長の・・・弟弟子・・・・・」
そう呟いた瞬間、時雨の一護を見る目は先程までとは明らかに違う、半ば敬意を払ったものに変わっていた。
あとがき
前回、そして前々回よりもかなり短いですが、私的にきりがいいのでこの辺りで;
あと同時進行の「四宝神刀」が長すぎて燃え尽きたってのもあります;
今回明らかになりましたが、主人公は本当に料理が得意です。
レシピを知らないので洋食はできませんが、和食は完全にマスターしてると思ってください。(レシピを覚えさえすれば洋食もできます)
そして今回主人公の過去の一部と、二番隊隊長と十二番隊隊長を嫌いな理由を暴露することとなりました。
主人公はあの二隊長のことを、夜一さんと喜助さんが本来居るべき場所に土足で上がりこんで、勝手に居座っているくらいには思っています;
逆にそういう話を暴露した日番谷くんへの好感度は実のところ上がってきています。
ちなみに主人公に斬鬼走拳を教えたのは夜一さんと喜助さんです。
だから当然あの2人は主人公にとっては師にもあたるわけで、喜助さんを師と称した一護が弟弟子なのも本当です。
おかげで次回から一護は零番隊員達に敬われることになるかもしれません;
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