ドリーム小説
蒼紅華楽 




一護と一角の戦いは、一護の勝利という見守っていた時雨からはなんとも無事な決着を見せた。
そしてその後一護が自分だけではなく、倒した一角の止血までしているその姿を見て、初めは少し驚いていた時雨だが、何故か楽しそうにくすくすと笑っていた。
時雨には尋ねたいことがあるからだろうとすぐに察しがついたが、それにしても一護の行動は敵に対してまだ甘すぎるというものだ。
しかし時雨はどうやらそんな一護の一面を、どこか敬愛すると通じるものがあって気に入ったようだ。
そして逆に一護の台詞に盛大に笑って傷口を広げる一角に対しポツリと零した。
「本気で馬鹿だなぁ」
その言葉と表情をもし免疫のないものが見ていたなら、まず間違いなく退いていたであろう黒い笑みだった。
どうやら一角が笑って言った台詞が内心相当気に入らなかったようだ。
何故なら一角が馬鹿にした「五人と一匹」の中には、当然の義姉である夜一も含まれているからだ。
「こっから南に行くと護廷十三隊各隊の詰所がある・・・」
「な・・・なんだ!?教えてくれるのか!?」
「うるせーな。黙って聞けよ。教えねーぞ!」
しかしあれだけ馬鹿にしたにも関わらず、教えるあたりの一角の潔さには時雨は少し感心した。
「その各隊詰所の西の端に真っ白い塔が建っている・・・そいつはそこに居る筈だ・・・」
「ほ・・・ホントか・・・?」
「本当ですよ」
一角が一護の不安そうな言葉に答えるよりも早く、2人の頭上から時雨はそう答えを降らせると、2人の目の前に楽しそうな表情でようやく現れた。
「なっ・・・」
「出るタイミングを見計っていて良かったよ。わざわざ説明してくれて例を言う。斑目」
「だ、誰だ・・・?!」
時雨の突然の登場に慌てて驚く一護に対し、こちらも違った意味で驚き信じられないものでも見ているように一角は口を開いた。
「な、なんで・・・零番の副隊長がこんなところに・・・・」
「・・・零番?」
「はい、零番隊副隊長・羽鳴時雨と申します。以後お見知りおきください。一護殿」
驚愕で声を震わせる一角の言葉に、一護は聞いたことのないその名に反応したが、その話の中心である時雨は楽しそうに自己紹介をしていた。
そして時雨の丁寧な自己紹介にきょとんとした。
「なんで俺の名前・・・っていうか、なんで敬語?」
「貴方の事は空鶴殿の所に言った際、夜一様から聞き及んでいます。ここに侵入した者の中で俺があの日接触しなかったのは、貴方と空鶴殿の弟君だけですから」
時雨にそういわれて暫し一護は考え込み、そしてようやく思い出したように声を出した。
「ひょっとして、潜入前に夜一さんが言ってた、潜入した後俺達を手伝ってくれる事になった隊があるって・・・・・それってまさか・・・?!」
「はい。俺達零番隊の事です」
「なっ?!!」
一護のその言葉に満足そうに頷く時雨に対し、一角はあまりの事実に驚愕の表情に変わっていた。
「しょ、正気ですか?!羽鳴副隊長!旅禍の手伝いをするって・・・どういう・・・・・隊長は何を考え・・・」
「五月蝿い斑目。今は俺が一護殿と話しているんだ。本当に死にたくなければ、そこで死んだふりでもしていろ」
時雨のその笑顔のままではあるが黒い発言と笑みに、一護は呆然と固まってしまい、言われた一角本人は恐怖に駆られて時雨に言われた通り死んだふりを泣く泣くすることにした。
「話は戻りますが」
そして何事もなかったように話を戻す時雨に一護は半ば感心さえしてしまう。
「夜一様は勿論のこと、他の者へもうちの隊員がそれぞれ援助に向かっていますので心配はいりません」
「そ、そうか・・・」
「で、なんで俺が貴方に対して敬語かというと・・・・・それは貴方がうちの隊長の弟弟子にあたるだろうからです」
「・・・はっ?」
「はぁああっ?!」
時雨の思いもかけない言葉に、言われた当の本人である一護だけでなく、死んだふりの最中だった一角まで声を上げてしまう。
そして一角はすぐれに時雨から視線を感じ、慌てて口を塞ぐとまた死んだふりを再開する。
その様子を暫く見つめていた時雨だったが、今回はどうやら見逃す気になったようで視線を一護に戻して話を続ける。
「一護殿、さっき喜助様の事を師と呼ばれていましたよね?」
「あ、ああ・・・一応戦い方教えてくれた人だから・・・」
「うちの隊長は喜助様と夜一様の義妹君で、斬鬼走拳の全てをお2人から教えられた弟子でもあります」
その言葉に一護は目を丸くして驚き、一角も思わず声を上げそうになったが今度はなんとか口を押さえて留まった。
「ですから、喜助様の弟子である貴方は隊長の弟弟子になると解釈できます。あ、この事実は隊長ご自身はまだ知らないので、良い土産話になりますね〜」
くすくすと心底楽しそうに話す時雨を、一護は呆然としたまま見て話を聞いていたが、暫くして少し理解が出来たのか自信のなさそうな声で確認を取る。
「え〜っと、つまり何か?俺達に協力するのは、そのお前らの隊長が夜一さんと浦原さんの義妹だからで、俺に対して敬語なのは俺がお前らの隊長と同じ浦原さんの弟子だから、か?」
「はい、まったくその通りです。理解が早くて助かります」
一護の言葉に対し、にっこり微笑んで時雨は肯定した。
「俺達零番の隊員にとって隊長は絶対です。ですから、隊長の義姉兄である方にも、姉弟弟子である方に対しても敬意は惜しみません」
「・・・随分と慕われてるんだな。お前らの隊長は、お前らに」
「それはもう・・・各々境遇は違うとはいえ、隊長は俺達の恩人ですから」
時雨のそのどこか感慨深い言葉と表情に、一護は唖然となった後少しその意味が気になった。
しかしあえて追求することは止めた。
「そ、それじゃあ・・・俺はもう行くぞ。行って良いんだよな?!」
今までの時雨にあってからの一連の時雨の言動、そして一護は本能的に彼が今の自分では到底敵わないであろう強者である事を察し、少し不安になりながら時雨に尋ねた。
それに対し時雨は面白そうに笑いながら軽く答えた。
「はい、どうぞお好きなように。あ、今の段階では特に援護は必要なさそうですし、俺は一旦引き上げますから。・・・ついでにそこに転がっている斑目も救護隊に引き渡しておきます」
「お、おう・・・」
時雨の一角に対する「転がっている」発言はまともに考えれば酷いものだったが、それを言い返す勇気にあるものはこの場に居なかった。
「あ、ちなみに岩鷲はうちの五席が見張ってますので。確実に無事ですからそう焦らなくても大丈夫ですよ」
「そ、そうか・・・じゃあ、な」
「はい、どうぞお気をつけて」
ぺこりと丁寧にお辞儀をして去っていく一護を見送った時雨は、一護の姿は完全に見えなくなるのを見届けた後、突然一角の傍に来て座り込み微笑んで話しかけた。
しかしその微笑みは完全に黒かった。
「さて斑目・・・お前に選ばせてやろう」
「な、何をでしょうか・・・?」
その時雨の言動に嫌な予感を覚えた一角だったが、次の瞬間それは見事に的中してしまった。
「一、俺が一護殿と交わした言動を全て自主的に忘れる。二、俺が一護殿と交わした言動の全てを俺の手で強制的に忘れる。ただし、二に関しては命の保障はしない」
「・・・・・・・」
それは最早一角にとっては選択という名の脅迫だった。
零番隊がその姿を現してそこまで日数は経っていないが、少なくとも時雨の性格は広く知れ渡っていた。
すなわち、腹黒・・・ある意味で零番隊一の要危険人物だということである。
「さあ、どちらが良い?」
「・・・・・一で、お願いします」
初めから選択肢など用意されていない一角には、戦闘で負けて死ぬということでさえ感じない恐怖を、この時身をもって感じていたのだった。
その返答に満足そうに時雨が笑った時、この場から少し離れたところから花火の音が聞こえた。
そして音がした方を見た時雨と一角は事の成り行きを察した。
「あ――・・・弓親のヤロウやられやがったな・・・」
「みたいだな・・・岩鷲も思ったよりやるみたいだな。まあ、あっちも牡丹が引きずってでも四番隊に連れて行くだろうから、命の心配はないだろうな」
「・・・そうですか」
時雨のこの台詞からまたしても彼の黒さが伺え、この先もこの人には逆らわないようしようという誓いと、もしかして俺引きずられて行くんだろうかという不安を抱え、一角はただ虚しそうに空を見上げていた。












「それなら僕と戦うがいい。僕の弓になら篭っているよ。君の好きな殺意ってやつがさ」
時雨が一護と一角の勝負を見届けた頃、熱の場所で雨竜と織姫は七番隊の四席である一貫坂慈桜坊と遭遇していた。
そして雨竜の弓を見た瞬間、慈桜坊はどうやら雨竜に興味を示したようだった。
「・・・ほう・・・!これは珍しい・・・!貴方はもしや、滅却師ではないでは・・・?」
「そのと・・・」
雨竜が答えようとしたその時、ゴスっという物凄い音がしたと思うと、そのまま慈桜坊はその場に倒れこんでしまった。
その突然の予想外の事態に対し、唖然とする雨竜と織姫に対し、それを起こした張本人たちは平然とその場に立っている。
「よしっ!見事に到着」
「計算ぴったりでしたね!氷室三席」
「当たり前だ!久遠」
そう言って何やら楽しそうに語り合う2人に少し退いている雨竜に対し、織姫は少し遠慮しながらも声をかける。
「あの〜〜・・・」
「「ん??」」
織姫に話しかけられて気がついた2人は、雨竜と織姫の姿を見つめると、ようやくここに来た本題を思い出したかのように手をぽんっとついた。
「ああ、悪い、悪い。すっかりお前達の事忘れてた」
「いえ、あの・・・貴方達は一体?」
「あれ?時雨副隊長から聞いてない?俺達零番隊なんだけど」
氷室のその言葉に雨竜も織姫も空鶴邸での出来事を思い出してようやく気がついた。
「じゃ、じゃあ・・・貴方達が?」
「零番隊三席・副隊長補佐の常盤氷室と」
「零番隊九席・海城久遠だ。よろしくな!」
その明るい好感度を誘う雰囲気か、彼らが自分達の見方である事か、あるいはその両方からなのか、雨竜と織姫は先程までの緊張を少し解いた。
「・・・貴方達は僕達の味方、なんですよね?」
「当然だろ!隊長がそうするって言ってるんだから、俺達だってそうするさ!!」
雨竜の確認する言葉に氷室は少しも間を空けることなく、間髪いれずすぐさまそう答えて見せた。
その言葉を聞いて心底信用した織姫は嬉しそうな声を上げる。
「うわ〜〜。良かったね、石田くん!!」
「あ、ああ・・・」
「いや〜〜、それにしてもお前滅却師なのか・・・・・本当に珍し」
「・・・これはどういうことですかな?!」
久遠が雨竜に話しかけようとした瞬間、少し怒気をはらんだような声が聞こえてきた。
全員がその声の方に目をやると、そこには先程氷室と久遠が登場する際、不可抗力ではあるが蹴り飛ばして倒れさせた慈桜坊の姿があった。
「・・・・・・居たのか、お前」
少し怪訝そうな表情をしながらそう呟いた氷室の言葉に、ますます慈桜坊の不機嫌さは増していった。
「居たのか?!最初からおりましたとも!!ご自分達で蹴り飛ばしておいて何たる言い草!そのうえ、先程旅禍に味方するような言動をされておりましたな?!常盤三席!海城九席!」
「まあ、言ってたな」
「蹴り飛ばしたことに関して言えば、本気で気づいてなかったし。っていうか、事故だな、事故」
きっぱりとそこまで言い切ってしまうこの2人はどうなのだろうと雨竜は感じていた。
否、雨竜でなくてもそうは思うだろうが、少なくとも言った本人達はそう思ってないようだった。
「なんたる・・・あれを事故ですますと?!そのうえ、あっさりと旅禍に味方することを肯定しましたな?!」
「・・・だったら、なんだ?」
「この場でまとめ・・・・・・」
慈桜坊が言いかけた瞬間、何かシュっという音がした。
そして次の瞬間には、慈桜坊は全ての台詞を言い終える前に、本人にも何がおきたのか解らないままその場に倒れた。
その一連の出来事に雨竜と織姫は驚愕した。
「まったく・・・たかだか七番隊の四席如きが。全員が十三隊の隊長格以上の実力の俺達零番に勝てると本気で思ったのか?」
「しかも俺達のうち1人は氷室三席なのに、ですね・・・・・」
「・・・せめて十三隊の隊長格を五・六人くらい一度に相手にできるようになってからかかってこいっての」
完全に呆れ果てているように言う氷室と久遠だが、雨竜と織姫にとっては2人があまりにもとんでもないことを普通に言っているように思えた。
「さてと・・・・・こいつどうします?」
「そうだな・・・とりあえず『鎖結』と『魄睡』でも潰しておくか。・・・こいうタイプ、確か隊長嫌いだったよな?」
「そうですね・・・」
そう言って同意しあった2人の目がきらりと光り、続いて何やら黒い笑い声が聞こえてきた。
そんな氷室と久遠の様子に、雨竜ならずとも織姫まで、この人物達に自分達の安全を任せて大丈夫なのだろうかと多少不安を感じていた。













積み重なった負け犬の山、基ずたぼろに負かされた十一番隊員達を前に、先程からなにやら場違いと言えるような拍手が送られていた。
「いや〜〜、凄いな。下っ端とはいえ本当にあれだけの人数を、しかもあの戦闘狂集団の十一番隊を1人で見事にしとめるとはな」
「そ、そうか・・・?」
「ああ。・・・ちょっと俺の出番なくて残念だけどな」
茶渡に向かってそう苦笑しながら少し残念そうに呟いたのは、零番隊第四席の燈空捺芽だった。
捺芽が茶渡を見つけて自己紹介を終えた時、間の悪い事に十一番隊の隊員達がこちらに向かってくる気配がしたので、捺芽が応戦しようとしたのだが、逆に捺芽の立場上そんな事をしたらまずいだろうと逆に茶渡に気遣われ、言われるままとりあえず危なくなったら出ていくつもりで物陰に隠れて様子を伺っていた。
しかし捺芽が出て行くどころか心配するまでもなく、茶渡は十一番隊員達をあっさりと倒してしまったのだった。
おかげで捺芽の出番はまったくなかった。
「・・・・・・・」
「ん?どうかしたか?」
ずっと残念そうにしている捺芽をただ黙ってじっと見ている茶渡に気づき、捺芽は不思議そうな表情をして茶渡に尋ねる。
「いや・・・悪かったと思っただけだ。そんなに戦いたかったのかと思って・・・」
茶渡のその言葉を聞いて少し驚いていた捺芽だったが、すぐに噴出して笑い出してしまった。
「ああ、そういうことか。いや、別に戦いが好きとかってわけじゃないんだ。ただ、俺のすることが実質的なくなったようなものだから、何しにここに来たんだろう、って思っただけだ」
「す、すまない・・・」
「だからなんで謝るんだって。変わった奴だな〜」
そう言いながらも気を遣った茶渡の性格を捺芽はどうやら気に入ったようでかなり上機嫌だった。
「・・・ところで、一護達は・・・他の皆は無事だろうか?」
「大丈夫だろ。俺以外の零番隊員もそれぞれ援護に周ってる。そしてさっきまで幾つか霊圧の衝突があったが、それに対して俺の仲間の大きな動きはない。動きがないってことは、無事だって解釈できるだろ」
「ああ、確かに・・・」
「お前達の霊圧の感覚って俺達とは少し違うんだよな。だから大体解るんだけど・・・えっと・・・あっちか・・・・・1番でかい霊圧の奴はあっちにいるみたいだけど、行ってみるか?」
「ああ、頼む」
「それじゃ、俺について来いよ〜〜」
こうして捺芽と上手い関係を築くことの出来た茶渡は、捺芽の案内で一護のいる場所を目指すのだった。











幾つかの霊圧の衝突を感じたもののも、自分の味方である者達が全員無事である事を夜一は感じ取っていた。
勿論各々それらの場所にもれなく集まった、自分達にとって友好的な霊圧の存在も。
そして彼女の傍にもその霊圧を持つ者が1人現れ、先程から夜一を待ち続けていた。
夜一がこの場ですることを全てやり終えたと悟った、零番隊第八席・春日湖帆はタイミングよく口を開いた。
「参りますか?夜一様」
「・・・ああ、案内してくれ。湖帆」
夜一のその言葉に湖帆は頷いて深く礼をした。
「それではご案内いたします。我々零番隊の隊舎・・・そして、貴女と喜助様の義妹君であり、我らの隊長・様の現在の家に・・・」
そう言うと湖帆はすっと手を宙にかざした。
「・・・もっとも今は諸事情でご不在ですが」
「構わん・・・いや、その方が良いのかもしれん。今は・・・まだ・・・」
「・・・・・そうですか。では、もう何も申し上げません」
そして本当に湖帆はそれ以上何も言うこともなく、ただ静寂な空間に零番隊隊舎のある空間へと行くための合言葉をためらいもなく唱えて見せた。
そして空間への穴が開き、湖帆に案内されてそこへ足を踏み入れようとした時、夜一は振り返って瀞霊廷中を見渡しただ一言だけ呟いた。
「―――死ぬなよ皆・・・決して・・・」











あとがき

今回主人公出番なしですいません。
そして話の都合上、一角が一護に更木隊長の事を教える場面もカットですいません;
主人公が四深牢でルキアと話している間の各零番隊員達の動きでした。(琥珀と霧生は別件任務なのでいませんが;)
とかいいつつ、出番に極端に差が出てますが・・・・;
ようやく四席と八席のご登場でございます。
これにて零番隊員全員がようやく揃いました;(長かった)
四席の捺芽は人当たりの良い男性、八席の湖帆はクールな女性です。
ちなみに他の隊員達に関しては、時雨は出て来るたびに黒くなっていってます・・・
というよりも、基本的に零番隊員達は主人公がいなかったら黒さが出てきてしまうみたいです・・・
次回は主人公の方に場面が戻ります。


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