The star of fake fate
2:Meeting
遺跡というからには、朽ちた瓦礫の山や、古びていて苔が生えている、例えるならどこかじめっとしているような印象、そんな先入観があった。
しかし実際に現場にきて見るとその考えは見事に覆された。
確かに昔からの建造物のため、崩れてしまっているところはあるが、それでもじめっとしているような嫌な感覚は受けない。
むしろどこか凛とはった空気がしてとても心地がよかった。
現在エド達がいるのは中心部にあたると思われる、地下の深部にある例の考古学者が読めなかったという文字の前。
その文字が1面に書き記された壁は、壁というよりはむしろ1枚の石版に見えた。
そしてその文字に関してあることがすでに解っていた。
「・・・ったく、どこが錬金術に関係してるんだよ」
「まあ・・・似てるから間違えても無理ないかもね」
不機嫌な表情で悪態をつくエドを苦笑しながらアルがなだめようとする。
彼らの言うと通り、壁に刻まれていた文字は錬金術に関わりのあるものではなかった。
よく似ているため錬金術師でないものが間違えても仕方がないが、そのせいで無駄足を踏まされた側としてはたまったものではない。
しかしいくら先方の勘違いといえど、大総統直々の命令のため手ぶらでは帰れない。
そこで現在軍部一同が文字の書き写しと、その他の遺跡の調査を一通り行っているのだ。
その間、エドとアルはただの待ちぼうけである。
「あ〜・・・暇だな・・・・・・ん?」
ふとエドの眼に壁に刻まれた小さな文字とレリーフが目に入った。
おそらくここは考古学者達も気づかなかったのか、少し土がこびり付いたままの状態で、完全には何が刻まれているのか解らなかったため、エドはその土を綺麗に落として、再度それを確認した。
それが刻まれている壁は例の文字が書かれている壁の側面にある壁であり、刻まれている文字は例の文字と同じもの、そしてレリーフは・・・
「これ・・・星か?」
そのレリーフにエドは興味を持ち触れてみた。
すると触れた瞬間、触れた指先から身体全体を電気のようなものが駆け抜けていく感覚がしたと思った途端、エドはアルの見ている目の前で音を立てて意識を手放した。
「に、兄さん?!」
アルは慌ててエドの頭を持ち上げ、身体を揺すりながら必死に呼びかけるが、エドが目を覚ます気配はいっこうにない。
「鋼の、こっちはおわ・・・」
全ての作業が完了したことを告げようとエド達の傍に歩み寄っていたロイは、姉弟の様子の可笑しさに言葉を途中で止め、一瞬その動きも止めた。
しかし改めて確認した2人の様子・・・
蒼白い顔をして気絶しているエドと、それに対して為すすべなく慌てふためいているアルに、ロイは慌てて駆け寄りアルに状況を尋ねた。
「何があった?!」
「兄さんが・・・突然倒れて・・・・・」
アルのその言葉は多少抽象的ではあったが、それだけでロイの手に汗を握らせるには十分すぎたものだった。
中央の軍事医療施設、1室のベッドに現在エドは寝かされていた。
エドが倒れたことにより予定よりも早く遺跡から切り上げ、中央に帰ってきてすぐにこの場所に駆け込んだのだ。
しかし国内でも指折りの名医であるこの施設の医者ですらエドの容態は一切不明。
その診察の際にエドの左の鎖骨に何かの紋様とでも思われるような、誰も見たことのない痣ができていたが、これに関しても一体なにであるか皆目誰にも解らなかった。
そしてエドが気絶してからもう数時間。
一向にエドの瞳が開く気配はなく、室内にいる者達はただ心配そうに見守っているだけであった。
「・・・兄さん・・・・・どうなるんでしょうか?」
「・・・・・・」
アルのその言葉に誰も答えるものはいなかった。
否、最悪の事態を想定して誰も答えたくなかったといって良い。
ただ室内にはしんっと静まり返った嫌な空気だけが満ちていた。
「こ・・・・・とま・・・・・・い!」
「・・・た・・・・・ん・・・・」
突然外の廊下が何故か騒がしくなり、室内の者は一斉に扉の方を見る。
「・・・なにかあったのでしょうか?」
「さあな・・・」
しかし普段なら軽く流す場合もあるが、現在の状況でそれを冷静に受け止められる者など1人もこの場におらず、特にその中でもよりいっそう不機嫌になったロイが文句を言おうと扉に近づいた。
しかしその瞬間扉は勢いよく開け放たれ、そこから室内に入ってきたのは、目を見張るような銀髪、紅眼に黒を基調とした服を纏った美少年。
その少年の容姿に加え突然の出来事に、一瞬全員が少年に眼を奪われていたが、アルだけがあることに気が付き「あっ」という声の後、少年を指差してある事を口にした。
「・・・この前、街ですれ違った」
あの時自分の落としたりんごを拾ってくれた少年が、なぜここにいるのかとアルが呆然と思っていると、彼は迷いもなく一直線にエドの近づいていった。
それに対し、呆然としていた全員はすぐに正気に戻り慌てたが、次に少年がとったエドの服の襟元を捲り鎖骨部分を曝け出さすという行為に更に慌てて。
「っ、君は何を?!」
「黙ってろ」
咎めるというよりも敵意を含んだロイの言葉、少年は臆するどころか凛とはったその声で逆に牽制した。
その声があまりに威厳を含んだもののように感じられ、室内にいた全員が一瞬硬直してしまう。
その一瞬の間に少年はエドの左の鎖骨、紋様のような痣のある場所に自分の手を重ね合わせておき、力をこめて強く押した。
すると次の瞬間その個所から微かな光が放たれ、少年は1つ息をつくと手をエドの鎖骨からどけた。
「・・・これでなんとか」
「君はいったい、なにを・・・」
「兄さん!」
問い詰めようと少年にロイが駆け寄っていこうとした時、突然上がったアルの声に彼が見ている方向を反射的に見ると、そこにはぼーっと瞼を上げたエドが起きていた。
「はが・・ね、の?」
「・・・あれ?アルに准将に・・・大尉も・・・・・皆何してるんだよ?それに、ここは・・・?」
エドのそんな普通の寝起きのような普通の言葉に、エドが起きたことに感動を噛み締めていた一同はがくっと肩を落とした。
その様子に今度は頭がはっきりとしたのか、エドがいつもの調子で「なんだよ?」と怪訝そうな表情を見せた。
「・・・まるでアクラだな」
そんな事をぼそりと呟いて溜息を零す少年の姿を確認したエドは、叫び声をあげて少年を指差した。
「てめーはこの間、俺達に『遺跡に行くな』とか訳わかんねーこと言いやがった奴!?」
「ああ・・・ま、その忠告がどうせ無意味だってのは解ってたけどな」
「それどういうい・・・」
エドが眉を潜めてたずねようとした瞬間、少年が何かに気が付いたように瞳を見開いたのと同時に、エドが半身を起こしているベッドのすぐ傍の窓がこなごなに割れた。
突然のことに誰も瞬時に対処ができず、また対処していたとしても間に合わず、少なくともエドは硝子の破片で大怪我をおう。
そのはずであった。
誰もがそう思っていたことは現実にはならず、窓の破片は何か光の壁のようなものに阻まれてエドに降注いではこなかった。
それどころかその光の壁の作用か硝子の破片はすうっと消滅した。
そしてその場にいる全員が呆然としながらあることに気が付いた。
その光の壁を作り出しいるのは、硝子の破片が降ってきた方向に手をかざしているその少年だということに。
「・・・お前いったい」
「やっぱり仕掛けてきたか」
エドの言葉を聞いているのか聞いていないのか、どちらにしろそれには答えず、しかし何やら状況を察しているような言葉を少年は呟いた。
「ブリック!シャルト!」
「おう!ようやっと出番か?」
「は、はい・・・お呼びでしょうか・・・?」
少年が呼ぶと突然ワインレッドの髪に深緑の瞳の人当たりの良さそうな少年と、アクアマリンの髪にペールブルーの瞳の気の弱そうな少女が現れた。
そしてその2人に銀髪の少年は指示を出す。
「シャルトはこの場で結界張ってこいつらを守ってろ。ブリックは俺と一緒に、外の敵の掃除だ」
「は、はい・・・・・」
「了解」
指示が終わるとそのままの勢いで銀髪の少年とブリックと呼ばれたワインレッドの髪の少年はそのまま壊れた窓から外に飛び出していった。
そして室内に残されたシャルトと呼ばれたアクアマリンの髪の少女は、すっと手をかざすと同時に口を開いた。
「『親身なる加護の炎 女神の御手より賜りて 我らを守護する盾となれ』」
そこまで口にすると1度すぅっと息を吸い込み、また先ほどよりもしっかりと言葉を紡いだ。
「『護法火盾』」
シャルトがその言葉を口にすると彼女の手から光が溢れ一瞬視界が覆われ、次の瞬間には何事もなかったかのようにその場に息をついているシャルトがいた。
「えっ?なにも、起きてない?」
「・・・おいっ、お前今何したんだ?」
納得がいかないエドはシャルトの声をかけるが、エドのその声にシャルトはびくっと肩を震わせ、まるで怯えた子犬のような表情をする。
その予想外のシャルトの様子にエドは多少戸惑いを覚える。
「え・・・えっとだな・・」
「ふっ・・・ブリック〜〜〜」
フォローを入れるよりも早くシャルトは瞳に涙をため、あと寸前で涙がこぼれ本当に泣き出しそうな状態になってしまった。
こんなはずではなかったと慌てるエドとさすがにロイとアルも対処に困っている。
その3人を見かねたように溜息をつくと、ホークアイがシャルトに近づき、彼女の身長に合せて身体を汲み、優しく頭を撫でてあげながら微笑んで声をかける。
「そんなに怯えなくても良いのよ。エドワードくんもあなたを責めてるわけじゃないんだから・・・」
「・・・えっ・・・あの・・・」
シャルトはその優しい声と表情に少し落ち着いたのか、涙を拭って申し訳なさそうに応える。
「す、すいませ・・・あたし、むかし・・・からこう、で・・・」
「別にいいのよ。ねえ、良かったら私達に詳しく説明してくれないかしら?」
ホークアイのその言葉にこくんとシャルトは大人しく頷いた。
その素直な返答にホークアイはまた頭を優しく撫でてあげながらふわりと微笑む。
「じゃあ、まずあなたはさっき何をしたの?」
「えっと・・・魔法で・・・・・結界をはった・・・んです」
「「「魔法?!」」」
あまり聞きなれない単語に思わずエド、アル、ロイの3人が声を上げたため、またシャルトが驚いて肩を震わせた。
その様子にホークアイはすかさず後ろの3人を眼で諌めると、すぐさまシャルトにまた優しい微笑を向けて落ち着かせてやる。
「驚かせてごめんなさいね」
「い、いえ・・・・・」
「それで、その魔法というのは・・・本当なの?」
「はい・・・今この建物・・・全体に結界をはって・・・・・まもって、ます」
「守るって・・・何から?」
「・・・それは、あの・・・・・全ての詳しいことは・・・アイス様が戻られて、お聞き・・・・・下さい・・・」
「アイス・・・『様』ぁ?」
「ひょっとして・・・先程の銀髪の少年かい?」
ロイの的を得た言葉にシャルトがこくりと小さく頷く。
「あ、あたし・・・説明苦手ですし・・・アイス様が・・・こうい、う説明・・・・・1番向いて・・・らっしゃいま、す・・・・・」
確かにこの気の弱く、途切れ途切れにしか言葉を話さないシャルトからではあまり的確な情報を仕入れられないと4人は判断した。
そして暫くの間、幾つもの謎を抱え、それゆえ多少の不快感を抱えたたまま、一同は先程ここから出て行った2人をただ待つこととなった。
彼らが帰ってきた時、それがエド達自身がとんでもないことに巻き込まれたと知る時である。
あとがき
・・・・・思ったよりもながくなった〜〜〜〜〜!!
こ、これはいったいどうしてなんですか?!
本当ならここでもうアイスの説明とか入ってるはずなのに・・・
さすが行き当たりばったり王な私!(←誉め言葉じゃないって・・・;)
ホークアイ姉さんにシャルトが微妙に懐きました(多分;)
でもやっぱりシャルトはブリックとセットじゃないと書きづらい・・・;;
アイスがエドのことを「アクラみたい・・」と言った理由、お子様読んで下さっている方には解ると思いますが、アクラの寝起きの悪さをさしていった言葉で御座います。(でもまたアクラのが酷い気が・・・)
ちなみにアイスを扉前で止めようとした守衛さん(?)ですが、話の中に入れられませんでしたが、見事アイスの手刀にやられて軽く気絶してらっしゃいます。(おいおいっ)
次回で「とんでもないこと」発覚です。
ええ・・・ある意味本当にとんでもないです・・・・・・・・;;