The star of fake fate
3:Matter
中央の軍事医療施設の門をくぐると建物に入るまでの間大きな庭園がある。
木々が並び花が生き生きと咲くその緑溢れた美しいその庭園は今、その姿を半ば破壊されていた。
石畳でできた道は抉られ瓦礫が散乱し、そしてあたりには幾つかの体が傷を負って横たわっていた。
しかししばらくすると、その横たわっていた体の全てが、霞のごとく掻き消えてしまった。
「む?・・・なんと奇怪な・・・・・」
その様子を見たこの瓦礫の山を築いた1番の原因であるアームストロングが、不可解そうに眉を寄せてそう言った。
そして少しの間じっとそちらを見ていたが、すぐにあることを思い出し後ろを振り向いた。
「大丈夫か?きみた・・・」
「思ったよりも楽でしたね」
「そうね〜」
気遣う言葉は平然としたその明らかに少年・少女と思われる2人の人物の声によってかき消された。
「そういうあなたの方が大丈夫ですか?」
「あ、ああっ・・・大丈夫だが・・・」
くるりとこちらを向き、逆にそう尋ねてきたブラウンに紫に瞳の少年に、半ば呆然として冷汗を流しながらそう答える。
「あっ、もう出てきても大丈夫よ」
淡い紫に緑の瞳の少女がにっこりと笑い、ある方向を見ながら手招きをすると、辺りを見回し呆れながらヒューズが姿を見せた。
「・・・それにしても、また派手にやったなアームストロング中佐」
「壊して造ることは大宇宙の法則ですぞ、ヒューズ大佐。・・・それに・・・・・」
自身満々にお決まりの台詞を言ったアームストロングではあったが、その後かなり深刻な表情を作り冷汗を流しながら言葉を続けた。
「これくらいで済んでまだ良かった方です。・・・あの者達の強さははっきり言って尋常ではありませんでした」
「そうか。まあでも・・・どっちかというと、突然現れて助けに入ってくれたあいつらの方が活躍してたな」
ヒューズのその言葉にアームストロングは思わず言葉に詰まってしまった。
辺りをもっとも破壊したのはアームストロングだが、敵を主に倒すにいたっていたのは、今目の前にいる謎の2人組だった。
エドの見舞いに揃って来たところ、突然正体不明の人物達が現れ襲ってきた。
そこを助けに現れたのが今目の前にいる2人だった。
もっとも、この2人も襲ってきた者達同様に正体不明であることには変わりないし、明らかにでたらめな強さだというのも先程の戦闘で解っていた。
「なんていうか・・・錬金術師以上のデタラメ人間の登場だな・・・」
先程の戦いで2人は錬金術を使っていなかった、それどころか彼らの知らないような不思議な方法で戦っていた。
それゆえ出たヒューズの言葉に、すかさず少年の方が反論する。
「失礼ですね。誰がデタラメ人間ですか」
「まあ、そう思われても仕方がないのかも」
少年の言葉にフォローを入れるように少女が苦笑しながら意味深にそう告げる。
「とりあえず、貴方達の元々の目的地に行きながら、説明をしましょうか」
少女の思いもよらないその言葉に、ヒューズとアームストロングの2人は呆然と互いに目を合わせていた。
すでに夕暮れの時刻。
病室は窓から差し込む夕日によって赤く染まっていた。
そしてその夕日が差し込んでくる窓は、何事もなかったかのように元通りの姿に戻っていた。
エド達が錬金術で直したのではない、直したのは今エド達の目の前で椅子に腰をかけて座っている、先程ブリックと共に帰ってきたばかりのアイスだった。
しかも窓を直す際に錬金術は一切使ってはいなかった。
その根拠として、窓を修復する際に練成反応がまったく起きなかったのである。
これもシャルトの言っていた魔法というものなのだろうかと思っていると、アイスは突然口を開き思っていた以上の爆弾発言をした。
「まず始めに単刀直入に言っておく。俺達は別の『世界』の者だ」
アイスのそのさらっとした一言に、アイスの仲間であるブリックとシャルトを除く全員の思考が一時停止した。
そして最初に思考が回復したのは戻ったのはホークアイだった。
「ちょっと待ってちょうだい。そんなこと言われてもとても信じられないわ」
「だろうな。それが正常な反応だ・・・」
明らかに予想していたというように、アイスは冷静な対処をする。
「だがこの『世界』には魔法なんてものは存在しないだろう?」
アイスのその言葉に確かにと心の中で頷いてしまった。
練成反応がない上に、あきらかに錬金術とは思えないような術。
御伽話の中だけに存在する魔法というのがああいうものであるなら、多少は納得できるところがある。
「とりあえず自己紹介しておこうか。俺の名前はアイスリーズ=パストゥール。アイスでいい」
「俺はブリック=ジャンクソンや」
「あの・・・あらてめ、まして・・・シャルトルーズ=マルテル、です・・・シャルトと、お呼び・・・・・くだ、さい」
今まできちんとなのっていなかったのと、そして気を取り直すためのように自己紹介するアイスにブリックとシャルトの2人も続く。
「ちなみにお前達の事は『知ってる』からいいぞ」
「知ってる、て・・・・・?」
「俺の特殊能力の1つ『知詠』・・・予知、読心、遠見など、様々な本来『知らない』、『知れない』はずのことを『知る』能力。それが俺には備わっている」
「・・・それが本当なら凄い話だが」
「あっ、ひょっとして・・・僕達が遺跡に行くって知ってたのも・・・」
「俺の『知詠』の能力だ」
アルの言葉にすかさず肯定の言葉を告げたアイスに一同はただ呆然とした。
「更に言えば、俺はお前があの遺跡に言って意識不明に陥ることまで知ってたぞ」
アイスのその一言に、今まで呆然としていた者の内数名からすぐさま非難の声がとんだ。
「だったらどうしてそう教えてくれなかったんですか?!」
「アルフォンスくんの言うとおりだ。君が本当にそれが解っていたというなら、今回のようなことは回避でき」
「できなかったよ」
しかしその言葉を途中で遮り、アイスは淡々と言葉を続けた。
「例え全部説明してたとしてもそいつは必ずその遺跡に行ってた。俺の『知詠』で『知った』ことは絶対だからな」
「そんなことは解らないだろう!」
「解るさ。『知詠』で『知った』未来を回避できるのは俺の『運命歪曲』だけだが、俺はまだそれは身に付けられてない。・・・・・それに」
アイスは一瞬ちらっとエドを見た後、何故か深い溜息をついた後再び口を開いた。
「そいつが人に忠告されたくらいで止めるような奴か?そんな奴なら、昔第5研究所とやらに進入したあげく、大怪我して入院なんてしてないだろう?」
アイスのその言葉にエドとアルは目を大きく見開いて互いに顔を見合わせた。
エドの入院云々の話はともかく、第5研究所に進入したなどということを知っているのは、進入した張本人のエドとアル、2人を助けにきたロスとブロッシュと、後で事情を聞いたヒューズとアームストロング、後は研究所内にいた件のウロボロス関係者だけである。
そんなことを知っているとなると、彼の能力が本物であると認めざるを得ない。
そしてアイスが第5研究所のことをエドとアルにだけ聞こえるように言ったことに対し、2人は心の中で素直に感謝していた。
もしも全員に聞こえるように言っていたのなら、新たな問題が発生したことが容易に予想できたためである。
「まあ、それで話を最初に戻すが。別の『世界』の者である俺達がこの『世界』に来た理由は探しモノがあるからだ」
「探しモノ?」
「ああ・・・といっても、この『世界』とは限らないんだけどな。実際外れだったし・・・・・・どこの『世界』か解らないから・・・しらみ潰しだ。なにせこれに関しては俺の『知詠』でもすぐ近くに行かないと『知る』ことはできないしな」
「で、その探しモノって?」
「俺の仲間になるはずの10人・・・その内の2人、『星妃』と『白勇』だ」
そこまで言うとなぜかアイスは言い辛そうというよりも、複雑そうに口篭もりながら言葉を続ける。
「・・・『星妃』っていうのは、10人の仲間の中でも特に重要で・・・・・・その、『星妃』の通り俺の妃になる人物で・・・・・」
「・・・・・ようするに、奥さん探し?」
エドが身も蓋もないことを言ったのだが、それが全て否定できないことにアイスは溜息をついた。
しかし単なる『妻探し』と呆れ返っていたエド達は、次に告げられたアイスの言葉によって平静ではいられなくなってしまう。
「・・・その『星妃』がお前だ」
先程よりも深い溜息の後、しっかりと指を指されたエド自身、そして室内にいたその事実を予め知らなかった者、計4名がしばしアイスが何を言ったのか正確に理解できなかったため、フリーズしてしまったが、回復したすぐ後の1人が信じられないと言う顔つきをし、残りの3人が悲鳴に近い叫び声えを上げた。
そしてその悲鳴に近い叫び声をあげた3人はアイスに詰め寄る。
「ちょ、ちょっと待ってください!そんなデタラメなっ」
「その通りだ!そんな横暴なことがあってたまるか!!」
「嘘だろう?!なあ?」
「ああ、嘘だ」
詰め寄ってくる3人の恐ろしい形相に対し、アイスはさらりと冷静にそう言って見せた。
そしてその言葉から暫くの沈黙の後、がしっとアイスの胸倉をエドが掴み上げる。
「お〜ま〜え〜な〜〜〜。冗談にもほどがあるぞ」
「・・・仕方がないだろう。お前は正式な『星妃』じゃないが、今は『星妃』ということになってしまっているんだ」
「それはどういうことなの?」
正気に戻った後も1人冷静に事の成り行きを見守っていたホークアイの言葉に、エドが一瞬手を緩めたのを見計らいアイスはエドの手を軽く放させた。
「お前達が行った遺跡に文字と一緒にレリーフが描かれた壁があっただろう?」
「・・・あったけど、それが?」
「あれは俺達の敵が用意したトラップの一種みたいなものだ。あれに触ったものを強制的に偽の『星妃』にしたてあげ、本物の『星妃』を撹乱させるのが狙いだ」
「・・・・・ちょっと待って。あれには私も触ったけど、何ともなかったわよ」
偽の『星妃』になる対象はその名から明らかに女性だろう。
あのレリーフに触れたのは他にも大勢いたが、その内女性で触れたのはエドとホークアイの2人。
もしアイスの言葉が正しければ、ホークアイもそうなっているはずである。
「それとも・・・すでにエドワードくんがそうなっていたから」
「いや・・・そうじゃない。こいつとお前では決定的な違いがある」
「・・・違い?」
「・・・・・お前はこの『世界』の始祖に会った事があるな?」
アイスは真剣な眼差しでエドにそう尋ねたが、エドは眉を潜め怪訝な表情を作る。
「始祖って、なんだ?そんな奴には会ったことないけど」
「いいや、会ったことあるはずだ。確かお前達は、『真理』という名で呼んでいただろう」
アイスが口に出したその名に、エドとアルの表情が明らかに強張った。
その名を聞いた瞬間に2人の中であの時の様々な事が走馬灯のように駆け巡っていた。
そしてエドは冷汗をながら多少沈痛とも取れる面持ちでアイスに答えた。
「・・・それならある」
「あれはこの『世界』の創造主だ。俺達はそういう『世界』の創造主のことを『自然始祖』って呼んでる。それと会っていることが条件になってたわけだ」
「まあ、かなり確率の低い罠やったけど・・・実際引っかかったしな」
「・・・悪かったな」
ブリックの言葉と苦笑いに、引っかかった当の本人であるエドは不本意というように不機嫌な表情を作ってみせる。
「・・・それで困ったことに、お前が偽の『星妃』である限り、俺も本物の『星妃』を見つけられないんだ」
「そういえば、さっき撹乱されるって言ってましたね」
「ああ・・・で、1週間後にあの遺跡にもう1度行き、お前の鎖骨の所にある偽の『星妃』の紋様を消さないと・・・」
「消さないと?」
「本物は2度と見つけられない。それどころか、本当にお前が俺の『星妃』になることになってしまうんだ」
ぴしっと空間に亀裂が入ったような気がした。
そしてまたしても3人からの抗議の叫び声が響き渡った。
「そんなのありですか?!」
「断じて認められないぞ!」
「なんで俺がそんな目に合わなきゃいけないんだよ?!」
さらに詰め寄って3人は大騒ぎを続かねなかったが、突如として響いた銃声に一瞬の内に静まり返る。
「「「・・・・・・・・・」」」
それはとても馴染みのあるもので、3人はその音を発生させたであろう人物の方向を一斉に向いた。
そして3人がこちらを見たのを確認すると、にこっと目は笑っていない笑顔を見せる。
「3人とも。気持ちは解りますが、説明が聞けないので落ち着いてください」
「「「・・・・・・・・はい」」」
肩を多少震わせ、冷汗を流しながら3人はこくこくと同時に頷く。
すでに予想済みだったのか、アイスはただ冷静な面持ちでいる。
しかし気の弱いシャルトはブリックにしがみ付いて怯えているようで、ブリックがさすがに多少非難の目をホークアイに向ける。
それに気がついたホークアイが申し訳なさそうに苦笑を浮かべる。
「ごめんなさいね。怖がらせて・・・」
「い・・・いいえ・・・」
「・・・まあ、シャルトはなんかしらんけど、あんた気に入った見たいやから今回は多めに見るけど・・・・・次からは気ぃつけてな」
「はい」
どうやらあちらはかなり穏便にすんだようで、シャルトの怯えも収まり、ブリックもいつもの状態に戻っていた。
「・・・で、話を戻すが。はっきり言わせてもらうと、俺も冗談じゃないだ」
「・・・・・どういう意味だよ」
「別にお前がどうこう言うわけじゃない。ただ・・・ちゃんとした『星妃』じゃないと、『世界』にとっても困ったことになるし。なにより・・・・・・」
勝手に結婚相手になるかもしれないなどと言われ、しかも何か自分に不満があるのかと誤解したエドはあからさまに不機嫌な表情になったが、アイスはすぐにその考えを否定した。
しかしその後のアイスの言葉はエド達アイスと知り合って間もない者達には予想外の答えだった。
「恋愛なんかのどこがいいんだ!!」
「「「「・・・・・・・・・はっ?」」」」
きっぱりはっきり、嫌そうに言ったアイスの一言に、自然と目が丸くなっていく。
そして何やらぶつぶつといい始めたアイスを暫く見つめた後、助けを求めるようにエド達はブリックの方を見た。
その視線にブリックも少し困ったように苦笑すると口を開く。
「え〜と、つまりやな。アイスは恋愛感情がどういうもんなんか・・・正確にはどうええもんなんかまったく理解できんのや。というよりも、理解したくないん、かなぁ」
「・・・・・なんで?」
「・・・・・日頃から両親の場所を問わない万年新婚ラブラブバカップル的ないちゃつきっぷりで恥ずかしい思いをしとるから」
ブリックのその一言になんだかエド達はアイスに同情したい気分になった。
どれだけのものか解らないが、確かにこの歳で両親がそんな状態なら、恥ずかしくて恋愛というものが理解しがたくなっても仕方がないのかもしれない。
「まあ、それ以外にも『星妃』でないと、恋愛感情持てんらしいしな。アイスは・・・」
「なるほど・・・文字通りの運命の相手と」
ホークアイの的確な言葉を有難がりながらブリックはこっくりと頷く。
「好きでもない相手と結婚してもええことやないしな」
「そういうことだ・・・・・・本当に俺が『星妃』に恋愛感情持つのかは、俺自身も疑わしい話だけどな」
どうやら一応今までの周りの話は聞いていたらしいアイスが、深い溜息をつきながら額に手をあてながらそう告げる。
「とにかく、恋愛感情云々はともかく、本物の『星妃』とだと少なくとも『世界』のためにはなるが、偽のお前だと『世界』のためにもならないからな」
『世界』のためにもならず、好きでもない相手との結婚など最悪以外の何ものでもない。
このときばかりはエドとアイスの2人は同調して溜息をついた。
「で、でも・・・1週間後もう1度あの遺跡にいけば、そうならなくても済むんですよね?!」
確認するアルの言葉にアイスは静かに頷いた。
「ああ。あの遺跡の例の場所に隠し扉がって、そこからさらに遺跡の奥にいける」
「・・・まだ奥があったのか?」
「そうだ。で、その1番奥に小さな泉がある。そこで1週間後の午後6時にあの泉で体を清めていれば紋様は消え、晴れてお前は自由の身、というわけだ」
「で、消せなかったら・・・さっき言った通りそのままってわけか」
「・・・それでころか、お前が死んでても紋様の効力は持続するから。奴らにしてみれば、手っ取り早く結果をだすため、お前を殺そうと狙ってくるだろうな」
「そうか・・・・・・・はぁ?!」
アイスのその言葉にエドは本日何度目かになる大声をあげ、他の面々はあまりのことに今度は固まっていた。
「・・・さっき窓が割れたはお前を狙っての攻撃が原因。俺とブリックが出て行ったのは、攻撃をしたそいつらを倒すため。・・・理解できたか?」
アイスのそのあっさりとした言葉にそれは理解ができたが、しかしあまりに理不尽なことの数々にエドの思考は完全に怒りの方向に傾いていた。
「ふっざけんなよ!」
「それはもっともだが、仕掛けた本人達に言ってくれ」
「・・・でもあまりにも理不尽ですよ」
「まあ、奴らにしても、お前が目を覚ましたんだから、誤算といえば誤算なんだよな」
「どういうことだ?」
「眠っているということは、自分では動けないということ。そうなれば、殺す側にとっては狙いやすさも増す」
だからと言って決して許せる状況下でないのは確かだったが、アイスの言葉に一同は不覚にも納得してしまった。
しかしそこでエドはふとあることを思った。
「じゃあ何で俺今起きてるんだ?」
「それは、お前の刻まれた紋様に俺の魔力を流し込んで眠りの効果を一時無効化したんだよ」
アイスのその言葉でその時その場にいてその行動を見ていた3人が、「そういういみがあったのか」と心の中であの時の行動に納得していた。
「だがあくまで一時。応急処置みたいなものだからな。もし1週間後その紋様を消せなかった場合、お前は偽の『星妃』のままでいるどころか、一生眠り続けることになる」
「なっ・・・・・・・!」
それはある意味死んでしまっているのと同じことなのではないかとその場にいた全員は思った。
実際には十分そうだといえることだった。
『結婚相手』や『世界』のことよりも、エド自身やエドと親しい者達にとってはこちらのほうが遥かに重要なことだった。
それは下手をしたらエドが永遠にいなくなるのと同じことであるから。
「まあ、それを避けるためにも、そしてお前を殺させないよう守るためにも、俺達がここにきたわけだし」
「アイスの言う通りや」
「は、はい・・・・・・」
なんだか見た目はエドとそう変わりのない子供で、若干の頼りなさを思わせる。
しかし外見だけで人の実力を判断してはいけないのは、目の前に良い例が2人ほどいるし、それに彼らの先程の行動や能力などを多少見せられ、それなりに信用してもいいのではないかと4人は思った。
「・・・いないよりはましかもな」
「そうだね」
「まあ、何かあっても私が守ってやろう」
思いもしなかったロイのその言葉にエドは頬を少し赤らめ、心臓を跳ね上がらせたが、それを隠すように悪態をついてみせる。
「・・・・・いらねーよ」
「そうですね。准将だと下心がありそうでし」
「・・・あのね」
「准将はともかくとして。私達も協力するからがんばりましょうね」
ロイの少し悲しげな抗議の声をさらりと無視した上、完全に遮ったホークアイがにっこりと微笑んでエドを安心するようにそう告げた。
ちなみにこの場合の「達」に含まれている人物達が、この事を知った時の表情を思い浮かたアルは苦笑いをこぼした。
「・・・大丈夫だ。何があっても奴らの思い通りにはさせない。それにお前は・・・・・・」
「なんだ?」
「・・・いや、やっぱりなんでもない」
何かを言いかけたと思えば、急に黙り込んで何か考えたあと、先を言うのを止めたアイスにエドは首を傾げたのだった。
「まあ、とりあえず・・・・・すぐに退院できるだろうから、近いうちに俺達が今住み込んでるところに」
「聞いたぞ、エドワード=エルリック!!」
アイスの言葉を途中で中断させた大声と病室の扉を半ば壊した力の持ち主の登場で、病室内には蒼くなる者、何が起きたか解らなかった者等が続発した。
そして最初に正気に戻ったホークアイ中尉が冷汗を流しながら彼の名を呼んだ。
「・・・アームストロング中佐」
「なんたる事だ!非道な者達の陰謀により、想い合ってもいない者の妻になるかもしれないどころか、命の危機にまで晒されるなど!」
ホークイアイの呼びかけも明らかに耳に入っていないアームストロングは、延々と涙を流しながら切々と語り続ける。
そして未だ正気に戻れていなかったロイの肩を誰かの手がぽんっと叩いた。
「よっ!ロイ」
「ヒューズ・・・・・」
その肩を叩いた手と、自分を呼ぶ声にようやくロイは正気に戻り、多少引きつった顔でヒューズの方を見ると、ヒューズはいたって楽しそうに話し掛けてきた。
「いや〜、エドに婚約者候補ができたんだって?おお、あいつか?ん〜〜・・・歳的には近いし、外見的にもばっちりだな。こりゃ、うかうかしてたらお前危ないんじゃないか?」
「大きなお世話だ!!」
実際に歳の関係でアイスという存在に危機感を持っていたロイは、それを忘れてしまおうとしたところに痛い攻撃を仕掛けられて怒りを露にした。
「・・・なあ、ウォール、ルシア。あの2人になんて説明したんや?」
アームストロングとヒューズの2人と一緒に入ってきたブラウンの髪の少年と、紫の髪の少女に半ば放心状態になりながらブリックは尋ねたが、当の2人は平然とし答えた。
「別に、特別なことなど言っていませんが」
「そうそう。本当のことしか言ってないし」
2人の言葉を聞き、「それでこの状態か」と思ったブリックは、この騒ぎになんだか親達の馬鹿騒ぎの中にいるようでとても複雑な気持ちだった。
「ご苦労だったな。2人とも」
その騒ぎをまるで予想していたように、否『知っていた』のであろうアイスだけが冷静に2人に声をかけた。
「いいえ、当然のことです」
「ま、結構楽勝だったしね」
そういい終えアイスが頷くのを確認すると、2人は現実逃避したくなっているエドの傍に近づく。
「ウォールナット=クロサイトと言います。ウォールと呼んでください」
「カノン=セルシアン=ディヴィウス。ルシアって呼んでね」
「「これからよろしく(お願いします)」」
「・・・・・よろしく」
まるで慣れているかのようにこの騒ぎの中平然としながら挨拶をしてくるウォールとルシアの2人に、まるですさまじい生き物でも見るかのような目でエドは弱々しく挨拶を返したのだった。
これからこの調子で本当に自分の身は大丈夫なのかと不安を抱えながら。
騒ぎを聞きつけた看護士が怒鳴り込んでくるまで後5分。
あとがき
なんか思ったよりも長引きました;
これどちらかというと今回はギャグの部類なんでしょうか?
最後のあのシーンなんか特に・・・・・・・
ちなみにアイスの本性はあの恋愛感情について語っている方です;
まあ、別に本人も意識してるわけじゃないんですけどね・・・
なんか今回の展開はとっても怒られそうです;(石は投げないでください!)
まあ、とりあえず申し上げるならば、アイスのお相手はすでに決定済みです。
そしてアイスがエドに言いかけて止めたことと、私が腐ってもロイエドファンであることに注目してください。