The star of fake fate
5:Attack
万人にとっては気持ちをが洗われるような快晴も、それとはまったく正反対の曇りきった心情である彼にとっては、嫌味としか思えないような空の蒼さであった。
その彼はというと、本日の自分の『パートナー』と一緒に会場中の視線を釘付けにしていた。
「・・・・・・・・」
「しかし驚いたな・・・」
「・・・なにが?」
「いや、随分と女性側のダンスも上手いと思ってね」
本来なら嫌そうな表情を作りたいのだろうが、必死になって顔だけは微笑み、声だけは小声でとても不機嫌さを表しながら、アイスは自分のダンスの相手であるロイと踊りながら会話をしていた。
「・・・・・うちの母上や、ウォールの母親に面白半分で仕込まれたんだよ。不本意ながら、アクラよりも上手いだろうな」
「それはそれは・・・随分と面白いことをする人達だな」
ロイがそう言った瞬間、アイスが勢いよくロイの足をヒールの踵で素早く踏んだ。
予想もしていなかったあまりの痛さにロイは少し顔をしかめる。
「あら?申し訳ありません、准将。久しぶりに踊ったものですから・・・足を踏み外してしまいました」
「い、いえ・・・・・お気になさらず」
にっこりと満面の笑みで、嫌味たっぷりに女言葉を使ってそういうアイスに、内心顔を引きつらせながらもロイは何とか耐え、穏やかにそう言った。
「・・・・・良い性格をしているね」
「そりゃどうも。・・・・・でも今のはお前が悪い」
お互い言葉の中に毒を含みながら、一見和やかだが、その実とても鬼気迫る空気を密かにかもし出していた。
そんな2人の光景を横目でちらちら見ていた4人は密かに冷汗を流していた。
「・・・あの2人の間に火花が見えるんだけど」
「見間違いじゃないと思うわよ、エド」
「うむ。あの2人は相性が悪いのだろうか」
「というよりも、殿下が不機嫌なのが最大の理由でしょうね」
まさしくルシアの言う通りなのだろう。
女装を強要された時のアイスの拒否反応は半端ではなかった。
いくらこれが初めてではないとはいえ、アイスは根本的に女装が嫌いだった。
アイスでなくとも、普通は男の誰もが女装を強要されれば拒否するだろう。
世の中には例外というものもあるが、あいにくアイスは多数派であり、その中でも特に酷く女装を毛嫌いしている部類である。
今回はエドの護衛という名目のため、しぶしぶ承諾したが、本来なら絶対にこんなことをするはずがない。
「あたし・・・できることなら、あの何も知らないギャラリーの一員になりたいくらいだわ」
「同じく・・・・・・」
普段なら多少のアイスの不機嫌さも物ともしないアクラとルシアも、今回ばかりはアイスの不機嫌と、そこから生じたロイとアイスの確執による妙な空気が読み取れて、その場から即座に逃げ出したい気分にかられてしまった。
「しかし、よく似合っていることには変わりがない」
「あいつ産まれてくる性別間違ったんじゃないのか?」
「・・・2人とも、そいうこと本人の前で言わないように」
「・・・すぐさま制裁が入るからね」
アクラとルシアは未だ妙な空気漂わせる2人を横目に、その光景を頭に思い浮かべ、心の中で乾いた笑いを漏らし続けた。
ある意味一部平穏ではないパーティ会場内に比べ、パーティ会場外のこちらは平穏そのものといった感じだった。
「そろそろかな?」
「なにが?」
「アイスがロイの足踏むんが」
ハボックに尋ねられてブリックはどこか楽しそうにそう答えた。
アイスがロイの足をわざと踏んだのはまさにその時であった。
付き合いの長さというのは本当に凄いということがまるで立証されたかのような瞬間だったが、それに気づくものはこの場に誰1人としていなかった。
「王子といっても、女性のダンスでは仕方ないのでは?」
「大佐も多少踏まれるくらいは覚悟してるでしょう」
アルとホークアイのその言葉に、その場にいた奈落側一同が、何も解っていないという表情を作った。
「甘いな・・・」
「大甘ですね・・・」
「・・・何が?」
「愚問ですね。アイス様は女性のダンスも物凄くお上手ですよ」
「・・・なんで?」
ウォールの言い方がどこか引っかかりながらも、ハボックは率直に疑問を口に出した。
するとブリックが目線を、特にウォールの方から逸らしながら答えた。
「・・・・・・王妃様と、ロードさん・・・が、無理やり教えたんや」
それを聞いた瞬間、その場にいたアルと軍部一同は、『どんな生活環境だ』と、心を1つにしたという。
そしてその場の空気を整えようと、こほんとホークアイが1つ咳払いをする。
「ところで。今のところ何もないけど・・・大丈夫なの?」
「さぁ?」
「さぁって・・・・・あの何とかいう能力で解るんじゃないのかよ」
「『知詠』です。まあ、それは置いておいて。無理ですね」
「なんでだ?」
「『知詠』の能力が及ぶのはこちらの『創』側だけ。敵方の『葬』側にはまったく無効なんです」
テールのその言葉を聞き、アルと軍部一同に緊張感が漂う。
その事実を知らなかった面々にとっては、敵の出現や何もかも『知詠』で解ると思っていたため、多少の心のゆとりがあったのだ。
しかし敵に関しては一切、『知詠』が効かないとなると、そうはいかないことになる。
そしてまるで示し合わせたかのように、その瞬間パーティ会場内の方で爆発音に似た音がした。
「言ってる傍からくるかよ?!」
「ごちゃごちゃ言っとってもしゃあない。いくで!!」
ブリックのその言葉を合図に、その場にいる全員が首を縦に振り駆け出した。
外にいるアル達同様、敵の奇襲もアイスの『知詠』によって、奇襲ではなくなると思っていたエド達の安心感は突然の敵の襲撃に崩れ落ちていた。
それでも今までの経験から気を取り直したが、次の瞬間一斉に会場中の人達が倒れたのには目を見張って動きを止めていた。
「な、何が起こったんだ?」
「心配するな。ルシアが空気の振動を利用して眠らせただけだ」
アイスのその言葉でルシアの方を見ると、蝙蝠のような翼を生やしたルシアが笛を片手に持っていた。
「は、羽?!」
「ああ、ルシアは吸血鬼だからな」
「聞いてないぞ?!」
「言ってないからな」
さらりと言い放つアイスにさらに悪態をつこうとしたが、敵の気配を察してエドとアイスの2人はそちらを向く。
そしてアイスが瞬く間に敵の攻撃を受け止め、逆にそのまま敵を斬って倒した。
敵の方に剣を構え、目線を置いたまま、アイスは後方にいるエド達に指示を出す。
「とりあえず、アクラはあまり魔法連発するな」
「え〜〜〜〜〜!」
「え〜〜、じゃない!お前が強力な魔法連発するととんでもないことになるんだよ!!」
アイスの言葉が正しいとルシアもうんうんと首を縦に振って頷く。
アクラもアイスの言うことは正論だと解っているため、不満そうに頬を膨らませたが、それ以上の文句は言わなかった。
「あとエドとロイとアレックスは、自分の身を守ることに専念しろ。下手に戦おうとするな。あと、俺達からなるべく離れるなよ」
むしろ逃げ回られて自分達のいないところで敵に狙われる方が厄介だ、というのがアイスの心情である。
言い終えると剣から放していた片手でアイスはびりっとドレスのスカート部分を動きやすいくらいの短さに破いた。
まるでそれが合図だったかのように一斉に襲い掛かってくる敵とアイス達の戦いが始まった。
ルシアの笛を媒体にしての振動はによる文字通り音速の攻撃。
アクラの手加減しているとはいえ、それでも強力なバリエーションにどんだ魔法攻撃。
この『世界』のものとは明らかに違う攻撃方法にエド達は目を見張っていた。
それは以前、ウォールとルシアの2人に助けられ、1度そのさまを見ているアームストロングも同じであった。
何度みても不思議以外のなにものでもない。
しかし1番驚かされるのがアイスだった。
アイスの持っているのは剣とはいえ、服の中に隠しておけるような短いもの。
威力もそこそこのその剣のみで、彼は次々に敵を斬り倒していく。
無駄な動き1つなく、素早い動きで。
しかも倒している数は特殊な攻撃方法をとっている他の2人よりも多い。
「・・・アイスの奴、あんなに強かったのか」
「後ろで偉そうにしているのとは、別のタイプだったということか」
エドは心の底から感心するかのように言っているのだが、ロイに関してはどこか悔しそうでもあった。
どうやら先ほど足を踏まれたことを未だ根に持っているらしい。
「1度手合わせ願いたいものですな」
そして最後のアームストロングの言葉に、エドとロイは色々な意味で冷汗を流していた。
アイス達が次々と敵を薙ぎ倒していくため、心のゆとりと油断が出ていたのだが、その隙を狙いアイス達の相手から漏れた数人の敵がいきなりエド達に襲い掛かってきた。
慌てて身構えた3人だったが、敵の攻撃もこちらの攻撃も、どちらも仕掛けることはなかった。
なぜなら、両方が攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、敵はエド達を守る結界に阻まれ、体制を崩してその場に倒れた。
一瞬エド達には何が起こったのか解らなかったのだが、それは先日アイス達に習った下級の結界魔法が発動し、功を奏したのであった。
エド達を簡単に倒せると踏んでいた敵は、特に警戒もしていなかったため、下級の結界魔法程度ででも、勢いが余ったように倒れてしまったのである。
そして敵がエド達を睨み付けて起き上がろうとした瞬間、アイスの持っている短剣が一瞬で敵を斬り裂き、アクラの攻撃魔法で残りの敵も一層し、会場に現れた全ての敵を倒し終わった。
「とりあえず片付いたな」
「意外と早かったね」
「む〜〜・・・手応えがなさすぎ」
エド達から見れば十分過ぎるほどに凄い戦いを繰り広げた3人は、まるで特に疲れも見せず平然と話し込んでいた。
その様子にエド達は多少目を丸くするが、一般人にとっては彼ら錬金術師も似たようなものであるということをすっかり忘れている。
「す・・・素晴らしい戦いであった〜」
エドとロイと同じく呆然としているのかと思われたアームストロングだったが、どうやら呆然としていたのではなく、3人の戦いぶりに感心・感動していたようで、その感動を表すかのように突然アイスに抱擁しようとしたが、アイスはそれを難なくひょいっと避ける。
アームストロングの抱擁でいつも酷い目にあっているエドは、この時ばかりは多少アイスに尊敬の念を送ったという。
「アイス〜!こっちも片付いたで〜〜」
突然聞こえたブリックの声のした方を見ると、そこには声の主であるブリックはじめ、他の面々も勢揃いしていた。
どうやら会場外の敵も全て掃除してきたようだ。
「皆ご苦労様」
アイスがそう言うと全員満面の笑みで応える。
「兄さん大丈夫だった?」
「ああ、なんとかな・・・」
「良かった〜」
エドとそのエドの無事を確認して心底安心するアルの姿を見て、奈落の面々の一部は、『同じ兄弟でもこっちとは大分大違いだな』と、心の中に思い浮かべたアイスとアクラ兄妹と比べるのだった。
「エドワードくん、無事で良かったわ」
「ホントだぜ。・・・・・・准将や大佐は殺しても死にそうにないから、特に心配してなかったけど」
「・・・・・何か言ったか?ハボック」
小声で言いはしたのだが、やはりロイにはしっかりと聞こえていたようで、発火符をこれ見よがしに見せつけるロイに、ハボックは先程の自分の発言を後悔しつつ、涙目になりながら必死になって首を横に振っていた。
そして幸か不幸か、アームストロングの方には聞かれていなかったようだ。
「・・・ところで、これ誰が直すんですか?」
色々と騒ぐ一同を静めたのは、ファルマンの何気ない一言だった。
確かに見てみれば会場中はめちゃくちゃだった。
否、会場内だけでなく、ブリック達が戦闘を行っていた会場外もである。
魔法やルシアの音の衝撃波等を使えば、当然こうなることは解りきっていたのだった。
いくらアイスがアクラに言ったように威力の強い魔法を使っていなくても、攻撃魔法というものは例え小技でもなんらかの破壊を周りにもたらす。
もっとも、魔法でなくてもまったく周りを破壊せずに敵に攻撃できたかということはないだろう。
それを実証したことのある3人の錬金術師がここにいるのだから。
「・・・しゃあない俺が」
「俺が直すから良いぞ」
エドが大きく溜息をつき名乗り出ようとした時、アイスがあっさりとそう告げた。
「いくらお前が腕利きでも、全てを1度に戻すには無理がありすぎるだろ。それに・・・出すついでだ」
最後の言葉の意味がエド達には解らなかった。
しかしその意味を彼らはすぐにしることになった。
目を覆う一瞬の光の後に再びその姿を確認したアイスの背に生えたモノ。
白と黒の4枚の翼を見て。
その姿を見たことのないものは各々が各々の反応で驚いている。
呆然としているものもいれば、口をパクパクしてアイスを指差しているものもいる。
その中でアイスのその姿を知っていた者達は、まるで面白い物が見れるとでもいうようの口角を緩く上げていた。
「・・・『創造修復』」
ばっさりと4枚の翼を広げた後、アイスが言葉を紡ぐと、一瞬のうちに会場中が元通りに修復されていた。
それは会場内だけでなく、会場外も同じことであった。
おまけにアイスが自分で破いたドレスも元通りになっていた。
それで終わりかと思われたが、アイスはまた1つ新たに言葉を紡いだ。
「『覚理滅却』」
特に見ただけでは何も辺りは変化していないため、その言葉で何が起こったかは解らなかった。
しかしエド達の胸の内が何かが起こったということを告げていた。
そして再び光によって視界が覆われ、再び見えるようになった時、今度はアイスの背から4枚の翼は消えていた。
「これで良しっと。ルシア、全員を起こしてくれ」
「りょうか・・・」
「ちょ、ちょっと待て!」
アイスに指示され、眠らせた人達を今度はその笛でルシアが起こそうとした時、慌てた様子のエドが止めに入った。
「・・・なんだ?」
「い、いや・・・あの翼ってなんだったんだ?」
エドのその質問はあの翼のことを知らなかったこの『世界』の者達共通の意見のようで、全員がアイスを見つめながら真剣な目で答えをまっている。
中にはなぜか多少の緊張を覚え、喉を鳴らすものも数名いた。
その一同を見回し、やがてアイスは口を開いた。
「それは後で必ず話す。多少時間が掛かるかもしれないからな」
「・・・そうね、これ以上かかるとちょっとね」
アイスの言葉ではっと冷静に今の状況を思い出したホークアイが時計を見る。
もしもこれ以上の時間がかかると、パーティ客の中に「いつの間にこんなに時間がたったのか?」と言って不信がる者もいるかもしれない。
時間を忘れて楽しむパーティであるから、多少の時間の誤魔化しは聞くかもしれないが、かなり長すぎるのはさすがに問題がある。
「と、いう訳で説明はあとでな」
「・・・それじゃあ、改めて全員起こすから。本来この場にいないはず人達は持ち場に戻って」
ルシアにそう言われて急いでアルやブリック達が会場の外に出るのを確認してから、ルシアは音のない曲を奏で、眠らせたパーティ客を起こしたのだった。
パーティは何事もなかったかのように再開された。
眠らされる直前、異形の者の襲撃されたこと、急な眠気がおそったことを、微かな記憶にさえ留めているものは、誰1人としていなかった。
あとがき
本当に久しぶりに書きました;
本当にもうしわけありません。
アイスのドレスに関してですが、トップ絵として飾られている例のあれです。
エドのタキシード姿もまたしかり。
アイスの翼に関しては、『四季の世界』の長編を読まれた方は解ると思います。
そしてアイスのアームストロングさんに対する呼びかたなんですが・・・
アイスだけでなく奈落組は皆、全員のことをファーストネーム呼びしてます。
・・・違和感あるという方、申し訳ありません。
今回(いつもですが)ギャグなのか、シリアスなのかよく解りません(おいっ)
少なくとも前半はギャグ路線です。
次回は『四季の世界』を読まれたことのある方にはお馴染みの、例の白い謎の生命体登場予定です。
ええ、結局だしてしまいます(^^;
そして最後にもう1度、本当に遅くなってすいません。