The star of fake fate
7:Solution
ついに事の始まりから1週間が経った。
エド達は再びあの遺跡に足を運んでいた。
以前調査をした時は最深部だと思っていたその場所で、アイスは例の一面文字の記された壁に手を触れた。
すると壁の文字が浮き上がり、壁は中央から2つにさけて更に奥へと続く道を作った。
その大掛かりともいえる仕掛けにエド達は目を見張る。
「行くぞ・・・」
アイスの静かなその一言に一同ただ頷き、真の最深部への道を歩き出した。
最深部には確かに泉があった。
どこか神秘的で吸い込まれそうなほど澄み切った泉が。
上を見上げてみるとぽっかりと穴があいて星空が見える。
現在そこから微かに見えている南十字星が完全に見えるようになるまで、つまりエドの清めの時間まではまだ少しかかる。
「敵さんが仕掛けてくるとすればここらへんかな?」
「ま、丁度邪魔しやすいタイミングやな」
「怖いこと言わないでくださいよ!」
冷静にことの判断をする奈落組に対し、不安を抱えているアルは思わず非難の声をあげてしまう。
「大丈夫ですよ。アイス様もいらっしゃいますし」
「それにたかが葬側の雑魚ごとき、アイス様の御手を煩わせることなど断じてありませんから」
テールの後に続いたウォールの言葉に一同血の気が引く思いがした。
エド達この『世界』の人間たちも、ここ数日の付き合いで奈落組一同の人なりは把握している。
その中でもウォールは危険だと全員が本能的に察していた。
そして彼の言った言葉から、もしアイスの手を煩わせるようなことがあれば、その後どうなるか解らないという結論が全員の間で出されていた。
「・・・俺ら生きて帰れるんかな?」
「・・・・・さあ?」
最早いつ現れるか解らない敵よりも、目の前にいる味方の方が脅威になっていた。
「来たぞ」
アイスの言葉で一同は一変し空気を研ぎ澄まさせた。
先程までのものが嘘のように、辺りはしんっと静まり返った冷たいものとなっていた。
すぐさまシャルトはお得意の結界をはり、他は各々の武器を持って身構える。
そしてついにその時が訪れた。
突然見えない何かがシャルトの付近の岩を砕いた。
「シャルト?!」
「だ、大丈夫・・・」
慌てて振り返りブリックは従妹の無事を確認する。
「どうやら結界から壊しにきたみたいですね」
「ブリックとルシアとシエナはシャルトの援護!テールとウォールはシャルトの結界の補助に廻れ!」
すぐさまアイスに指示を出された一同はこくりと頷いてその通りにする。
「アクラ・・・お前は・・・・・」
「解ってる。洞窟の中だからあまり大きな魔法は使うなっていうんでしょ!」
少し不服そうに頬を膨らませながらそういうアクラだったが、さすがに本人も今回は理解し納得しているようでそれ以上は何も言わず応戦していた。
「エド・・・お前達もだが、そのまま動くなよ」
「なぜ?!」
「お前達がまともにあいつらと遣り合えるわけがないからだ!」
反論しようとしたロイに間髪いれずアイスがはっきりとそう告げる。
その言葉に悔しそうに拳を握り締めながら、ロイがまた反論しようとした時、アイスは彼の傍にいきぼそりと呟いた。
「エドの傍で手でも握っててやれ」
「えっ・・・・・・・」
言われたことにロイが凝視しているのを眺めて軽く笑うと、アイスはその場を離れて自分も戦線に加わりにいった。
「アイスの言うとおりにしておいたら?」
呆然としていると今度は下の方から何気ない声が聞こえてきた。
見てみるとそこにはいつからいたのか、全身真っ白な少女がのんびりと立っていた。
「スノウ・・・」
「アイスは恋愛感情を今のところ理解できないけど、誰かが誰かに向ける好意に対して気づけないわけじゃない。だから、最初から解ってるわよ全部」
スノウに言われた言葉にロイは思わず絶句した。
それはつまりアイスに全て筒抜けだったと言ってもいいことだ。
「・・・嫉妬するくらいなら、他に何かしろということか?」
「自覚があるなら良いんじゃない。伝えたいことは、伝えなきゃ解らないわよ」
スノウの言葉を聞いてすぐさまロイはエドの傍に行き、そして彼女の手を握る姿が見て取れた。
ロイのその突然の行動に顔を赤くさせながらも、大人しく受け入れているエドの姿に、スノウは分け有り気な溜息を吐いていた。
十徒に加え、創命主までいては善戦は当然のことだった。
あっというまに決着がついていくその光景に、自分達はいる意味があるのだろうかと、ホークアイは少し自嘲的に笑いながら時計を見た。
「そろそろね。エドワードくん」
「うん・・・」
ホークアイに声をかけられたエドはこくりと頷くと、今まで繋いでいたロイの手を離して泉に向かって歩き出す。
空を見上げてみると南十字星もあと少しで完全に見える位置にきている。
いよいよだと全員が息を呑む中、敵の1人が微かに笑ったことにアイスだけが気づいた。
「待て!エド」
「えっ・・・?」
アイスにかけられた声にエドが反応して振り返った瞬間、エドが踏み出していた1歩に反応して地面が光りだした。
「っ・・・・・ロイ!」
慌ててアイスはロイの名を呼ぶとその意図をロイはくみ取ったようで、すぐさま動いてエドをその場から救い出した。
そして間一髪というタイミングでそこは爆発した。
シャルトの結界でなんとか全員の身は何とか守られ、ほっと息をついたのもつかの間、はっとしたホークアイが時計を見て愕然となる。
すでに6時は過ぎていた。
「そんな・・・・・・」
震えながらエドは鎖骨部分にある刻印に触れる。
当人であるエド意外にもショックは広がっていた。
そんな中、小憎らしく笑った最後の敵を倒したアイスが軽く息を吐いた。
「とりあえず、これで敵は片付いたな・・・」
そして未だショックを受けてそれに気がついていないエド達に、やれやれといったようにアイスは溜息をついた。
そしてすぐに爆発で泉を塞いだ瓦礫の山をテールの魔法で片付けると、エド達にさらりと告げた。
「じゃあエド。泉に入れ」
その言葉にぴくりと反応したエドはアイスを睨み付ける。
「そんなことをしても、もう6時は・・・・・」
「まだ過ぎてないぞ」
アイスが堂々と言ったその言葉にエド達は目を見張る。
「どういうこと?現に時計は・・・」
「実は6時って言うのは、俺達の『世界』の時間で6時ってことだ」
アイスのその言葉にこの『世界』の全員は目を大きく見開いた。
「後2分で6時ですね」
「敵を騙すには味方から、だろ?」
平然と自分達の『世界』の時刻と告げるウォールと、にやりと笑いながら告げるアイスに、一同はただやり場のない微かな怒りを覚えていた。
エドの身体から刻印が消え、晴れて自由となってから数日後。
アイス達は自分達の『世界』に帰ることとなった。
「本当に帰るんだな?」
「ああ。俺の『世界』はここじゃないし・・・それにまだ後2人早く探さないと」
「そっか・・・大変だろうけど元気でな」
エドの言葉にアイスはただこくりと頷く。
「ところで、この家はどうするんですか?」
ふとアルが聞いてきたことに答えたのは、奈落組の誰でもなくホークアイだった。
「それなら今朝手配して、この家の持ち主はエドワードくんになったわ」
「「・・・・・えっ?」」
ホークアイのとんでもない発言にエドとアルの2人は驚き、面白そうに笑っているアイス達の方を見た。
「仕方ないだろ。俺達にはもう必要ないし。やるよ」
「やるって・・・・・」
「迷惑かけたお詫びだ。・・・・・・それに」
アイスはエドを手招きで呼び寄せ、彼女にしか聞こえないくらいの小声で呟いた。
「どうせそのうち新居も必要だろ。それまではロイに管理任せてあるから」
「んなっ?!」
アイスの発言の意味を理解したエドは口をパクパクさせながら真っ赤になってエドを指差す。
「まあ、それが理解できない俺がいうのもなんだからな」
「だったら、次に会うまでにそれが理解できていられるよう、早く見つけしまいましょう」
笑顔で言ったテールの言葉に、アイスは苦笑いを零した。
そして未だ口をぱくぱくさせてこちらを指差しているエドと、そしてその後ろにいるロイを交互に見る。
「それじゃあ、また会えたらな」
「ちょ、まっ・・・・・」
エドの怒りを含めた静止は届くこともなく、アイス達は元の『世界』へと返っていった。
「・・・行っちゃったね」
「・・・・・いい逃げしやがって」
「何を言われたんだ?」
顔を覗き込んで尋ねてくるロイを見て、アイスに言われた言葉が頭の中でぐるぐる回り続けるエドは、顔を真っ赤にさせてロイから顔をそらしてしまう。
「なんでも!」
ただそれだけ言って聞く耳を持たなくなったエドに、ロイは首を傾げて不思議そうに見つめた。
「あれ?ロイそれなんだ?」
ヒューズがふとロイの持っている小箱に気がついて尋ねてみた。
「さあな。アイスに『御守り』だと言われて渡されたのだが・・・」
「へぇ?開けてみないのか?」
「それが・・・『開けるのは5年後だ』と言われたんだ。しかもそれを無視して開けたくても、どうも何か魔法でもかけたのか何をやっても開かなくてな」
溜息をつきながらロイはその小箱を懐にしまった。
5年後、ようやく開いたその小箱から出てきたのは2つのものが出てきた。
1つは『大総統就任とエドとの結婚おめでとう』というアイスの手紙。
そしてもう1つはロイとエドのサイズにぴったりな同型の2つの指輪だった。
あとがき
えっと、随分と止めてた自覚はありますが、これで一応は完結です。
全然戦闘シーンとかないですが、そこは勘弁してください。
ラストですが、アイスは『知詠』で最初にエドとロイにあった時に、すでに2人が将来結婚することも、ロイが大総統になることも知っていました。
『知詠』には予知の力も含まれてますから当然です。
この話の後にアイス達は例の特殊コラボ「Quintet」で別の『世界』のエド達に会うのですが、後の話のほうが先に書きあがってしまったのは、私があっちのほうに凄く乗っていたからです。(だって姉さん好きだから)
あとはこれの「あとがき座談会」です。