Lost Mise
〜失われし約束〜
二章(後編)
行為の余韻でぐったりとしてアレクはプラチナに寄りかかっていた。
その身体をプラチナはぎゅっと強く抱きしめていた。
しかし暫くして正気に戻ったアレクがプラチナの腕を振りほどいた。
プラチナは今までアレクを抱きしめた腕をまだ残る暖かな感触を確かめるかのように見ていた。
「何で・・・・・」
アレクの震えるような声がプラチナの耳に届く。
アレクの瞳には怒りとも哀しみとも悔しさとも取れる色が浮かんでいた。
「どうしてあんな事2度もするんだよ?!俺、嫌だって言ったろう?それに好きな奴もいるって・・・あんな事されたら・・・・・」
必死に叫んで訴えるアレクの瞳からぽろぽろと涙がこぼれる。
プラチナの中で何かが鳴る。
それと同時に激しい頭痛と強烈な吐き気もした。
そしてさっきとは別の意味で叫ぶアレクの声を耳の端に聞きながらその場に倒れ意識を失った。
目を開けて最初に見たのはまず天井。
まだはっきりしない意識で自分の置かれている状況を必死に探ろうとしていた。
「あ、起きたのか?」
聞き取った声に意識が完全に覚醒する。
この耳朶をくすぐる甘い声は・・・・・
「姉・・上?・・・」
「ああ!起きるなよ。ジルに絶対安静って言われたんだぞ!!」
無理に起き上がろうとするプラチナを押さえつけて再びベッドに寝かせる。
「・・・・・看病、していてくれたのか?」
「えっ!?うん、まあ。といっても仕事が終わった後からだけど」
プラチナは首を動かして窓の外を見るともう陽が西に傾いていた。
それから改めて確認するとここは自分の部屋だった。
「大変だったんだぞ。お前いきなり倒れるからさ。俺じゃ運べないから人呼びに行って、今朝の儀式も少し後にしてもらって」
「・・・悪かった」
「・・・・・どういう意味で?」
「色々な意味ですまなかった」
おそらく彼女が看病してくれたのはこれが最初ではないだろうとプラチナは思っていた。
屋敷に来たその日も看病していてくれたのだと思っていた。
それに今回にいたってはあんなことをした後だというのにした、張本人の自分を看病していてくれたのだ。
そう思うプラチナの中で今朝以上の罪悪感が生まれていた。
しかしアレクの方は脱力したように溜息をつく。
「なんか・・・・・そうやって素直に謝られると拍子抜けする・・・」
「?そうか?」
「・・・・・お前って、思ったより嫌な奴じゃないのかもな」
きょとんとするプラチナに苦笑しながらアレクが告げる。
そこでふとプラチナは気になっていたことを思い出した。
「・・・少し聞いても言いか?」
「なに?」
「お前の好きな奴とは誰だ?」
今度はアレクが意外な質問にきょとんとする。
プラチナの予想では屋敷の中の誰か、というよりそれ以外思い当たらない。
何しろアレクはこの里の中からまったく出たことがないはずである。
しかし返ってきた答えはそれとは違う、またとても意表をついていた。
「解らない」
きっぱりと告げられた答えにプラチナはまた拍子抜けする。
もっともプラチナでなくとも今の答えは拍子抜けしただろうが。
「解らないって・・・・・嘘だったのか?」
「嘘じゃない本当だよ!」
好きな相手がいることを否定され、アレクが少し向きになって怒る。
「しかし今、解らないと・・・」
「まあ名前も知らない、顔も良く解らない、夢の中の相手だからね」
今までプラチナには、否おそらく墓の誰にも見せたことのないような溶けるような極上の笑顔を作って語りだす。
「でも、その夢は昔あったことのような気がするから。そいつはこの世界のどこかで生きているはずだから。あいつはとても優しいんだ。それに・・・」
嬉しそうに、幸せそうに語るアレクを見るプラチナの目が少し苛立っていたことに当のアレクは気がついてはいなかった。
夢中でその『夢の相手』のことを語り続ける。
「それにあいつはお前みたいに俺を置い、て・・・・・」
そこでぴたりと嬉しそうな声がやむ。
苛立っていたはずのプラチナもどうしたのかとアレクの顔を覗き込む。
「あれ?俺・・・・・今、何か変なこと・・・言った?」
アレク本人にも解らないのに聞き手のプラチナに解るはずがなく、プラチナはただ小首を傾げただけだった。
その後、アレクはまあ言いかと何事もなかったかのように決着をつけた。
ただ何かの違和感は多少残ってはいた。
それからもうあんな事するなよと念をプラチナに押した。
プラチナ自身にはどうしてあんなことをしたのか良く解らず、これが何かの暗示的な作用ならまたしないとはっきりはいえないがとりあえず頷いておいた。
「それじゃ、俺は夕方の仕事に言ってくるから・・・・・」
そう言って足早に部屋を出て行くアレクの背中を愛しそうにプラチナは見つめていた。
すでに陽は完全に沈み空には星が輝きを見せていた。
部屋に置かれている時計を見るとすでに9時が廻っていた。
にもかかわらず・・・・・・
「なあ・・・」
「ん?なに?」
「そろそろ自分の部屋に戻らないか?」
夕方の儀式を終えて真っ先に部屋を訪れたアレクにプラチナは言った。
食事も結局この部屋で済ませてあの執事兼教育係を困らせたのだから返す言葉もない。
「そうだな」
そう言いつつも一向に立ち上がって部屋から出て行こうとしない。
ずっとベッドのそばに座って何かの本を読んでいる。
プラチナが呆れたように溜息を零す。
「泊まっていくきか?」
「えっ!?いいの?」
パアアっとアレクの表情が待っていましたとばかりに明るくなる。
昨夜と今朝、あんなことをいた男相手だというのに良くそんなに警戒心がないなとプラチナは思った。
しかしアレクはまったく気にしていないのか楽しそうにしている。
「それじゃ、俺ソファで寝るね」
「待て、なんでそうなる?」
「えっ?だってプラチナは病人だろ?」
「そうでなくて・・・・・もう良い!」
おそらく言っても聞かないであろうアレクに諦めそのままやけで布団をかぶる。
プラチナの言いたいことが理解できず、一瞬首を傾げたアレクだがまあ良いかと心の中で整理をつけて部屋においてある予備の毛布を出してソファに横になりそれをかける。
その時のアレクの表情はどこか嬉しそうだったという。
プラチナの方はというと色々と複雑な心の中、どこか安堵できる空間の中で屋敷に来て一番心地よい眠りにつくことになった。
あとがき
ああ〜ほのぼのとしている・・・・・(最初以外は・・・)
今回裏なかったですね。
でもそのおかげでとても早く書き上げられたような気が・・・・・
駄目じゃん自分!
この話は裏だろ?
嵐の前の静けさってやつですか・・・・・(汗)
二章が思いのほか長引いて前後編に分ける羽目になるし・・・・・
駄目ですね。本当・・・・
っていうか、いつまで続くのかこれ?
・・・・・すいませんでした〜〜〜〜〜!!(土下座)